初指名依頼5
「軍からの増援があったにも関わらず王族のお二人に何かがあった場合、賊の侵入を許した軍の失態よりも護衛を失敗した近衛隊の失態の方が目立つと思いませんか?何故なら、賊の捜索で忙しい軍に協力する事無く、逆に軍に兵力を借りて護衛をしているのですから」
隊長へと、そんな暴論を吹き込む兵士。
しかし隊長は案外と冷静だったようで
「ちょっと待て。それは近衛の方から増援を請われて初めて通る言い分だろう?こちらから勝手に兵を送っておいて力を貸してやった等と・・・」
そう顔を顰めている。
しかし兵士は、そんな隊長へ畳み掛けるように
「あちらから要請があったのか、こちらから押し付けたのかは問題ではありません。近衛隊の持ち場に軍人が居たかどうか?そして、その軍人は近衛隊の指揮下だったのか?それが重要です。何故なら、軍人が近衛隊の持ち場で指揮下に入れば、それはつまり増援を要請したにしろ押し付けられたにしろその増援を受け入れた事になります。現にその場の近衛隊の兵力は上がるのですから。そうなれば軍からの援軍は事実になります。極端な事を言えば、それが例え100人だろうが2人だろうが関係はありません。増援は増援です」
そう捲し立てた。
兵士の言葉を聞いた隊長は、少し考えた後
「・・・成る程。増援の事実があれば数に関係無く我々から力を借りた事になると?そうして奴等が護衛の任を失敗した時は「我々から兵力を借りておいて何てザマだ!」と罵ってやれば良いと?」
そう言って顎を擦る。
「はい。賊の侵入を許した責任は問われるかもしれませんが、軍だけが責任を問われる事態は避けられるかと。近衛隊も大変な失態を犯しているのですから」
隊長の言葉にそう答える兵士。
そんな兵士へと顎に手をやりながら視線を向けた隊長は
「王族のお二人に何事も無かった場合も、我々軍が賊を見付ければ大した問題にはならないと言う事か・・・うん!面白いッ!貴様ッ!名乗れッ!」
そう兵士へと声を上げた。
隊長から名を聞かれた兵士は
「え?・・・っと・・・エ、エドワードです!」
視線を彷徨わせながら言い淀んだ後、思い付いた様にそう言った。
名乗った兵士を怪訝な表情で見る隊長。
しかし
「・・・記憶に無い名だが・・・まぁ良い!貴様の立案だ。あと三人選んで近衛の持ち場へ向かえ!王族のお二人の元へは二人ずつ向かえ!」
そう命令を飛ばした。
「ハッ!」
そう返事を返したエドワードと名乗った兵士は迷う事無く両隣と後ろの兵士に声を掛けると、その三人を引き連れその場を去っていった。
整列したままその場に残った兵士達は
「なぁ?エドワードなんて名前のヤツ、ウチに居たっけ?」
「さぁ?新人じゃね?」
「この時期に?」
と言う無駄口を叩き、隊長からの叱責を受けていた。
軍人が慌ただしく駆け回る城内の廊下を、並んで移動する四人の兵士。
王族の警護をする近衛隊に押し掛け増援を仕掛けようと動くエドワードと三人の兵士だ。
二列縦隊で移動する四人は道すがら
「じゃあ俺はお前とな?」
「了解。ならオレはアンタとだな?」
と、二人組を作っていた。
そして
「オレ達はグテイ殿下の元へ向かう」
そう言った後列の二人が、曲がり角で離れていった。
そんな後列の兵士二人の言葉に、前列だったエドワードともう一人の兵士は視線を交わすと
「なら俺達はアリシア様の方だな?」
そう頷き合う。
そうして、元向いていた方へと向き直る前列組だったが
「それで?そのアリシア様ってどこ?」
そうエドワードと名乗った兵士がもう一人の兵士に尋ねる。
立ち止まり振り向いた兵士は
「・・・そりゃあこの時間だから王族の寝所だろ?」
そう呆れの色を滲ませた声を上げた。
しかしエドワードと名乗った兵士は
「いやだから、それが何処だって聞いてんだよ?」
と、隊長に対する言葉遣いに比べれば大分砕けた言葉遣いで返す。
兜で表情は見えないものの
「お前ッ・・・付いて来いッ!」
と、不機嫌を前面に出し言い放つと、振り向き足早に歩き始めた。
エドワードと名乗った兵士は、そんな同僚の様子など気にしてはいないのか何も言わず付いていく。
それ以降二人は、王族の寝所へ辿り着くまで言葉を交わす事は無かった。
二人が王族の寝所へと着くと、そこには身に付ける鎧の色が違う兵士達が。
「あれが近衛隊か?」
そんな鎧の色の違う兵士を見たエドワードと名乗った兵士は、相棒の兵士へと尋ねた。
尋ねられた兵士は機嫌が直った様子も無く
「見りゃ分かるだろッ?」
と、不機嫌に返す。
案外部隊の中では古株で年長者なのかもしれない。
エドワードと名乗った兵士は相棒の言葉を聞くと、王族の寝所まで先導する形になっていた相棒の前に出ると
「王族近衛隊の方々ですか?こちらは今晩の夜間警備を担当していた部隊の者です」
そう言いながら近衛隊へと歩み寄っていく。
すると、近衛隊の中から一人の兵士が答えながら出てくる。
「賊を招き入れた軍の無能部隊か?貴様等のせいでこちらは余計な仕事をする羽目になった。謝罪でもしに来たのか?」
そんな嫌味と共に。
その言葉を聞いた相棒の兵士は、腹を立てたのかエドワードと名乗った兵士の前に勢い良く出ようとするが、それをエドワードと名乗った兵士が止める。
そして
「いえいえ。謝って済む話では無いでしょう?」
と、柔らかな声色で答える。
後ろでは、その言葉を聞いた相棒の兵士がエドワードと名乗った兵士を押し退けようと力を込めている様子だったが、ビクともしないようだ。
後ろの兵士が出てこないのを確認した近衛隊の兵士は
「フンッ、当然だな?では何をしに来た?」
と、二人に蔑んだ様な目を向ける。
「はい。隊長からの命令で‘迷惑を掛けた近衛隊をお手伝いして来い’と」
エドワードと名乗った兵士は、近衛隊の兵士の言葉を気にした様子も見せずに言葉を交わす。
そして
「ただ、一応現場の指揮を任されている方に許可だけは取る様に、との事なので、どなたなのかお教えいただければ・・・はい」
と、過剰なまでの低姿勢で更に続けた。
すると、それを聞いた近衛隊の兵士は
「私がこの場を任されている者だ」
そう答えた。
エドワードと名乗った兵士は
「そうでしたか。では、雑用でも何でもさせていただきますので、そちらの指揮下に入っても宜しいでしょうか?」
そう揉み手で尋ねる。
近衛隊の兵士は
「フンッ!寄越したのがたった二人とは呆れ果てるが・・・まぁ良いだろう。コキ使ってやる!」
そう上機嫌で答えた。
エドワードと名乗った兵士は、高笑いで元の場所へと戻っていく近衛隊の兵士に
「ありがとうございます」
そう腰を折って言った。
一連のやり取りを見ていた近衛隊の兵士達からは、ニヤニヤとした視線が送られる。
そこで、エドワードと名乗った兵士に押し止められていた兵士が
「お前ッ!!どういうつもりだッ!あそこまで言われて、黙るどころか下手に出るなんてッ!」
そう言って掴み掛かる。
エドワードと名乗った兵士は、すかさずその手を払うと
「俺達の役目は、この場の指揮下に入る事だろ?あそこで言い返してたらどうなってたと思う?」
そう冷静に返した。
押し黙る相棒の兵士。
そんな兵士の様子を見たエドワードと名乗った兵士は
「まっ、そういう事だ。手伝いが俺等の任務じゃねぇぞ?我慢が俺等の任務だ」
そう言って、押し黙る兵士の肩を叩く。
相棒の兵士は兜を背けると
「チッ。仕方が無い」
そう吐き捨てた。
それを頷きながら聞いたエドワードと名乗った兵士は
「よしよしッ。じゃあ話が纏まった所で、俺は取り敢えずアリシア様って人に挨拶に行ってくるからココ宜しく!」
そう言って、近衛隊の兵士が守りを固める扉へと体を向けた。
相棒の兵士は
「あぁ・・・あぁ!?」
そんな声を上げる。
そして、当然の様に歩き出そうとするエドワードと名乗った兵士の肩を掴み
「お前何言ってんだッ!?そんな事出来る訳無いだろッ!第一、近衛のヤツらが通す訳無いだろうがッ!!」
そう言って引き留めた。
引き留められたエドワードと名乗った兵士は
「おいおい。挨拶は大事だぞ?」
首だけで振り返りそんな事を言う。
相棒の兵士は、周りの近衛隊の兵士に聞こえない様声を落とすと
「そもそも一介の兵士風情が会える様な方じゃ無いんだぞ?分かってるのか?」
顔を近づけ言い迫る。
エドワードと名乗った兵士は、それを気だる気に兜を乗せた頭を揺らしながら聞くと
「いやいや、コッチはそれが目的でここまで来てるっつの・・・」
と、酷く小声で呟いた。
エドワードと名乗った兵士は、相棒の兵士にも聞こえない程に声を落としたつもりだったが
「それが目的?どういう意味だ?・・・!?お前本当にエドワードか?いや、本当に軍人か?」
相棒の兵士はそう言うと、エドワードと名乗った兵士の肩を掴む手に力を込める。
そんな相棒の兵士の行動にギギギッと音が鳴りそうな速度で、揺らしていた頭を振り向かせると
「アレ?聞こえちゃった?・・・ってか、ここでバレたらマズいんでね?」
そう呟く、エドワードと名乗った兵士。
この後、侵入した賊が捕まったと城内に報せが走り、深夜に起こった騒ぎは終息した。




