初指名依頼4
「おい!」
言い合いをしていた二人だったが、唐突に小次郎がそんな声を上げた。
しかしその声は忍び込んだ頃の様に抑えられていた。
その声を聞いたコウスケは直ぐに何かを察し、同じ様に声を落とした。
「どした?」
小次郎は直ぐには答えず辺りを見渡すと
「・・・貴様には見えんじゃろうが、人間が近付いて来るぞ?」
そう言って、遠くに視線を向ける。
小次郎のその言葉に、コウスケも目を凝らすが
「・・・全然見えん。良く見えるな?んで?どんなヤツだ?」
そう言って諦める様に目を凝らすのをやめると、小次郎の目に頼ろうと決めたのかそう尋ねる。
小次郎は
「貴様が使う様な強い光では無いが、明かりを持っておるぞ」
そう答えた。
「・・・そりゃ夜だからな?他に特徴は?」
続けて尋ねるコウスケ。
「ふん・・・皆オスの様だ」
目を凝らした小次郎が答えた。
「まぁ、そういう事もあるだろうな・・・ってか複数なの?」
予想外だったのか、そう言って驚くコウスケ。
しかし小次郎は、コウスケの質問には答えずに新たな情報を告げた。
「揃いの‘鎧’と言うヤツを着込んでおるわ」
何を思ったか、頷きながらそう言う小次郎。
しかし、それを聞いたコウスケは
「ちょッ!!それ見回りの兵じゃんッ!ってかココに居る時点でそれしかねぇわな?」
そう言って一瞬焦りを見せたが、冷静に考えてみればその可能性しか無いと気付き落ち着きを取り戻す。
「どうするのじゃ?・・・殺るか?」
そう言って目を光らせる小次郎。
しかし
「殺らねぇよ!そもそも小次郎じゃ殺れねぇだろ?」
コウスケは冷静にそうツッコんだ。
「チッ・・・ならばどうするんじゃ?逃げるか?それとも大人しく捕まるのか?」
舌打ちをした後、そう尋ねる小次郎。
コウスケは
「まぁどっちもアリっちゃアリだけど・・・折角忍び込んでんだし、出来るだけこのスタイルで行きたいよな?」
そう言って笑顔を見せる。
小次郎は呆れながらも
「ならば逃げるのじゃな?」
そう確認を取る。
「そ言う事。ただ、別行動な?俺は中。小次郎は外ヨロシク」
言いながら小次郎を肩から下ろすコウスケ。
突然地面に下ろされた小次郎は
「・・・外?」
そう言って、首だけで振り向くとコウスケを見上げた。
そんな小次郎へ、笑顔で頷きを送ったコウスケは
「そう。外。ほら?猫連れだとどうしても目立つだろ?だから役割分担だ。適当に歩き回って、見回りの兵の愚痴でも盗み聞きしといてくれよ。アッ、あとマーキングはし放題だぞ?」
そう言うと、笑顔のまま親指を立てた。
小次郎はコウスケの笑顔に不満げな目を返すと
「何故ワシが外を歩き回らねばならんのじゃッ!!」
そう言い返した。
その小次郎の言葉に、眉を寄せ首を捻ったコウスケは
「え?でも、いつもやってんじゃん?外歩き回ってマーキング」
そう返す。
コウスケの言葉に、何かを考える様に一瞬視線を外した小次郎だったが、直ぐ様視線を戻すと
「それはただの散歩じゃッ!!」
そう声を荒げた。
「散歩中に重要な話を聞いちまうのも、情報収集で聞き耳を立てながら歩くのも一緒だろ?要はどっちのつもりで歩いてるか?だぞ?」
納得のいかない様子の小次郎に、コウスケは諭すように告げた。
それでも小次郎は不満げな表情をしていたが
「・・・フン。貴様よりも有用な情報を取って来てやるわッ!!」
そう言って顔を背けた。
こうして二手に別れる事が決まった。
この頃になると、コウスケの目にも迫って来る見回り兵の明かりが見えていた。
コウスケと小次郎は、そんな見回り兵達の明かりを避ける様に別れていった。
無事逃れる事が出来たコウスケの背後では、二人が先程までいた辺りを照らした見回り兵達の
「誰かいるのかッ?いるなら出て来いッ!」
そんな声が聞こえていた。
そしてしばらくして
「にゃ~」
という声も。
微かに聞こえたその鳴き声に
(ナイスッ!小次郎ッ!)
内心でそう称賛の言葉を送るコウスケ。
見回りへと戻る兵を見送ったコウスケは、王城へと近付いていくのだった。
数時間後。
城の中は俄に騒がしくなっていた。
「まだ賊は見つからんのかッ!!」
軍人らしき兵が整列する前方で、全身鎧の兜だけを外している兵士がそんな声を上げる。
その表情からは苛立ちが見て取れた。
すると、そこへ新たな兵士が駆け込んで来る。
その兵士は前方で声を上げていた兵士に駆け寄ると
「隊長。報告します!城に侵入した賊は全身を覆うマントを纏い、怪しげな仮面を着けているとの事です!」
見慣れない敬礼をした後、そう報告をした。
声を上げていた兵士は一部隊を任される隊長だった様だ。
その報告を聞いた隊長は
「ええいッ!そんな目立つ格好をした者を見付けられんとはどういう事だッ!」
再び苛立った声を上げる。
そこで、整列していた兵の中から手を上げる者が一人。
隊長はその兵士へ睨む様な視線を向けると
「何だッ!!」
と、荒れた様子で言い放った。
周りの兵士達が肩を竦める中、手を上げた兵士は特に気にした様子も無く
「賊の目的は何でありましょうか?」
そう隊長へと問うた。
兵士のそんな質問に、大袈裟に鼻を鳴らした隊長は
「目的だと?そんなもの、盗み以外には考えられんだろッ!」
怒鳴り付ける様に答えた。
質問した兵士は、隊長のそんな言葉に怯む様子も無く
「自分には他に狙われそうな物も思い付くのでありますが」
そう言葉を続けた。
兵士の言葉に、整列する他の兵士からもざわめきが起こる。
隊長は質問した兵士に冷ややかな視線を送ると
「面白い。言ってみろ?」
そう尋ねた。
質問した兵士は「ハッ」と返事をした後
「現在城には陛下は居られませんが、アリシア様とグテイ殿下が居られます。お二人の命が狙われている可能性もあると思うのですが」
そう答えた。
その答えに、整列する他の兵士達のざわつきも大きくなる。
隊長は眉を寄せ、顎を擦りながら
「成る程・・・時期が時期だ。特にグテイ殿下が狙われる可能性は低くは無いか?・・・」
そう呟いた。
そんな隊長へ、質問をした兵士が
「お二人の警護はどの様になっているのですか?」
そんな質問を投げた。
兵士の言葉に自問から戻る様に視線を向けた隊長は
「無論、王族近衛隊が守りを固めておるわ」
そう答えた。
しかし、その表情は顰められていた。
王族近衛隊に対して、何かがある様子に見える。
質問を繰り返していた兵士は、その様子に首を捻った。
すると、その後ろで整列している別の兵士が理由になりそうな話を隣としているのが耳に入る。
「見ろよ?隊長のあの顔」
「隊長ホント近衛の事嫌ってるよな?」
「何だお前、知らねぇの?隊長、元は王族近衛隊目指してたらしいぜ?」
「そうなの?って事は、あれは僻みか?」
「バカッ!隊長の耳には入らない様に気を付けろよ?」
質問をしていた兵士は、それを聞いて納得する。
そして、再び手を上げた。
それを確認した隊長は
「またか?何だッ?」
と、表情を歪めた。
隊長に発言を許された兵士は又も「ハッ」と返事を返し
「今の状況でお二人の内どちらか或は両方に何かがあった場合、我々軍の立場は厳しいものになると思われます」
そう答えた。
それを聞いた隊長は、今にも首を捻りそうな表情で
「何の事だ?」
そう聞き返す。
「もしも私が近衛隊の立場ならば、王族のお二人を守れなかった責任を他に擦り付けようと考えます。その場合、一番に思い付くのは賊の侵入を許した我々軍です。侵入を許さなければこんな事にはならなかった。と主張するでしょう」
隊長の問いに、まるで他人事の様にサラリと答える兵士。
兵士の言葉を聞いた隊長は、怒りと焦りが混ざった様な表情をしていた。
「そうなった場合。おそらく軍から処分される人間が出るでしょう。例えば、夜間警備を受け持っていた部隊の隊長・・・とか」
そんな言葉を続けた兵士。
隊長の表情は、そこに思い至ってのものだったのだろう。
僅かに天を仰いだ隊長は
「奴等の考えそうな事だッ!!」
そう叫んだ。
完全にそうなると思い込んでいる様子だった。
視線を戻した隊長は
「そこまで言ったんだ!解決策を考えて無いとは言わさんぞッ!」
そう質問した兵士を脅すように睨み付ける。
ただ進言をしただけの兵士に、解決策まで用意する義理は無いが
「ウチからも護衛を出しましょう」
すんなりとそう提案する兵士。
「・・・それで何になる」
兵士の提案を聞いた隊長はそう言って眉を寄せるのだった。




