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初指名依頼

小次郎と共にギルドへと着いたコウスケは、早速ハインツ国王から預かった依頼書を専用の窓口へと持っていく。


国王の封蝋の威力か、手続きはコウスケが驚くほど早かった。


「すいません。依頼を・・・アレ?何て言えば良いんだ?依頼を依頼?したい。みたいな・・・」


不馴れなコウスケが、そう要領を得ない言葉を窓口の職員へとかければ


「あぁ。依頼の発行手続きですね?依頼書等はお持ちになられましたか?」


そう丁寧に答える職員。


「あっ、それならここに」


コウスケはそう言いながらハインツ国王からの依頼書を懐から取り出した。


職員はコウスケが取り出した封筒に付いていた封蝋を見ると


「それはッ!?・・・確かにお預かりしました」


そう言って、コウスケの手から封筒を受け取り席を立つ。


そんな職員を見上げたコウスケは


「あのっ!俺はどうすれば?待ってた方が良いんですか?」


奥へと向かおうとする職員を引き留める様に、そう声をかける。


コウスケの言葉に、既に背中を見せていた職員は振り返ると


「お帰りになられて大丈夫ですよ?」


と、笑顔で答え今度こそ去っていった。


残されたコウスケは


「・・・呆気なかったな?」


そう呟き立ち上がる。


そして、肩に小次郎を乗せたままで器用に伸びをすると


「ん~・・・宿に戻って昼寝でもすっかな?」


そう誰にでも無く言った。


すると、コウスケの耳元で


「何やら依頼の確認をするなどと言っておらんかったか?」


独り言のつもりだったコウスケの言葉に、小次郎が答えた。


「あっ!そうだった!指名依頼来てねぇか確認するんだった!ナイス小次郎」


小次郎の言葉に、そう言って小次郎が乗る肩を揺らすコウスケ。


「止めいッ!」


小さな肉球がコウスケの頬をへこませた。


しかし、コウスケにダメージは無い様で


「人がいる窓口に移動だな?」


そう小次郎の攻撃を気にする事無く言った。


今は無人となった窓口を見ての言葉だろう。


コウスケはそのまま、二つ隣の窓口へと移動した。


コウスケがそこへ腰を下ろすと、ニコニコと笑顔を浮かべたオバちゃんが向こう側に座っている。


そのオバちゃんは、コウスケが座ったのを確認すると


「ハイようこそ!依頼を受けに来たのかい?」


と、愛想良く口を開いた。


先程の職員との違いに、思わず苦笑いを浮かべるコウスケ。


しかし


「いや。俺に指名依頼が来てねぇか確認に来ただけだよ」


と、合わせる様に言葉遣いを砕いて答えた。


するとオバちゃんは


「へぇ~、アンタ指名依頼が来る程凄いのかい?」


と、感心した様な声を上げる。


「まぁな?」


コウスケは満更でも無い様子で答えた。


「よしよし。それならアタシが調べてあげようじゃないか」


そんなオバちゃんの言葉に、コウスケはギルドカードを差し出す。


特に何も言わずにギルドカードを差し出したコウスケだったが、毎日同じやり取りを行っているであろうオバちゃんは


「アイヨッ!」


そんな威勢の良い声と共に、慣れた様子でコウスケのギルドカードを受け取った。


しかし、そんなオバちゃんが、コウスケのギルドカードを見て顔を曇らせる。


「・・・指名依頼の確認で間違い無いのかい?」


可哀想な物でも見る様な目になったオバちゃんが、向かいに座るコウスケへとそう尋ねる。


自らのランクの事を失念していたコウスケは居たたまれない気持ちになったが


「・・・取り敢えずお願いします」


と、何とか答えた。


コウスケの言葉に、一層憐れみの色を濃くした目を向けたオバちゃんは


「そうだね?そうしようね?」


まるで駄々を捏ねる子供をあやす様に、優しく言葉をかける。


コウスケは平静を装っていたが、耳だけがこれでもかと赤くなっていた。


そんな耳にじゃれ付く小次郎。


コウスケはそんな小次郎を無視する様に顔を伏せていた。


しかし、しばらく何かを確認する様に目を落としていたオバちゃんが突然声を上げた。


「・・・アラ?アラッ!!」


そんなオバちゃんの声に顔を上げるコウスケ。


するとオバちゃんは、何かとコウスケのギルドカードを何度も確認して


「アンタの名前有るわよっ!指名依頼、来てるッ!」


そう言ってコウスケを見た。


コウスケは先程とは違う意味で平静を装うと


「・・・そう?来てる?・・・あそう?来たかぁ~。いやホントは面倒なんだけどねぇ・・・指名されちゃ断れないよねぇ?」


そう答えた。


「少し疑っちまったよ?それで?そうするんだい?」


笑顔で身を乗り出したオバちゃんがそう尋ねる。


コウスケは得意気に


「受ける、受ける!当然だろ?いやぁ~困ってる人は助けないとねぇ?」


ヘラヘラとそう答えた。


するとオバちゃんは再び視線を落とし


「よし来た!・・・これでよしっと。今この依頼が受けられた事が他のギルドに伝わったよ?この手の複数人に宛てた指名依頼は早い者勝ちだからね?アンタ運が良かったよ?この依頼は入ったばかりみたいだからね?今頃他の冒険者は悔しがってるだろうね?依頼主は喜んでるだろうけど」


そう言って笑顔を浮かべる。


そんなオバちゃんの説明を聞いたコウスケは


「そうなの?俺に名指しで来た依頼じゃなかったのか・・・まぁいっか!オバちゃん、良い仕事するね!」


と、少し首を捻ったが、それ程気にならなかったのか、親指を立てオバちゃんへと称賛の言葉を送った。


「任せなッ!若いもんには負けないよッ!」


コウスケの称賛に、そう笑顔で答えるオバちゃん。


そして、続けて


「じゃあコレが依頼の内容ね?あぁそれと、注意書があるよ?」


そう言って、何かに目を走らせる。


「注意書?」


コウスケがそう呟くと


「フ~ン。この依頼、機密性が高いモンらしいよ?依頼内容を口外するのは勿論、途中で下りる事も許されないみたいだから気を付けな?・・・これ先に説明しなくちゃいけない事だったみたいだね?って言っても、もう受けちまったんだけどね?」


その注意書に目を通したオバちゃんがそう言った。


可愛く肩を竦める仕草が、地味に腹が立つ。


コウスケはそう思った。


しかし、今はそれどころでは無いと、依頼内容が記された紙を引き寄せた。


慌てて目を通したコウスケは、その内容を読み終えると


「・・・マジか」


そう呟き、表情を消す。


コウスケのそんな様子に


「アンタ、大丈夫かい?アンデットみたいな顔になってるよ?」


そう心配する言葉をかけた。


その言葉に、ユラリと視線を動かしたコウスケは


「・・・この依頼、キャンセルで」


そんな言葉を漏らす。


「今、出来ないって説明したばっかりじゃないか」


「クーリングオフはッ!?」


「?・・・何だい?それは?」


「じゃあ失敗って判断される条件はッ?」


「えぇ?・・・死亡による依頼不達成ってのは良く有るけど・・・」


「それ以外でッ!!」


「だから無理だって!」


そんな問答の後、しばらく動かなくなるコウスケ。


心配したオバちゃんが、声を掛けようと向こう側から出て回り込んで来ると、ようやく立ち上がったコウスケ。


心配気なオバちゃんに見送られながら、肩を落としたコウスケは冒険者ギルドを後にした。




「いつまで黙りこくっておるつもりじゃ?」


やや斜めになった定位置に座り心地が悪そうな小次郎が、無言で足を進めるコウスケに話しかける。


しかしコウスケは答えなかった。


「そんなにその依頼とやらが厄介な物だったのか?」


ギルドでの話を聞いていた小次郎はそう尋ねるが、やはりコウスケは答えなかった。


黙々と歩き続けるコウスケに、その後も何度か話しかける小次郎だったが、コウスケは一度も答える事は無かった。


そして、しばらく歩いたコウスケが足を止める。


コウスケが足を止めた建物を見上げた小次郎は


「またここか。再びワシを差し出した時は覚悟する事じゃな!」


そう煽る様な言葉を吐く。


しかしコウスケは、その言葉にも答える事は無く建物の中へと歩を進める。


建物の中を迷いの無い足取りで進んだコウスケは、ある扉の前で止まる。


中からは話し声が聞こえていた。


コウスケはノックもせずに扉を開くと、その中へと踏み入った。


「ん?コウスケ?」


「おう!戻って来たか?小次郎よッ!!」


中に居たのは、この建物の主エド。


そして、この国の主ハインツ国王だった。


コウスケはチラリとエドに目を向けた後、ハインツ国王へと目を向ける。


そして


「テメェ!依頼書に俺の名前も入れただろッ!!」


そう声を上げた。


理解の追い付いていないエドは


「コ、コウスケッ!?流石にその口の聞き方は・・・」


と、言葉の内容では無く、言葉そのものについて声を上げるが、ハインツ国王がそんなエドを手で制す。


そして、コウスケへ目を向けると


「なに、思ったよりも高ランクの者の名前が出てこなくてな・・・空白を埋める為に、少し名前を借りたぞ?」


そう答える。


ハインツ国王の言葉を聞いたコウスケは、肩を怒らせ体を震わせると


「受けちまったじゃねぇかッ!!」


そう声を荒らげるのだった。


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