表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/230

小次郎に恐れるもの無し

コウスケは自分の物の様に慣れ親しんだソファーへと腰を下ろす。


しかし、状況は何時もとは違い、今は隣にエドが腰を下ろしていた。


コウスケは居心地が悪いのか、何度も座り直す。


しかし、コウスケが居心地が悪いと感じている理由は、隣に座るエドではなかった。


ローテーブルを挟んで向かい合う様に置かれたソファー。


何時もはエドが座っているその場所に、この国の国王ハインツが座っている事が理由だろう。


そのハインツ国王は、向かい合って座る二人をしばらく観察する様に眺めた後、既にエドの背後の壁際で微動だにせず控えている執事が淹れた温かい飲み物の注がれたカップを持ち上げる。


そして


「初めて会う訳でもあるまい。そう固くならずとも良いだろう?」


そう言うと、持ち上げたカップに口をつける。


一口飲み下したハインツ国王は


「ほう。旨いな」


僅かに口角を上げそう呟くと、エドの背後で控えている執事に目をやった。


目を向けられた執事は、黙って頭を下げている。


執事からの無言の謝辞を、頷きで受け取ったハインツ国王は、再び二人に視線を戻す。


「エドワードだったな?」


突然の名指しに肩を跳ね上げたエドは


「はい!」


背筋を伸ばし、そう返事を返した。


それを見たハインツ国王は、ひとつため息をつくと


「それが固いと言うのだ」


そう言って、首を左右に振る。


今度は肩を落としたエドが


「はい・・・」


と、気落ちした様な返事を返せば


「隣のコウスケを見習え?私の事よりも自分の尻の下が余程気になると見えるわ」


愉快そうに言うと、声を上げて笑い出した。


その言葉に隣を見るエド。


そこには、未だに何度も座り直しているコウスケの姿が。


慌てたエドは


「何やってんの!?コウスケッ!」


そう言って、制止する様にコウスケの肩に手を置く。


するとコウスケは


「いや、何かいつもは一人で座ってっから、隣に誰か座ると座り心地が・・・」


そう呟く。


「そんな事はいいからッ!陛下がこうして時間を作って下さってるんだよ?真面目に話を聞かないと!」


小声でそうコウスケを非難するエド。


するとコウスケは


「まぁいっか」


そう呟き、ようやく腰を落ち着けた。


コウスケが腰を落ち着けたのを確認したエドは


「申し訳ありませんッ!」


そう言って、ハインツ国王に頭を下げる。


「構わん。何度かコウスケに会った事で予想はしておった。普段通りに振る舞うが良い」


しかし、ハインツ国王はエドの謝罪の言葉にそう返した。


その言葉を聞いたコウスケは


「だってよ?良かったな?これで気兼ね無く話せるぞ?」


そう言って、エドの肩を叩き返した。


エドは顔を青くさせていた。


コウスケは、そんなエドを気にした様子も見せずにハインツ国王に向き直ると


「なら、早速ひとついいか?」


そう気軽に声をかけた。


コウスケの隣からは、エドの息を呑む音が聞こえていたが


「勿論だ」


ハインツ国王がコウスケの砕けた言葉遣いを気にした様子も無く答えた事で、止めた呼吸を再開するエド。


「何で俺の事、コウスケって呼ぶんだ?エドの事はフルネームだったり、家名だったりなのに」


そんな事を尋ねるコウスケ。


「あぁ。その事か?なに、大した理由は無い。私は気に入った者には名で呼ぶようにしているのだよ」


そう言うと、カップを持ち上げ傾けるハインツ国王。


「・・・俺、何か気に入られる様な事したっけ?」


そう首を捻るコウスケ。


ハインツ国王は、そんなコウスケを見て僅かに笑みを溢すと


「私の周りには優秀な者が多くてな。その様な優秀な者達は、何故か内心を悟られるの嫌うのだ。まるで感情を面に出すのは恥だと言わんばかりにな。確かに彼等は、感情を殺し冷静でなければならない仕事も多い。しかし、だからと言って四六時中そうである必要は無い筈だ。だが彼等は、城の中では喜びもせず、怒りもしない。

そんな者達に囲まれていると、私も次第に同じ様になってくるのだ。「何故こんな時まで感情を隠す必要が?」「嘘をついて私を謀る気か?」「よし尻尾を掴んでやろう。疑っている事を気づかれぬ様に気を付けねば」と言う具合にな?」


そんな事を話した。


どうやら、溢した笑みは自嘲の笑みだった様だ。


しかし、その話を聞いたコウスケは


「何かスゲェ面倒臭そうな職場だって事は分かったけど、それがどう俺を気に入る事に繋がるんだ?」


そう言って眉を寄せると、更に首を捻る。


コウスケの言葉に、唇を濡らす様にカップを傾けていたハインツ国王は、カップから口を離すと


「そんな時に例の魔獣の件が起こったのだ」


そう言ってニヤリと口角を上げた。


それは自嘲するものでは無かった。


コウスケとエドは黙って話を聞く。


「討伐に向かわせた軍は使命を果たせず逃げ帰ってきた。しかし、そんな時でも彼等は表情を消し冷静を装っていた。内心は焦っていたのだろうがな?そこへ、魔獣を倒したと乗り込んで来る者がいた。勿論コウスケだ。それを聞いた彼等は、口では冗談だとバカにしていたが、安堵している事を隠せてはいなかった。実に愉快な光景だったぞ?」


ハインツ国王は、そう言ってコウスケへと目を向ける。


「そうだったか?あんま覚えてねぇや」


視線を向けられたコウスケは、そう言って記憶を辿る様な仕草を見せたが、記憶に無かったのか直ぐに諦める。


「いつも見ている私には分かるのだよ。その後もコウスケは彼等の表情を崩し続けた。魔獣の死体を取り出し、言い逃れようとする指揮官を言い負かし、報酬の話になると面倒そうな表情で何も決めずに帰って行った。あの場に居た臣下や貴族達は、顔を真っ赤にして憤慨していた。実に愉快な光景だったぞ?しかも、彼等の感情をそこまで引きずり出したのが、思っている事が顔に出てしまうコウスケだったのだからな?」


ハインツ国王は説明しながら思い出しているのか、途中からニヤリと口角を上げ話していた。


「俺があのじいさん共を怒らせたから気に入ったのか?」


顔を顰めてそう尋ねるコウスケ。


「勿論それもあるが、私は思ったのだ。この男となら楽に話が出来るのでは?とな」


ハインツ国王はそう言って苦笑いを浮かべた。


腹を探り合い、気を張って行う会話に疲れ果てていたのだろう。


コウスケにそれらが必要ないと感じたハインツ国王は、そんなコウスケと話してみたいと考えた様だ。


「俺がチョロいって言ってんのか?」


おどける様な仕草と共に、一国の王相手にからかう様な言葉を発するコウスケ。


コウスケのそんな言動に、しばらく黙っていたエドは涙目をコウスケへと向ける。


しかしハインツ国王は


「疑う事無く気楽に話が出来そうだ。と言う意味だったのだが・・・まぁそうとも言えるな!」


と、コウスケを真似る様におどけて返した。


「俺だってやろうと思えば、表情の一つや二つ隠せるかんな?」


「嘘を付け。先も私の名前を聞いて‘名前が長過ぎる’と思っていただろう?」


「マジで?バレてた?」


「思わずニヤけてしまったではないか」


そんなやり取りで、急激に距離を縮める二人。


心臓が持ちそうにない、と肩で息をするエドを尻目に、声を上げて笑い合うコウスケとハインツ国王。


そこで話が一区切り付いたと思ったのか、部屋に入ってからずっとローテーブルの上で伏せていた小次郎が、欠伸をしながら体を伸ばし起き上がる。


そんな小次郎に目を向けたハインツ国王は


「これはコウスケの飼い猫か?スマンな?つまらぬ話だったか?」


コウスケに確認を取った後で、そう小次郎へと話し掛け手を伸ばした。


小次郎が喋る事を知らないハインツ国王。


答えが返って来ないと思いつつ動物に話し掛ける辺り、案外生き物が好きなのかもしれない。


表情を緩ませながら小次郎に手を伸ばすハインツ国王だったが、小次郎はその手を華麗に避けるとコウスケの肩へと登り、腰を下ろす。


「フゥム・・・話が長すぎて嫌われたのかもな?」


ため息と共にそう呟いたハインツ国王は、眉と肩を落とした。


すると、コウスケの肩に登った小次郎が


「コウスケ。このやたらと偉そうに喋る人間は何だ?」


そうコウスケに尋ねる。


これには流石のコウスケも表情を引き吊らせる。


小次郎は更に


「おい!貴様!一人でベラベラと話す分には構わん!好きにしろ!そんな事よりも、ワシよりも頭が高い事の方が許せん!」


そう言い放った。


喋り出した黒猫を唖然とした表情で見上げていたハインツ国王。


そのハインツ国王を、コウスケの肩の上から満足げに見下ろす小次郎。


飼い主であるコウスケは我関せずと目を逸らし、その隣のエドは気を失っていた。


有り得ない現象に瞬きを繰り返していたハインツ国王だったが


「・・・ッ!?なんとッ!!」


現実を受け入れたのか、そんな声を上げると目を輝かせ始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ