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ハインツ・モナルコス・バシレウス・ガーランド五世

クーデター発生の一報から数日。


待つ事しか出来ないと、エドと結論を出したコウスケは、久しぶりに小次郎の散歩に付き合っていた。


そんな時。


「・・・ん?何だ?何か向こうが騒がしくねぇか、小次郎?」


建物に阻まれ見る事は出来ないが、大人数が声を上げている様な音に、そちらに顔を向けながら目の前にいる小次郎に同意を求めるコウスケ。


しかし小次郎は


「う、煩い!・・・今は・・・話し、かける、な!もう少し・・・なのじゃ!!」


途切れ途切れにそう答えた。


「あぁ?」


そんな小次郎の言葉に、そう言って顔を戻すコウスケ。


そこには、地面から僅かに腰を浮かし、尻尾の付け根から今まさに‘かりんとう’を捻り出そうと、プルプルと震える小次郎が。


そんな全身全霊を尽くしている小次郎を見下ろしたコウスケは


「・・・なんかゴメン」


そう謝罪した。


そんなコウスケへ、更に言葉を返す余裕は小次郎には無いようだ。


仕方無く、小次郎が戦い終えるまで待つコウスケ。


すると、そんなコウスケの背後から


「マツナミ様。お迎えに上がりました」


酷く渋い声が耳元で聞こえる。


肩を跳ね上げたコウスケは、思わず激闘中の小次郎を飛び越え空中で身を翻すと、声の出所に振り返る。


小次郎は目を閉じていた様で、気づいてはいない。


僅かに構えをとったコウスケだったが


「なんだアンタかよ。急に後ろから声掛けんなよ?」


声の主を見ると、直ぐ様そう言って力を抜いた。


背後からコウスケに声を掛けたのは、エドの執事だった。


その執事はコウスケの言葉には答えず、その代わりに、コウスケが動いた事で小次郎の姿を確認したのか


「これは失礼しました。小次郎様はお取り込み中でしたか」


そう言うと、丁寧に頭を下げた。


執事の対応に顔を顰めるコウスケだったが


「んで?何の用だ?態々アンタが迎えに来るなんて」


そう尋ねる。


その言葉に、小次郎からコウスケへと視線を移した執事は


「陛下が到着されました。領主の屋敷に向かわれておりますので、お出迎えにマツナミ様を呼んできて欲しいとの領主様からの命令で参りました」


そう言って、再び頭を下げる。


「じゃあさっき騒がしくなってたのは、王様が来たからか」


執事の言葉に、そう呟くコウスケ。


そこへ


「全く!人が踏ん張っている上でギャーギャーと煩い!集中出来んかったではないかッ!」


後ろ足で地面を数度蹴りながら、抗議の声を上げる小次郎。


聖戦を終えた小次郎を見下ろしたコウスケは、戦場に残された‘かりんとう’を火魔法で跡形も無く焼き尽くす。


更に、水魔法で流し終えると


「よしと。んじゃあエドんトコへ行きますか?」


そう声を上げた。


コウスケの行動を見ていた執事は


「飼い猫の排泄物をそこまで綺麗に処理するとは。マツナミ様は意外と常識あるお方だったのですね?」


そう深く頷いていた。


「おい。流石に‘意外と’は失礼だぞ?俺をどう見てたんだ?」


執事の言葉に、抗議の言葉を返すコウスケ。


しかし執事は


「おっと!時間が迫っております。急ぎ屋敷へ向かいましょう」


そう言って誤魔化した。


「チッ・・・仕様がねぇな。じゃあ行くか」


誤魔化された事に舌打ちをするコウスケだったが、遅れる訳にもいかない事も分かっていたのか、諦めてそう言うと歩き出そうとする。


しかし、そんなコウスケへ、小次郎が軽快な足取りで登り肩に腰を下ろす。


更には、小次郎とは反対の肩へと執事が手を乗せた。


「・・・オメェら何やってんだよ?」


両肩へと首を振ったコウスケは、一人と一匹へと尋ねる。


「ん?あのナヨナヨした小僧の所へ、跳んで行くのじゃろう?」


前足で顔を洗いながらそう答える小次郎。


「申し訳ありませんが、私も相乗りさせていただこうかと」


そう言って微笑む執事。


一人と一匹の言葉に顔を顰めたコウスケは


「俺はタクシーじゃねぇぞ!」


そう声を上げた。


しかし、時間が無いことも分かっているのか、僅かに重くなった両肩を落とし、魔法を発動させた。


二人と一匹の姿は掻き消えるのだった。




何時もの部屋へと姿を現したコウスケ。


そんなコウスケに気づいたエドが


「あっ、コウスケ!間に合って良かった!」


そう声を掛ける。


しかし、コウスケは不機嫌な顔でエドを見ていた。


肩に乗る小次郎が、目の前にある腕を前足で突つく中


「何で一緒に転移して来てんのに、こうなるんだ?」


コウスケがそんな言葉を呟く。


コウスケの首には、共に転移してきた執事の腕が回されていた。


勿論、その手には短剣が。


「申し訳ありません。仕事でございますので」


笑顔でそう答える執事。


苦笑いを浮かべたエドが目で合図を送れば、執事は直ぐ様コウスケから離れていく。


「これもう完全に嫌がらせだよな?」


そうエドへと泣きつくコウスケの首を、小次郎が興味深げに突つく。


「ま、まぁまぁ、きっと爺なりの歓迎なんだよ」


そう独自の解釈でコウスケを宥めるエド。


そんなやり取りをしている内に、国王到着の報せが届く。


コウスケとエドは、二人が初めて会った謁見の為の部屋へと入った。


少し広めに作られたその部屋は、奥が一段高くなっており、そこに豪華な椅子が一脚。


二人が使った時は、その椅子にエドが。


そして、低い場所でコウスケとシャズが膝を付いていたが、今は誰も座っていない椅子に向かってコウスケとエドが並んで立っている。


国王は後から入って来る様だ。


誰もいない部屋で待つコウスケとエド。


するとコウスケが


「なぁ?謁見って偉い方が先にいるモンじゃねぇの?」


そんな疑問を口にする。


「王城での謁見ならそうだけど、今回は僕らが迎える立場だからね。この場合は、こうやって陛下が来られるのを待つんだよ?」


そうコウスケの疑問に答えるエド。


「へぇ~、そういうモンなのか?」


そう納得の声を上げるコウスケ。


続けて


「俺はどうしてれば良いんだ?色々分かんねぇぞ?喋んなくてもいいか?」


矢継ぎ早に質問を飛ばす。


そんなコウスケに


「ハァ・・・良いよ。僕が話すから。って言うか、どっちかって言うとコウスケは黙っててくれた方が助かるよ?あ!あと、小次郎もね!」


呆れた様に返したエドは、何故か未だにコウスケの肩に乗る小次郎にも注意をする。


その言葉を聞いたコウスケは、肩に乗る小次郎へと目を向けると


「だってよ?分かったか、小次郎?失礼な事は言うなよ?」


エドにならい、そう釘を刺した。


しかし、それを聞いたエドは


「失礼な事を言ってはいけないんじゃ無くて、喋らないでって言ってるんだよ!」


そうコウスケの言葉を訂正する。


それを聞いたコウスケは、数度頷くと


「・・・だぞ?」


と、肩の上の小次郎へ言葉をかけた。


そんなコウスケを冷めた目で見返した小次郎は


「・・・知るか」


そう短く答える。


エドの顔には不安の色が色濃く浮かんでいた。



しばらくすると、背後の扉の向こう。その廊下から大勢の足音が聞こえてくる。


その音に気付いたエドは、その場で片膝を付くとコウスケを肘で突ついた。


エドの姿を見たコウスケは、それを真似る様に膝を付く。


そこで背後の扉が開き、大勢の鎧姿の兵士が入って来た。


兵士は部屋の両端に綺麗に整列すると、コウスケ達の様に膝を付く。


そんな兵士達をチラリと窺い見るコウスケ。


すると、その中に見た顔を見付けた。


顔に傷のある歴戦の強者の様なその見た目は、間違いなくギルバートだった。


(あの人がいるって事は、王族近衛隊か?)


コウスケが内心でそうあたりを付けていると、新たに足音が聞こえてくる。


その足音は颯爽とコウスケの横を通り過ぎると、迷うこと無く一段上に設置された椅子へと向かった。


そのまま腰を下ろすと


「もういい!皆、面を上げよ!」


そう言い放った。


膝を付き頭を下げているコウスケは、隣のエドの行動に集中する。


そのエドが下げていた頭を上げる気配に、コウスケも同じ様に頭を上げた。


ようやく姿を確認した国王は、酷く豪華なマントを身に付け、面白く無さそうに顔を顰めていた。


そこで、ギルバートとは反対の位置にいた兵士が一歩前に出る。


その兵士は


「ハインツ・モナルコス・バシレウス・ガーランド五世であるッ!此度のプレーヌス訪問は、陛下のたっての・・・」


と、何やら難しい事を長々と話し始めた。


黙って聞く一同の中、コウスケは


(ながッ!名前ながッ!)


そんな事を考えていた。


そんなコウスケを、ニヤリとして眺めるハインツ国王。


コウスケはその事には気づかない。


兵士の長い口上が終わると、再び頭を下げる一同。


コウスケもそれにならって頭を下げる。


肩の凝る謁見の終わりを感じたコウスケは、無事に済んだ事に安堵した。


しかし


「では、この後はスワン伯とマツナミ伯と少し話しがある。近衛隊は王女、王子の護衛に回れ」


そんなハインツ国王の言葉に、顔を顰めるコウスケ。


両端に並んでいた近衛隊の兵士達は、兵士二人を残し部屋を後にした。


そして


「話をするにはこの部屋は少し広すぎるな?遠いだろう?良い場所は無いか?エドワード・スワンよ」


ハインツ国王が、頭を下げたままのエドにそう尋ねれば


「それならば、私の執務室が宜しいかと」


頭を上げ、そう言った。


「よし。ならばそこへ場所を移そう。案内しろ!」


そう言うと、立ち上がるハインツ国王。


「ハッ!」


そう声を上げたエドが立ち上がるのを横目で見ていたコウスケは


(俺、このまま伏せてれば逃げれるんじゃね?)


そんな淡い期待で、微動だにせず固まっていると


「何をしている?コウスケ、お前も来るのだ!」


そんな言葉がハインツ国王から放たれた。


「・・・ハ、ハイ」


渋々そう答え立ち上がったコウスケは


(何で俺はコウスケって呼び捨てなんだよ?)


そんな疑問を抱きつつ、先頭をエド、その後ろをハインツ国王、その後ろに近衛隊の兵士二名、そして最後尾にコウスケという隊列で、エドの執務室兼私室へと向かうのだった。


因みに、謁見の間一度も小次郎は頭を垂れず、国王を精神的に見下ろしていたとか。


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