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試験開業

翌日。


「遅ぇな、アイツら?着替えるのにどんだけ時間掛かってんだ?」


腰に手を当て、仁王立ちで辺りを見渡しているコウスケが、眉を寄せ呟く。


そんなコウスケは、ハーフパンツタイプの水着にパーカーを羽織るという出で立ちだった。


何故なら、コウスケは今プレーヌスの新たな目玉になるであろう、例の巨大温水娯楽施設に居るからだ。


そして、その眼前にはこの施設の大半を占めている室内温水プールが広がっていた。


今日、コウスケ達は出来上がったこの施設の試験開業に参加したのだ。


とは言ったものの、参加するのはコウスケ達四人とシャズにエドだ。


その他は、エドの部下達が何十名かだった。


若者、年寄り、家族連れなど、エドの部下の中から幅広い年代の者を選び、意見を集めるつもりの様だ。


因みに、年寄り枠にはエドの執事が選ばれていた。


そんな真面目な試験開業の中、コウスケ達は関係者枠として普通に楽しもうとやって来ていたのだ。


しかし、コウスケが着替えを終えプールへと出てきてみれば、そこにはまだ誰も居らず、仕方なく出来上がったプールの数々を眺めるしか無かったのだった。


一時は眉を寄せていたコウスケだったが、目の前のプールを眺める内、次第に満足気に頷き始める。


全てのプールの案を出したのはコウスケだったが、実際に出来上がり、その出来上がったプールの全てに並々と温水が張られている光景に、満足感と共に懐かしさでも覚えているのだろう。


そんなコウスケは、改めてプールを見渡す。


プールは一つでは無く、外周を川の様に流れるプールが囲み、その内側に競泳用の長方形のプール、一番大きな波が発生するプール、飛び込み台のある深いプール、体を温める為の少し温度が高く設定された円形のプール、スライダーの繋がるプール、そして、子供用の浅目のプール。


水は全て魔法の力により浄化され、波や流れも魔法でという魔力ゴリ押しで作られた施設だ。


その為の魔方陣開発もコウスケが一手に引き受けた。


それらの魔方陣の権利は既に街に売却済みだった。


然るべき場所で発表すれば大金が舞い込む様な発明だったが、こんな面白い施設が出来るならと、コウスケは安値で売り払っていた。


そんな、自分が携わった施設を達成感に浸りながら眺めるコウスケだったが、やはり誰も出てこない事に目を細めてしまう。


すると、そんなコウスケに声が掛かった。


「何じゃ?誰も居らぬではないか?」


その声に、破顔して振り返るコウスケ。


しかし、そこにいたのは


「何で猫のお前が一番なんだ?」


そうコウスケに言われた小次郎だった。


「一番乗りは貴様じゃろう?」


小次郎のそんな答えに顔を顰めるコウスケ。


プールに投げ込んでやろうか?コウスケがそんな事を考えていると、ピタピタという素足で歩く音が二人に近づいてくるのに気がつき、今度こそと顔を向けるコウスケ。


そこには、コウスケと同じ水着を身に付けたエドが。


しかしエドは、体を隠す様に片腕で自らの肩を抱き、キョロキョロと辺りを窺いながら現れた。


そんなエドは、コウスケを見つけると幾分か表情を和らげ駆け寄ってくる。


「随分遅かったな?全部脱いでソレ穿くだけだろ?」


駆け寄って来たエドに、水着を指差しながら言うコウスケ。


しかしエドは


「そうは言っても・・・流石にこの格好で人前に出るのは、普通恥ずかしく思うよ?」


そう言って、眉を困らせた。


「同じ様な人が沢山いりゃ気になんねぇって!エドが堂々としてれば、他の奴等も出てくっから、な?」


コウスケはそう言って、エドの丸まった背中を叩いた。


しかしエドは


「そんな事言って、コウスケは上着を羽織ってるじゃないか!」


そう反論する。


その反論に、羽織っているパーカーを見下ろすコウスケ。


そして


「・・・確かに」


そう呟くと、新たにパーカーを取り出した。


素早くそれを羽織ったエドは、幾分か恥ずかしさから解放されたのか、コウスケの足元にいる小次郎を見つけると


「あっ!小次郎も来たんだね?猫なのに」


そう言って、小次郎で遊び始めた。


その様子を見たコウスケは


「プールは失敗だったか?猫カフェの方が良かったんじゃ・・・」


そんな不安を口にした。


それを聞いたエドが苦笑いを浮かべた事で、顔を引き吊らせるコウスケ。


しかしそこへ


「悪い!待たせたか?・・・ん?二人だけか?この水着というのを身に付けるのに手間取ってしまって、遅れたかと思って急いで来たんだが・・・」


そう言って、水着姿のミランダが現れた。


ミランダは、セパレートタイプの所謂ビキニと呼ばれる水着だった。


露になっている部分は程よく鍛えられ、腹筋も薄ら割れている。


しかし、女性らしい丸みは失ってはおらず、確りと出る所は出ている。


それが、引き締まった部分と相まって、何とも目のやり場に困る事になっていた。


小次郎と戯れていたエドは、そんなミランダを見上げ固まっている。


しかしコウスケは


「スゲェな・・・じゃなくて、良いんじゃねぇか?ミランダ。似合ってると思うぞ?」


そう声をかけた。


「そうか?」


恥ずかしがる事無くそう答えるミランダ。


しかし、そんなミランダの様子に違和感を覚えたのか


「エドなんかは恥ずかしいって言ってるけど、ミランダは平気なのか?その・・・薄着で人前に出る事に」


そう、言葉を選びながらコウスケは尋ねる。


すると、ミランダは


「なに、軍にいた頃は、訓練で汗だくになった服を兵士の前で脱ぎ捨てる事など日常茶飯事だったからな?大事な部分が隠れていれば恥ずかしさなど無いさ」


そう言って胸を張る。


そんなミランダの行動に、固まっていたエドはようやく顔を逸らす。


更にミランダは


「それに私は鍛えているからな!見られて恥ずかしい体では無いぞ!」


そう、声高らかに宣言すると、さぁ見るがいい!と言わんばかりに腰に手を当て更に胸を張った。


「お、男らしいな・・・」


そう呟くコウスケ。


そこで復活したエドが焦った様にコウスケに顔を近づける。


何事かと顔を引くコウスケだったが、そんなコウスケにエドは小声で


「改めて考えてみるとやっぱりマズくないかい?ミランダさんは伯爵家のご令嬢だよ?しかも、シャズの婚約者だよ?そんな女性にあんな格好をさせるなんて・・・」


と、目にした現実に怯んだ様子で言った。


しかしコウスケは、そんな怯えるエドに優しく微笑むと


「今さら気付いたのか?でもなエド、それがプール!それが水着!そして、それこそが男のロマンなんだッ!!」


そう言い、最後には拳を握り力強く言い放った。


その言葉に、目を泳がせるエド。


そんなエドの様子に、フッと笑ったコウスケは更に


「ミランダがあそこまで言ってくれたんだ。俺達も女々しくこんな物を羽織って無いで、脱ぎ捨てて胸を張ろうじゃないか!」


そう言って、羽織っているパーカーを引っ張った。


そんなコウスケの言葉に、少し迷う様な仕草を見せるエドだったが、不意に顔を上げコウスケの目を見返すと一つ頷く。


そして、羽織っていたパーカーから袖を抜き始めた。


それを見たコウスケもパーカーを脱ぎ始める。


しかし、コウスケはエドとは違い、羽織っていただけでは無く首元までファスナーを上げていたので、まずはそれを下ろしにかかった。


そんな二人の様子に、満足気に頷くミランダ。


しかし、そんな三人の元へ


「おっ?コウスケとエドはもう来ていたのか?それにその後ろ姿は・・・ミラか?」


そんな言葉と共に現れるシャズ。


エドは意気揚々とパーカーを脱いでいたので気づいていない様子だ。


しかし、いち早くシャズの登場に気付いたコウスケは、その姿を認めると、火が出るのでは?という速度で下ろし掛けていたファスナーを首元まで上げた。


しかし、そんなコウスケを凌ぐ速度で動いた者が。


それはミランダだった。


ミランダはシャズの声が聞こえた途端、エドが脱ぎ掛けていたパーカーを、追い剥ぎも真っ青の速度で剥ぎ取ると、それと同じ速度で身に纏った。


結果、その場には、パーカーを首元まで着込んだコウスケとミランダ、そして、一番恥ずかしがっていたエドが独り水着姿という状況になっていた。


突然の出来事に


「え?え?・・・!!ちょっとッ!二人とも!話が違うじゃないかッ!!」


そんな声を上げるエド。


しかし、ミランダはただモジモジとするばかり。


コウスケは、死んだ魚の様な目でシャズを見るばかりで、エドの叫びには答えない。


エドはコウスケにすがり付く縋り付くと


「コウスケ!ミランダさんはともかく、コウスケが裏切るなんて!どうしてなんだいッ!!」


涙目でそう訴えた。


コウスケは縋り付くエドを見下ろした後、スッと目を逸らし


「悪いエド・・・でも俺には、アレと並ぶ自信は・・・無いッ」


そう言って、強く目を閉じた。


理解出来ない様に瞳を揺らすエド。


そこへ、こちらも状況が把握出来ないシャズが


「どうしたんだ?何かあったのか?コウスケが裏切ったとか、自信が無いとか・・・それに、ミラの様子も少しおかしい様に見えるが?」


そんな言葉を掛けた。


もう一人の友人の言葉に振り返るエド。


しかし、シャズの方へと振り返ったエドは何も言わずに、自分よりも少し背の大きな友人を上から下まで眺めると、これまた何も言わずに振り返った。


そんなエドの行動に、狼狽えるばかりのシャズ。


こちらを向いた友人が、自分を上から下まで眺めただけで何も言わず再び背を向けたとあれば、そうなるのも不思議ではない。


しかしエドは、そんなシャズを他所に再びコウスケに向き合う。


そして、穏やかな笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いた。


それを見たコウスケは、同じ様に頷くと、新たにパーカーを取り出し微笑んだ。


そのパーカーを受け取ったエドは、穏やかな表情で袖を通す。


そして、お互いに肩に手を置き、何度も頷き合った。


「・・・説明は無いのか?」


二人の様子に、言い出し辛そうに口を開くシャズ。


しかし、二人から答えは返っては来なかった。


そんな人間の様子を、ヒンヤリと気持ちの良い床に寝そべりながら眺めていた小次郎。


小次郎の目には、何時もと様子の違うミランダ、何かが通じ合っている様子のコウスケとエド、そして、唯々困惑する様子のシャズが。


「コイツ等は理解に苦しむ」


四人を見上げる小次郎は、そんな事を思っていた。


但し、それとは別に、小次郎にはシャズを見て思った事が。


それは


「この小僧は鎧を付けて泳ぐのか?」


そんな疑問だった。


小次郎がそんな疑問を抱いた理由は、コウスケとエドが通じ合ったのと同じ理由だった。


シャズの体は、小次郎が鎧を着込んでいると見紛う程にバッキバキだった。もうバッキバキだったのだ。


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