ヒロイン不参加
「あと来てないのはロイドさんとエルネちゃんだよね?」
「何やってんだよ!ったく!」
エドの確認の言葉に、コウスケが憤った様子で答える。
どうやら二人は話し合いの結果、シャズの体については見えない物として扱う事に決めた様だ。
「ロイドならば来る途中で見かけたが?」
そんな二人の言葉を聞き、シャズが思い出した様に言った。
「途中?どこに居たんだ?何してた?」
不自然にシャズから目を逸らしたコウスケが、そう尋ねる。
「・・・ここへ来る時に通った通路だ。その途中にある椅子に腰かけていた」
コウスケに不審な目を向けながらも、そう答えるシャズ。
「ただ座ってただけか?本開いてたんじゃねぇのか?」
さらに尋ねるコウスケは、やはり視線を別の方向へ向けていた。
「・・・確かに。読書をしている様子だった」
シャズは何とも言えない顔をしていた。
「アハハッ!ロイドさんらしいね?それで?シャズは声を掛けなかったのかい?」
シャズの答えを聞いたエドは、らしいと言って笑った後、そう尋ねた。
シャズの体を隠す様に手を翳しながら。
「・・・二人はさっきから、一体何をやっているんだ?」
流石に我慢出来なくなったのか、不審な動きをする二人にそう尋ねるシャズ。
しかし二人からは
「「シャズは気にしなくていいよ」」
という答えが返ってくるだけだった。
「じゃあ俺がロイド連れてくるわ!」
二人の答えに怪訝な表情をするシャズを他所に、コウスケがそう言って歩き出す。
すると
「それならば、私はエルネを見に行って来よう。エルネも私の様に、この水着を身に付けるのに手こずっているのかも知れない」
シャズの登場以来、ずっとモジモジとしていたミランダが、僅かに冷静さを取り戻した様で、そう言った。
それを聞いたシャズとエドは頷きを返し、歩き出していたコウスケは
「おうッ、助かる!」
少し振り向くとそう声を上げ、そのまま歩いて行った。
「じゃあちょっと行ってくるね」
何時もとは僅かに違う口調でシャズに声を掛けたミランダも、コウスケの後を追う様に歩き出す。
「ああ」
優しい笑顔で短く答えるシャズ。
「ミランダさんと上手く行ってる様で安心したよ」
残されたエドはミランダとシャズのやり取りの様子を見て、同じく残されたシャズに向かって、嬉しそうに声を掛けた。
それは、昔から仲の良い友人らしい言葉だった。
手でシャズの体を隠してさえいなければ。
「・・・さっきも聞いたが、一体それは何なんだ?何かの遊びなのか?」
エドの言葉よりも、行動の方がどうしても気になったシャズは、堪らず同じ質問を再びエドへと投げる。
しかしエドは
「これはね、崩れそうな自分を保つ為の防衛手段だよ」
嬉しそうな笑顔を崩さずに、そう答えた。
そんなエドの様子に、今までに見た事の無い、友人の狂気の様な物を感じたシャズは
「そ、そうか・・・」
頬を僅かに引き吊らせながら、そう答えるのだった。
しばらくして。
コウスケがロイドを連れて戻って来た。
現れたロイドは、確りと水着に着替えていた。
「何で着替えたのにここまで来れないかねぇ」
呆れが籠った言葉と共にコウスケがため息をつく。
「丁度良い所に椅子があったのでな」
コウスケの言葉に、悪びれた様子も無く答えるロイド。
その言葉に苦笑いを浮かべる一同。
そして
「ミランダはまだか?エルネがまた何かやらかしてんじゃねぇよな?」
二人の姿が無い事を確認する様に見渡したコウスケが、そう言って顔を顰める。
その言葉に、エドは再び苦笑いを浮かべ、シャズは
「ミラが言った様に、着替えるのに手間取っているだけだろう?」
そう気にした様子も無く言った。
ロイドは座って読書を再開している。
そうして三人が取り留めの無い会話をしていると
「あっ!来たんじゃない?」
そうエドが何かに気付き、声を上げた。
そんなエドが見る方向に、コウスケとシャズも顔を向ける。
そこには、この場を離れた時と変わらない格好のミランダ。
そのミランダに手を引かれる普段着のエルネが。
三人の元へとたどり着いたミランダは、エルネと手を繋いだままで
「どうしても恥ずかしいらしくて、着替えられなかった様だ」
そうエルネを庇う様に言った。
それを聞いたシャズは理解を示す様に何度も頷き、エドは
「アララ・・・」
と、声を漏らしたものの、その声には特段責める様な色は感じられない。
しかしコウスケだけは
「ねぇわ~、それはねぇわ~。水着回でヒロインが水着になんねぇとか許されねぇだろ!色んなトコから文句来るぞ?」
そう言って深いため息をつく。
そんなコウスケの言葉に、おそらく意味は分かってはいないだろうが、責められている事は感じているのか、申し訳無さそうに眉を困らせるエルネ。
「何を言っている?一体どこから文句が来ると言うのだ?」
コウスケの言葉に、エルネを抱き寄せる様に引き寄せたミランダが、少し語気を強めて言った。
「まぁまぁ。二人とも落ち着こうよ?コウスケ、無理強いは出来ないよね?今日は見学って事で良いんじゃないかな?」
揉め出しそうな雰囲気を感じたエドが、そう言って割って入る。
そんなエドの言葉に、何かを考える様に大きく目を回した後
「・・・確かに」
そう呟いたコウスケは大きく息を吐いた。
そんなコウスケの様子に、安心した様子を見せるエルネとミランダ。
「じゃあエルネはロイドみたいに座って見学な?」
そう言ってエルネを見るコウスケ。
エルネは小さく頷いた。
しかしそんなエルネを確認したコウスケは
「じゃあちょっとコッチ来い」
そう言ってエルネの手を引いた。
そのままエルネを連れて少し歩いたコウスケは、この施設が見渡せる場所まで移動する。
何やら心配する様子のミランダとエドを手で制したコウスケは、手を引いているエルネを見る。
そのエルネが、やや表情を引き吊らせているのを見ると
「心配すんな?別に投げ込んだりしねぇよ!」
そう声を掛けた。
コウスケの言葉を聞いたエルネだったが、まだ疑いの目でコウスケを見上げていた。
そんなエルネに
「見学って事だけど、俺とエドが作り上げたここがどういう所か説明くらいはしとこうと思ってな?そんくらいの自慢は聞いても良いだろ?」
そう言って、ニヤリと笑うコウスケ。
「説明だけなら・・・」
そう答えるエルネ。
それに数度頷いたコウスケは
「よしっ!じゃあまずは、この目の前を流れてるプールからだ」
そう言って、目の前の流れるプールを指差した。
コウスケの指を追って見下ろしたエルネは
「え?これもプールなの?」
そんな疑問を口にした。
「そうだ。これは川の様に流れ続けるプールで、この浮き輪ってヤツを浮かべてソレに掴まったりしながら流されて楽しむプールだ」
そう説明するコウスケは、浮き輪を取り出しエルネに見せる。
「へぇ~」
そんな反応を返したエルネは、流れるプールの行く先を目で追っている。
エルネが目で行く先を追っているのを確認したコウスケは
「次は向こうの長方形のプールだ」
そうエルネが丁度目を向けた方にあるプールの説明を始める。
「アレは他のプールと違って楽しむ為の物じゃない。アレは勝負をするためのプールだ」
そう説明すると
「勝負ッ!?どうやって?」
エルネが聞き返した。
心配そうに眺めていたミランダ達も、このあたりになるとエルネと一緒になって聞いていた。
「誰が一番早く向こう岸に着けるか。誰が一番早く行って返って来れるか。誰が一番長く泳いでいられるか。方法はいくらでもあるだろ?」
そう答えるコウスケ。
「成る程・・・」
エルネがそう呟くのを聞いたコウスケは
「自分が誰より早いのか?自分は誰に勝てないのか?あ~楽しみだ。取り敢えず俺はシャズあたりと勝負してみよっかな?」
そんな言葉を、これ見よがしに呟く。
そんなコウスケの呟きを聞いたエルネから、ゴクリッという音が聞こえる。
ニヤリと表情を歪めたコウスケは
「さっ!次はあっちを見てみろ?」
そう言って、別のプールを指差す。
その言葉に、エルネだけでは無く、ミランダ、エド、シャズもコウスケの指を追う。
「アレがここで一番デカいプール。波の出るプールだ」
コウスケが言ったその言葉に
「・・・波?」
と、ピンと来ていないのか首を傾げるエルネ。
「エルネは海行った事ねぇんだよな?」
そんなエルネに、そう尋ねるコウスケ。
「わ、悪いッ?良いでしょ別に!」
からかわれているとでも思ったのか、若干何時もの調子を取り戻したエルネが声を上げた。
しかしコウスケは、そんなエルネに何時もの様に言い返す事はせず、それどころか少し残念そうな顔で
「ならそんなエルネにはピッタリだったんだけどなぁ・・・」
そう呟く。
そんなコウスケに
「・・・何がピッタリなの?」
そう返してしまうエルネ。
コウスケはフッと笑うと
「あのプールは海を再現したプールなんだ。見てみろ?あの寄せては返す波を。海そのものじゃないかッ!」
そう力説する。
そんなコウスケの言葉に
「アレが・・・海ッ!」
そう目を見開くエルネ。
徐々にコウスケのテンションに吊られて来ている様にも見える。
その後も
「見ろ!アレがスライダーだ!」
「スライダー!?アレはどうやって遊ぶ物なのッ?」
「あの少し傾斜が付いた滝みたいな所を、上から滑り下りるんだ!最後は下にあるプールに放り出されて、盛大に水飛沫を上げる。最後までスリル満点のプールだ!」
「凄いッ!!」
「あっちも見ろ!あれは飛び込み台!己の度胸を試す、冒険者には持ってこいのプールだ!」
「高いッ!!」
そんな具合に、コウスケの熱い説明が続き、説明が終わる頃には
「コウスケ。先程言っていた勝負をしようじゃないか!」
「僕はスライダーっていうのに興味があるよ!」
「私の度胸はどれ程か試してみよう!」
シャズ、エド、ミランダはそう言って目を輝かせていた。
そんな三人を他所に、コウスケはエルネの様子を窺う。
エルネは迷う様に目を揺らしていた。
それを見たコウスケは、ニヤけを深めると
「シャズと勝負して、エドとスライダー、ミランダと度胸比べした後、皆で海で遊ぶ。最後は流れるプールでのんびり漂って・・・今からワクワクするなぁ~」
止めと言わんばかりにそう呟く。
エルネはしゃがみ込むと、目の前の流れるプールに手を浸した。
すると向こうから、何やら黒い物が流れてくるのが見えた。
後ろで足踏みを始めている三人は気づいていない様だが、コウスケとエルネは気付き注目する。
二人が流れてくる物体を目で追っていると、それは二人の前まで流れてきた。
そして
「これは極楽じゃな?ワシはここに住むぞ!」
そう言い残して、再び流れていった。
それを見送ったコウスケは
「・・・猫も浮くんだな」
そんな感想を漏らす。
一方のエルネは
「コジちゃんッ!?」
そう驚きの声を上げていた。
予想外の漂流物もあったが、気を取り直したコウスケは
「まっ、説明はこんなトコだ。じゃ俺達は行くから座って見学しててくれ?」
しゃがみ込んでいるエルネの肩に手を置いて、そう言った。
その言葉に、勢い良く立ち上がったエルネは、鼻息の荒くなった一同を見渡すと、何も言わずどこかへ走り去った。
そんなエルネを、浮かれた三人が見送る。
そして、慌ててコウスケへと振り返ったミランダが
「エルネがどこかへ行ってしまったぞ!何か言ったのか、コウスケ!」
そう疑う様に詰め寄った。
しかしコウスケは
「心配ねぇって。多分、直ぐ戻ってくっから」
そう言うと、ニタリと口許を歪めるのだった。




