↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/9

第4章 原作はどれだ?――Web版、書籍版、漫画版、アニメ版

ここまで、


Web小説が本になり、


漫画になり、


アニメになっていく流れを見てきた。


めでたい。


作品がどんどん大きくなっていく。


……のだが。


メディアが増えるたびに、少しずつ話が変わる。


すると、そのうちこんな会話が始まる。


「原作ではこうだったよ」


「え? 私が読んだ原作では違ったけど?」


そして確認してみると、


片方はWeb版。


片方は書籍版。


どちらも間違っていない。


今回は、


「原作って、どれのこと?」


という、地味にややこしい話である。

昔の私にとって、


「原作」


という言葉はかなり単純だった。


漫画がアニメになれば、漫画が原作。


小説がアニメになれば、小説が原作。


分かりやすい。


ところがWeb小説の場合、


最初から少し事情が違う。


まず、


Web版


がある。


それが書籍化される。


しかし前にも書いた通り、


Web版をそのまま印刷するとは限らない。


文章が整理される。


エピソードが追加される。


話の順番が変わる。


設定が変わる。


キャラクターが増える。


場合によっては、


途中からかなり違う話になっていく。


そうなると、


Web版と書籍版は同じ作品なのに、同じ物語ではない


ということが起きる。


もちろん、


「最初に書かれたもの」


という意味ならWeb版が原作なのだろう。


でも商業作品として漫画化やアニメ化される場合、


基準になるのは書籍版だったりする。


すると、


Web版をずっと読んでいた人からすれば、


「あれ? この展開変わってる」


となる。


書籍版から入った人には、


それが最初から普通である。


そして両者がネットで話す。


「この後こうなるよ」


「ならないよ」


「いや、なるって」


「それWeb版じゃない?」


……ややこしい。


ただ、


私はこの違い自体は結構好きだったりする。


Web版をすでに読んでいても、


書籍版で展開が変わっていれば、


もう一度楽しめるからだ。


「あの場面、こう変えたのか」


「このキャラ、書籍版では早く出てくるんだ」


「こっちの流れの方が分かりやすいな」


と、


違いを探しながら読む楽しみがある。


Web版が、


作者が最初に作った作品だとすれば、


書籍版は、


編集者などの手も加わりながら、


商業作品としてもう一度組み直された版


とも言える。


どちらが上、


という単純な話ではない。


『転生したらスライムだった件』や、


『オーバーロード』のように、


Webで読まれていた作品が書籍化され、


その後の展開や構成が変化していった作品を見ていると、


この違いは特に面白い。


最初にWebで知っていた人と、


書籍から入った人では、


同じタイトルについて話しているのに、


頭の中にある物語が微妙に違うことがある。


長く続いている作品ほど、


その差も大きくなっていく。


ここまで来ると、


「原作」というより「Web版ルート」「書籍版ルート」


くらいに考えた方が分かりやすい気さえする。


そして、


そこへ漫画版が加わる。


漫画版は、


多くの場合は書籍版を基準にして進む。


だが、


小説をそのまま全部漫画にすることはできない。


前の横道で書いた通り、


説明を削る。


場面を整理する。


順番を変える。


漫画独自の演出を入れる。


そうしているうちに、


漫画版にも、


漫画版独自の流れ


が出来てくる。


さらに漫画家の解釈によって、


キャラクターの印象まで少し変わる。


すると、


Web版。


書籍版。


漫画版。


三つの姿が存在することになる。


しかも、


作品によってはコミカライズが一つとは限らない。


同じ小説を、


別の漫画家が、


別の雑誌やレーベルで漫画化している場合もある。


分かりやすいところでは、


『薬屋のひとりごと』。


同じ作品なのに、


コミカライズが複数ある。


タイトルを聞いただけでは、


「どっちの漫画?」


となる。


これは初めて知った時、


なかなか面白い状態だと思った。


小説が原作。


そこから漫画が一本。


という単純な枝分かれではない。


一本の小説から、


別々の解釈を持った漫画が同時に存在する


のである。


そして読者によって、


「私はこっちの絵が好き」


「こっちの構成の方が読みやすい」


と好みまで分かれる。


もう完全に、


同じ原作から生まれた別作品である。


そして最後に、


アニメ版が来る。


当然ここでも、


そのままにはならない。


一話約三十分。


一クール十数話。


という制限がある。


書籍版の何巻分をやるのか。


漫画版を参考にするのか。


原作小説から直接構成するのか。


説明をどこまで残すのか。


アニメオリジナルの場面を入れるのか。


結果として、


アニメ版にもまた、


アニメ版の物語


が出来る。


面白いのは、


アニメから入った人にとっては、


それこそがその作品の基準になることだ。


アニメでキャラクターを知った。


声も知った。


姿も知った。


その後で原作小説を読む。


すると、


「こんな場面あったの?」


となる。


あるいは逆に、


「アニメで好きだったあの場面、原作にはないの?」


となる。


原作ファンからすれば、


「それアニオリだよ」


で済む。


でもアニメから入った人にとっては、


アニメで見たものが最初の正解


なのである。


これは声についても同じだ。


一度アニメを見てしまうと、


原作を読んでいても、


頭の中でその声優の声が流れる。


漫画を読んでいても流れる。


もともと自分の中にあった声は、


いつの間にか消えている。


キャラクターの外見もそう。


Web版を読んでいた頃は、


自分の頭の中で勝手に作っていた。


書籍版のイラストを見て、


公式の姿が出来る。


漫画で、


そのキャラクターが動き始める。


アニメで、


さらに声まで付く。


こうして、


最初は読者一人一人の頭の中にあったキャラクター像が、


少しずつ共有されていく。


これもメディアミックスの面白いところだと思う。


一方で、


原作ファンが面倒くさい存在になる瞬間もある。


アニメを見た人が、


「あのキャラってこういう人だよね」


と言う。


すると、


「いや、原作ではもっと――」


と言いたくなる。


漫画版を読んだ人が、


「この展開好き」


と言う。


すると、


「Web版ではそこ違うんだよ」


と言いたくなる。


……分かる。


非常に分かる。


自分が先に知っていた作品なら、


なおさらである。


でも考えてみれば、


その人が見ている作品も、


間違いなく同じ作品なのだ。


ただ、


入口が違う。


それだけなのである。


これは私自身も、


かなり意識するようになった。


昔なら、


「原作ではこうだよ」


と言っていた。


でも今は、


その前に、


「Web版?」


「書籍版?」


と確認しないと危ない。


下手をすると、


自信満々に説明して、


あとで調べたら、


「それWeb版だけの設定だった」


なんてこともある。


なろう系を長く追っているほど、


古い知識が逆に罠になることがあるのだ。


そして、


さらに面白いことが起きる。


メディアミックスが成功すると、


どれが一番有名なのかまで逆転する。


最初に存在したのはWeb小説。


しかし、


漫画版が大ヒットすれば、


世間では漫画の方が有名になる。


アニメが大ヒットすれば、


さらに多くの人にとって、


アニメ版がその作品になる。


すると、


最初にあったWeb小説は、


作品全体から見ると、


「知っている人は知っている最初の版」


のような立場になることすらある。


これはかなり不思議である。


昔なら、


原作があって、


アニメはその派生作品。


という感覚が強かった。


でも今のメディアミックス作品を見ていると、


もっと横並びに近い気がする。


Web版にはWeb版の面白さがある。


書籍版には書籍版の完成度がある。


漫画版には漫画版の表現がある。


アニメ版にはアニメ版の魅力がある。


一本の作品が、


媒体ごとに少しずつ違う姿を持つ。


それを全部まとめて、


一つの作品として楽しむ。


そういう見方もできる。


ただ、


ここまで枝分かれすると、


一つ疑問が出てくる。


そもそも、


なぜここまでメディアミックスされる作品が増えたのだろう。


昔は、


人気が出た作品が本になる。


さらに人気が出れば漫画になる。


もっと売れればアニメになる。


そういう流れだった。


だが今では、


書籍化の発表とほぼ同時にコミカライズが動いていたり、


「これは最初から漫画まで考えているのでは?」


と思うような展開も珍しくなくなった。


つまり、


メディアミックスが、


成功した作品へのご褒美


ではなく、


作品を売るための最初から組み込まれた仕組み


になってきたのではないか。


そして、もしそうなら。


その仕組みは当然、


元になるWeb小説の作られ方にも影響してくるはずである。



Web版。


書籍版。


漫画版。


アニメ版。


全部同じ作品。


でも、全部少しずつ違う。


昔なら、


「原作を読めば全部分かる」


と思っていた。


今ではまず、


「どの原作?」


と聞かなければならない。


なかなか面倒である。


でも、この枝分かれこそ、


Web小説が巨大な商業コンテンツになった証拠なのかもしれない。


そして次は、


そのメディアミックスが、


とうとう原作側へ逆流していく話。


「人気が出たからメディアミックスする」から、

「メディアミックスしやすい作品が強い」へ。


第二部の中でも一番考察らしいところを、


勝手に考えてみたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。