横道② アニメ化ガチャ――動けば勝ち、ではない
好きな作品の、
「TVアニメ化決定!」
という文字を見る。
嬉しい。
とても嬉しい。
でも、アニメを何本も見てきた今では、その直後に別のことも考えてしまう。
「どこの制作会社だ?」
「何クール?」
「原作のどこまでやる?」
「作画、大丈夫だよな?」
昔は、
アニメになる=大成功
くらいに思っていた。
今は知っている。
アニメ化はゴールではない。
そこから先に、
巨大なガチャが待っている。
コミカライズの時にも書いたが、
原作を別の媒体に移すというのは、
そのまま形を変えれば済む話ではない。
そしてアニメは、
漫画よりさらに大変そうに見える。
原作。
監督。
シリーズ構成。
脚本。
キャラクターデザイン。
作画。
演出。
声優。
音楽。
音響。
制作会社。
そして予算やスケジュール。
一つの作品をアニメにするだけで、
とにかく大量の人間が関わる。
当然、
どこか一つが変わるだけでも、作品の印象は変わる。
コミカライズでは主に、
「誰が漫画を描くのか」
が大きかった。
アニメでは、
ガチャを回す場所そのものが増えている。
まず分かりやすいのが、
作画。
原作で、
「ものすごい戦闘だった」
と書いてある。
漫画でも、
見開きで巨大な魔法が炸裂している。
当然アニメでも期待する。
そして放送日。
いよいよその場面が来る。
魔法が発動する。
敵へ飛んでいく。
……動かない。
「あれ?」
いや、動いてはいる。
でも、
思っていたより動かない。
ということがある。
逆に、
原作では数行だった戦闘が、
アニメスタッフの演出によって、
「こんなに凄い場面だったのか!」
となることもある。
同じ原作なのに、
映像になった瞬間、
迫力が何倍にもなる。
この差は大きい。
そして、
声優。
これもアニメならではだ。
小説を読んでいる時、
キャラクターの声は当然自分の頭の中にしかない。
漫画になっても声は付かない。
ところがアニメになると、
突然、
「このキャラクターはこの声です」
と決まる。
最初は、
「ちょっとイメージと違うかな」
と思っていても、
数話見ているうちに、
その声以外考えられなくなることもある。
逆に、
原作を読んでいた時のイメージが強すぎると、
どうしても最後まで慣れない場合もある。
そして声優の芝居によって、
原作では軽く読んでいた台詞が、
ものすごく印象に残る場面になることもある。
文章では一行。
漫画では一コマ。
それがアニメでは、
声。
間。
表情。
音楽。
全部を使って見せることができる。
ここが映像作品の強さである。
音楽も大きい。
これは本当に大きい。
原作を読んでいる時に、
当然BGMは流れない。
だがアニメでは、
戦闘になれば音楽が流れる。
感動する場面なら静かな曲が入る。
そしてクライマックス。
曲が盛り上がる。
キャラクターが叫ぶ。
必殺技が出る。
……ずるい。
そんなの盛り上がるに決まっている。
原作で知っている展開なのに、
アニメで見るとまた感動する。
私は『ログ・ホライズン』や『転生したらスライムだった件』、『オーバーロード』などをアニメで見た時、
この、
「知っている物語なのに、映像になることで改めて面白い」
という感覚をかなり味わった。
物語そのものは知っている。
それでも、
動く。
喋る。
音が鳴る。
それだけで作品の印象は大きく変わる。
うまくハマったアニメ化というのは、
原作の再現ではなく、
原作とは別の魅力を追加してくれる。
ただし。
その逆もある。
私にとって分かりやすかったのが、
『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』だった。
これは第一部でも何度か触れているくらい、
私がかなり好きだった作品である。
Web版も長く読んでいた。
だから当然、
アニメ化も楽しみにしていた。
……のだが。
私には、
いまひとつ原作の面白さがアニメに乗り切っていないように感じた。
特に印象に残っているのが、
ステータスや説明文字。
『デスマーチ』は、
主人公がスキルを取得したり、
大量の情報を確認したり、
ゲーム的な表示を読みながら状況を理解していく部分が結構重要だった。
原作では、それを文章として読む。
自分のペースで読める。
必要なら少し戻れる。
「ああ、こういう能力を手に入れたのね」
と確認できる。
でもアニメでは、
画面に大量の文字が出ても、
すぐ次へ進んでしまう。
「読めない!」
となる。
もちろん全部を停止して読むこともできる。
でも、それはアニメとして気持ちいい見方ではない。
結果として、
原作では面白かった、
ゲームのログを追っているような感覚
が、私にはうまく伝わってこなかった。
ここが難しいところだと思う。
原作へ忠実にすればいい、
という話でもない。
『デスマーチ』の大量の文字情報を、
全部画面に出した。
ある意味、
原作通りである。
でも、
原作通りだからアニメとして見やすいとは限らない。
小説なら文章で読める。
漫画ならコマの中で止まって読める。
アニメでは画面が勝手に進む。
同じ情報でも、
媒体によって最適な見せ方が違う。
コミカライズの時にも似た話をしたが、
アニメではさらにそれが厳しくなる。
そして何より大きいのが、
時間。
小説は長く書ける。
漫画も連載が続けば、少しずつ進められる。
だがテレビアニメには、
一話およそ三十分。
そして多くの場合、
一クール十数話程度。
という巨大な壁がある。
原作が何百万字あろうが、
アニメは十二話。
いや、
どうするの?
となる。
当然、
全部は入らない。
だから削る。
説明を削る。
会話を削る。
寄り道を削る。
脇役のエピソードを削る。
それでも足りない。
さらに削る。
そして原作ファンが見る。
「あの場面は?」
「あの説明がないと、この行動の意味分からなくない?」
「あのキャラ、急に仲間になってない?」
となる。
逆に丁寧にやれば、
今度は、
「全然話が進まない」
と言われる。
……これも無理ゲーである。
特になろう系は、
長編が多い。
私が好んで読む作品など、
百話どころか数百話。
場合によっては千話を超える。
そんな作品を、
十二話でどこまでやるのか。
これだけでも相当難しい。
原作一巻だけを丁寧にやるのか。
二巻。
三巻。
もっと先まで行くのか。
そしてアニメとして、
一番盛り上がるところまで到達しなければならない。
原作では、
「ここから面白くなる!」
という作品もある。
だがアニメで、
十二話全部使って、
「さあ、ここからです!」
で終わったら、
原作を知らない人からすれば、
「結局何だったの?」
となってしまう。
だから構成する側も、
アニメ単体で盛り上がるところまで持っていきたい。
その結果、
話を猛烈な速度で進める。
原作ファンからは、
「飛ばしすぎ!」
と言われる。
……本当に難しい。
そしてアニメには、
もう一つ恐ろしいところがある。
第一印象が強すぎる。
漫画版なら、
「ちょっと合わないな」
と思った読者が原作へ行くこともある。
でもアニメは、
作品を知る入口として非常に大きい。
そこで、
テンポが悪い。
作画が厳しい。
説明不足。
意味が分からない。
となれば、
その人の中では、
「この作品、あんまり面白くないな」
で終わってしまう。
原作ファンとしては、
言いたくなる。
「違うんです」
「原作は面白いんです」
「そこ、本当はもっと説明があるんです」
「そのキャラ、原作ではもっと魅力的なんです」
……でも、それを言い始めた時点で、
たぶんアニメ単体としては負けている。
原作を知らなくても面白い。
それが一番強い。
逆に、
大当たりのアニメ化はすごい。
原作を知らない人が見る。
面白い。
漫画を買う。
原作を買う。
Web版を読む。
SNSで話題になる。
さらに視聴者が増える。
そして、
もともと原作を読んでいた人間まで、
もう一度作品を好きになる。
これこそ、
メディアミックスの理想的な形なのだと思う。
原作と同じものを作るのではない。
アニメだからできる表現を使って、
作品そのものをもう一段大きくする。
こういうアニメに当たると、
原作ファンとしては本当に嬉しい。
ただ、
ここで一つ考えてしまう。
昔の私は、
好きな作品がアニメ化すると聞けば、
単純に喜んでいた。
でも今は、
アニメ化決定!
と聞いた瞬間、
制作会社を調べる。
監督を見る。
PVを見る。
キャラクターデザインを見る。
何クールか気にする。
原作の何巻まで行くのか予想する。
……面倒な原作ファンになったものである。
しかし、
これはたぶん私だけではない。
何度もアニメ化作品を見て、
成功も失敗も知った結果、
「アニメになるだけでは安心できない」
と学習してしまったのだ。
そして、
このアニメ化ガチャが当たり前になると、
さらに面白いことが起きる。
原作小説。
書籍版。
漫画版。
アニメ版。
同じ作品なのに、
それぞれ内容が少しずつ違う。
Web版ではこうだった。
書籍版では変わった。
漫画版ではさらに整理された。
アニメではその漫画とも違う。
すると、
「原作ではこうだったよ」
と言われて、
「どの原作?」
となる。
……いよいよ、ややこしくなってきた。
アニメ化は嬉しい。
これは今でも変わらない。
好きな作品が動く。
喋る。
音楽が付く。
それだけで特別である。
ただ、
アニメ化作品を何本も見てきたことで、
こちらも余計な知識を身につけてしまった。
作画。
声優。
構成。
話数。
制作会社。
そして、
原作のどこまでやるのか。
「アニメ化決定!」
という文字を見て、
喜びながら同時に心配する。
それも今では、
原作ファンの楽しみの一つなのかもしれない。
さて。
ここまで、
Web小説が書籍になり、
漫画になり、
アニメになった。
だがその間、
作品の中身も少しずつ変わっている。
では一体、
どれが本当の原作なのだろう?
次は、
Web版、書籍版、漫画版、アニメ版――「原作はどれだ?」問題
について考えてみたい。




