第1章 なろう作品が本になった――書籍化という最初のメディアミックス
今では、なろうで人気が出た作品に、
「書籍化決定!」
と書いてあっても、それほど驚かなくなった。
でも昔は違った。
Webで普通に読んでいた小説が、本屋に並ぶ。
それだけで、
「おお、本になるのか!」
と思ったものである。
今回は、そんな頃の話。
私が「小説家になろう」を読み始めた頃。
そこにある作品は、基本的に、
Webで読むもの
だった。
ランキングから作品を探す。
タイトルを開く。
文章を読む。
続きが気になればお気に入りに入れる。
更新されたらまた読む。
今でこそ当たり前の読み方だが、当時の私にとって、なろうとは基本的にそういう場所だった。
だから、読んでいた作品のページに突然、
「書籍化決定しました!」
なんて書かれると、結構な事件だった。
「マジか。この小説、本になるんだ」
という感じである。
もちろん、小説が商業出版されること自体は昔からある。
新人賞を取ってデビューする作家もいる。
出版社へ原稿を持ち込む人もいる。
でも、自分が普通にWebで読んでいた作品が、そのまま出版社の目に留まり、書店に並ぶ。
この感覚は、それまでとは少し違った。
読者からすると、
「私たちが読んでいた作品が、本になった」
という妙な親近感があったのである。
そして本になると、当然だが表紙が付く。
挿絵も付く。
これが結構大きかった。
Web小説を読んでいる時、キャラクターの姿は基本的に自分の頭の中にしかない。
黒髪。
美少女。
長身。
鎧を着た騎士。
作者が文章で説明していても、その姿は読者それぞれで微妙に違う。
ところが書籍になると、
「この人はこういう顔だったのか」
と、突然ビジュアルが決まる。
ヒロインを見て、
「思っていたより幼いな」
とか、
「主人公、私の想像よりイケメンだな」
とか。
逆に、
「そうそう、こんな感じ!」
となることもある。
今ではキャラクターデザインが付くことなど当然のように思っているが、文字だけで追っていた作品に初めて絵が付く瞬間というのは、なかなか楽しかった。
そして何より、
自分が読んでいたWeb小説が、本屋の棚に置いてある。
これが妙に嬉しい。
もちろん私が書いたわけではない。
何の関係もない。
それでも、
「あ、これ私が読んでるやつだ」
と思ってしまう。
長年インディーズで追いかけていたバンドが、突然メジャーデビューしたのを見る感覚に、少し近かったのかもしれない。
ただし、Web小説をそのまま印刷すれば本になる、というわけではない。
書籍化されると、多くの作品で文章に手が入る。
誤字脱字が直る。
表現が整理される。
話の順番が変わる。
新しいエピソードが追加される。
Web版では軽く流されていた場面が膨らんだり、逆に長かった部分が削られたりすることもある。
つまり、
Web版と書籍版は、同じ作品だけれど完全に同じものではない。
この時点で、後にもっとややこしくなる問題の芽がすでに出ている。
「原作ってどっち?」
という問題である。
……まあ、この話は後でもう一度やる。
ここではひとまず、
書籍化されたことで、作品に“別バージョン”が生まれるようになった
くらいにしておこう。
そして、書籍化にはもう一つ大きな意味があった。
Web小説だった作品に、商品としての結果が求められるようになったことだ。
Webで連載しているだけなら、極端な話、作者が書き続ける限り物語は続く。
もちろん更新停止はある。
エタることもある。
しかし少なくとも、
「売れなかったので次の巻は出ません」
という問題は存在しない。
ところが本になれば話は変わる。
売れなければ続刊できない。
Webではまだまだ続いているのに、
書籍版は数巻で止まってしまう。
読者からすると、
「え、ここから面白くなるのに!」
と思っていても、商業出版である以上どうにもならない。
だからいつしか、
「書籍化=ゴール」ではない
ということにも気付いていく。
書籍化した。
一巻が出た。
二巻が出た。
三巻も出た。
そして完結まで出版された。
ここまで行くことが、実は簡単ではない。
「書籍化決定!」
という文字を初めて見た頃には、そこまで考えていなかった。
単純に、
「すげえ、本になるんだ!」
と思っていた。
でも書籍化作品が増えていくと、読者の側もだんだん事情を知るようになる。
「あ、この出版社か」
「このレーベルならコミカライズもありそうだな」
「売れたらアニメまで行くかな」
などと、作品の内容とは別のことまで考えるようになっていく。
この辺から、Web小説は少しずつ、
ただWebで読むだけのものではなくなっていった。
そして出版社側から見ても、Web小説には大きな利点があったのだと思う。
すでに読者がいる。
ランキングがある。
感想がある。
どれくらい読まれているのかが、ある程度見える。
完全な新人の新作をゼロから世に出すのとは違い、
「すでにWeb上で人気が出ている作品」
を本にできる。
もちろん、Webで人気だから必ず本も売れる、なんて単純な話ではない。
だが、
「誰にも読まれたことのない作品」
よりは、判断材料が多い。
こうして、
Webで人気になる
↓
出版社から声がかかる
↓
書籍化する
という流れが、徐々に一つのルートとして定着していった。
そしてこのルートが出来たことで、なろうそのものの見え方も変わったように思う。
ただ小説を公開する場所ではなく、
商業デビューにつながる場所
にもなったのだ。
当然、書く側の意識も変わる。
最初から、
「いつか本になったらいいな」
と思って書く人も増える。
ランキング上位へ行く。
多くの読者を集める。
出版社の目に留まる。
書籍化する。
そんな成功ルートが見えるようになる。
そして成功例が増えれば、
「自分もやってみよう」
という人がさらに集まる。
作品が増える。
読者も増える。
人気作品がまた書籍化される。
こうして、なろうとライトノベル出版の距離は、どんどん縮まっていった。
ただ、この頃の私はまだ、
書籍化の先
について、それほど意識していなかった気がする。
本になれば十分すごい。
好きな作品に表紙が付き、挿絵が付き、本屋に置かれる。
それだけで嬉しかった。
だが、そのうち書籍化作品のページに、さらに新しい文字を見るようになる。
「コミカライズ決定!」
最初は、
「おお、今度は漫画になるのか」
くらいに思っていた。
しかし振り返ってみると、このコミカライズという存在は、なろう系にとってかなり大きかった。
なぜならここから、
原作小説を一度も読んでいない人が、なろう作品に触れる
ということが、本格的に起こり始めるからである。
Web小説が本になった。
次は、その文字だけだった物語が、
漫画として動き始める。
そしてここから、私自身の「なろう作品の見つけ方」も少しずつ変わっていくことになる。
最初の頃は、本屋で知っている作品を見つけるだけで妙に嬉しかった。
今では書籍化、コミカライズ、アニメ化まで一気に発表されることすらある。
慣れというのは恐ろしい。
次は、その中でも特に大きかったと思う、
コミカライズ
について振り返ってみたい。




