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第17話 解体しかできない男が、王国解体官になった日 ――勇者は、まだ討伐にあぶれていた

「解体しかできない男」が、王国解体官に、任命された。


封印庫での一件が、王都を駆け巡った。王都中の御用解体師が匙を投げた魔王の遺骸を、無資格の田舎者だけが「解体できる」と言った——その話は、貴族の社交場から、城の上層まで、届いた。


王が、布告を出した。


「解体職を、国家に不可欠な職能として、正式に認める。ならびに、ダグを、初代《王国解体官》に任命する」


その時、列の端から、声が上がった。バルドだった。最後の抵抗だ。


「陛下。お待ちを。解体職を国家職とする前例など、ございません」


「なら、今日、作る」王は、即座に答えた。


「し、しかし、無資格の田舎者を、国家の職に——」


「資格を持つ者は」王が、静かに遮った。「その魔王の遺骸を前に、百年、何をしていた」


バルドは、答えられなかった。広間が、しん、とした。百年、誰も後始末をできなかった。資格を持つ者たちが、ずっと。その事実の前で、バルドの「前例」も「資格」も、一片の意味も、持たなかった。


「もう、よい」王は、バルドから視線を外した。それが、御用解体師組合の筆頭に対する、公式の答えだった。


下働き。買い叩かれる側。討伐記録に、名も残らない職。それが、国家の職能として、認められた。


「解体しかできない」——四年前、そう言われて、切り捨てられた。その同じ職が、その日、王の口から、「国家に不可欠な職能」と呼ばれた。蔑称が、公式の名称に、上書きされた瞬間だった。


俺は、別に、肩書きが欲しかったわけじゃない。任命式で、王に問われて、こう答えた。


「望みは、地位ではありません。正しく値がつく市場です。倒した後の価値を、正しく拾える者が、正しく報われる。それだけです」


王は、その答えを、しばらく吟味するように見て、それから、小さく頷いた。「面白い男だ。倒すことばかり競う世で、お前のような者が、必要だったのかもしれん」


任命式の広間には、王都の貴族も、御用解体師組合の面々も、並んでいた。かつて「無資格の田舎者」と侮った者たちが、いまは、国家解体官となった俺に、頭を下げる。誰も、表立っては、何も言えなかった。結果が、すべてを黙らせていた。


その任命と、引き換えのように、もう一つの布告が出た。


御用解体師の、資格独占制度の、見直し。家柄と年功で筆頭の座にあったバルドは、その座を、失った。線も読めず、独占で価格を吊り上げ、規格で他者を締め出してきた——その権威が、結果を出せないという、ただ一点で、崩れた。


資格は、腐敗を止めない。止められる者が、止める。それだけのことだった。


任命式の帰り、王都の大通りで、見覚えのある三人と、すれ違った。


ジークたちだった。相変わらず、討伐の仕事にあぶれ、下町のギルドの前で、安い依頼を、奪い合っていた。倒す力は、本物のはずだ。だが、その力に、もう、高い値はつかない。倒すだけの者は、いくらでもいる。


ちょうど、ギルドの壁に、討伐依頼の札が貼り出されたところだった。「角兎の群れ・銀貨五枚」。かつてAランクの魔物を狩っていた勇者パーティが、その銀貨五枚の札に、他の駆け出しと一緒に、手を伸ばしかけていた。


すれ違いざま、誰かが囁くのが聞こえた。「あれが、勇者パーティ?」「ああ。今は、あの解体官に、素材を買い叩かれる側らしいぞ」——買い叩く、ではない。買い叩かれる。四年前、俺がされていたことだ。


解体係だった男が、国家の解体官になる。倒す側だった勇者が、討伐にあぶれている。


四年前と、立場が、完全に、入れ替わっていた。


ジークは、俺に気づいて、何か言いかけ——結局、目をそらした。その隣で、ノクスはもう、こちら側にいる。今朝も、若手の列で、刃の握り方を、覚えていた。筋が、悪くない。数字を見る目は、解体の見積もりにも、効くらしい。


ボズは、まだ、決めかねていた。剣を捨てるか、握り直すか。それは、こいつ自身が、決めることだ。


王が、本体解体の全権を、俺に委ねた。場所も、人も、資源も、必要なものは、すべて。


明日、世界で一番高い解体に、刃を入れる。


「緊張、しないんですか」セルカが、聞いた。


「しないな」俺は、刃を研ぎながら、答えた。「やることは、いつもと同じだ。竜膜も、呪骸も、これも。切る場所が、違うだけだ」


慌てる理由は、ひとつもない。


《所持金:金貨三万枚》

《称号:特別解体師 候補 → 王国解体官(正式任命)》

《御用解体師組合:バルド、筆頭失脚/ノクス、工房の若手に》



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