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第二百二十五話 アジトにて

 ジョニーの案内でスラム街の裏路地を歩く事しばし。

 レイが導かれたのはボロボロの一軒家の地下室だった。


「おぉ!クオン殿!どうしてここに!?」


 蝋燭一つしか光源が無い薄暗い部屋の奥から老紳士の声。

 埃っぽく淀んだ空気の地下室で、レイは思い掛けない人物に出会った。


「パトリックさん?どうしてここに?」


 領主館の執事パトリックだ。

 驚きの表情で出迎えた燕尾服を纏った老紳士に、レイが努めて平坦な声で問いかける。


「……ここまでいらしたという事は、クオン殿はノイマン様を訪ねて?」

「ノイマン……様?」


 老執事の言葉にレイは眉をひそめた。

 領主の臣下であるパトリックがノイマン……おそらくギャングの首領を様付けしている。

 この場にいる事も合わせると、彼が通じていたのは空の悪魔でもエクスト社でもなく、ノイマン会だった事になる。

 レイが言外に彼の立ち位置について問いかけると、パトリックがポツポツと語り出した。


「あなたの想像通り、わたくしはノイマン会の首領ギリアム=ノイマン様に仕えております。ノイマン様は前領主のワイマール様の従兄弟(いとこ)に当たる方で、ノイマン会は裏社会からワイマール領の秩序を守って来た組織。ワイマール様亡き今、わたくしが頼れるのはノイマン様を置いて他にはおりません」


 どうやら自分もヒョードルもトンデモないボタンの掛け違いをしていたようだ。

 結論から言えば、ヒョードルとパトリックのどちらも空の悪魔の内通者ではなかった。

 そもそも空の悪魔は上空に監視装置を置いているので、内通者を必要としない。

 前領主の失踪をきっかけにお互いが疑心暗鬼になっていただけなのだ。


「なんだ、クオン君?パトリックさんと知り合いだったのか?」

「えぇ、まぁ……」


 ジョニーの横槍にレイは小さく頷き、曖昧に肯定した。

 どうやらジョニーはパトリックから自分の事を聞いていなかったようだ。


「パトリックさん、しっかりしてくれよ。この有事に外から来た人間なんて危険因子以外の何者でもねぇ。もしコイツが空の悪魔の手下だったらどうするつもりだったんだ?」

「はっ!申し訳ありません!迂闊でした!」


 ジョニーが肩を竦めながら、軽い口調で小言を漏らした。

 確かに街の中に裏切り者がいるかもしれない状況で、外の人間を疑わないのは不用心かもしれない。

 自分達は王国発行の(偽造)身分証を持っていたから、警戒対象から外れたのかもしれないが、それを差し引いても報告だけはしておくべきだったろう。

 パトリックもその事を指摘され、ハッとしている。


「ところでクオン君。お前さんの目的をまだ聞いていなかったが、どうしてあんなところにうろついていた?」


 ジョニーが頭をポリポリと掻きながら、面倒くさそうな視線をこちらに向ける。

 レイは思わずため息を一つ。


 彼にとって自分がとても胡散臭い人間である事は自覚しているし、彼の反応はごく自然なモノなのだが、こうも警戒されては話しづらい。


「その事を話す前に自分の身分を明かした方が良さそうですね」


 レイはレーダー魔法で周囲の状況を確認しつつ、遮音フィールドと盗聴妨害フィールドを起動し、言葉を紡ぐ。


「自分はシュターデン。女王陛下よりこの地の混乱を収める為に派遣された近衛騎士です」

「!!!」「!!!」


 レイが本日二度目のカミングアウト。

 ジョニーとパトリックが驚愕の表情を浮かべる。


「お前さんが大魔法使いシュターデンだという証拠は……いやいい。銃の事を知ってるってだけで普通じゃないってのは証明済みだ」

「自分が空の悪魔の可能性は疑わないのですか?」

「あぁ、勿論疑ったさ。でも今、俺様は生きている。空の悪魔が獲物を泳がすなんてまどろっこしい真似するとも思えねぇし、何か情報を引き出したいなら、捕らえて拷問するだろうよ。まぁ、お前さんを信じる理由はそんなところだ」


 ジョニーが苦虫を噛み潰したような表情で答えた。

 彼は祖国を空の悪魔に滅ぼされた。

 空の悪魔から逃げる過程で、奴らの悪行を散々目の当たりにしたのだろう。

 きっと彼の中では怒りと無力感が渦巻いているのだろう。


「ついて来な、シュターデン。お前さんの目的はボスとの接触なんだろう?紹介してやるよ。俺様達のボス、ギリアム=ノイマンを……」


 ジョニーが蝋燭片手に疲れた表情でツカツカと部屋の奥へと先導した。

 さて、ここからが本番だ。

 何としてもギリアム=ノイマンの信用を勝ち得て、空の悪魔の手掛かりを掴まなくては……

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