第二百二十二話 朝帰り
時間は少し進み早朝。
散々迷った挙句、レイは一度宿屋に戻る事にした……ファラリスを拘束して。
「クオン……朝帰りしたかと思えば女の子を縛ってお持ち帰り?どういうつもり?あなたはロリコン?それとも変態?特殊性癖持ちかな?怒らないから正直に言ってごらんなさい?」
そして案の定、待ち受けていたのはティアラからの痛烈な批難。
さて、ティアラ視点で軽く状況を整理してみよう。
まず、連れの男が美少女を引きずって朝帰り。
しかもその美少女はボロを纏い、手足は拘束され、泣き顔で目を真っ赤に腫らしている。
女性として、そして人間として軽蔑して然るべきだ。
「ティオ……これには事情が……」
「うるさい!言い訳なら聞かないわよ!この鬼畜外道!」
レイが状況説明をしようとするも、怒り心頭のティアラに取りつく島も無い。
正直に話せと言いつつ、実際は聞く耳持たず。
「お嬢ちゃん、怖かったわよね。今外してあげるから」
「う……うん……痛い!」
手首の拘束をティアラが解こうとしたが、途端にファラリスが痛みを訴え、琥珀色の瞳に涙を浮かべた。
ティアラが慌てて手首を確認すると、強く縛り過ぎたせいで鬱血し、くっきりと縄の跡が付いていた。
レイの情け容赦のない仕打ちにティアラのアメジストの紫瞳が怒りと失望と強い侮蔑の色に染まる。
「最低ね……女の子にこんな酷い事!絶交よ!もう顔も見たくないわ!」
ティアラがキッとレイを睨み付けた後、ファラリスを連れて宿屋に戻っていった。
彼女の背中が怒りに震えているようだった。
(マスターレイ?あれでよかったのですか?)
レイの脳内に心配そうなアスの声が響く。
(今はこうするより他ない。ファラリスには爆弾を仕掛けているし、何か妙な真似をすれば即座に爆破する。例え歴史を変えたとしても……)
(いえ、私が言いたいのは……)
(分かっている。だが奴の記憶回路をハッキングできなかった以上、こちらの手元に置いて敵からのアクションを待つより他ない。大丈夫……ティアラの安全は絶対に守る)
レイは腹の底から大きなため息を吐いた。
今回の状況は未だかつてないほど困難を極める。
まず前提条件としてティアラを守りつつ、ファラリスを無力化した状態で生存させる。
これだけでも困難なのに、それと同時進行で領都ユルゲンに潜む空の悪魔並び内通者を一掃しなくてはならない。
利権争いをする裏社会の連中を排除すれば済むと思っていたが、だいぶ事が大きくなってしまった。
(分かりました。そこまで言うのでしたら私から申し上げる事はありません)
(すまない。苦労を掛ける)
(身に余るお言葉です)
レイの労いの言葉に、アスが平坦な声で、でもどこか嬉しそうに応えた。
今回、作戦の都合上、ティアラとは別行動になってしまう。
世間知らずのお姫様を、一時的とはいえアス一人に任せる事になったが、良くできた相棒は快く引き受けてくれた。
(まずは情報収集と裏付け調査だな。昨日のゴロツキは代官のヒョードルが雇い主と言っていたし、そちらから調べてみよう)
(くれぐれもご無理をなさいませんよう)
(……分かっている)
口うるさいアスの平坦な小言に、レイがムスッと応えた。
「まずは宿を探して仮眠だな。ティアラに宿を追い出されてしまったからな」
レイはアスの言葉に従い、領主館に近い宿屋を探した。
流石に徹夜での調査は体に毒だ。
できるだけ食事の美味しい宿屋に当たる事を願って、レイは歩を進めた。




