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第二百十八話 夢での邂逅

「……大変な事になったわね」

「…………あぁ」


 げっそりとしたティアラの顔を覗き込みながら、レイは小さく頷いた。

 代官ヒョードルとの表向きの会談が終わり、今は宿屋の部屋で二人きり。


 地獄の帰り道を歩き切ったティアラが、疲労困憊でベッドで寝そべる。

 それを余所にレイはヒョードルの言葉の真偽を確かめる為に、領都ユルゲン全体をレーダーで走査中。

 アスに広域レーダーを任せつつ、自分は近距離レーダー魔法で周囲を索敵。

 こういう時、機械と魔法が両方使えるのは便利だ。


「ひとまず妖しい動きをしている人間は見当たらないが……とにかく治安が酷いな」

「いつも思うけど、なんでそんな事分かるのよ?」

「あぁ、これは熱センサーと超音波レーダーと広範囲光学レーダーを組み合わせた索敵魔法で……」

「アッ……しまった」


 ティアラの質問にレイがオタク気質全開で嬉々として語り出す。

 何故かティアラの表情が絶望に染まっていく気がしたが、気のせいだろう。

 自分の知識を話したいという欲望のままに、レイはティアラに情報爆撃を叩き込んだ。


「…………と言う事だが、どうしたティオ?ぐったりして?」

「……あなたのせいよ。このスカタン」


 ベッドに張り付いたティアラが弱々しく抗議の声を上げる。

 質問に答えただけなのに理不尽極まりない。


(マスターレイ。ティアラ様はお疲れの模様。お勉強はこの辺にしては?)

「そうだったな。すまない、気が付かなくて」

「……気付きなさいよ……バカ」


 アスが固い口調でレイの行動を歪曲的にたしなめる。

 確かに慣れない長歩き直後のティアラには、少々辛かったかもしれない。

 レイは恐る恐るティアラに謝罪したが、返ってくるのは力の無い罵声。

 完全に怒らせてしまった……とレイは肝を冷やした。


「もう寝てもいい?疲れたから……」

「あぁ……寝るなら着替えるんだぞ」

「……分かってるわよ。ホント口うるさいんだから」


 レイはボトボトと退室した。

 あのぶっきらぼうな口調は完全に拗ねた時の声だ。

 何とか御機嫌取りをしたいが、街でおやつの材料を買う事もできない。


 空の悪魔が潜んでいるかもしれない状況で、ティアラを一人きりにするのは不安だ。

 レイは宿屋の周辺に透明化した浮遊砲台を配置し、部屋の扉の前に座り込んだ。


(アス……しばらく索敵を任せる)

(はい、お休みなさい。マスターレイ)

(……ありがとう)


 レイは静かに目を瞑る。

 浮遊砲台は一回出してエネルギーを送ってしまえば、操縦はアスがしてくれる。


 レイの意識が途切れ、睡魔の海に沈んでいった……



 …………

 ………………………


 真っ暗な空間。

 光が無い。

 音が無い。

 空気が無い。

 あるのは自分の意識だけ。


 レイの意識は……真っ暗な()()に溶けていた。


「これは……魔素」


 視界を埋め尽くす暗黒。

 レイはこの光景に覚えがあった。


 それはフェンリルがバグに撃墜されて、初めてルミナスに降り立った時。

 それはイフリートに敗れて、観測者と初めて接触した時。

 それはファラリスに生き埋めにされて、杏を模した観測者に励まされた時。


 これらには共通点が二つある。

 傷つき、深い眠りに陥っている事。

 そして、魔素が……観測者が自分を救おうとしてくれている事。


 だが今はどちらも条件を満たしていない。


 自分は普通に寝ているだけだし、ここには観測者は…………いない。


(そういえば、最後にあった観測者は杏だったな)


 レイは漆黒の空間をぼんやりと眺めながら、不覚にも杏に会いたいと思ってしまった。

 そう願えば、観測者がまた杏を見せてくれるのでは……と淡い期待を抱いた。


「おやおや、随分弱ってらっしゃいますね」


 不意にレイの背中に好々爺然とした柔らかい声が届いた。

 振り返るとそこには……


「マオさん?」


 白髪交じりの短髪に、しわくちゃの顔には穏やかな笑み。

 見た目は七十代くらいのはずなのに、ピンと伸びた背筋のせいでもっと若く見える。

 レイが期待した相手とは違ったが、彼もまた会いたかった()()の一人だ。


「お久しぶりです、レイ殿。こちらの暮らしはもう慣れましたか?」

「……まだまだ慣れるには時間が掛かりそうです」


 柔和な声で語り掛ける好々爺に、レイは気の抜けた笑みを薄く浮かべた。

 よくよく考えれば、自分を心配してくれる大人との会話は久しぶりだ。

 ポロリと弱音が出たのも、甘えたいという気持ちがあったからかもしれない。


「ご苦労なさっていますね。こちらにもクオン殿やゲイリー殿のような方がいればまた違うのでしょうが……」

「無い物強請りをしても仕方ありません。ここでは自分を頼りにしている人が沢山いますから」

「……重荷ではありませんか?」

「はい。重いです……でもこれは自分が背負うべき物です」


 レイは気弱な決意を呟いた。

 思い返してみれば、この時代に来て以来弱音らしい弱音を吐いた記憶が無い。

 ティアラの前で泣きはしたが、泣き言は言わなかったはず。


 実際に言語化してみると、自分が何に対してストレスを感じているのかが分かる。

 多くの人の命を背負い、苦悩している自分を知る事ができた……

 誰かがそれを知ってくれているだけでも幾分か心が軽くなる。


「やれやれ、そんな事ではあっという間に参ってしまいますぞ」

「ははぁ……肝に銘じておきます」


 肩をすくめるマオに、レイは渇いた笑いで応えた。

 実際問題、頼る相手がいないというのは辛い。

 こんな時にトワ達がいてくれたら……ダメだ、弱気になっている。


 頼れる誰かが現れるのを待つのではない。

 頼れる仲間を育てる。

 その為の魔法創造だ。


「うむ、こちらに来て四ヶ月。だいぶ成長なさったようですな」

「ありがとうございます。そうならざるを得ない状況というのが少し悲しいですが」

「…………」


 レイの笑えない軽口にマオが難しい顔で押し黙る。


「ところでマオさん。どうしてここに?まさかカウンセリングだけというわけではありませんよね?」


 レイは沈黙に耐えられなくなって話題を切り替えた。


「そうでした。どうも歳を取るとおしゃべりになっていけませんね」


 レイの言葉に乗る形でマオも茶目っ気混じりの口調で話を切り出す。


「レイ殿はもう自分が何者かはお分かりですね?」

「はい」


 レイは短く頷いた。

 周藤嶺とシュターデンは同一人物。

 未来の自分こそがタイムマシンを作り、この状況を作り出した元凶。

 そして……


「あなたはこうお考えでしょう。未来の自分がもっと早い時間軸に自分をタイムスリップさせていれば、()()()()の両親は死なずに済んだと?」

「はい」


 レイは再び短く頷いた。

 未来の自分はどのタイミングに自分を送れば、悲劇を回避できるか知っていたはずだ。

 なのにティアラの両親は()()()にした。

 ティアラが悲しむと知っていながら……


「では質問ですが、()()()()()()がそれを試さなかったとお思いですか?」

「……っ!」


 レイはこれ以上に無いくらい目を見開いた。

 マオの今の発言が事実だとするなら……


「周藤嶺は自分だけではない……」

「当然です。周藤嶺が過去へのタイムスリップした事で、この()()に無数の周藤嶺が生まれた。()()の周藤嶺が滅びた外宇宙の惑星で事故に巻き込まれて以来、無数の周藤嶺が時を旅し、空の悪魔と戦い、無数のシュターデンを生み出した」


 朗々と語るマオが言葉を区切り、レイの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「…………」


 レイは沈黙で続きを待った。

 

「準備は整いました。今こそ語りましょう。『Star Seedプロジェクト』の目的を……」


 マオは瞑目し、再び語り出した。

 無数の周藤嶺の物語を……

 そしてここに至るまでのマオの物語を……

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