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別館一階の娯楽室、ローランドは椅子の上で、しきりに貧乏ゆすりをしていた。
——デイジー、あいつ。格好つけやがって。いつまでベッドで寝てんだ。早く起きて、また一緒に日本将棋するぞ。何回やっても俺の連戦連勝だけどさ。
ロンは拳を握ると、軽くテーブルを叩きつけた。
部屋にいた他の寮生達は、一瞬ロンの方を見たが、すぐ視線を元に戻していった。
「でも、ありがとな。お前のおかげで、ユリの魂は戻ってきたよ」
ロンが小声で呟いた時、娯楽室にアンナが入ってくるのが見えた。
彼女の瞼は、紅く腫れている。
「よう、アンナ。まだ泣いてたのか?」
彼に呼び掛けられると、彼女は「泣いてないわよ」と突っぱねながら、ロンのいるテーブルの椅子に座った。
ここでユリの話題を出すのは良く無いな。
彼女の横顔を見ながら、話題に困ったロンは、前から気になっていた事を訊いた。
「な、なぁアンナ。お前ってさ……どんなタイプの異性が好きなんだ?」
「何よ、急に」
アンナは、泣き腫らした瞼を瞬かせながら呟いた。
「いや……なんとなく気になってさ。好きな人とかいるのかなとか」
平常心、平常心、とロンは心中で、念仏のように唱えた。
「まぁ、強いて言うなら、私が好きなタイプは金髪ロングで瞳が青くて、背がスラッと高くてお姉さんみたいな包容力があって、洗練された雰囲気醸し出していて、テキパキしていて、でもどこか緩くて、ふわっとしてる特級能力者の人かな」
ロンは自分の心が、へし折れる音を聴いた。
——イメージ具体的すぎないですか。そもそもその人って異性じゃ無いよな?てか、そのイメージにぴったりな人、この協会に一人いるよね?
彼がうなだれているのを尻目に、アンナは娯楽室の窓を照らす、満月に視線を移した。
「でもさ。その人は全然、私のこと見てくれないんだよね。片想いって何で、こんな心が苦しくなるのかな」
——ほんと、それな。ロンはもはや、声を発する元気もなく、黙ってアンナの意見に相槌を打つ。
片想いって苦しいよな。
朴念仁の恋心ほど難儀なものはない。
窓から、青白い月の光が、ローランドとアンナに差し込んでいた。




