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ユリがジュリアに連れて来られた場所は、別館三階の階段脇にある物置部屋だった。
部屋の片隅には分厚い書籍が何段にも積まれ、キャリーケースや衣装ダンス、アコースティックギターが、長年の埃を被って放置されている。
天井は三角になっており、ガラス張りの天窓から差し込んでくる月光が、部屋に漂うチリを青く浮かびあげていた。
「こんな部屋があったの、初めて知りました」
ユリは部屋を見渡す。
部屋の構造を見る限り、別館の中央付近に造られた、屋根裏みたいなものかな、と彼女は推察した。
「今はほとんど使われてないし、常に施錠されているからね」
ジュリアは、部屋の壁に立てかけてある脚立を引っ張り出し、天窓の真下に据え付けた。
彼女は脚立を登ると、天窓の取っ手を掴み上げる。
途端に冷たい風が、室内に流れ込み部屋のホコリを舞い上がらせた。
ジュリアが脚立の上段から、ユリに手招きしている。
彼女に引き揚げられユリは、天窓のガラス戸を潜り、赤橙色の屋根瓦に登った。
冷んやりとした秋風が、ユリの黒髪を巻き上げる。
屋根の天辺から街の方角を眺めると、宝石を散りばめたように、明りが点々と灯っていた。
「どう、綺麗でしょ?」
ジュリアはユリのすぐ隣に座り、屋根瓦に足を引っ掛ける。
「はい。とても……とても素敵です」
ユリは眼下に広がる、美しい情景に心から感動しているようだった。
その様子をジュリアは、満足げに眺める。
——ユリを連れて来て良かった。そんな想いを胸に、ジュリアは空を仰ぐ。
空気の澄んだ秋の夜空に、玲瓏と輝く月は、一段と美しく見えた。
ジュリアは星空を見上げたまま、ユリに向かって語りかける。
「ユリに初めて話す事なんだけどさ。私ね、エマっていう二歳年下の妹が居たんだ。エマは私と違って、サラサラの黒髪でドングリみたいに大きくて琥珀色の瞳をしてた。きっとお父さんに似たんだね……。いつもお姉ちゃん、お姉ちゃんって私にくっ付いて来てさ。くぼみの無い平坦
な道でも、すぐ転んで怪我しちゃうんだよ。危なっかしくて目が離せなくてさ……。私ね、ユリを見てると……その妹を思い出すんだ」




