4
「アンナはジュリアさん好きですもんね」
ユリがアンナの話を楽しそうに聞いていると廊下の正面から「ユリ!」と歯切れのいい声が聞こえた。
二人が声のした正面を見ると、十メートルほど先の廊下にセミロングの金髪をポニーテールにし、白いレースのブラウスに濃紺のデニムを履いた長身の美しい女性が立っていた。
ジュリアさん、とユリが声を掛ける前にアンナが「ジュリアせんぱーい!」と叫びながら前方にいる金髪の女性に猛烈な勢いで突っ込んでいった。
アンナがジュリアに抱きつこうとした瞬間——。ジュリアは身をひるがえして避けながら、茶色のブーツでアンナの足を引っ掛けた。
アンナは「へぶぉ!」っと変な声をあげながら、二、三回廊下を転がりながら、やがて止まり動かなくなった。
その様子を呆気に取られて見ていたユリに向かって、ジュリアが優しげな笑顔を浮かべる。聡明さを帯びたジュリアの碧眼が、陽光の下に煌めいている。
「ユリ、おはよう」
「おはようございます。ジュリアさん。あ、いえ……寮長」
ユリは微笑みながら穏やかな口調で挨拶を返す。
「さん、でいいって前に言ったでしょ!」
ジュリアは長い金糸の睫毛を瞬かせさせながら、諭すようにユリに言う。透き通る様な白い肌をした彼女の首にはスチール製のネックレスがかかっていた。
ネックレスの先には特級能力者に授与される、白金(プラチナ)で出来た円形のペンダントが付いている。
協会のロゴである、紙とペンの模様が刻まれたペンダントにはガーネットの石が埋め込まれていた。
ジュリア・ベネットは現在、この国、いや世界でも数十名しか確認されていない『神がかった能力をもつ描画具現者』だった。
彼女は、ユリやアンナより二期先輩の三十八期生だ。歳も二人より二個上の十八歳だが、実年齢よりも洗練された雰囲気をジュリアは醸し出していた。
「そういえば今日の午後から中級認定試験の結果発表があったよね。ユリが昇格するといいなって私、昨日の夜ずっと願掛けしてたんだよ」
ジュリアはユリの黒髪を軽く撫でた。
「そうだといいんですが……。私、相変わらず武器とか兵器の類は実体化が出来なくて……」
ユリは情けなさそうに目を伏せる。
「そんなの審査にそこまで影響しないよ。総合的な能力も加味されるしさ。もちろん知識量やデッサンの上手さとかも加点対象だしね」
励ますようにジュリアはユリの肩を軽く叩く。




