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その時、ジュリアの後ろから「せんぱーい」と弱々しい声が聞こえた。ジュリアが振り返ると、廊下に転がって動かなくなっていたアンナがゆっくりと立ち上がりながら、すがるような眼でこちらを見つめていた。
「酷いじゃないですか!挨拶の抱擁を避けて、足を引っ掛けるなんて」
「あぁ、アンナおはよう。ごめんね、何か身の危険を感じてさ」
ジュリアはユリに向けていた笑顔から、一変した無表情でアンナを睥睨した。
「身の危険ってなんですか?あたしはジュリア先輩に深愛の……じゃなかった、尊敬を込めて挨拶しようとしただけなのに!」
アンナは、嘘泣きが見え見えのポーズで両手を目に当て、指の間からジュリアを盗み見している。
「いきなり、突進してこられたら誰でもビックリするでしょう?それよりアンナ。あなた昨日私の部屋の鍵を開けようとピッキングしてるって、同じ三階女子寮の子が教えてくれたんだけどさ。どういうことか説明してくれるかな?」
ジュリアはアンナの方へゆっくりと歩き出した。
「……へ……え?そ、そんな事あたしがする訳ないじゃないですか!あ、あれは偶然ジュリア先輩の部屋の前を通りかかった時に、鍵穴に変な異物が見えたので取り除こうとし、してたんです……」
——くそ、誰だよチクった奴は。アンナは胸中で罵りながら、近づいてくるジュリアに言い訳した。
「ふーん、そうなんだ。鍵穴にそんな異物なかったし、今まで見た事ない引っ掻き傷が鍵穴のあちこちに付いてたんだけどな」
ジュリアの怒気を含んだ目線がアンナに注がれる。
「ご、誤解です。ジュ、ジュリア先輩!」
アンナは顔面蒼白だった。
「そっか、いずれにしても貴女には他にも聞きたい事あるし。ユリ、悪いけどこの子借りてくね」
ジュリアはアンナの後ろに回り、服の襟を掴みながら、そのまま引きずるように廊下を歩いて行った。
「ジュリア寮長違うんです!あ……ユ、ユリー。ユリ助けてーっ!助け、ヘルプミーっ!!」
アンナはユリに向かって叫びながら、ジュリアに引きずられ廊下の曲がり角に消えて行った。
ユリがどうしていいか分からず黙ってその様子を静観していた時、正午を告げる時計の鐘が本館内に鳴り響く。
ユリは「お昼ご飯!」と呟くと食堂がある別館の方へ歩き出した。




