↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
2章 仲間との出会い
65/68

双頭の龍


我が眼前を進むは、覇道の軍勢。

我が眼前に立ち塞がりしは、有象無象。

これから行おうとしている事は、路傍の石を蹴飛ばすようなものだ。


巨大な騎獣の上に乗り、男は遥か遠くを見つめていた。


「ハカンクラル。どうなされた?」


懐かしい呼び名に、ふと郷愁を覚えてしまう。この視線の先に、あの場所はあるのだろうか?


「クルトか。その名では呼ぶなと言っているだろう?」


目線もむけず、自身の『影』とも言える存在に語りかける。


「誰もおりませぬ。文官を遠ざけ、このようにお一人で過ごされているのは何故か?」


(文官、か。愛しい我が子らだ)

『オークとしては』頭の冴える良い者達で構成されている。最近は身内を追い落とそうと、腹芸までする者が出る始末。頭がなまじ冴えるのも考えものだ。


「独りになりたい時もある」

ぶっきらぼうにそう言い、虚空を見つめ続ける。


「郷心ですか?」

ピクリと身体が反応する。

この男には、隠し事は出来ないらしい。幼少期から、我を育ててくれた者だからな。


振り向くと跪いたまま、布に覆われた顔を伏せ、側に辞している男が目に入る。鋭い眼光と、浅黒い肌が隙間から見えた。


「そうだな。そのようなものかも知れぬ。断片的な物だが、時折妙に鮮明に浮かぶのだ。サラサラとした砂。乾いた風。口の中に入った砂の感触。柔らかな手に抱かれた感触までも」


己の手を見る。黒と緑の混ざったような、そんな手の色。己が人間とオークの混血である証。オークの血は強く、混血児というのは滅多に産まれて来ないそうだ。


「灼けるような日差しでした。この辺りの気候は、些か私には寒く感じます」


側に寄ってきた男、クルトは顔を覆う布の中で、笑みをこぼす。


「お前は、もう少しそのように話し、笑え。部下達がいつも不気味がっている」


「苦手でしてね。魔物が」



では俺はどうなる?

俺も魔物ではないか。


ハカンクラルは違います。


そう言い合うのが、この後のいつもの流れだ。だが、今日はそう言い合う気にもなれなかった。


不思議そうな顔をしてクルトが見てくるが、察したのか、それ以上は語らなかった。


「ハカンクラル。スペリオル率いる分隊ですが、道中人間どもと会敵致しまして、おそらく『敗れる』でしょう」


「左様か」


まるで意にも介さないような物言いだが、予期はしていた。人間達も一筋縄ではいかない。『凶刃12振り』の内2匹は戦が始まる前に、人間どもの手で討ち滅ぼされているのだ。


「ですが、道中面白い『オモチャ』を拾いました。御披露目出来るかと」


「それは、そこに転がっている人間と関係があるのか?」


『黒狼』クルトがこの場に現れた際に一人の男が同時に姿を現していた。意識が無いのか、騎獣の上で動こうともしない。


「ええ。この男が作りし物であります故。既に後衛部隊に、そのオモチャを持たせてあります。名を『魔導砲』と申すそうで。雑兵でも使えるよう、簡略化されております」


「お前の言う事だ。期待しよう」


スッと頭を下げ、意識のない人間、ビベルと共に黒狼クルトは去る。昔から用が無ければ姿を見せない男だ。幼少の折から世話をしてもらっていたオークカイザーとしては、時折寂しくもあった。


「では、見せてもらおうか」

立ち上がり、カイザーは手を挙げる。


それだけで一斉に15万のオーク軍が、戦闘態勢をとる。例の魔導砲部隊が前に進みでる。数は少ない。


スッと敵陣を指差し、

「放て」

そう言うと、光の線が真っ直ぐ敵陣へ向かって行く。遥か遠くに見える敵陣へ光が伸びると、人間達が慌てふためいている様が見てとれた。


「重畳」

ドカッと備え付けられた椅子へ腰掛ける。もう戦は始まった。己がやる事は終わったとばかりに目を閉じ、次の戦の事を考える。


5万の部隊を少数で破った者達だ。

楽しませてくれるだろうか?

この戦場では楽しませてくれそうな者は居ない。


(強いて言うなら..)


遠くに見える片腕の無い男に視線を留める。慌てふためく人間どもの中、その男だけが冷静に指揮を執りながら、こちらに強い殺気を飛ばして来ている。


(あの男くらいのものか)


再び瞳を閉じ、今度は寝息をたてて寝てしまった。影の中に潜む伝令役のオークシャドウが驚き、慌てふためくが、それでもカイザーは起きる事はなかった。




戦は進む。やがて、戦の大勢が決してなお、奮戦する一人の男。片腕の偉丈夫。ワンハンドのアッシュが居た。


「まだだっ!ココで敗れれば、背後にある街は蹂躙されるんだぞっ!皆奮え!生きている限り武器を振るい続けるんだ!」


アッシュが大剣を振るうたび、数匹のオークが弾け飛んで行く。厄介だった魔導砲は、この混戦では使えない。


しかし混乱に陥った国軍は指揮官を失い、既に死に体。冒険者達も大勢が決するや否や、大半は逃げ出した。残っているのは、街付きの冒険者達だけ。それも最早数人だ。


「ここで踏ん張れば援軍が来る!そうすれば我々にも勝機が...」

そこまで口にした時、背後から強烈な殺気がアッシュを包んだ。


(殺される!)そう思い、アッシュは思わず背後を切り払った。


「よい得物を持っているな。同胞をそれだけ斬って尚、錆つきもせず、刃こぼれもしていないとは。見た目は無骨だが素晴らしい」


指で大剣を摘まれている。

そう認識するまで、時間を要した。


(人間!?いやっ、違うか!?)

スラリと伸びた手足。顔は人間でも精悍と言える顔立ちをしており、身体は均整のとれた筋肉に覆われている。僅かに緑の入った黒色の肌と、オークの特徴である耳の形が、人間との違いを明確に示していた。


「ぬおおおおお!!」

全力を持って剣を引き抜こうとする。だが、剣は微動だにしない。」


「そう慌てるな。少し語らおう」

笑みをさえ零して、目の前の生物は語り掛けてくる。しかしアッシュの耳には届かない。蹴りを繰り出し、なんとか離れようと必死に抗っている。


「聞く耳持たぬか。悲しいな。人間に生まれながら、語らう口を持たぬとは」

フゥと溜息を吐き、憂いをみせる生物に対し、アッシュは本能的な恐怖を覚えていた。


(このままでは殺される!出し惜しみしている暇はない)



「【ウロボロス】!!」



アッシュがそう叫んだ瞬間、目の前の生物は大きく飛び退いた。


「ほう」

そして、小さく感嘆の声を漏らす。


アッシュの失われた左腕から、漆黒の大蛇のような物が飛び出し、己を喰らおうと、その顎門を向けてきたのだ。


「ハァハァ...!!お前は、何者だ?」

息を切らし問うアッシュ。


「おや。余裕が出たか?それは良かった。我は、この群の主。世界の覇者となる者だ」


「オークカイザーか!まさかそれ程まで人間に近い容姿をしているとはな」


「フン。貴様より余程『ニンゲン』しておるわ。なんだその左腕は?バケモノではないか」

やれやれというような仕草をしながら、カイザーは呆れたように言う。


「ぬかせ。と、言いたいところだが、間違っちゃいないぜ。お前を倒さないと、コイツはオレ自身を呑み込む。だから、さっさと倒れてくれ!!」

大きく振りかぶり、大剣を振るう。紙一重で避けたそこへ、漆黒の大蛇が襲い来る。


(受けるか?いや..)


一瞬の逡巡の後、オークカイザーは大きく飛び退いた。


「おぉ、こわいこわい」


オークカイザーが居た場所がジュウジュウと音をたてて溶けていく。大蛇が通った場所は、溶けてどす黒く淀んだ土が残るのみ。


「その余裕、いつまで保つかな!」

ウロボロスが再びカイザー目掛け突き進む。それをヒラリとまた躱す。


「よいのか?余裕がないのは、貴様のように思えるが?」


アッシュを見れば、全身から汗が吹き出し、苦悶の表情を浮かべている。


「フゥーッ!フゥーッ!」

(言い返す言葉もない。ウロボロスは己の身を犠牲にして現出する【能力】だ。長引けば、オレの身体がもたない)


「いや、違うな....」

ボソリとアッシュが呟いた。



ウロボロスはオークカイザーを喰らおうと、暴れ続けている。だがしかし、涼しい顔をして、カイザーはウロボロスを躱し続け、あまつさえ欠伸などしている。


「いい加減、飽いてきたな。ぼちぼちと終わらせるか」


「それは、コイツを見てから言いな!ウロボロス!《ヒドラ》!」


漆黒の大蛇の頭が分かれ、2つの頭を持つ邪竜へと変じる。速度を上げ、なおも迫る双頭の龍。しかしそれさえも、カイザーにとっては児戯に等しく、軽々と避けていく。


「もう良いだろう?そろそろ....」


ガシッ!!


「ぬっ?なんのつもりだ?」

背後からアッシュがカイザーを羽交い締めにし、身動きをとれなくしている。


「お前を犠牲無しに倒そうなんて、土台無理な話だったのさ。そうだろ!?オレと一緒にウロボロスの腹の中へ行こうぜ!」


双頭の龍が、顎門を開き凄まじい勢いでアッシュとカイザーへ迫る。


「貴様程度の力で、我を抑えられると思っているのか?」

「思ってるさ!振りほどいてみな!」

「ぬ!?」

カイザーが力を込めるが、アッシュは振りほどけない。


「まだ若いが、優秀な錬金術師の作ってくれた薬だ!人間の知恵をなめるなよ!」


オークカイザーは周囲を見回す。

(あの瓶か)


アッシュが居た場所に転がっている小瓶。恐らくアレに、アッシュの力を増強する薬剤でも入っていたのだろう。


「その覚悟、見事なり!貴様と共に死んでやろう!」

「うおおお!ヒルダアアァ!」




双頭のウロボロスが通り過ぎた後には、骨一つ残っては居なかった。大きく抉られた地面は、どす黒くじゅうじゅうと音を上げている。やがてその双頭の龍は、主人を失い、それでも満足気にユックリと消滅した。


周りで戦況を見守っていた冒険者達は狂喜し、オーク達は驚愕の表情を浮かべていた。


その後、オーク達は、その数をもってして奮戦する冒険者達を圧殺し、その肉を喰らった。


しかし冒険者達の心情は晴れやかだったに違いない。相手の首魁を打ち取ったのだ。アッシュも、自らを犠牲にし大事なものを護れたのだから。




「そう思うだろうクルト?」

巨大な騎獣の上で胡座をかき『オークカイザー』は、笑顔を浮かべていた。


「ハカンクラル。私には些か悪趣味に思えます。希望を持たせて、あの世へ送るなど」

苦笑を浮かべ、クルトは答える。


「良いではないか。逝ねば分からぬのだ。例え愛しい者が、この後蹂躙される事になろうと、な」


オークカイザーの視線は、既に遥か遠く見える街へと向けられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。