それぞれの前夜
[アス決起。15万ノ本隊ト彼ノ地ニテ合流。献上品イソガレヨ]
オークの血で一部が汚れた指令書。
その指令書を前に、街の名うての冒険者達が集まっていた。
指令書を手に入れる切っ掛けとなったマンサとクザ。ココットの投薬によって一命は取り留めているが、自宅療養中だ。
まず、遺跡調査に出向いていた『レディローズ』の面々。
指令書を手に入れる切っ掛けとなったマンサとクザは、ココットの投薬によって一命は取り留めているが、現在は自宅療養中だ。
上級中位の筆頭冒険者『ドラゴンイーター』と呼ばれるグルガン。
領主家より放逐され、冒険者としても活動を再開した元上級下位、コッカス。
先祖代々、生涯をオーク狩に捧げていると言われる上級下位『オークマッド』キティ・バロヴォアラボス12世
街付きではないものの、その名は国を越えて知られている上級上位『剣鬼』ジャニス。
最近メキメキ頭角を現し始めた、異色の新人。上級下位カエル。
その他にも主だった中級上位以上の冒険者達が顔を揃える。
「おい、ちょっと待て。見たこともないカエルの亜人が居るが、使い物になるのかソイツは?」
無頼漢然としたグルガンが言い放つ。
それに対し、
「そもそも二つ名が付いていない俺も居るのだ。問題なかろう。それとも、オレの実力に疑問でもあるか?」
「ぐっ...それもそうだ」
コッカスの言い分に黙り込んでしまうグルガン。まだコッカスが上級の冒険者だった頃、グルガンは中級下位の冒険者でしか無かった。
その頃を知って、世話も焼いていたからこそ、コッカスに対し、頭が上がらない。
「どうでもいいわ!そんな事よりオークよっ!オークの大群が向かっているって、ほ、ほほ本当なの!?」
一同は黙り込む。
この発言をした人物。
キティ・バロヴォアラボス12世
通称『キティちゃん』は、ある意味では世界に知られた豪の者だ。
初代バロヴォアラボスが、オークの討伐で功績をたてると、その息子、孫娘、その先祖と続いて、オークの討伐で功績を立て続けた。
その功績で一度は「子爵」という爵位まで与えられたバロヴォアラボス家は、バロヴォアラボス4世の時代、当時の領主を食卓へ招いた。領主は功績をたて続けるバロヴォアラボス家を軽んじる事なく、これを快諾。ディナーへと向かった。
そこで見た物を、領主は決して語らなかった。が、ただ一言こう言った。「壁、床、食べ物1つ。どこを見てもオークの顔だった。しばらく豚は見たくないも無いし食べたくない」と。
その後も、友人がディナーに招待されたと思えば、友人関係を解消され、婚約者が出来たと思えば、1日で逃げられたり、バロヴォアラボス家には不気味な噂ばかり。
ついに爵位を取り上げるところまで行き、また冒険者稼業へと戻った。
要するに一族全員オーク狂いなのだ。
この通称キティちゃんも例外ではない。とんでもない美人の妙齢の女性で、たわわに実った胸部と、その谷間を惜しげも無く出し、男性の目を惹く。ただし、オークという言葉を聞いた瞬間、例え性交渉の最中だろうが、男のナニをへし折ってでも、駆逐しに向かう、一族屈指のオーク狂いである。
余談だが、実際それで3人死んでいる(男として)
今現在も、オークの大群と聞き、身を乗り出し、顔を赤らめ、ヨダレと鼻水と汗をダラダラ出しながら、会議の面々の顔をキョロキョロと見ている。
醜聞を知っている面々は、出来るだけ関わらないよう、俯いてやり過ごしている。
「オーク、沢山来てるみたいだね」
醜聞や、噂など聞いたことも興味もないカエルが素直に答える。それを聞いたキティちゃんは、顔を輝かせた。
「ウヒ、ウヒヒヒフオ」
破顔などという言葉では形容し難い顔を晒してキティちゃんは笑う。
彼女は上級下位の冒険者だ。だが、オークを相手にした時、果たしてどれ程の実力を発揮するのか、それは誰にも判らない。
ただ1つだけ言えるのは、彼女が1番オークの数を減らすだろうという事だけ。
議場を仕切る酒場の店主。元冒険者のゴードンが「ゴホン」と咳払い1つ。
「皆聞いての通りだ!15万の本隊が、どこから現れ、何処へ向かうか、詳細は一切不明。だが、指を咥えて見ている訳にもいかん!合流するという分隊とやらは、この近辺から出発するらしい。発見次第、我々で食い止める!いいな!」
「おうっ!!」
議場から、一斉に声があがる。
「明け方から待機状態を維持!今夜はユックリ楽しんでおけよ!解散!」
ガタガタッと一斉に椅子の音が響く。ドタタタッ!と3つの足音。
「カエルっちやっほー!」
「久し振り?かしら。そんなに日も経ってないわよね?」
「よっ」
三者三様の挨拶。久し振りだ。
クザとマンサが、依頼に失敗し、通りすがりの冒険者達に救助されてきた。と聞き、カエルは慌ててジャニスと共に酒場へ出向いた。
既に会議の開催が決定されており、その時には、レディローズの面々とクザとマンサの顔を見る事が出来なかったのだ。
「みんなも元気そうで良かったよ」
「ベロっちも元気ぃ!?」
「これ娘!みながおるところで呼ぶでない!」
ココットがベロを引き摺り出して、ペシペシ叩く。相変わらず遠慮がない娘だ。
「偶然だったけど、この依頼やってる間は一緒に働かせて貰うから、またヨロシクね!」
「うん。よろしく」
「しようがないのう」
ココットとガッチリ握手を交わす。
「あのー、それでね、カエルっち」
「どうしたの?」
「あーいやー、そろそろ後ろの、きんにk、じゃなかった。お姉様紹介して欲しいなって」
後ろを振り向くと、満面の笑みで、ジャニスがサイド・チェストというポーズを決めて立っていた。
「...なにしてるの?」
「いや、アタシ人見知りだから、取り敢えずポーズ決めておこうかなって」
(意外だ。そしてポーズは関係無いと思う)
「彼女はジャニス『剣鬼』と呼ばれてる上級上位の冒険者で、最近私を鍛えてくれてる人だよ」
「その人が剣鬼!?てっきり違う人だと思ってた。たしかに立派な剣を持ってるけど...」
それ以上に筋肉などの部分に目が行くんだろう。分かるけれど。
「アンタ達がレディローズだろう。噂は聞いてるよ。よろしくな」
「噂?私達まだ上級上位にもなってないけど、何かあるんですか」
「いや、なに。冒険者になろうなんて女は、アタシみたいなのばっかりだろう」
(((アンタみたいなのばっかりでたまるか))) と、レディローズの面々が全員心の中で思うが、引き攣った笑顔で、そこは黙っておいた。
「だから、アンタらみたいなカワイコちゃん達の集まりは珍しいのさ。男達が言い寄ってきて大変だろう」
「もう遇らうのに慣れちゃいましたよ」
「...いいね!『そんなぁ可愛くなんてないですよぉ』なんて言ってたら、ぶっ飛ばしてた所だよ。ダッハッハッハッハ!!」
「...ウフフフフ」
(あぶねー!カエルっち、そういう人なら事前に教えといてよーっ!)
「カエルさん。準備はどうするつもり?もし良かったら、みんなで一緒に行かない?」
アヴァが、トトトッと近寄ってきてそう言う。冒険の準備に関して、薬師とレンジャーを擁する彼女らの右に出る者は居ないだろう。
「是非お願いするよ。ジャニスも、彼女らの準備の仕方を参考にすると良いよ」
ピクリとジャニスが反応する。
「なぁにぃ?上級上位のアタシに、準備の仕方を教えてくれるってのかぃ?!望むところだぁ!!」
「ヒィッ」
大人しくしていたマデリンが、引き攣った声を出す。どうやらジャニスの見た目で尻込みしていたらしい。
レディローズの3人を纏めて抱え上げ、ジャニスは議場を後にする。カエルも、やれやれといった様子で後をついて行く。
グルガンや、キティちゃんといった主だった面々もそれに続いた。
残された議場の面々は、それまで黙っていたが、一斉にフゥッ!と水面から上がって呼吸するような、そんな息を吐いた。
「あれがレディローズか!やっぱ可愛いな!」
「全員可愛いのは、珍しいよな。筋肉ゴリラみたいなのばっかり見てきたから、新鮮だよ」
「あぁん!?オメェ、ジャニス姉さんに喧嘩売ってんのか!?あの人こそ至高!!」
「...趣味わりぃな」
「今言った奴、今からボコるわ...」
当事者不在の、そんな会話が行われていたのは、出て行った面々は知る由もない。
その後、街を皆で見て回った。
ココットは、強壮薬が大量に必要になりそうだから、と材料を買いに走ったり、アヴァは弓の調整と、対集団用の特殊な矢の作成。マデリンは、ジャニスに慣れたのか、ジャニスの肩に乗って遊んでいた。
ジャニスはと言うと、凄んでいたように見えて、実際にレディローズの面々の準備を学びたかったらしく、しきりにうなずいたり『これは何の為に買うんだい?』と質問したりしていた。こういった所が上級上位たる所以なのだろう。
但し、結局『ポーションだけ有れば良いわな!小難しい事は任せた!』と最終的に丸投げしていたが。
その夜は、同じ宿をとって、女性陣は親睦を深める事にした。カエルは店主に「裏庭借りていいですか?」と、いつもの要求をして、店主の頭上に、はてなマークが浮かんだものの、快諾。翌朝、まさか穴を掘って埋まってると思っていなかった店主が気絶するというトラブルがあったりもした。
◆
宵闇に浮かぶ2つの人影。
尋常では無い殺気を放つ2つの影は、見る者が見れば、『ドラゴンイーター』のグルガンと、元上級下位冒険者のコッカスであることが分かる。
素手で構えもせず、佇むグルガン。
対照的に細剣を構え、ジリジリと間合いを詰めて行くコッカス。
「コッカスさん。確かにアンタには世話になった。だが、俺様がこの街の筆頭冒険者であること。つまり、アンタの上に立った事を、この場で分からせてやるよ」
言いながらも、構えを見せない。
彼の職業は『グラップラー』己の身体を武器として戦い抜くスタイルの職業だ。
対するコッカスは『グラディエーター』剣を得意とする職業の1つ。ただ、一般的なグラディエーターと違い、多種多彩な武器を使いこなし、炎の魔剣を使用する、サラマンダー特有の戦い方もプラスされた特殊な戦闘法である。
「年季が違うさ。なにも俺は領主様の元で惰眠を貪っていた訳ではない。暗殺者達を何人も葬って来た。遅れは取らんよ...」
膨らんだ殺気と殺気。
今その殺気の間合いに入ろうとした、まさにその時であった!!
「ランランララランランラン♩ラララランランラン♩」
この世の楽園にでも辿り着いたようにスキップしながら、2人の間に躍り出た美女がいた。通称キティ・バロヴォアラボス12世。キティちゃんである。
「オーク!オーク!オークちゅあああん!待っててねー!ドュフフフ、フォヌカポウ!!」
そのままスキップをして、垂らしたヨダレを残しながら、キティちゃんは通り過ぎて行った。
「「....」」
2人の間に静寂が訪れる。
「なるほどな。戦さの前に、味方同士で争うな。そういうことだろうな」
「あぁ。あの女傑に諭されるとはな。一本とられたわ」
構えを解き、ガッチリと2人は肩を組んで「呑みに行くか」と夜の街へ消えて行った。
当のキティちゃんは、そんなやり取りなど知らず、一晩中スキップしながら朝まで過ごしているのを、多数の人間が目撃している。
こうして、のちに語られる大戦前のそれぞれの夜は更けていく。




