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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
2章 仲間との出会い
55/68

若樹


5000匹のオーク討伐を果たしたカエルとジャニス。ジャニスは言った。


「アタシに任せな」


(何を?)

そう言おうとしたが、ジャニスの歯が溢れそうな笑顔に聞けずに居た。




「おい、アレが例の『5000匹殺し』だぜ」

「あれが『ペンタグラム』のカエルか」

「『バロンバスターカエル』だろ?」

「いや『カエル・ザ・グレート』だ」



そして酒場に入った途端、この有様である。間違いなくジャニスの仕業だろう。見ろ、酒場の奥の椅子で、親指を上げ、彼女の笑顔が眩しい。


「あのー、ジャニスさん。これは一体どういう事かな?」


キョトンとした顔で、ジャニスはカエルを見る。もしやこの人は、からかう為などではなく、本気でこの行動を起こしたのだろうか?


「『コレ』って、二つ名の事かい?上級の冒険者なんだから、二つ名くらい欲しいだろうよ!」


「それにしたって、乱雑過ぎやしないかな?」


「イイんだよそれでぇ!噂が勝手に広まって、勝手に一つに収束するさ」


そういう物なのか、とカエルは納得せざるを得ない。人間としても、冒険者としても、ジャニスの方が遥かに先達なのだ。




前線基地からの帰路、カエルはジャニスに、冒険者の事、過去の事、色々と聞いてみた。一部頑として教えてくれなかった事もあるが、大体の事は話してくれた。


子供の頃は病弱だったとか

筋肉を付けてから、健康になったとか

筋肉に救われた話

鍛錬は裏切らないとか

筋肉も裏切らないとか


そういった話だ。

「筋肉ばっかりじゃな」

とベロは途中でツッコんだが、それにもどうやら理由があるらしかった。その話と15ー20歳くらいの話は、聞かせてくれなかった。因みに彼女は24歳らしい。


その話になると「またいつかね」とヒラヒラと手を振って、何処かへ行ってしまったのだ。


人間には隠し事という物がある。


思考するとは、迷うという事に他ならない。カエルが生まれてから、初めて芽生えた、思考するという回路。


迷いの結果、隠したくもなるし、嘘をつきたくもなる。恥や、プライドといった物は思考から生まれるのだ。


それは、カエルにとって目新しく、だからこそ人間に興味を抱いたのかもしれない。



「カエル?どうした?」


思考の海に沈んだ意識を戻す。

今日は、ジャニスから冒険者としてのイロハを教わる予定で、酒場で待ち合わせをしていたのだ。


「ごめん、なんでもない。それで、今日はどんな訓練をするんだい?」


ニカッとジャニスは笑う。

「今日は見学だよ。もう頼んでるから、頑張っておいでよ」


(頼んでる?)


チョイチョイとジャニスが手招きする。すると、まだ15、6の若い男女2人が駆け寄って来た。


「ジャニスの姉貴!この人が例の上級に飛び級になったって人ですか!?」


「亜人だー。めずらしー」


元気そうな男の子と、物珍しそうに、指差してくるノンビリした口調の女の子。どうやら、この子達が『頼んでる』2人らしかった。


「そうだよ。カエル。この子達が、今日アンタと一緒に冒険してくれる、クザとマンサだよ」


クザと呼ばれた男の子が「よろしくっす!」と頭を下げる。マンサは「ほえー」と言いながら、先程から私の腕をスリスリと触っている。


クザはともかく、マンサは変わった子のようだ。


「よろしく。私はカエル。魔法使いだけど、刀も少し扱える。何でも便利に使ってくれると嬉しいよ」


マンサの頭を、撫でてみる。

キョトンとした顔でカエルを見たマンサだったが、二へへと笑ってくれた。



「早速だけど、西の岩場辺りに巣を作ってる『グリーンイーター』を倒すのが、今回の依頼だよ。カエル、アンタは見学。その子達のやってる事、見ておいで」


「うっす!」

「はーい」

「わかった」


三者三様の返事をして、カエル達は出て行った。



「さあて、どうなることやら」


そう独りごちて、ジャニスはエールをグイッと煽った。




◆



「さあ、行こうか!」

カエルが意気揚々と、西門へ向かおうとするが、クイと袖を引かれる。


「まだー。準備まだだもん」

「あぁ、そうか。ごめん、まずは道具屋からだね」

フルフルとマンサが首を振る。


「カエルの兄貴、道具屋じゃなくて、まずは南の草原に行くよ」


「草原?ポーションを買いに行くんじゃないの?」


クザとマンサは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。


「高くて、買えないのー」

「オレたち、まだ下級下位だから、ポーションなんて買ってたら、依頼料が全部パーになっちゃうよ」


「そういうものなのか...」

ジャニスが見学させた理由が、少し掴めてきた。



南の草原。広々としたそこには、花や草木が豊富に生えている。比較的大人しい魔物ばかりで、邪魔が入る事も少ないのだという。


「みーつけ」

「こっちにもあった!調子いいね」


2人は地面に這いつくばって、何かをしている。


「何をしているんだい?」


「これー」

マンサは、手に握った草を差し出してきた。微かに花の蕾がある。


「マンサ!それはダメだって先輩達が言ってただろ?花が咲いてるのは、メディ草じゃなくてデメディ草だよ」


「あー。そっか」

ポトリとマンサが草を落として、また草を探しに行く。


「これだよカエルの兄貴。メディ草。さっきのデメディ草は似てるけど、何の効果もないんだ。メディ草は、薬になる。切り傷なんかに効くんだ」


「ほほー。ポーションの代用品ってところかな?」


「うーん。まあ、効果は低いけど、そうだね。これから戦うグリーンイーターは、噛んでくる大っきなネズミで、畑が荒らされるから、討伐依頼が多いんだ」


「そっちの腰に入れてる草は?同じ草じゃないみたいだけれど」


「あぁ、これはグリーンイーターの好物なんだ。コレを使って誘き寄せて倒すつもりだよ」



彼は、事前に敵の事が分かっているようだ。


「クザは、グリーンイーターに詳しいんだね」


「依頼受けるなら敵の事とか、場所の事、色々調べないといけないから。グリーンイーターは、下級下位の魔物だけど、傷口から化膿して死んだ人も居る。準備はしておかないとね。グリーンイーターに限らずだよ」


...どうやら、私がクザを兄貴と仰がないといけないかもしれない。クザから冒険者について、色々と教わらなければ。



クザと2人で、メディ草を探していると、深い草むらからマンサが飛び出してくる。


「マンサ!?」

「にげるー」


驚くクザを尻目に、一目散にマンサは走り出す。慌ててクザもカエルも、それを追いかけた。


一呼吸遅れて、草むらから何匹かの小鬼のような生物が、小さな石の武器や棍棒を持って飛び出してきた。


「ゴブリンだっ!」

クザは後ろに軽く眼をやり、そう叫ぶ。随分と怖がっている様子だ。


すると、その後を追うように、更に数匹のゴブリンが現れる。10匹は居るだろうか。


「ゴブリンは、1匹1匹は弱いけど、1匹居たら、10匹は居ると考えないといけないんだっ!討伐難度は下級中位に設定されてる!僕らじゃ無理!」


(隣に私が居るんだけどな)

そう言いたいカエルだったが、クザはジャニスからの依頼を守っているのだろう、と察して言うのをやめた。誠実な若者のようだ。


ひたすらに走り続け、結局街まで戻って来た。



カエルには不思議に思えた。

「何もここまで逃げなくても良かったんじゃない?ゴブリン達は、結構前に諦めてたようだけど」


「命はー....ひとつだもん」

呼吸を整えながら、マンサは言う。そうか。その通りだ。生まれ変わりを続けて来たカエルには、薄い感覚ではあるが、普通はそうなんだ。



メディ草は、今回の依頼を成す為の、十分な数は手に入れていたようで、彼等はそれを手に、今度は薬師のところへ向かうと言う。


「自分達で、石なんかですり潰して作っても良いんだけど、薬師にやってもらった方が、よく効くんだ」


クザは、メディ草を手に、前だけを向いて歩いていた。彼を見ていると、危なっかしいような、眩しいような。そんな感覚になる。


「クザとマンサは、どうして冒険者に?」


2人は、立ち止まって答えてくれた。


「「家族に楽をさせる為」」

と。2人は顔を合わせてニシシ、と明るく笑った。


「オレ達、そうは見えないかも知れないけど、兄妹なんだ。2人とも孤児院で育って、親は違うけど、大切な家族。孤児院には、シスターも居るし、兄弟達も居る。だから、稼いで皆を楽にさせるんだ」


空を見て、クザは言う。

目標があって、目的があって、それらの先には、大切な者達が居る。だから彼等は眩しいのだろう。


「ワタシは、クザがいつもそう言うからー、なんとなーく同じ事言ってるだけー」


...眩しいのだろう。



薬師は、材料があるから、と格安で作成してくれた。適正職が作成するのとしないのとでは、効果が5割程度違ってくるんだそうだ。


「私は何も知らないで、旅を、冒険者をやっていたんだな」


「そう言う事じゃな」


呟く私にベロが反応する。

2人にはベロの事は話していない。

コソコソと1人でしゃべっているのを見て、2人は少しの疑問を抱いたが、深くは詮索しなかった。


「じゃあ、いよいよ出発だよ兄貴」

「れっつごー」



西門を出てしばらく行くと、小高い丘の上に、岩がポツリポツリとある。その岩の上から、 なにかがキョロキョロと周囲を見回っている。


「グリーンイーターだ」

「相変わらずかわいい」


リスのような生物が、鼻をヒクヒクとさせながら、周囲の音を聴いている。距離は80メートルほど。この距離で気付かれていないと言う事は、眼は良くないようだ。


「巣の見張り役だね。アーチャーやシーフが居れば、撃ち落としたり出来るんだけど...」


「ちなみに2人の職業は?」


2人は暫し沈黙する。

「職業適性検査で認定されていないから、僕らはただの街人だよ」


「適性検査受けるおかねない」


そんな物があったのか。

では私は「自称魔法使い」だったのか。驚愕の事実が明らかになった。後でジャニスに聞こう。



「それで、どうするんだい?遠距離攻撃は無理なんだろう?」


「うん。アレを倒さないと、鳴き声を聞いた残りが、巣穴に逃げ込んじゃうからね。だからコレを使うんだ」


クザは草原で採れたグリーンイーターの好物だという草。それを取り出し、マンサに手渡した。


マンサは「むむむむ」と暫く唸ると、指先ほどの炎がポゥっと灯る。

「名付けて『プチファイアボム』だよー」

彼女は魔法使い志望なんだろうか?


草に小さく火がつく。

それを手前に置いて、隠れる。


微かな煙が上がり、なんとも言えない臭いが辺りに漂い始めた。効果はてき面。鼻をヒクヒクしていたグリーンイーターは、真っしぐらに草に突っ込んでくる。


そして持ち上げ、かぶりついた。

火がついているにも関わらず。


キュッ!?と鳴いた時には時すでに遅し。グリーンイーターは舌に火傷を負い、驚いているところをクザの斧で叩き殺された。


「ヘヘッ。この斧、孤児院の薪割りで使ってた斧で、オレの愛用品なんだ」


多少クザの身の丈に合っていないが、工夫して使っているのだろう。


「見張り倒したし、いこーよ」

「おうっ」


見張りが立っていた岩場から、静かに顔を出す。遠くに6匹のグリーンイーターが見える。どうやら小さな水溜りで水を飲むのに夢中のようだ。


「いまだっ」

「チャーンス」


2人は、せっせと地面に空いた穴を塞ぎ始める。一体なにをやっているのだろう?


そして、今度は反対側に回り込み、抜き足差し足と近づいて行く。


「おらあっ!」

「たー」


気合いを込めたクザと、気合いが入ってるのか分からないマンサの声が響く。


1匹はクザの斧に叩き殺され、もう1匹は、なんとかマンサの木の棒を避けた。そして、一目散に穴が空いていた方向へと逃げて行く。


「行け行け!」

クザが追い立てながら、もう1匹を仕留める。穴に潜ろうとしたグリーンイーター達だったが、穴が塞がれている事に気付くやいなや、クルリと振り向いて、クザ達に飛びかかってきた。




無事クザ達の狙いは当たり、作戦通りに全てのグリーンイーターを狩り終える事が出来たようだ。


「やったぜ!!」

「ぶいぶい」


クザ達は喜びを分かち合う。

何度か噛まれたようだけど、大きな傷は無い。


狩を終えた彼等だったが、休む暇も無く、剥ぎ取りの作業へと移る。鋭い歯と、毛皮を器用に剥ぎ取ると、大きめの皮袋へしまい込んだ。


「これ取っとかないと、討伐報酬だけじゃ、少な過ぎるからね」



剥ぎ取った素材は、酒場に持ち込んだ。倒した武器が、使い古した斧だった事もあり、素材の状態が悪かったとの事で、買取価格は市場より低かったらしい。


けれど、彼等は報酬を受け取った時、この日一番の笑顔を見せた。今日は、色々勉強になったが、これがジャニスの1番見せたかった事なのかもしれない。


恵まれた環境で冒険者としてのスタートをきった私にとっては、彼等が今得ている物は、私にとっては、何一つ無い物ばかりだった。



戻って来た私を見てジャニスは「いい面構えになった」と言ってくれた。私も彼等のように、純粋に、ただひたすらに前だけを見て走ってみたくなった。



「アタシの言いたいことがわかったかい?」


「あぁ。凄く身にしみたよ」


ウンウンとジャニスは頷く。



「つまりアタシが言いたいのは、命は大事にしましょうってことさ」



「ジャニスは言ったらダメな人だと思うよ」

「まったくじゃ」


ジャニスは照れたように笑う。


恐らく彼女は、飛び級したカエルに『積み重ねる事』の大事さを教えたかったのだろう。経験、恐怖、喜び、痛み。そう言ったものを知らず、上級に至った危うさのような物を、ジャニスは伝えたかったんじゃないだろうか?


「違うかなベロ?」

「どうじゃろうな。ワシには分からん」



嬉しそうに袋を持って、去って行った2人の背中を見送った。あの2人は、この先どうなるだろう?偉大な冒険者になるのか、それなりにやっていくのか。はたまた...。


やはり2人の姿は眩しく見えた。

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