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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
2章 仲間との出会い
52/68

出逢い


「せいやあああ!」

「うおお!《カラミティスラッシュ》」

「俺の渾身の一撃!」


今、カエルはベンチに座って、まだ10歳前半の子供達を見ている。声だけは勇ましいが、チャンバラごっこのような、微笑ましい光景だ。ちなみに《カラミティスラッシュ》とは、掛け声だけの普通の上段斬りである。


微笑ましい。


これが、領主からの依頼でなけば。



◆



領主からの依頼は、腕利きの冒険者にしか頼めない仕事だと聞き、いつぞやの冒険者3人娘達との冒険を思い出したカエルは、しっかり傷薬などを用意し、酒場へと出向いた。


「領主様から依頼を受けたカエルだ。話は通ってるかな?」


「おう、お前さんが領主様から推薦のあった奴だな。カエルの亜人とは珍しいな」


物珍しそうにジロジロと酒場の主人は見てくる。筋骨隆々の男だが、威圧感などは感じない。


「なるほど。領主様が薦めるだけの事はありそうだな。腰の刀を見ただけでも分かる。早速だが、お前さんに面倒見てもらう奴らを紹介しよう」


(面倒?)


「おーい!ニケ、クック、プル!」


酒場の隅に座っていた少年少女が、元気に立ち上がり、駆けてくる。


「おやっさん!この人がそうなの!?」

「マジかよ、亜人じゃん...」

「でっか!でっか!」


純真な眼差しで見つめてくる少年、亜人が嫌いなのか、嫌悪を隠そうとしない逆毛の少年、ひたすら大きいと連呼しながら飛び跳ねる少女。


この子達は、何なのだろうか。


「いやー、誰も受けてくれなくてな。アンタが引き受けてくれて、助かったよ。じゃあ、この子達の事、よろしく頼むわな。貴族の子らだから、ちょっと常識知らずだが、大目に見てやれよ」


(んん?)


「ちょっと待った。主人。これは一体どういう依頼なんだろうか?」


子供達はキョトンとした表情で、大人2人を見上げている。


「いや、アンタ何も知らずに受けたのか?貴族の坊ちゃん嬢ちゃん方の、社会見学だよ。冒険者を『やってみたい』んだとさ」


「えーっと...『腕利き』向けの依頼...?」


「まあ、そりゃ初級者に頼むわけにはいくまいよ。(ボソッ)それに、この坊ちゃん嬢ちゃん方の出自は特殊なんだ。万一何かあれば事だ」


カエルの頭に一つの言葉がよぎった


『面倒くさい』


(よし、キャンセル。ニホンでよく『彼』が使っていた、クーリングオフだ)


「クーリングオフ制度を使いたい」


「そんな制度は無い」

と、酒場の主人がバッサリと告げる。


「それに、アンタは上級下位であるものの、依頼を一つしかこなしていない。そんな状態で依頼のキャンセルなんてやった日には、最悪冒険者名簿から、除名もあり得るぞ」


(なんという事だ)


カエルは眉間を押さえ苦悩する。

まさか、上級下位に飛び級して、最初の依頼が、後輩どころか、お遊びの貴族の子のお守りとは。



◆



「ハァ...」


そんな訳で、渋々依頼を受けたカエルは、ため息をつきながら、土塊の人形を作り出す魔法を操っているのだ。


それに向かって、子供達が斬りかかる。さながら、人形で子供をあやすベビーシッターのようだ。


「なにをため息を吐いている?童の相手は、ヌシのいた村でやっておったんじゃろう?」


ベロがチラリと出て来て言う。

確かにそうなんだが。


(まさか本当の冒険者になってまで、子供達の相手をするとは思わないよ)


「カエル先生!あの泥人形と戦うの飽きちゃった!本物の魔物と戦ってみたい!」


一際元気なプルという少女が、カエルの前にやってくる。歳は、まだ13だという。


「魔物の相手は、命がけだよ。いくら私がついていても、難しいと思う」


「亜人は臆病だな。大丈夫!プルには、俺様がついてるからな」

「ボクも、魔物と戦ってみたい!」


亜人嫌いの少年がクック。

純真そうな少年がニケ。名前は覚えた。

皆同い年だという。


(依頼内容は『存分に満足させた上で、安全に帰宅させる事』だったか。益々何故こんな依頼を...)


「分かった。じゃあ平野で、一角ウサギでも...」


「ボク、ブラックキャットと戦いたい!」

ニケが手を挙げて、元気に声をあげる。


(なんだって...!?)


「猫ちゃん!?猫ちゃん私も見たい!」


ブラックキャット。この近隣では危険度の高い魔物として、冒険者ギルドが注意喚起をしていた魔物だったはずだ。


体長は2メートルほど。名前こそキャットだが、黒いヒョウのような魔物で、何より恐ろしいのが、この国で最速の魔物だという事だ。もしかすると、カエルの速さに比肩しうるかも知れない。


「ブラックキャットは駄目だよ。素早い魔物だと、私でも守り切れない。別の魔物に...」


「亜人より速いんだったら、余計見てみたいぜ」


「猫ちゃん!」


(駄目だこの子達。ワガママに育ったからなのか、人の話を聞いた上で綺麗に無視して来る...)


「行こうぜ!」


勝気なクックが、2人を置いて、東門へ、さっさと歩き始める。確かにブラックキャットは、東の平野に出現するのだが、当たっているのが腹立たしい。



◆



仕方がない。そう思って、子供達を東の平原に連れて来たまでは良かった。


「やべえ...なんとかしろよ!亜人!」

「大丈夫。こわくないこわくない」

「助けてお母さーん!」


カエルの目の前には、5匹のブラックキャットが居た。通常、ブラックキャットは、群れをなさない。


しかし、子供とは想定外の行動を取るものであることを、カエルは失念していた。あろうことか、マタタビを持ち込んだ猫好きのプルが、カエルの知らぬうちに、燃やしていたのだ。


気付いた時には、後の祭り。

こうして、マタタビの匂いに釣られたブラックキャット達に、カエルたちは取り囲まれているというわけだ。


(まずいな。一体一体が、私と同等のスピードを持っているとなると、ココを離れる訳にはいかない)


「【フロストノヴァ】!」


広範囲の地面が凍りつく。あわよくば足を凍らせようとするが、ブラックキャット達は素早く跳びのき、思惑通りにはいかない。


再度ブラックキャット達がジリジリと獲物を狙うように間隔を詰めて来る。


(こういう時に、パーティメンバーがいれば。ココット達が居れば....)



ピィーッ!



カエルの思考を遮るように、指笛の音がする。

ブラックキャット達が音色の方角へ振り向く。


そこには、自身の身の丈より一回りは大きく、太い大剣を背負った女性が立っていた。


その大きさの大剣を振るう為か、筋肉は丸太のように太く、特に下半身の筋肉はとても女性の物とは思えない。だが、腰まである髪の長さと、体の曲線が、女性であることを示している。


女性が大剣を抜く。

その瞬間、ブラックキャット達に向けられたであろう殺気。否、闘気が、カエルの体にまで響いて来る。


(只者じゃない)


その闘気に当てられたプルとクックはペタリと地面に座り込んでしまっている。


だが、その無防備な体勢の子供達を、ブラックキャット達は狙おうとしない。


狙えないのだ。


眼前の絶対強者を目前にすれば、獲物など見ている暇はない。命の危機を前に、食事を摂る者など居ないように。


やがてカエル達を取り囲んでいたブラックキャット達は、女性を取り囲む。だが、優位な立場を取っている筈のブラックキャット達が、追い詰められ、焦っているように見える。


全力で逃げ回ったとして、あの女性の眼前から、逃げる事もかなわないだろう。そう思うほどに。


やがて1匹のブラックキャットが、女性の背後から、首筋を狙って飛び付いた。


女性はピクリとも反応しない。

誰が見ても、女性の首に牙が到達するだろうと思われた。


グァウ!


喉を鳴らしながら、ブラックキャットは口を開け、食らいついた!そう思っただろう。現に、子供達は悲鳴を上げていた。


だが、次の瞬間に魔物は、首から血を吹いて地面に倒れ伏した。



女性は、軽く首を振っただけだ。


(あの髪留めか!?)


腰まで伸びた長い髪を纏める髪留め。金属で出来たそれは、鋭利な刃物のように鋭かった。


それが、飛びかかるブラックキャットの喉を引き裂いたのだ。


それを皮切りに、魔物達は一斉に飛びかかる。


そのどれもが、死角からの一撃だった筈。


足首に喰らい付こうとした者は、顎を蹴り上げられ、頭蓋を砕かれた。


手首を狙った者は、首根っこを掴まれ、岩に叩きつけられ、四肢が弾け飛ぶ。


大腿部の脈を同時に狙った2匹は、太腿に喰らいつけた。いや、喰らいつかされたと言っても良い。


2匹は確かに喰らいついたが、彼女の微かな足運びによって、狙いを外され、筋肉の分厚い部位へと牙を立てさせられた。


ブラックキャットが焦っている。

牙を抜こうとしても、抜けないのだ。大腿部の血管が膨れ上がり、尋常でない力が込められているのが分かる。


やがて、ムンズと首を掴まれたブラックキャット達は、べキリ、と音を立てて首の骨を折られ、その場に崩れ落ちた。


女性は、腰袋から液体を取り出し、ドクドクと噛まれた箇所に軽くかける。恐らく消毒だろう。側から見ると、出血さえしていないのだが。




信じられない物を見た。


カエルを含めた皆が、そう思っただろう。


「...冒険者って、スゲー...」

クックがポカンと口を開けて、そう呟いた。


「うん...あのお姉さんカッコイイ」

プルがキラキラと目を輝かせて、彼女を眺めていた。


やがて、女性はこちらへゆっくりと歩を進めて来た。そして、プルの眼前に立つ。


「あの!お姉さん!カッコ良かった..」


バチーン!!


途中まで言いかけた、プルの頬を、音を立てて女性は引っ叩いた。平野中に響き渡るような音だった。


涙目になって、プルが頬を抑える。

一体何が起こったのか分からない。そんな表情で女性の方を見た。


「お前のせいで、お前の友達は死ぬところだった。まず謝れ」


女性は淡々と言う。


だが、そこは貴族の令嬢としてワガママに育って来たプルだ。キッと女性を睨む返すと「なんで突然来たアナタに!」と食って掛かった。


その後は、相手が悪かったとしか言いようが無い。


まず、息が出来ない程、鳩尾を蹴り上げられた。そして、髪を引っ張り上げられ、2人の方を向かせ「謝れ」と再度。


必死に呼吸を整えながら、嗚咽をあげ、プルが謝る。クックは、怯えの混ざった表情で、それを見ていた。


「お、お前、プルは!プルは領主家の長女だぞ!そんな事して、タダで済むと思って...!!」


プルが、依頼した領主家の長女という事実に驚いたが、それよりも、女性の毅然とした態度が目を引いた。


「思うさ」


「えっ!?」


呆気にとられるクックを尻目に、女性は言う。


「それが冒険者だ。誰にも縛られないし、誰にも文句は言わせない。自由だ。自由の邪魔をするなら、領主だろうが、神だろうが、斬り伏せる」


女性が、グッと手を前に出し、力を込める。それだけでクックは身体中から力が抜けるように、ペタンと膝をつけた。闘気にあてられたのだろう。


(冒険者は自由。か)


「オマエは、どうする?」

女性の目線が子供の1人を見る。


騒動の渦中、1人静観を決め込んでいた人間が居た。ニケである。遡れば、ありと凡ゆる場面で、彼は大きな動揺を見せていなかったように思える。


ニンマリと、ニケは笑みを見せると、口を開いた。


「お姉さん。酒場から依頼を受けられなくなったら、困るんじゃない?そのくらいの力はあるよ?領主家には」


それを女性は、フッと鼻で笑った。


「それならそれで、なんとでもなるさ。それに、そういうことはしないだろう?」


ニヤリと笑みを浮かべてニケに返す。


「...豪胆なお姉さんだね。嫌いじゃ無いよ『剣鬼』さん」


ニケは、サッと移動すると、同じくらいの身長の子供2人を軽々と抱え込んだ。


「カエルさん。依頼は達成された。酒場には伝えておくよ。じゃあ『また』よろしく」


そう言うと、フッと消えてしまった。武技か魔法の類だろうか?まだ年端もいかない子供に見えたニケ。何者だったのだろうか?



女性に視線を戻すと、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。やがて、ポンと肩に手を置かれた。


「アンタ。災難だったね。領主に、力量と機転を計られたんだろうさ。少々不味ったけど、合格らしいよ」


女性は先ほどと違い、柔らかな笑みを浮かべている。


身の丈は180そこそこ。近くで見ると、先程までの、とんでもない体つきは、幾分か女性らしく見えた。


何より、美しい顔をしている。

あの鬼のような戦いぶりと、首から下を見なければ、間違いなく美人と言える。『剣鬼』と呼ばれていたか。


「助かったよ。ありがとう。ニケは、あの子供は一体何だったんだ?」


「恐らくこの国の『影』と呼ばれる精鋭部隊だ。領主の所に1人居るとは聞いていたけど、まさかあんな子供とはね」


彼女は、やれやれといった風に顔を振る。


「私はカエル上級下位の冒険者をやってる。アナタは?」


彼女は目を見開いた。


「アンタ上級だったのかい?場数を踏まずに上がったタチか、仲間が優秀なのか。本来あの程度なら、機転を利かせて動くべきだよ」


説教をされてしまった。

だが、どこか優しが伺える声色だ。


「言い訳のしようもない。まだまだ勉強不足を感じているよ」


「へえ。反省出来るなら、成長出来るね。アタシは、ジャニス。『剣鬼』って呼ばれてる。職業は闘士。あまり見かけない職だけどね」


握手を求めて、ジャニスは手を出して来た。それに応じて手を握ると、カエルの全身が、瞬時に宙に浮く。気付いた時には、彼女の腕の中に抱かれていた。


「こんな感じで、力を強化したり、それを発して威圧したりする職業だよ。魔法使いみたいに、ややこしい事は出来ないが、シンプルでアタシには合ってる」


ニコッと彼女は満面の笑みをみせた。やはり彼女は美しい。内面の美しさが出ているようだ。


「私は、そのややこしい魔法使いなんだ。まだまだ未熟だけれど」


「水系統が使えるみたいだね。その腰の業物は、飾りか何かかい?」


腰の3本の刀をチラリと見ただけで、彼女は価値が分かったらしい。


「故人の置き土産なんだけれど、なかなか上手く使えなくて、困っているところなんだ」


照れるように応えるカエルに、体を下ろしたジャニスは、バンバンと肩を叩いてくる。


「アンタ、正直でイイね!気に入ったよ。今度、一緒に冒険しよう。楽しめそうだ」


ハッハッハと快活に笑って、ジャニスはヒラヒラと手を振りながら、街の方角へ去っていった。




「...嵐のような1日だったな」


ジャニスを見送った後、カエルはバッタリとその場に仰向けで倒れた。


精神的疲労で力が抜けていく。


雲一つない青空を見て、カエルは先ほどの、快活な女性を思い浮かべた。

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