亜人騒動3
ガタッ!ガタガタッ!
小さな小屋の扉には、施錠が成されていた。だが、中からの物音が明らかに有り、中に何者かが居るのは間違いない。
そう踏んだ人間の姿をしたカエル「カエサル」は、刀を抜き、扉の錠をスパッと切り離した。
キィっと小さな音を立てて、扉は開く。あまり使われていないわけではなさそうだ
窓から見えた人影は、今は見当たらないが、居るのは間違いない。音を立てる御粗末さから、おそらく子供だろう事が分かった。
「こんにちは。だれか居ないかな」
そんな声をかけながら、カエサルは中へと足を踏み入れる。
中は静かだった。しかし子供故の、お粗末な小さな声が聞こえる。
「グリーズぼっちゃま、ここならきっと見つかりませんわ」
「わかった。わかったけれど、アイリスもうちょっと離れて」
男児と女児の声だろうか?
そちらの方向に歩みを進めてみると、人一人は入れようか、という古い古い木箱が、立て置きされている。
その木箱が、小刻みに揺れているのだ。
その前に立ち続けていると、やがて揺れは大きくなり、バタンッと大きな音を立てて、木箱の蓋が開いた。
そして中の女児と男児と目が合う。
「「あっ」」
こちらを見て2人は固まってしまった。
そこへ「こんにちは」と屈んで目線を合わせて挨拶する。
害意が無いことを察したのか、2人同時に「「...こんにちはー」」と挨拶を返してくれた。2人とも貴族なのにも関わらず素直な良い子達のようだ。
「私はカエサル。冒険者をやってるんだ。ココへは、街の人たちの依頼で来た。君達は、ここで何を?」
その質問に、男児が何かを飲み込むように、グッと俯いてしまう。その様子を見た女児は、カエサルの方を向き
「わたくし、この館の主の娘でございますアイリスです。今しているのは隠れんぼですわ。ですから、用向きが無ければ、出来れば早く出て行って欲しいのですけれど」
(アイリス。領主達の会話に出ていた女の子だな。利発な良い子らしい。ただ、目線はキョロキョロして、早口になっている。嘘をついているようだ)
「少し話を聞かせてくれれば、すぐにでも出て行くよ。そっちの男の子は?」
ビクッと、男児が体を動かす。
「こ、この子は、わたくしの屋敷の使用人の子ですの。名前は...ぐり...グリード。グリード、挨拶なさい」
女児に促され、グリードと呼ばれた子が、目線だけを向け「こんにちは」と挨拶する。
(なるほど、そういう事か)
「君が『グリーズ』だね。死んだ事になっていた筈だけれど、どういう事だろうか?」
その言葉に2人は「あっ」という顔をしたまま口が塞がらない。
「...ど、どうしてボクがグリーズだって分かったの?」
おずおずと聞いてくる男児だが、使用人の子は、そんなに高級な衣服に身を包んでいないし、何より会話が丸聞こえだった。アイリスは利発ではあったが、所詮はグリーズと同じ6歳児なのだ。
「うーん。オジさんは、心を読める魔法が少しだけ使えるんだ。だから、嘘をついてもわかるんだよ」
2人とも魔法への憧れか、世間を知らないからなのか、目を丸くして「すごーい」と驚いている。
「オジさんは、街の人たちから、本当の事を調べて来るように、頼まれたんだ。今、このウソのせいで、多くの人が痛い思いをしている。苦しいって言ってるんだ。それを助けられるのは、グリーズ。君しか居ない」
黙って話を聞いていたグリーズだが、みるみる内に目の内に涙が溜まっていく。横でアイリスは、ワタワタと慌てて、どうしていいか分からない様子だった。
「ボクが...ボクがいけないんだ。ワガママ言ったせいで、ごめんなさい...グスッ...うわあああん」
ついに感情のダムが決壊したのか、グリーズは、泣き叫んでしまった。アイリスは横で慌てていたが、やがて周囲を見渡し始め、木箱の中にあった、革兜を取り出した。
そのままスタスタと、グリーズの所へ歩くと、スッポリと革兜をかぶせてしまう。泣き声が、少し止んだ頃、再び兜を取った。
「グリーズ坊っちゃま。男児が人前で涙を見せてはいけないとお父様が言ってました。シッカリとカエサル様にお話しましょう」
決意を込めた目で、アイリスがグリーズに促す。グリーズも理解したのか「うん」と頷き、カエサルに向き直った。
「ボクね。領地の女の子と、大きくなったら結婚しようね。って約束しちゃったんだ...それなのに、ここに来て、まだ会った事も無かった、アイリスと結婚するって話になっちゃって、爺やに『いやだ。こんな話、なかった事に出来ないの?一生のお願い!』って、頼み込んだんだ」
グリーズは、俯き加減のままだが、シッカリとした口調で応えてくれる。
「そしたら、爺やが『坊っちゃまの一生のお願い、聞き届けました。どんな方法でも宜しいのですね?』って。それに、うんって頷いちゃって...そしたら、ボク、死んだ事になって、ここで隠れてたら、アイリスに見つかっちゃったんだ」
コクリとアイリスは頷く。
「わたくし、グリーズ坊っちゃまのお気持ちが分かります。望んでもいない相手と結婚なんて、時代錯誤ですわ。もう今は、そういう時代では無いのです」
フンっと鼻息荒くアイリスは、話す。だが、アイリスの様子から、それらの言葉が、誰かからの受け売りであろう事が、見て取れた。
「しかし、無茶苦茶する人なんだね、その、爺やさん?結婚を破断にする為に、まさか死んだ事にするなんて」
その言葉に、グリーズは苦笑いを浮かべる。
「爺やは優しいし、凄く真面目なんだけれど、なんでも頑張りすぎちゃうんだ。以前も、ボクが犬が怖いって言ったら、街中ぜんぶの犬の手足を縛って、口に輪っかはめて『これで怖く無いでしょう』って。後でお父様に凄く叱られたよ」
どうやらとんでもない人物のようだ
「それは...なんというか過激だね」
(でも、今回の件に関しては、過激では済まない。実際に亜人達が被害に遭っているんだ)
「でも、皆苦しんでるんだ。だから、君が表に出て来て、まだ生きてるって...」
カエサルが、そこまで説明したところで、カエサルが吹っ飛ぶ。壁から突き出された槍が、カエサルの脇腹に刺さったのだ。
ズズッと音を立てて、また槍が壁の中に引っ込んでいく。
(な、なんだ?)
激痛が、脇腹を襲う。【フェイクテクスチャ】が、見た目の変更でなく、皮膚の強度まで変更する魔法であれば、先程の突きで絶命していたであろう。
子供達は、怯えているが、グリーズは違った。
「爺や...!」
壁越しの見えない相手の筈だが、彼にはわかったらしい。やがて、小屋へ壮年の男性が入って来た。
「おや。手応えあったと思ったのですが、人外でありましたか」
その男性は槍を捨て、長剣を握る。この狭い小屋の中では、槍は使えないと判断したのだろう。
先程の衝撃で、フェイクテクスチャが、解けたようだ。
「あ、亜人...!」
「うそ...」
子供達2人を驚かせてしまった。どうやら交渉出来る状態では無くなったようだ。
「亜人で何が悪いのか...。私には分からない。君達の嘘で、亜人が皆迷惑してるんだ。死んだ人だって居る。だから、お願いだ。グリーズ。君が生きていると証明してくれるだけでいい」
口を開きかけたグリーズだが「坊っちゃま。その必要はございません」という男の言葉に遮られる。
「亜人の戯言聞く必要なし。亜人は亜人らしく、貧民街で這いつくばっていろ!」
長剣を構えた男が突っ込んでくる。この建物の狭さ、スピード型のカエルには不利となる。
(しかし、 逆に言えば!)
「【ファイアボム】!」
この大きさの火球さえ避けられないはずだ!
「ッ!魔術師か!?」
ボッ!と男が炎に包まれる。かなりの魔力を込めた。致命傷ならずとも、全身火傷状態であろう。
炎から出た男は、全身に炎を纏っていた。だが、何か様子がおかしい。男の姿がボヤけ、揺らめく。そして、現れたのは、『亜人』だった。
「宝珠の効果が切れたか...ここ数十年、この姿を見せる事は無かったのだがな」
「じ、爺や。その姿は...」
炎を纏ったトカゲの亜人が、そこにはいた。
「サラマンドラという名の、元は火山地帯に生息する魔物でした。進化を経て、亜人となり、この家に仕えさせていただいておりました」
そう話しながらも、ジリジリと距離を詰めてくる。戦意は失っていないらしい。
「なぜ、亜人が亜人に罪を着せようとするんだ!同胞じゃないか」
「私には関係ない。人間として先代領主様に拾われた私にとっては、それに連なる一族こそが全て!それ以外どうなろうとしったことではない!」
男が抜きはなった長剣がカエルに襲い掛かる。カエルは2本の刀を構え、それを受け止めた。
「人を思いやれないなど、狂人じゃないか!」
「狂人大いに結構!」
男の剣尖が何度も煌めく。
なんとか受け止め続けていたカエルであったが、やがて男の剣に焔が纏わりつき始めた辺りから、受け止め切れなくなっていく。
(ドンドン剣の振りが速く、重くなっている!?切り札は、とっておきたかったけど...)
「ベロ!」
「やれやれ。人使いの荒いヌシじゃ」
ヌルリとベロが飛び出し、3本目の刀を握った。それを見て、男は一旦距離を取る。
「珍妙な!3刀流という訳か。だが、我が『炎殺剣』が、その程度の小手先の技で防げると思うなよ」
剣を覆う焔が、徐々に濃く、激しく燃え上がっていく。
「ヌシよ。気をつけろ。あれは単純な《武技》ではないぞ」
ジリジリと睨み合う二人。
「ちょっと待って爺や!ボク、もういいから!亜人が傷ついてるなんて知らなかったんだ!お父様の言う事聞くから、喧嘩は止めて!」
雰囲気に呑まれていたであろう、グリーズが叫ぶ。しかし、グリーズの叫びも、今の彼には届かないようだ。
「坊っちゃま。お言葉ですが、一度出された指示。撤回は出来ませぬぞ。坊っちゃまが、求めた事。最後まで貫き通すのです」
男は、言いながら、カエルへと切りかかってくる。男が剣を振るう度、剣の熱量が、速度が、重さが増していく。
「我が炎殺剣は、相手を殺すまで、その威力を上げ続ける!受けてばかりでは死ぬぞ!」
「丁寧に!ご説明!ありがとう!」
(もっとも、分かったところで、こう狭い場所では、どうしようもない。取り敢えず、拡げる!)
「【ファイアボム】!」
今度は、壁へとふぁいあむボムを撃ち込む。壁には大きな穴が空き、そこから外へとカエルは出た。
「どこへ行こうと言うのか!逃げるつもりか貴様!」
男がそれを追い、飛び出してくる。
(狙い通りだ)
四肢に思い切り力を込める。
「これが私の戦い方なんだ」
ビョッ!と空気を切り裂くような音がする。それと同時にカエルの身体は消える。男には消えたようにしか見えなかった。
「なっ!?」
男の驚愕と同時、背後にカエルが現れ、斬りかかる。
辛うじて剣で男は受け止めるものの、カエルが再び搔き消える。そして今度は脇腹からの斬撃。
「うぐっ!?」
身を捻って男は避けたつもりが、浅くない傷を横っ腹に受けた。
「くそ...やはり実戦から離れ過ぎたか。このスピードに、ついていけんとは」
脇腹を押さえ呻く男。
「勘が戻れば、ついていけたような言い草じゃな。余程腕に自信があると見える。じゃが、もう終いじゃろ?剣を収めて降参せい」
ベロが、男に勧告を行う。
しかし、あろうことか、男は口の端をあげて、ニヤリと笑みを作った。
「フフフ。ハッハッハッハ!...俺よりお前は強い。だが...是非もなし!」
押さえていた脇腹から手を離し、再び男は切りかかってくる。しかし、明らかに精彩を欠いた動きだ。
「なぜ!?なぜ、あなたは降参しない!あの男の子も、もう良いと言っているじゃないか!戦う理由は無いはずだ!」
「...この騒動は、私の死をもって完結するのだ。亜人である私の死をもって!」
「なんだって!?」
再びの斬撃がカエルを襲う。威力、速度ともに、弱い。だがしかし
ピッ!
「ぐっ」
カエルの視界が、赤く染まる。
男の斬撃を繰り出した手の逆手。血に染まった手から、血の飛沫が飛んで来た。
その一瞬の怯みが命取りだった。
カエルは、足をかけられ、なぎ倒される。
「お前も道連れにさせてもらうぞ!」
燃え盛る紅蓮の剣が、轟々と音を立ててカエルへ迫る。
「いかん!」
ベロが刀で止めようとする。が、先程までの比では無い威力を秘めた一撃である事が、ベロの目にも見て取れた。
(止め切れん!)
眼前に染まった紅蓮の刃が、まさに振り下ろされようとした、その瞬間
「コッカース!」
男性の声が響き渡った。
ピタリと『コッカス』と呼ばれた亜人の動きが止まった。
「だ、旦那様...」
素早くカエルは、その場を離れる。どうやらコッカスと呼ばれた亜人からは、戦意が失せたようだ。
声の正体は、領主その人であった。
周囲には、屋敷の主人や、使用人達が騒ぎを聞きつけ、集まっていた。
「コッカス。剣を収めよ」
「旦那様。なぜ...」
「なぜ、亜人のお前を見て分かった、か?分からいでか...何年お前の背中を見てきたと思う。お前の剣の振り、足の運び。私の剣の師はお前だぞ」
ゆっくりと領主は、こちらへ歩みを進める。
「旦那様...私は...」
「みなまで言うな。グリーズ!」
状況を見守っていた子供2人であったが、名を呼ばれた男児がビクリ身体を震わす。
「ま、待ってください。グリーズ様は...!」
アイリスが庇おうとしたのであろう。口を出そうとしたところで、領主の眼光を据えられ、アイリスは言葉を詰まらせた。
「失敬。アイリス嬢。これは我が家の問題である。少々お時間をいただきたい。グリーズ!自分の口から申せ!」
俯いていたグリーズは、おずおずと口を開いた。
「...りょ、領地でけっ、結婚を約束した子が居て、爺やに、この結婚を無かった事に出来ないかって、相談したのです。そしたら...こんな事に...」
話を聞いたところで、領主はフゥと息を吐いた。
「こんなこと...か。まるで他人事だな。コッカスに頼めば、なんでも叶えてくれる。なんでもしてくれる。そう思ってお前は頼んだ。違うか?」
「...違いません」
「コッカスのやり方が行き過ぎる事がある事も知っている筈。違うか!?」
「...ちがっ...ちがい、ません」
嗚咽をあげて、グリーズが泣き出す。
「コッカス。これがお前の教育法か?」
「...これ以外に思い付きませなんだ」
項垂れてコッカスは語り出した。
領主の母。つまりグリーズの祖母を亜人に殺されたのだと言う。
それからと言うもの、祖母に懐いていたグリーズは、コッカスに依存するように、甘え、自身では考えず、努力せず、自堕落な性格になっていったのだと。
心配する様子の領主を見て、亜人であるコッカスは、一計を案じた。
折しも、グリーズから婚約の破断を願われた彼は、自身による暗殺騒動という計画を思い付く。
亜人を憎んでいた領主家の為、領民たちに暴動を起こさせ、亜人への復讐を果たし、その上で憎き亜人である自分も討たれる。という計画だったそうだ。
安易にコッカスに願った、グリーズの目を覚まさせ、尚且つ、仮にも領民である亜人達へ、領主家が復讐を果たす機会を作る。
これが、領主家の為に、コッカスが考えついた復讐劇だったという。
「なんというか、とんでもない男じゃな、このトカゲ」
シュンとコッカスは尻尾を下げて縮こまっていた。と言うのも、彼が説明している最中、何度も領主から怒鳴り散らされ、冷めた目で見られ、ボコボコ殴られたのだ。
「面目無い...」
「まったく。確かに私は、亜人を恨んだ。だが、同時に彼等も領民なのだ。扱いは平等では無いし、今後好きになる事もない。だが、貴重な労働力だ」
領主は、正直な男のようだ。
それが良いか悪いかは別として。
「さて、カエルの亜人。身内の事で迷惑をかけた。もう亜人に手は出さないよう、触れは出しておく。下手人は、亜人を装った、人間という事にもしておこう。これでは不満かね?」
「彼は、どうするんだ?」
コッカスの方を見る。
「コッカスが、まさか亜人だとは思わなかった。私が亜人に対する考え方を変える気は、毛頭無いし、今回仕出かした罪も、償って貰わなければいけない」
スラリと領主は腰の剣を抜く。
「お父様!」
そこへ立ちふさがったのは、グリーズだった。
「グリーズ。そこを退け」
「いいえ!どきません!爺やは、爺やはボクの為にやったんです!ボクが責任を取ります!」
「責任。そうだな。お前が指示した結果だ。お前も死ぬか?」
「坊っちゃま!いけません!下がって下さい!」
目を見開き、グリーズは退く様子をみせない。
「そうか。では、死ね」
領主が真っ直ぐに剣を振り下ろす。
白刃が身を投げ出して、グリーズを庇ったコッカスへ到達するかに思われた。
「やめた」
寸前で白刃は止められ、領主の腰の鞘へと戻った。
「領主様、なぜ?」
唖然とするコッカス。
「沙汰を申しわたす!コッカス!お前を家令より外し、放逐する!」
居住まいを直し、頭を下げ、沙汰を受けるコッカス。
「そして、お前を、この街の貧民街の専属冒険者に任命する!死ぬまでこの街で、罪を償い続けるのだ!」
「!?領主様!それでは罰にはなりませぬ!」
「コッカス。私の決定に、何か不満でも?」
静かだが、怒気を込めた言葉に、コッカスは怯む。
「...ございませぬ」
「よろしい。では、今すぐ発て」
「はっ!...旦那様。お世話になりました」
脇腹の傷を押さえ、コッカスは、門へと向けて歩き出した。
(なんともやりきれない結末だ)
カエルがそう思っていると、領主へ、街の総督がなにかを渡した。それを領主は、コッカスへ向け投げ、コッカスの前に、袋がドチャッと音を立てて落ちた。
「お前に依頼だ。コッカスという『人間』が居た。我が家の優秀な家令だった男だ。そいつを探し出して、その金を渡して、そして、伝えてくれ。親父から3代、世話になった。感謝している、と」
コッカスは、袋を手に取り、泣いていた。
「あと、息子のことだが、私が直々にお前の倍は扱き倒して、性根を叩き直すつもりだ。安心してくれ!とも付け足しておいてくれよ」
グリーズは驚いていたが、やがて笑顔を見せた。父親と共に居られると思ったのだろう。
振り返ったコッカスは、目に涙を浮かべながら「それは、将来が楽しみですな」と言って、門の外へと出て行った。
「さて、事態を収束させるか。各所へ伝達!今回の騒動は、亜人に扮した人間が起こしたものである!亜人への攻撃を即刻中止せよ!と。また、貧民街にも、今回の騒動の被害を補填すると伝えよ。住居、店舗には同額の金銭。人命や怪我であれば、働けない期間の給料分を補填、上乗せする、と。総督。頼む」
「はっ!畏まりました」
総督は敬礼し、部下とともに散って行った。
「アイリス嬢。この度は申し訳ない事をした。許してほしい」
頭を下げる領主に対して、アイリスは微笑む。
「いいえ。とんでもございません。わたくし、今回の騒動で確信しました。グリーズ様の妻は、わたくししか務まりません」
ギョッとグリーズと領主が目を見開く。
「グリーズ様、頼りないのですもの。わたくしくらいしか手綱を引き締められる妻はいませんわ」
変わらぬ笑みをたたえるアイリスに、領主はハッハッハと笑って応えた。
「どうやらそのようですな。グリーズ!お前に、それ以外の選択肢は無い!今度は逃げられんぞ」
グリーズも、苦笑いしてアイリスを見ていた。彼にも、きっと将来が見えたに違いない。尻に敷かれている、自分の姿が。
(一応は、これでこの騒動は終わったかな)
一息吐いたカエルに、領主が歩み寄ってくる。
「さて、カエルと言ったかな?君は、相当な腕と見受けた。君に依頼を受けて貰いたい」
「どんな依頼ですか?」
「この街の酒場に依頼を出しておく。詳しくはそこで。明日の正午、依頼を受けてもらう残りの3人が待っているはずだ」
そういうと、ヒラヒラと手を振って去って行った。
「ヌシよ。依頼を受けるつもりか?」
「うん。まあ依頼されたらね。それに領主様と繋がれるなら、繋がっておいた方が、いいと思うし」
「やれやれ。また死にかけたというのに、呑気なことじゃ」
呆れるように、ベロが口の中へと戻っていく。
カエルには、予感があった。何か、新しい何かが始まりそうな予感が!




