初めてのパーティ
「ゲロゲロッ」
穴から顔を出し、朝日を拝む。
昨夜は、アッシュ邸の軒先に、魔法で穴を掘り寝させてもらったのが昨夜のことだ。
「...ヌシ。なにゆえ今鳴いた?」
「いや、たまには鳴いておかないと、なんか自分がカエルって忘れそうで」
二足歩行になったせいか、人間に馴染みすぎて困る。
「...穴ぐらで寝る人間は、おらんじゃろ?ほれ、周りを見てみぃ」
「周り?」
周りを見てみると、住民たちが、驚いた顔でコチラを見ていた。
突然大きなカエルの亜人が顔を出してゲロゲロ言うものだから、当然衆目の視線は集まる。
「...失礼しました」
周囲に頭を下げて回る。
「お前は何をしてるんだ?」
後ろから声がしたため振り返ると、アッシュが立っていた。
「人の家の前で、あまり騒ぎは起こして欲しく無いな...それはさておき、昨日の約束を果たそうか」
昨日、お礼をしたい、と言うアッシュに甘えて、酒場で仕事の依頼の斡旋をして欲しいとお願いした。
登録したての冒険者には、簡単な依頼しか回っては来ない。
だが、例外は存在する。
高位の冒険者からの紹介である。
飛び級的に、実力に見合った依頼を受け、達成すれば、依頼に見合った実力の冒険者であると認められるのである。
「よろしく。早速今からいいかな?」
「あぁ。構わん。行こう。ヒルダ行ってくる!」
「行ってらっしゃいアナタ!」
ヒルダを抱き寄せ口付けするアッシュ。ヒルダも「もう、朝からやめてよ」と言いながらも、悪い感情は抱いていないようだ。
(穴ぐらで寝て正解だったようだ)
10年の時間を昨夜埋めたのだろう。
2人の首元には赤い印がついていた。
アッシュを伴って、酒場に入る。
筆頭冒険者だけあり、アッシュは自然と視線を集めた。オマケに、カエルも横に並んで歩いているのだ。
「おいおいまさか、アッシュさん、あの亜人とチーム組んだのか?」
「いや、そりゃないだろ。一匹狼のアッシュさんが」
「でも、昨日の騒動もあるしな」
と、周囲がヒソヒソと話している。
2人は、その喧騒の中を酒場の主人の前まで進みでた。
「マスター。今ある依頼で、1番難しい依頼を、このカエルに受けさせたい。何か無いか?」
その瞬間、周囲のザワつきは最高潮に達した。
「おいおいアッシュさん正気か?」
「幾ら実力者でも、ルーキーだぜ」
「ワンハンドも着いて行くんじゃない?」
周囲が静寂になるのを待つように、酒場の主人は、ゴソゴソと依頼を探す。
「一番難しい依頼、か。今あるのは、中級上位の依頼くらいしかないな。しかも、パーティ単位の依頼だ」
「パーティ単位っていうのは?」
カエルが疑問を口にする。
「パーティじゃないと受けられない依頼さ。筆頭のオレなら特例で受けられるが、今のアンタじゃ、受けられないな」
「...そうか」
カエルがガックリと肩を落とす。
「...もう一個下の依頼にするか?一個下だと中級下位まで落ちるが」
カエルは顔を上げる。
下級下位であるカエルには、中級下位でも、十分な飛び級である。
「じゃあ、それで...」
とその時、酒場の床にトトトッと足音が響き渡った。
「ちょーっと待ったー!!その依頼!!アタシが受ける受ける!」
やたらと元気そうな女性が、私達の間に割り込んだ。見ると、アッシュの事について、色々と教えてくれた女性冒険者だった。
「...ココットか。中級下位の依頼は、中級上位のお前達には簡単過ぎるだろ?今は、この亜人に話してんだ。大人しくしてな」
酒場の主人が、シッシッと手でココットと呼ばれた女性を追い払おうとする。
「チッチッチッチッ...」
ニヤニヤと笑いながら、指を振るココット。
「アタシが言ってるのは一つ前の依頼さっ!パーティで受けるんだよね!!そこのカエルさん入れて、アタシのパーティで受けるって言ってんの!」
その言葉に、ギョッとしたのは、アッシュと私、それに酒場の主人。だが、それ以上に周囲が騒ぎ出す。
「あっ!!ココットてめぇ!しれっと勧誘する気だろう!」
「きたねぇぞ!抜け駆けか!」
「ルール違反だぞ!横暴だぞ!本人の意思を無視して決めてるじゃねぇか!」
ギャーギャーと周囲が騒ぐ中、短いスカートを翻して、ココットがクルリとカエルに振り向く。
「カエルさん!いいでしょっ!?アッシュさんの件もあるしさっ!」
頬に指を当て、首をかしげる仕草をするココット。どうやら、自身の容姿に自信があるのか、それとも天然なのか。
「コイツは天然だよ」
心を読んだように、アッシュが横合いから声を掛けてくる。
「オレも何度か、無理矢理言いくるめられて、パーティを組んだ経験がある...」
遠い目をしながら、アッシュが言う。何があったんだアッシュ...。
「まあ、別に私は困らないから良いよ。よろしく」
「ウッソだろオイ...」
「男だったら必ず入りたいチームNo. 1だぜ...」
「あの野郎、羨ましいな」
「いや、待て。メスの可能性が...」
周囲が好き勝手に言っているのを尻目に、ココットは、カエルの腕を引っ張り連れて行く。
「頑張れよ...色々世話になった」
そうアッシュは背中越しに言った。
「頑張るよ。奥さんと仲良くね」
互いに背中越しに手を挙げ、挨拶を交わす。
(彼とも色々あったけど、良い出会いだった)
腕を引っ張られて行った先に、4人がけの机がある。
黙々と肉を貪っている女性と、こちらを向いて、頬杖をついて笑っている女性。どうやら、この2人がパーティのメンバーらしい。
「紹介するねっ!まず、手前のニヤニヤした気味悪いのが、アヴァ。腕利きのスカウト。武器は弓と短剣。役割は斥候と、罠の解除なんかをやってくれてる」
『アヴァ』と呼ばれた女性は、にこやかにコチラに手を振ってくる。
「どーも。ココットに捕まるなんて、災難ね亜人さん。アナタ凄い腕だって聞いたし、楽しみだわ」
「続きましてー!こっちも見ずに、お肉に食らいついてる子が、マデリン。小柄だけど、ウチの自慢のディフェンダー。武器は、シミターと短剣の二刀流。あんまり喋らない子だけど、仲良くしてあげてね」
マデリンと呼ばれた小さな女性は、チラリとコチラを見ると、一言だけ「ヨロシク」と告げ、肉に再度かぶりついた。
「そっしってっ!大トリは私!世紀の美少女ココットちゃん!職業は、アルケミスト!武器は錫杖!薬作ったり、ちょっとだけ魔法使ったりしまーす!」
カエルはココットをマジマジと見る。
「...世紀の美少女?」
たしかに容姿は整っているし、黙っていれば、間違いなく美少女なのだが、自ら言うと...。
「あー...ほっといてあげて。この娘病気なの。目の。鏡が歪んで見えるの」
「アヴァったら、ひっどーい!美少女なのは本当なんだから、いいじゃん!」
側で聞いていたであろうマデリンは、黙々と肉を食っていた手を離し「寝言は寝て言え」と小声で呟いて、また肉にかぶりついた。
(騒がしいけど、仲の良いパーティのようだ)
「私はカエル。最近、魔物から進化して亜人になりました。刀を3本使い始めたけれど、魔法の方が得意かな?上級魔法を何種類か使えるよ。あとは、相棒として舌のベロが居る」
ヌルっとベロが顔を出す。
「ワシが蠱毒の城の主!ベル=ゼブb..」
また騒ぎになっては困るので、慌ててベロをカエルは、しまい込んだ。3人娘の頭上にはてなマークが浮かぶ。
「えー...まあ、変な事たまに言うけど、害は無いから大丈夫」
「なんか気になる事言ってたような気がするけど..まあ良いや。それより、上級魔法使えるって凄いね。刀も使えるんだし、アッシュさんみたいに、1人で依頼こなせるんじゃないの?」
「アヴァちゃん。冒険者は、そう甘いものじゃ無いよ。特に今回の依頼はねっ!」
バシッと、机の上に紙をココットが叩きつけた。
「正に私達向けの依頼。『新しく発見された遺跡の調査』だよっ!」
フンっと鼻息を吹いて、ココットが胸を張る。
「なるほどね。たしかに、それは幾ら実力者でも、初心者1人じゃ無理だわ」
「どういうことなんだい?」
息巻いているココットでは無く、話の分かりそうなアヴァに話を振る。
「遺跡の調査依頼は...」
とアヴァが説明しようとしたところで、ココットがグイッと身体を割り込ませてくる。
「未調査の遺跡!!それはっ!罠への対処と、知識が試される場所!!知恵と勇気と機転が必要なのよっ!!」
「勇気担当っ!マデリン!」
横目で見て、ヒラヒラとマデリンは手を振る。
「機転担当っ!アヴァ!」
ハァ、と溜息を吐いてアヴァが手を上げる。
「そして知恵担当っ!私っ!」
再度反り返るように胸を張るココット。
「...失礼かも知れないけれど、ココットは本当に知恵担当なの?」
ボソッと、小声でアヴァに耳打ちする。
「アレでもあの娘、本職は有名な学者なの。物好きで冒険者やってるけど。いわゆる天才よ」
そう言われているのを、知ってか知らずか、更に胸を反り返らせココットは威張る。20歳前後の女性が、有名な学者になるのは苦労もあったろう。
「では、この依頼は君達には、丁度良い依頼だったわけだ。是非私も共に加えてください」
そう言ってカエルは頭を下げた。
「かったーい!かたいかたい!『よろピコ!』くらいでいいよっ!」
「よろしくねカエルさん」
「よろ」
三者三様の挨拶を受け、カエル達は酒場の一室を借りた。今回の依頼の内容を話し合う為に。
「まず目的地は、山脈地帯の山間、この地点。最近頻発してるオークの目撃情報を元に、討伐に行ったパーティが、遺跡を見つけたみたい。中にオークが入るのを見たって情報も有ったから、巣になってるかもね」
真面目にココットが話す。流石にリーダーとしてやっているだけあって、こういう場では、真面目なようだ。
「準備が終わったら、直ぐに出立して、道中一晩野営。その後、遺跡へ突入するよ。各自準備は1時間程度。準備が出来たら、酒場前に集合ね」
ガタッと各自が立ち上がり、準備に向かう。
何をしたらいいのか分からないまま、カエルは椅子に座ったまま呆然としていた。
(これが冒険者か)
そう思っていると、ココットが慌てた様子で戻ってくる。
「ごーめんごめん!カエルさん初めてだったよね。アタシ着いて行くから、一緒に準備に行こう」
「ああ。よろしく」
ガタッとカエルは椅子から立ち上がる。
(これから、私の初めての冒険が始まるのだ。ワクワクするな)
最初に連れてこられた場所は、防具屋だった。
(なるほど、まずは防御からか。この皮膚があるから失念していたな)
そう思っていると、ココットが1着の布の服を持って走って来た。
「とりあえず、コレ。着よっか?それ...多分裸だよね?」
自分の姿を見る。
(確かに...)
蠱毒の城から駆け続け、冒険者登録なりして来たが、今は『亜人』なのだ。服と言うものを着なければならなかった。
ココットのあつらえた物は、簡素だが、質が良く、不思議としっくり来た。服と言うものに慣れないせいか、若干の違和感はあるが、慣れるだろう。
「ありがとうココット」
「ううん。こっちも無理やり誘うような形だったしねっ!それ、プレゼント。美少女からのプレゼントなんだから、大事にしてよね!」
どうやら、気にしていたらしい。
心配りの出来る女性のようだ。
「あぁ。これに恥じない働きをさせて貰うよ」
ウンウンとココットは満足気に笑う。
「武器はあるみたいだし、薬の類はアタシが持ってるから良いかな。その背中の風呂敷に入れておくね。さってっとっ!これで良いかな。準備万端。ちょっち早いけど、酒場前に行こっか」
「あぁ。色々迷惑かけると思うけど、ヨロシクねリーダーさん」
途端、ココットは目を輝かせてコチラを見る。
「リーダー!?ウチのチームに入ってくれる気になった!?まだパーティメンバーの3人だけなんだけど、大きくする予定なんだ!」
「いや、またそれは別の話だよ」
ココットは「チェッ」と膨れっ面になってしまった。
「色んな人とパーティを組んで、色んな人と会ってみたいから、もう少し考えさせてもらうよ」
「まっ、仕方ないかっ!1番最初がアタシ達で良かったって思わせてあげる!これ以上無いってくらいにね!」
バチンッと音が鳴る程のウィンクをココットはする。確かに、この娘と旅をしても楽しそうだ。
「楽しみにしてるよ」
「じゃあ行こっかっ!」
「うん」
カエル達は歩き始めた。
ココットは、新しい出逢いに。
カエルは初めての冒険に。
それぞれ胸を高鳴らせて。




