↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
2章 仲間との出会い
42/68

除去


「まず舌を入れる」


「そうか。舌を...なにぃっ!?」


始まりは驚愕からだった。




カエルの亜人に、どうやってヒルダを元に戻すのか、と聞いたところ、先程の突拍子も無い答えが返ってきたのだ。


「ど、どういう事か説明してくれるか?」


「うん。それにはまず、僕とベロの話を聞いてほしい。ちなみにベロっていうのは、僕の相棒の名前だよ」


カエルが、そう告げると、口の中から舌が出て来て「耳の穴かっぽじって聞くんじゃぞ人間」と年寄り臭く言ってくる。



曰く、カエルには蟲を殺す能力がある事。そして、オレも知っている『魂食い』の正体は、一種の蟲なのだと言う。



「ワシも気付かなんだ。例の死体を前にカエルと会話して、魂食いとは何なのか?と尋ねられ、一種の寄生虫なのだ、と説明したのじゃ」


舌が器用に動きながら喋る。


「うん。蟲なら、私の能力でなんとかなるんじゃないかって思ったんだ。一種の賭けなんだけどね。これで、何ともならなかったら、ごめんなさい」


カエルはそう言うと頭を下げる。


「おい!さっきまでの自信に満ち溢れた姿は何だったんだ!確証は無かったのか!」


「無いです」


オレはガックリと肩を落とした。

なぜコイツを信じようと思ったのか。


「でも、上手く行く気がするんだ。魂食いが、魂を喰らうには、弱らせた上で、粘膜に接触する事が条件だって聞いた。つまり、物理的な何かが、体内に居るのは間違いない」


「うむ。その通りじゃ。仮に蟲で無かったとしても、対処法はあるぞぃ」


(な、なんなんだ)

落胆させたり、希望を抱かせたり、忙しい奴らだ。


「どうするつもりなんだ?」


「うむ。そこで会話が戻る訳じゃが、ワシ、つまりカエルの舌を、ヒルダとやらの中に侵入させる。ただ、この大きさでは体内で活動出来ん。そこで、魔法で極めて細く、長く形状を変化させる。そして、中に潜む魔物を捕捉し、引き摺り出し、捕食するのじゃ」


「しかし...体内と言っても、どこに居るか分からないんじゃないか?広いぞ」


それを聞き、カエルの舌がふんぞり返る。


「小僧。ワシを誰じゃと思うておる。姿形は変われど、 魔力の流れくらいは追えるわい。どんな微弱な魔力でも、見つけ出してくれるわ」


「...確か、ベル=ゼブブだったか。頼もしい限りだな」


オレは、ため息混じりに言う。


「貴様!信じとらんな!今に見ておれ!このカエルの身体を乗っ取った暁には、最初に貴様を超級魔法で粉々に砕いてやるからな!」


「はいはい。そこまでだよ ベロ。じゃあ、実際の方法について話し合おう」



◆



(隙が無い)


あの手練れの男「アッシュ」の妻になり変わって、数ヶ月が過ぎようとしていた。妻ならば、相応の隙を見せるかと、女の身体を乗っ取ったものの、奴は隙を見せない。


次第に焦りが生まれて来た。


(もしや、自分が成り代わっているのが、バレているんじゃないか)


そう思う事さえある。


なにせあの男、性交渉の最中にさえ隙を見せないのだ。むしろ眼光の鋭さに磨きがかかっている風にさえ見える。



(潮時か。他の者に移り替え、別のターゲットに切り替えるべきだろう)


そんな事を考えていた時だ。突然見知らぬ亜人が来た。


亜人は、アッシュの友人を名乗った。自分と取り留めない会話を2、3するだけで、何ということはない。



暫くすると、アッシュが帰って来て、2人は何処かへ行ってしまった。


「ふぅ。人間の女房の振りってのも疲れるな」



魂食いに性別は無い。

繁殖するには、魂を食い、分体を生み出す事で繁殖するのだ。


特に苦労するのは、人間の身体を奪って過ごす事だ。言語でのコミュニケーション、記憶、言動、行動。全てに気を使わなければならない。


「割に合わないが、あの男の肉体を手に入れるには、仕方ない手間...だったが、ここまで困難になるとはな」



(『乗り捨て』るか)


我々魂食いは、衰弱した対象の肉体に寄生し、その肉体を修復したのちに、自らの支配下に置く。


次の寄生先へ移る際に、元の肉体の魔力、生命力を大幅に消費する為、寄生元の生物は命を絶たれる。




ただ、要らぬ肉体は、生命力と魔力だけを抜き取る方法もある。身体を支配するにも、消費する物だ。必然補充する必要がある。


そうして我々は生きて行くしかないのだ。寄生元の肉体は、より強者であれば尚良い。


アッシュは、その点絶好の獲物だったが。



ギイイィッ



『ヒルダ』が思考を巡らせていると、再び古い扉を開く音がした。


(おっと旦那様のお帰りだ)



「おかえりなさいアナタ!早かったのね。お話は出来たの?」


アッシュは、軽く笑みを見せ、こちらに歩いて来る。彼の日課というべきか、帰ると体を抱きしめて来る。夫婦というものは、分からんものだ。


ガッシィ!!


「...へっ?」


つい間抜けな声が出てしまった。

いつもの抱擁とは違う。後ろから羽交い締めにされたのだ。


「アナタ?ど、どうしたの?」


答えを聞く間もなく、開いたままの扉から、先程のカエルの亜人が入って来て、目の前に立った。


「あのー...これは一体?」


巨体を誇る2人に囲まれ、若干の冷や汗が出る。だが、姿形、記憶。自分の正体がバレる要素はない「はず」だ。



「今から舌を入れます」


亜人が驚愕の一言を言い放った。


「...も、もう一度言ってもらえます?」


「舌。舌を入れる。あなたに」


この亜人、頭がおかしい。


「アナタ。なんとか言ってくださる?この方、こんな事を言っているんだけども」


アッシュは天井を仰いだまま、身じろぎひとつしない。



「相手が悪かったのう。この蟲の王ベル=ゼブブ相手に、隠れ通せると思わぬ事だ。ゆくぞカエル!」


「【メタモーフ】!」


カエルの舌が喋った事にも驚いたが、突然その舌が、消え失せた。


否。極端に細くなり、ヒルダの耳へと、シュルシュルと入っていってしまった。


ゾゾゾゾッ


途端、ヒルダの肉体に怖気が走る。

体の中を、何かが這い回る感覚がする。


「んぐううぅっ!?」



◆



「おい。本当に大丈夫なんだろうな」


「「たぶん」」


ベロとカエルが答える。


「...頼りないな」


ベロが、ヒルダの体から『魂食い』を引きずり出してから、10分ほど経った。


魔力を頼りに、魂食いを探したベロは、大脳の辺りに寄生している魂食いを見事に補足し、カエルの口まで戻ってきた。


そこまでは良かったのだが、肝心のヒルダが目を覚まさない。


「ベロ。元に戻るよね?」


「理論上はな。魂食いは、寄生主の体を治して乗っ取る。寄生蟲が居なくなれば、健康な肉体だけが残るはずじゃ」



その時、ピクリとヒルダの体が動いた。


「ヒルダ!!俺が分かるか!?ヒルダ!」


「う、うーん...あら?アナタ!?どうしたの!?そんなにやつれて!...それに老けたわね。そんなんじゃ女にモテないわよ」


((別人じゃないか))


カエルとベロは絶句した。

魂食いに寄生されていた頃の彼女は、おしとやかな笑顔の絶えない女性だった。


「ヒルダ!本物のヒルダだ...」


「まーた泣いちゃって。仕方ない人ね。10歳上のお兄さんなんだから、しっかりしてよね」


目に涙を浮かべ、感慨に浸っている様子のアッシュをみると、どうも元はこういうキツイ感じの女性らしい。


「それより、そこの亜人は何なの?あまり変なの入れると、ご近所さんの評判落ちちゃうわよ」



話を聞くに、彼女には病気だった頃の記憶が無いらしい。アッシュが、空白の10年を彼女に説明し、私が魂食いを食べた事を告げると、とても驚いた様子だった。


「ごめんなさい。そうとは知らず。失礼しました。アッシュの妻のヒルダです。助けてくださってありがとうございます」


「いえ、いいんです。私も保身の為ですから。これでアナタの旦那から逃げずに済むよ」


アッシュはカエルへ向き直り

「すまなかった。全て君のお陰だ。オレの罪が消える訳じゃないが、これからも街に貢献し続ける事で、街へのせめてもの罪滅ぼしにするよ。君個人にも礼をしたい」


と、深々と頭を下げた。


「ううん。構わない。ところで、今夜泊まるところが無いんだけど、君の家に泊めて欲しいんだ。いいかな?」


「もちろんだ。ベッドを使ってくれてもいい。オレたちは床で寝るから」


カエルは首を振って応える。


「いや、結構。軒先を借りるよ」


「「軒先?」」


ヒルダとアッシュが同時に首をかしげる。




「綺麗な満月だ」


カエルは穴から顔を出して月を見る。アッシュ邸の軒先に3メートルほどの穴を掘り、そこで寝ているのだ。


アッシュには「本気か?」と言われたが、999度もふつうのカエルとして過ごしてきたせいか、ベッドの上というのは、どうも落ち着かない。



「しかし、ヌシも面倒な事をしたものじゃ。皆消し炭にしてしまえば、証拠も残らず、一件落着。じゃったのにのう」


カエルは考え込む。見方を変えれば、ベロの言う方法も悪くは無い。強者の選択というやつだろう。


しかし、カエルに『思考』というものが芽生えてから、どうにも感情論的な選択に終始してしまっている気がする。


(誰かの意思によって、そうされているのだろうか?)


そう思わなくも無い。


(でも...)


「これでいいんだよ。誰も傷つかなかった。それでいいじゃないか?」


ベロはやれやれといった風に舌を左右に動かす。


「甘ちゃんじゃな。...だが、成し遂げた事は賞賛に値するじゃろう。よくやったな」


そういうと、スルスルと口の中にベロは戻っていってしまった。


「..フフフ。初めて褒められたな」


カエルは、そう言うと、月明かりの届かない穴の中に入り、瞼を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。