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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
2章 仲間との出会い
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刀と鉄塊


「酷い目にあった...」


カエルは溜息を吐きながら、路地裏を歩いていた。


「あんな有象無象ども、数だけだったのじゃから、サッサと蹴散らしてやれば良かったんじゃ」


酒場で黙らされていたせいか、ベロは先程から、饒舌に説教を垂れてくる。


「これから冒険者としてやっていくんだから、蹴散らすはないでしょう」




時は、酒場まで遡る。


酒場で『ワンハンド』と別れたカエルは、酒場の床が地響きのように揺れるのを感じた。


周囲をみると、椅子に座っていた冒険者数十人が、椅子を立った勢いで倒し、コチラに向かって砂糖に群がる蟻のように駆けてくる。


ガッシリと数人の屈強な冒険者達が、カエルの肩を掴み、逃すつもりがない事が分かる。


敵意が見えないだけに、カエルは困惑した。


そして屈強な冒険者の1人が

「おいテメェッ!!」と怒気の混じったような声をあげた時に、カエルは流石に身構えた。


「冒険者じゃないんだなっ!?

今から登録しようってんだなっ!?職は!?」

と、その男は叫ぶように言った。


周囲が一瞬シンと静まり返る。



「...うん。職っていうのは、わからないけれど、魔法と刀が使えるよ。登録って?」


カエルは、ガタイに似合わない、おずおずとした様子で応える。すると周囲の者達は顔を見合わせた。



(コイツは掘り出し物だ!)


周囲の者達の共通認識は、それだった。街の筆頭冒険者である、ワンハンドをして、実力者であると言わしめた者が、あろうことか未登録。


パーティメンバーが必要だったチームの者達にとっては、魔法と刀が使えるというハイブリッドな人員は、喉から手が出るほど欲しかった。


あれよあれよと、登録方法を四方八方から教えられた上、登録チーム欄に書く名前を巡って、大混乱が起こった。


「俺が一番に声かけたんだ!」

「いいや!刀使いならウチが似合う」

「あり得ない!魔法使いならウチだろ」

「トカゲもカエルも好きだよアタシ!」


と、揉みくちゃにされた挙句、書いた書類を、何度も書き直すハメになり、最終的に酒場のマスターに追い出された。


登録は済んだが、チームは未所属のままだ。


ほとぼりが冷めたら、掲示板に貼り出される街の人間からの依頼というのを、コッソリ見てみようと思う。



疲れ切った顔をして路地裏を歩いていると、不潔な格好をした人間が寝転がっている。


浮浪者だろうか。



...おかしい。石畳の上で、ピクリとも動かない。何よりおかしいのが、ニオイだ。


独特の匂い。これは...


「死臭。じゃな」


ベロがヌルッと口から顔を出す。

やはり、死体か。


近寄ってみる。


やはり元は浮浪者だった者のようだ。服はボロキレを纏い、片足は無い。働き口が無く、このような姿をしているのだろうか?



死体の状態を見ると、痩せてはいるが、綺麗な顔色をしている。死んでいるとは思えないくらいに。


「妙じゃな。魔術でも、これほど綺麗に死体は残せない。ワシであれば、複数属性の魔法で可能じゃが、ワシ程の使い手は、まず居ないじゃろ」


さり気なく自慢してくるベロ。


「これは『魂食い』かもしれぬ」


「魂食い?なんなんだいそれは?」


ベロはウネウネ動きながら、少し考え込んだ後で、告げる。


「知らぬのも無理はない。一般的にはあまり知られていない種族だ。生きとし生けるものの魂を喰らい、その者の姿や、力量、果ては使える魔法まで真似られる希少な『魔物』じゃな」


「...そういうのも居るのか。じゃあ、強い者を食べれば、凄く強くなれるんじゃない?」


「うむ。じゃが、魂を喰らうにも条件がいる。魂を喰える程に弱らせる必要があるということじゃ。相手が強者であればあるほど難しいじゃろ?」


なるほど。ドラゴンや大型の魔物が弱る事は、そうそう無い。人間は徒党を組んでいるし、化けても言動や行動でバレてしまう確率も高いだろう。


「それに、死体はこうして残る。ただし、存在が珍しい上、滅多に魂を喰らう必要は無い。判明しづらくはあるな」


化ける魔物か。仲間が居たら、疑ってしまうかもしれない。


「どうしよう。酒場に報告に行こうか?それとも街の衛兵?」


ベロは考える素振りを見せる。


「通常であれば、殺人行為となる。街の衛兵の担当じゃろう。しかし、ヌシは亜人じゃ。報告すれば、面倒な事になるやもしれぬ」


「じゃあ、酒場に報告に行こうか。あそこなら、そこまで偏見はないでしょう?」


「うーむ。見て見ぬ振りをするのが一番じゃと思うが、まあ良い。酒場に行くべきじゃろうな」



死体の状態の確認を終え、狭い路地の後ろを振り向く。そこには、1人の男がいた。巨体。放たれる威圧感。


この街で一番強い者 『筆頭』

その看板を背負う男が立っていた。


「...お前がその者を殺したのか?」


ワンハンドのアッシュと呼ばれる強者は、殺気を込めて尋ねてくる。


「違う。落ち着いてくれ。私は、入った路地で、たまたま死体を見つけただけなんだ。死体を見て貰えば分かる。私は殺してはいない」


「いや、お前は殺してはいないかもしれない。だが、その口の中の者はどうだ?魔物ならば、そういった芸当も可能な筈」


ビョンッとベロが口から飛び出す。


「貴様!ワシが、人間風情をわざわざ手にかけるわけあるか!ワシは蠱毒の城の主、ベル=ゼブブであるぞ!」


「バ、バカッ!」

堂々と大物の名を名乗るベロに、カエルは焦った。その名は、この国の人間たちにとっては、恐怖の象徴であるのだ。


ピクリ、とアッシュの体が反応する


「ベル=ゼブブだと?その舌がか?面白い冗談だ...

だが、そんな話を聞くと、余計に野放しにする訳にはいかなくなった」


突如、鳥肌が立つほどの殺気が充満する。見れば、アッシュは背中に背負った『鉄塊』としか呼べぬほどの大剣を片手でスラリと抜いている。



「許せよ。期待のルーキー。お前はココで殺す」


アッシュは正眼の構えをとった。


「待ってくれ。本当に何もしていないんだ!信じてくれ!酒場でも、あなたは争いを止めたじゃないか!」


カエルの説得にも、アッシュは応じる気配は無い。


「どちらにせよ、お前をココで帰すわけにはいかない」


ジリジリと間合いを詰めてくる。


「...そうか。分かったぞ!貴様が『魂食い』

下手人じゃろ!!」


「...なに?」

アッシュが歩みを止める。


「この何も無い路地裏で、たまたまヌシが通りかかったとは思えん。死体を片付ける為に舞い戻ったと考えれば自然。報告されては不味いから、ワシらを消すつもりじゃろう!」


何を言うでも無く、表情一つ変える事なく、アッシュは立っていた。先程までの殺気は消えている。そして


「...だとしたら、どうなんだ?」


と、驚くべき一言が出た。


「お前達は他所者。オレはこの街の筆頭冒険者。オレと、お前達の証言。どちらが、信じられるかな?」



考えてみれば、魂食いが活動するには、アッシュの体は動きが取りやすい。この街の筆頭で、独りで行動している。名声も有り、信用も有る。まさか、街の筆頭が、魔物にすり替わっているとは、誰も思うまい。


「すると、あなたがこの男を殺したのか?何のために?」


暫しの沈黙が場を包む。


「食事と一緒さ。食べないと生きられない。だったら食べる。そうだろう?」


再び溢れ出す殺気。来る!


数歩分はあった間合いを一気に詰め、アッシュは鉄塊を振り下ろす。カエルは、二振りの刀を抜き、それを受け止めた。


(片手で、なんという重い斬撃だ)


二本の腕で、今にも押し潰されそうな膂力に耐える。だが、カエル自身は耐えるだけで良い。


カエルの腰から、3本目の刀が抜かれる。ベロが、アッシュの胴を断ち切らんと刀を抜きはなったのだ。


ガギンッ!


しかし、ベロの抜いた刀は、アッシュの足に踏みつけられ、地面に押さえ付けられる。


「汚い戦い方でスマンな!これが、オレの、 流儀なんだっ!」


アッシュは片足で刀を踏み付けつつ、もう片方の足で蹴りを放って来る。身動きの取れないカエルに、蹴りがマトモに突き刺さる。


(グッ!)


カエルの硬い皮膚をして、臓物に響く程の衝撃。恐らく、レガースに鋼板でも仕込んでいるのだろう。


カエルは、押さえ付けられた刀を置いたまま、壁へと飛び退いた。


「厄介だな。硬い皮膚に、オマケに壁にまで張り付けるのか。亜人ってのはつくづく冒険者向きだと思うよ。だがっ!人間の知恵もバカにしたもんじゃないぜ!」


アッシュの腰袋から、何かが投げられた。丸い塊。認識出来た時には、ソレは破裂していた。


凄まじい轟音と振動と共に。


ドゴッ!!


カエルの視界がグラリと揺れる。


轟音が耳介を通じて、激しく鼓膜と脳を揺さぶった。張り付いていた足の粘着力が剥がれ、カエルは地面へと落下して行く。


「貰った!」

アッシュの鉄塊が、カエル目掛け、振り下ろされた。

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