目覚め
ピィッピィッ!!
小鳥達が朝焼けを浴びて鳴く。
この大きな廃墟には、外敵が一切居ない。誰も近寄ろうとしないからだ。
鳥のほかにも野生の小動物達が、子を成したり、巣を作ったりしている。この鏡ばりの部屋も、例外では無い。
真ん中には、虹色に輝く皮膚を持つ何かがゴロリと転がっているだけだ。
最初、動物達は、その物体を怖がって、近付かなかった。だが、やがて無害である事を知ると、逆にその周りに巣を作り始めた。
今日も、小鳥達は元気に鳴き、絶好の『遊び相手』と遊び始めた。
◆
「...ろ!!....やめ...!...しい!...めろ!やめんか!やめてちょーだい!いい加減起きろ!いつまで寝とるつもりじゃー!」
(...朝からうるさいな)
モゾモゾとカエルは意識が戻るのを感じた。ハエの王を倒してから、どれくらい寝ていたのだろう?
カエルはユックリと目を開ける。
声の主を探すべく、スクリと立ち上がり、大きく伸びをする。
「ふぁーぁ.... ...ん!?」
いつものようにアクビをしようとした。そこで気付いたのだ。声が、声が出ている事に!
「な、なんだこれは!どうして声が!...ゔぇええっ!?」
それだけではない。目覚めた後、カエルはスクッと立ち上がっていた。そこには『2本足』で、という言葉が付く。
「な、なんだ!一体どうした!?ハエの王が妙な技を使って...それで意識が消え...そのせいか!?」
カエルは前足『だった』物と足をワタワタ動かしながら、慌てていると
「ちっとは落ち着け。みっともない。それでもワシを倒した者か!堂々としとらんか!」
何者かに叱られ、思わずカエルは「はいっ!」と声を挙げた。
そしてシーンと静寂が訪れる。
「...だ、誰の声だ...?」
キョロキョロと周りを見渡す。
驚いた動物達が、離れて遠巻きに見つめているくらいで、他には人っ子一人居ない。
「..すいませーんどなたか居ませんか?」
カエルは小声で声をかけた。
「おるぞ」
すると間近から声が聞こえる。
「!?ど、どこだ!」
バッ!バッ!とカエルは360度周囲を見る。
しかし、誰もいない。
「落ち着けぃ!思い出せ。ヌシは最後、誰と闘い、どうなったのかを」
(...私はハエの王と闘い...そして呑み込もうと...その後ハエの王が光って...体を乗っ取ったと...)
ハッ、としてカエルは体を見る。
手!動く!?足!動く!
(...なんだ?無事じゃないか)
(舌もこの通りビローン...ビローン...ん!?)
「嫌じゃ」
唐突に拒絶の声が響く。
「どうしてワシが、ヌシの思う通りに動かねばならぬのか。冗談ではない。ワシはベル=ゼブブじゃぞ」
(んん?)
動かない舌に違和感を感じ、手を動かしてみる。
(...これなら握れそうだ)
口を開け、舌を引っ張り出してみる。
「あだだだだ!!なぁにをするか!年寄りを労らんか貴様!」
舌が、喋った。
いや舌は喋る為に必要な器官なのだが、舌そのものが喋ったのだ。
「ちょっと!やめてくれぃ!ここ暫く、小鳥達に突かれて、ワシ痛いの!ちょっと離してくれぃ!」
そうやって舌を引っ張っていると、パタパタと小鳥達が舌に集まって来て、舌を突き始めた!
「ほれ!こうなるんじゃ!やめーい!やめぃ言うとるに!」
不思議とカエル自身の痛覚は刺激されない。よく喋る舌をしまい込み、事情を聞く事にした。
◆
ハエの王が言うには『同化の法』という、ハエの王の【権能】とやらの一つをカエルに使用したらしい。
『強者が自分より弱い者の体を乗っ取ってしまう技』
だそうだが、何故か不完全な物となり、同化出来たのは、舌だけだったそうな。
「恐らく、お主の《蟲を殺す者》とやらの効果が、ワシの権能を阻害したのじゃろ」
と。つまらなさそうに言うハエの王。
そして、私の意識が飛んだのは、どうもこの肉体が『進化』したから、らしい。
二足歩行が可能になり、喋る事が可能となった。手は物を握れるようになり、4足歩行時代では不可能だったフットワークも可能となった。
勿論足の速さは据え置き、どころか少し速くなった。
その進化の過程で、私は長い間眠りについていた。
徐々に徐々に肉体の組成が変わっていくのを、舌と化したハエの王は、ギャーギャー叫びながら見ていたんだとか。
「うむ。そうこうしとったらじゃな、廃墟状態になったこの城に動物達が住み始めてな。当初は追い払えてたんじゃが、その内慣れて...」
つまり、ここ暫く小鳥達の遊び相手は、寝たままのカエルの舌。つまりハエの王だったのだそうだ。
「みっともないのは、そっちだったようですねハエの王」
寝起きの意趣返しをしてみると、ハエの王のが「うぐぐぐっ」と唸った。いい気味だ。
「ヌシよ、それより感じんか?ワシの魔力の脈動を。孤独の城の者を全て食ろうたのだ。変化が無いわけがあるまいぞ?」
指摘され気付く。
今なら上級魔法も使えるんじゃなかろうか?
「あまり違いは感じないが...試してみようか。【カタストロフゲート】」
掌から小さな黒点が射出され、やがて大きく開き、周囲の瓦礫を飲み込んだ。湿地帯の魔法使いが使っていた闇属性の上級魔法だ。
「おぉっ!使えた。素晴らしい」
カエルが喜びに浸っていると、チッと舌が鳴った。
「なぁんじゃ。そんなショッボイ魔法なんぞ使いおってからに。もっと強力な魔法を知らんのか!?」
「これでも上級魔法なんですよハエの王」
またまたチッと舌が鳴らされる。
「さっきからハエの王、ハエの王と!ワシの名前はベル=ゼブブじゃと伝えたじゃろうが!?」
舌からギャーギャーと喚き立ててくる。
「...言いにくい」
カエルはボソリと呟いた。
「なんじゃとっ!?」
「言いにくいから『ベル』でいいですか?」
そう告げた途端、口の中からビヨーンと舌が伸びて、目の前に出て来た。
「ワシは蠱毒の城の主ベル=ゼブブじゃぞ!!それを貴様!ふざけたあだ名で呼ぶなど、不敬じゃぞ!」
カエルは、面倒臭そうにため息を吐きながら、
「じゃあ 『ベロ』 で」
目の前に来ていた舌が、ビロビロと左右に細かく振動する。
「きっっさまーっ!!黙っておればいい気になりおってからに!いずれ体を乗っ取ってやるからな!」
ギャーギャーと喚き立てる『ベロ』
そこにノソリと『客』がやって来た。
「オォ!ハエ!イナイ!ホント!」
ゾロゾロ入って来た客に、小動物達は、逃げ惑い、カエルの背後へと隠れた。
「...おのれ...薄汚い豚風情が...!玉座の間まで踏み入れるとは!!」
『ベロ』が震えるように蠢く。
オーク達が20匹程度、メタスメタルと呼ばれる鉱石の武装を身に纏って玉座の間に入って来たのだ。
「蹴散らせカエル!!奴等をこれ以上中に入れるな!小鳥達も怖がっておるぞ!!」
(意外と優しいな)
そんなどうでも良い事を考えながら、脇に目をやる。
そこには、風呂敷が
その中の『刀』が転がっていた。




