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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
33/68

最強


この蠱毒の城には、一面鏡ばりの部屋がある。一つのドーム程もある、その部屋には巨大な玉座と、部屋に不釣り合いな畳が敷かれている。


玉座は、勿論主人の物。そして畳はその城の重臣にして、四凶蟲最強の存在が座っている。


蠱毒の城のみならず、遠く離れた魔王軍にまで名の轟くその勇名。それも当然。当代の魔王に剣術を教えたのは、名にし負う彼である。尚、魔術はベル=ゼブブが担当した。


出奔した彼らに対し、誰もが憚って口にしないが『真の最強とは魔王様ではなく、彼らである』と心の中で想う。それが魔王軍の共通認識。


その『最強』の片割れが、今畳の上で瞑想を行なっている一刀斎である。魔王軍所属時から、ベル=ゼブブに心酔し、彼が出奔を決意した際にも、是非共に。と申し出た。


魔王軍では、『統合魔将』と『統合武将』で2匹は同格の存在であったものの、ある事件から一刀斎は、ベル=ゼブブに絶対の信頼を寄せていた。




(...ふむ。城の者達の『気』が全て消えた、か。数百年ぶりに、ここへ賊が来るな)


スルスルと畳の擦れる音を出しながら、主人の玉座の前に進む。


「ベル=ゼブブ様。賊が参りましたようで。城の者は皆消された様子」


玉座に座す巨大なハエが、のそりと動いたと思うと、地に響くような声がする。


「左様か。何百年ぶりだろうな?

ここまで足を踏み入れられたのは」


コクリと一刀斎が頷く。


「奇しくも、その際に現れた者もカエルでしたな。

此度の者も、『気』からしてカエルでありましょう。なにかとカエルに縁がある事で」


クククと主人は笑う。


「なぁにを他人事みたいに言うとるか。

あの時のカエルは、お前目当てであったろうに」


「はて?そうでしたかな?私もベル=ゼブブ様も、お互い何千年も生きております故、どちらが呆けとるか分かりませんな」


ハッハッハと互いに笑い合う。


「して、勝てるか?」


主人の問いにニヤリと一刀斎は口の端を上げた。


「愚問。と申したい所ではありますが、我が城の者共が悉く敗れております。恐らく私の推測が正しければ、我々相手に特化した《能力》を持つか、固有の【権能】持ちでしょうな」



「【権能】か。神からの贈り物。馬鹿馬鹿しいな。

あの忌々しい神もどき共に与えられた力なぞ、こちらから捨てたいぐらいだ」



「ふふふ。こうして今日まで生きて来られたのも、我々に与えられた「ソレ」がある故でもあります。そう邪険にせずともよろしいでしょう」


露骨に剣呑な態度を出し、蝿の王は顔に手を当てた。


「フン!小心者のトカゲ風情が神の名を名乗っておるのだ。ワシが神を名乗ろうかと思っとるくらいだ」


「ハッハッハ。それは素晴らしいお考えですな。

トカゲというと、麓のあれですか。アレが今回の賊を手引きしたと?」


「十中八九な。さて、お客人が来たようじゃぞ」


巨大なヤスデは主人に殊更に、恭しく頭を垂れた。


「御意。我が身命を賭して、賊を討ち滅ぼします」


主人の御前を辞し、入り口までスルスルと移動する。

だが、己の命運、そして主人の命運も、一刀斎は仄かに見通している。


(我々は、ここで死ぬかもしれない)


この城の面々は一流どころか、達人の集まり。

それが498匹。悉く敗れた。我々蟲に対するアドバンテージを、相手は恐らく持っているのだ。


(だが!)

覆す!命運を。

反骨する!神という存在から。


(何人たりとも、背後に控える主人の野望を邪魔させはしない)


スラリと700本の刀を抜く。

そして一息溜めた後、フッと吐きながら


「シャオオオオッ!!」

全身の気を込めた雄叫びを上げ、ドアへ向けて斬撃を飛ばした。



◆



カエルは巨大な扉の前に辿り着いた。その扉は、贅を尽くした物で、煌びやかに輝いていた。周囲をこの世界でも高価な宝石群で飾り、扉の本体は、この世界最硬度の金剛石で作られている。


(これはすごい)

カエルは敵地である事を忘れ、感嘆した。大自然の物も感動するが、こうして人為的に作られた物も、精緻を凝らした物は、感動に値するものだ。


(しかし、感動してばかりもいられない。この奥に、恐らく城の主が居る)


カエルはぺちゃぺちゃと歩いて近づいて行く。すると、扉から一瞬ピシッという音が聞こえた。





パラパラッ...


何かが落ちる音が聞こえた。ふと気付くと、巨大な金剛石の扉は自分の周りにバラバラに砕けており、自分が登っていたはずの階段が、遠くに見えた。


(扉ごと吹き飛ばされた)


そう気付かされた。落下した記憶が無いのは、一瞬気を失っていたのであろう。あの宝石で出来た扉を、扉の向こうから斬りとばす。尋常ではない膂力。


それに耐え得る剣。いや、『刀』だ。


階段の上にヌルリと現れた絶対者の得物は、ニッポンの『テレビ』で見た記憶がある刀。それが無数に握られていた。ムカデ...?少し違う気もする。



「夜討ち朝駆けは武士の常!許し候え!

某は『千剣万軍の一刀斎』と呼ばれておる者!

其方に一騎討ちを申し込む!」



カエルは目を瞬かせたのち、輝いた目で見上げた


(サムライだ!サムライが現れた!)


カエルは吹き飛ばされ、意識が飛ばされたにも関わらず、敵相手に興奮した。


「歴史秘女ビクトリア」という番組を見てから、日本史には以前から興味を持っていた。その中でも、サムライが特に好きだった。彼らの生き方が好きだった。


カエルは、金剛石のカケラを口に咥え、床に文字を書いた。


「剛の者と見た。拙者『虹色カエルサムライ』その申し出を受けた」

キラキラした表情をしながら、文字を書き終え、一刀斎を見つめた。


「ほう。聞いたことのない名だが、貴殿もモノノフであるか。是非もなし。いざ尋常に...」



階段は直線上。100段程はあるだろうか。一刀斎が台詞を吐き終わる頃には、信じられない速度で、階段を、その壁を、天井を這いながら移動してきた。


(は、はやい!あの巨体からは想像出来ない速さ!なおかつ不規則だ。スピード自体は私が上だが、あの動きの柔軟性は驚異!)


この比較的狭い空間では、一刀斎の軌道性が増してしまう。そう判断したカエルは、一度ホールまで飛び退く。


ホールは広く、吹き抜けとなっている。壁はあるが、天井はなく、あの柔軟な軌道は防げるであろう。



ヌルリと一刀斎が現れる。


決して急ぐ訳でもなく、獲物を追い詰めた捕食者のように落ち着き払っている。


「ほう。それなりの知恵者のようだ。

某の足運びを見て、天井の無い場所に誘い込んだか。だが、浅知恵!」


ブオッという音と共に刀が同時に振るわれた。距離がある。しかし


(!?)


刀が振るわれた軌道から、刃が文字通り飛来した。


「武技《鎌鼬》」


700本の刀から生じる風の刃。

それらが一斉に飛来する。


(数は多いが、直線的!これなら!)


カエルは素早く飛び退く。


「甘い」


だが、そこに次なる鎌鼬が殺到する。


(まずい!【エアロウォーク】)


出した風の足場を蹴り、鎌鼬を避ける。だが、避けた先にも鎌鼬。その次も、その次も...。


「貴殿は速い。だが直線的。故に読みやすい」


鎌鼬が絶え間無く降り注ぐ。カエルは回避に手一杯で、近づくどころか、ジリジリと遠ざけられて行く。


ズルッ


(なんだ!?)


やっと空中での回避から、足場に着地したと思いきや、足場が抉りとられている。背後を振り返ると、遠くに外の景色が見えた。


(じ、冗談だろう?あの技で、城が丸々削り取られているのか!?)


それだけではない。遥か遠くの峰にまで、その剣撃は届き、深く深く大地を抉っていたのだ。カエルは戦慄した。たかが刀の振りだけで、あの威力。万が一当たれば、自分の皮膚も貫き得るのではないか?


しかしカエルは更に戦慄する事となる。


一刀斎は、鎌鼬を止め、刀を下ろし、コォーッと深く深く息を吐いた。


「さて、初(・)級(・)武技で肩慣らしは終えた。貴殿も動き、温まったであろう。お互い本気で参ろう」


笑顔でそう告げたのだ。

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