蟲
カエルは、何百というアサルトビーをさばきながら、後悔していた。
よもや、テラスで優雅にティータイムに耽っている2匹が、四凶蟲だとは思わなかったのだ。
(蜂を生み出している魔物の方は、数が増えるだけで、問題ない。厄介なのは「コレ」だ)
眼前に光る何かが飛んで来る。
カエルは全力で斜めに跳ぶが、光る何かはカエルの居た位置に着弾し、炸裂する。
その爆風は、飛び退いたカエルを巻き込むほどの威力をほこる。避けられている現状、致命的なダメージは無いが、ジリジリと追い詰められているのはコチラだ。
何百というアサルトビーの鋭利な針が、常にカエルを喉元を狙い、呑んでも呑んでも、最奥の女王蜂が無限に生産し続けて、キリがない。
蜂に集中すれば、飛来する爆発物が脅威となり、爆発物に集中すれば、蜂の針の餌食となる。
本体を狙うにもガーディアンビーという守護蜂達が、槍衾を作り、本体に近付けさせない。槍衾を突破するには、攻撃に対処しなければならないのだが..
(せめて、この爆発物と、兵隊蜂を同時に対処出来れば...!)
気付けば、蜂の数は数え切れないほどに増えていた。飛来する爆発物が邪魔で、蜂の処理が追いつかないのだ。
(不味い。まずは数を減らしていくか!?いや、命がけで突貫し、本体を突くべきか)
「フフフ!カエルさん困ってるわね。じゃあ、もっと困らせてあげる!《サウザンド・レギオン》!」
エリザベスの号令で、蜂達の肉体が変化する。より強靭に、より素早く蜂達が変化した。
「さぁ!増えれば増えるほど大変になって行くわよ!一つ忠告しておいてあげる。私の子供達が1万体に達した時、あなたには確実な死が訪れるわ。頑張ってね。今は2100体!」
カエルの周囲の処理し切れない蜂達が、徐々にカエルの退路を塞いで行く。そこにピンポイントで爆発物が飛来するのだ。
(なんというコンビネーションだ!これが四凶蟲の実力か!)
爆発の余波で徐々に徐々にカエルの体力が削られて行く。と言って、爆発物の回避に専念すればするほど、今度はアサルトビーが増えていくのだ。
「カエルはん頑張ってやぁ。逃げて逃げて、エリーはんの『デス・パレード』を発動させて頂戴。ウチあの技見るの好きやねん。ウチも本気出すでぇ《スカッドスプレー》!!」
飛来する爆発物の数が、突然5倍近く増えた。その上追尾機能にも磨きがかかり、ギリギリで躱さない限りは、地面へ着弾せず、カエルをひたすら追って来るようになった。
(これは不味い。一旦逃げて体制を立て直すことも検討すべきか。幸いココはテラス。外へ飛び出せば、逃げ切れるかもしれない)
カエルが退路を模索すべく、チラリと城の外側を向くが、そこには既にガーディアンビーの厚い壁が出来ていた。
「まさか今更逃げようなんて言わないでしょうね!それは面白くないわ。6700匹!さぁもうすぐよ!もう少し逃げ切ってね!」
(アルカンシエルを発動して、本体へ突っ込むしかないか!?最早猶予はない。《デス・パレード》とやらが、どんな技かは知らないが、状況が良くなる事は、少なくともあり得ない。そして何より私の神経を削って来るのが...)
「ヒューッ!見ろよあの数を!まるで巨大な壁みたいだ」
「こいつぁエリザベスちゃんやるかもしれねぇな!」
「まさかよ。そこまで耐えられず、ドリスちゃんの爆裂蟲に当たっておしまいさ!」
この外野の騒ぎようだ。
エリーちゃーん!ドリスちゃーん!と、野太い声で叫ぶ外野達のせいでまるで見せ物のように感じてきた。
(なんにせよ、このままでは私は圧殺されてしまう。何か手はないか!?)
「さぁ9500匹!!あと30秒であなたは死ぬわよ!!」
(なにか!なにか策は!?アルカンシエルで突っ込むしかないのか?限りなく低い成功率だが...ん?まてよ?)
その時、ふとカエルは違和感を覚えた。
(先程観客はなんと言っていた?
...確か『爆裂【蟲】』と言わなかったか?)
飛来する物体は、依然としてこちらを追尾してくる。「追尾する」つまり意思を持っているのではないか?
(試してみるしかあるまい)
飛来する物体へ向け《蟲を狩る者》の舌を射出する。高速で飛来する物体を上手く搦め捕った!
(これが口の中で爆発すれば、お前たちの勝ち、私の想像が正しければ、私の勝ちだ!)
カエルは動きを止め、飛来する蟲を呑み込んだ。
「野郎!諦めやがった!」
「自殺する気か!?」
「バカ野郎!【デス・パレード】が見れねぇ!」
ゴクンッ
(...美味い。口の中でパチパチと弾けながら、濃厚な甘味が相まって、口の中で溶けて行く)
「えっ...うそっ..食べちゃった!?」
「そ、そんな!?ウチの子を食べて無事なわけ無い!」
(そうか。それはあなたの子か。子でなければ死んでいた。ご馳走さま。いいお味です。さて、時間がない。数を減らすぞ)
カエルがズンズンと2匹に向かって徐々に直進してくる。アサルトビーだけでなく、爆裂蟲まで呑み込むのだ。カエルの舌が千手観音状態になりつつ、徐々に本体へ迫って行く。
「やっべぇ!エリーちゃんとドリスちゃんを守れ!!」
「デス・パレードが発動しさえすれば、奴は倒れる!時間を稼げぇ」
飛びかかってきては、舌に吸い込まれている猛者達。今や四凶蟲2匹よりも、武器を持った彼らの方が脅威なのだが、身を投げ打って飛び出してくる彼らの対処は容易い。
吸い込まれるようにして、蜂も「見守り隊」も、カエルの口の中へと入って行く。
「どえらい敵が出て来たもんやなぁ...。エリーはん。これは負けるねぇ..」
「ドリスちゃん!縁起でもない事言わないでよ!何か手はないの!?一刀斎先生に助け呼ぶとか!」
最早、2匹に打つ手は無かった。
本体の戦闘力は乏しい2匹であるからして、あの虹色の悪魔の舌からは逃れられそうもない。既にエリザベスの生産速度を上回る量をカエルは喰いながら進んでくる。デス・パレードは発動出来そうにない。
「腹ぁ括るしかないわ。エリーはん。昔からウチ言いたい事があってん」
「こ、こんな時にどうしたの?」
「昔から、エリーはん可愛らしいなって思ってて、気付いたらウチ常にエリーはんの事を目で追ってた。ウチ、どうもアンタにホの字らしいわ」
「ゔぇっ!?そ、それってつ、つまりそういう事って事!?いや、私も...その...考えないこともないんだけど...その...」
舌の千手観音が、迫りつつある中で百合の花の雰囲気が、何故かゲジゲジ(似)と可憐な女性(蜂)の間で咲きつつあった。
「エリー✖️ドリーか...」
「有りだな...」
「以前から何となく知ってたけど、俺は複雑だよ...」
何故か見守り隊の面々が、しんみりしつつ、迫り来る舌に呑まれていく。
「答え。聴かせてくれはる?」
「そ、その...私っ!」
ペロンッ
「あ“っ!」
そうこうしてる間にドリスへカエルが到達してしまった。当然のように四凶蟲の一柱はアッサリ呑まれた。
「ずるいよドリスちゃん。答え言う前に先に逝っちゃうなんて。私もスグいくね。そっちで答え言うよ」
エリザベスは、目を閉じて運命を受け入れた。
こうして、四凶蟲の2柱は倒れた。カエルに若干の罪悪感を残して。
◆
(最後の茶番はともかく、手強い相手だった)
カエルは、フゥと一息ついた。テラスでの戦闘が終わり、もうテラスには誰も居ない。疲労と、爆裂蟲からのダメージを考えて、一息ついた。
四凶蟲という名前からして、もう2体同時に相手取る事は無いだろう。
しかし、思ったよりもダメージを負ってしまった。
だが、ここで四凶蟲を2匹抑えたのは大きい、そう考えた。彼らが同格の者達であれば、もうこれ以上の苦戦は無い。そう、同格であれば。




