潜入!蠱毒の城
2匹の甲虫族が、城の前に立っていた。彼等の出身地である、サバデラ地方の者が見れば「鉄壁の双顎フォル・フォラ兄弟」であると判るだろう。
5メートルほどの体躯に、驚異的な硬度を誇る甲殻。また、その槍さばきは、目にも留まらぬ速さであった。
サバデラ地方に敵は無く、もはや自分達には、この地方は狭過ぎる、と兄弟揃って飛び出した。そして噂を聞き付け、この「蠱毒の城」へとやって来たのが4年前の事。
自分達の強さに絶対の自信を持っていた兄弟は「この城で1番強え奴を出しやがれ!」と当時の門番に喚き散らした。
門番は田舎者2人の命知らずさに、大笑いした。
「なぁにがおかしい!門番風情がいい気になるなよ!フンコロガシ野郎!」
その瞬間、門番の堪忍袋の尾が切れた。巨大な棍棒が風を切った音が、振り抜いた後に聞こえた。
「「えっ?」」
2匹が呆気に取られた頃には、2匹とも地面にくちづけしていた。何が起こったか全く分からず、体も動かない為、呆然とするしかない2匹。
「俺は『ゾウムシ』だ間抜け。お前らの言う『1番強え奴』は俺だ。俺を倒したら中に入れてやる」
2匹は理解した。道理で強いはずだ。自分達が手も足も出ない者など存在しなかった。これが「蠱毒の城」か!衝撃と感動が、同時に来た。
それから1年間。彼等は挑み続けた。挑んだ相手の名さえ聞かず、寝食を忘れ、身体を鍛えて、魔物の鍛冶師の名工を探し出し、武器を変え、手を変え品を変え、挑み続けた。
そして、漸く門番の体に傷をつけられた時に、門番から告げられた。
「お前ら。命の保証はしねぇが、中で暮らしてみるか?丁度2匹欠員が出たとこなんだ。俺が出したんだけどな」
と。2匹は歓喜に打ち震えた。
同時に衝撃の事実を知る。
「俺は『最硬のベン=ゼマ』この蠱毒の城で最弱の存在だった者だ。城で1番弱え奴が門番やるのさ!悪かったな騙して!」
2匹は愕然とした。命を賭して挑み続けた者が、最弱。そんな中でやっていけるのか?不安に駆られながらも、なんとかやって来たのが、ここ3年。
2匹の序列は未だ最下位。
後から入って来た者に追い抜かれはするものの、死にはしなかった。
彼等をテストしたベン=ゼマは既にこの世に居ない。2年前に新参者に圧殺されてしまった。その者は、四凶蟲まであっという間にのし上がった。それがネルラである。
ベン=ゼマの闘技場の聴衆へ向けた「最硬のベン=ゼマをお見せする!」という末期の言葉は未だに2人の脳裏に焼き付いている。その後、彼は闘技場の壁の染みになった。
自分達は、あぁはなるまい。そう心に誓って、大人しくして来た。だが、イタズラに日々を過ごして来た訳ではない。
「フォル。いよいよ明日だな。明日俺たちの序列は上がる」
「あぁフォラ。そうだ。あの小賢しい弓使いの蚊トンボとボウフラに仕返ししてやろうぜ」
2匹は決意を新たにする。
名工の槍を鍛え上げ、技を鍛えて来たのは、明日のため。明日運命の序列戦があるのだ。
「ベン=ゼマの兄貴のようにはなるまいぞフォル」
「あぁ当然だ兄者。その為に、伝説の槍使いと言われる、人間風情に頭を下げて教えを請うて来たんだからな」
「あぁ。この『蒼々早々葬送槍』を覚えて来たんだ。...しかし、これ本当に強いのか?見た目ばかり派手な槍技にしか思えんのだが..」
「バッカ!兄者これだけカッコいい技が弱い訳無いだろ!名前は最高に胡散臭いが、本物さ!見てろよ..」
そしてフォルが、華麗な演武を始める。最高に華麗で最高に見栄えする技の数々。キラキラと輝いて見える技の数々に見惚れていると、突如「フォル」の姿が消えた。
「あっ...?...フォル?フォル!どこ行った?!『蒼々早々葬送槍』に高速移動技なんかあったっけな?」
キョロキョロと周りを見渡してみる。城の周りはゴツゴツした岩が転がっているのみ。
しかし、その岩に混じって、虹色に輝く鉱石があった。
(あんな鉱石あったっけな?)
徐に近づいてみる。
(これで武器を作れば、良い物が出来るんじゃないか?)
とマジマジ見つめて、コンコンと叩いてみる。だが実際にはブニョブニョなのだが。(なんじゃこら?)そこでフォラの意識がブッツリと「切れた」
側から目の良い者が見ていれば、その鉱石から、ピンク色の何かが飛び出したのが見えていたであろう
◆
(なんだあれは..)
魔力の残渣を辿って蠱毒の城に着いたカエルは、門番2匹を視た瞬間、2匹の凄まじいオーラに驚いていた。
上級の魔物達は見てきた。だが、遠くに見えるあの2匹は更に上。まともに戦えば、カエルの強固な皮膚でも貫かれそうな、異質な槍。一本一本の足が丸太を纏めて作ったような強靭な足腰。
(あれはまぎれもない。怪物だ。ザルティス程では無いが。本当にいけるのか?いや、やるしかない)
まず、カエルは自身の背に【フェイクテクスチャ】を掛けた。対象は岩である。ところが
(あら?なんだこれは)
何度掛けても掛け直しても、虹色にしかならない。
岩は当然ゴツゴツとした灰色とでもいうべきものだが、これでは変な鉱石でしかない。
(ええい!ままよ!)
徐々に徐々に距離を詰めて行く。
その時、突然片割れが槍を持って踊り出した!
(な、なにごとだ!?しかし、絶好のチャンスだ!)
踊っている者を狙い、背後を取り、全力の跳躍!同時に舌を伸ばし、巨体に絡み付ける。巨体の門番の筈だが、舌に全く重みを感じない。どころか、舌が勝手に巻き取ったように、ひとりでにカエルの胃袋に1匹が収まった。
(今まで意識していなかったが、これが《蟲を殺す者》の効果か!?まずは一つ!そして!...私は岩 私は岩 私は岩...)
全く擬態になって居ないが、そこは擬態する種類のカエルに生まれ変わった事もあるカエルの迫真の演技である!全く擬態になっていないが!
警戒薄く、もう1匹が近づいて来た。
(完璧だ!)カエルは自画自賛した。現に警戒はされていない。全く擬態になっていないが!
そして構えもしていない相手に素早く舌を伸ばす。尋常では無い速度で舌が伸び、先程と同様、うどんでも啜るように、5メートルの巨体がカエルの腹に収まった。
(信じられない...あれほどの化け物が、瞬時に...。この舌さえあれば...行ける!行けるぞ!)
自信を得たカエルは、敢えてペチャペチャと歩いて門を潜る。スピードには自信がある。後の問題は、攻撃であった。そこを【蟲を殺す者】がカバーしてくれる。
堂々と城の扉に辿り着いた瞬間、地響きが辺りにこだました。50メートルを超える巨体が城から降って来たのだ。
「そこまでだ!命知らずのカエル野郎!我こそは「白亜の城壁のコペッ...」
白い巨大なゴキブリがカエルの前に降ってきて、確かにそこに存在した。つい「先程までは」。今は既にカエルの腹の中だ。
更に空中からズドンと黒い巨体が舞い降り「やぁやぁ我こそは『黒き巨神のドベッ...」と名乗りの最中に呑み込まれた。
(なんだここの魔物達は。自己主張が強過ぎるだろう。名乗らずには居られないのか?)
蠱毒の城には、ローカルルールが有った。皆二つ名持ちの魔物であった為、名乗ってから闘うという流れが独りでに出来上がっていたのだ。
もっとも、奇襲朝駆けなんのそのの猛者達である為、ちょっとした奇襲であれば対応出来るのだが、相手が悪過ぎる。
カエルは降って来た2匹をペロリと平らげた後、巨大なドアを風の魔法で開いた。そのドア自体、巨大な魔物達が潜れるよう、縦横70メートルほど確保している為、カエルの肉体では開けなかったのだ。
ズドバーン!!とド派手な音をたてて、ドアは開いた。中の魔物達は、突然響いた轟音に当然反応した。
ザワザワと虫達は騒ぎ出す。
ここ1年近く、フォルフォラ兄弟の壁を超えて来る者は居なかった。しかも、今日は「ミスター残飯処理」の異名を取る白黒ゴキブリコンビまで居た。よもや、と反応したのも無理はない。
「おいおい。物騒な客だね。ここがどこか知ってて来たのかいカエルちゃん?」
長い体を持つナナフシのような魔物が率先して話しかけて来る。
「あたしゃここの寮母みたいなもんさね。『蠱毒の寮母のポメラ』って呼ばれてる。この子達はじゃじゃ馬なんでね。先ずは..ッ!?」
ポメラは、強烈な悪寒を感じて飛び退いた。脚の一本に既にカエルの舌が絡み付いていたのだ。ポメラは咄嗟に脚の一本を切り離し、離脱する。
「あいつポメラさんに!!」
「アイツ俺らを敵に回したわ」
「やっちまいましょうぜ姉さん」
周囲が俄かに騒がしくなる。
どうもこのナナフシもどきは、ここの住人に人気があるらしい。
「いい度胸だねアンタ。それに強い。私も久々に本気でやれそうだ。ここからは『超手超足のポメラ』としてやらせてもらう」
ゆらりと寮母が構えた。
「『超手超足のポメラ』だと...!?噂は本当だったのか!アイツ死んだわ」
「知っているのかバイデン!!?」
「あぁ!あの長い手足から繰り出される拳法は、自由自在!視界外からの一撃と、長い手足で踏む歩法は、相手を惑わし...あっ」
「「「「あっ」」」」
バイデンと呼ばれた魔物が説明している最中に、ポメラはアッサリ呑まれた。
いや、善戦はしたのだ。舌を足に絡めた時点で本来は勝負あり。それをポメラは長年の経験で逃れた。ただ、そこまでだっただけだ。
「ポメラ姉さーん!!」
「嘘だろ...あの優しい寮母さんが」
「野郎ぶっ殺してやるぁ!!」
エントランスで平和に談笑していた面々が血相を変えて飛びかかって来た。一匹一匹が単身で街を滅ぼせる実力者達だ。だが、生物最速に近い動きに《蟲を殺す者》を併せ持ったカエルには届かない。
猛者達の隙間を跳び抜けながら、舌で一匹一匹を絡め取って行く。異様だったのは、その光景だ。
全員が全員「我こそは!」とか、「俺は!アタシは!」とか名乗りながら呑まれていくのだ。最も混乱したのは、カエルだろう。
(自分はもしや『アニメ』で言うバッタ仮面の変身シーンに襲いかかる悪役と一緒なのでは?)
そんな気にさせられるが、なんせ襲って来るのが、化け物共だ。カエルにも、余裕なんて無い。
現に幾らかの凶刃は、カエルの皮膚を掠ったり、紙一重で躱しているだけ。一匹一匹が武芸の達人のソレなのだ。
(ウサギがライオンに襲われてるようなものだ。《蟲を殺す者》が無ければ、とてもじゃないが生きた心地がしない)
やがて、エントランスから蟲の姿が消えた。「蠱毒の城」の一部とは言え、有史以来の異常事態である。
(ふぅ。なんとかなった。さて、ここから何処に進むべきか)
「どなたかお探しですかぁカエルさぁん?」
耳元で、唐突に声がした。
異常な気配に即座に【アルカンシエル】を発動する!
「とっとっと!こいつは失礼ぃ!私は『ペンタグラムのネルラ』この城で四凶蟲の一柱を務めさせてもらっておりまぁす。以後よろしくぅ」
丁寧にお辞儀する蜘蛛男。
何故かタキシードを身に纏っている。
「しかし、そいつぁ七属性の魔法?凄いですねぇ。初めて見ましたよぉ。ベル=ゼブブ様でも六属性なのにねぇ」
先程からビリビリと皮膚が「痛い」それほどのプレッシャー。飄々とした喋りからは想像出来ない。
「では私もお見せしましょう。五属性混合魔法【エレメンタルバースト】!」
(っ!?しまった!)
あまりのプレッシャーに、カエルの反応が一拍遅れた。このレベルの争いでは、瞬時の判断で命が左右される。この時、カエルは間違い無く、命を落とす遅れを取ってしまったのだ。




