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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
29/68

虹色の悪魔


「蠱毒の城」そこにカエルの求める全てがある。魔法使いはそう言った。


(行くなと言ったり行けと言ったり、どういうことだろうか?)


カエルは当然魔法使いに聞き直す。


「お主の事を見させて貰った。【魔法無効化】に加えて【7属性適正】更にもう一つお主には固有の物がある。ソ(・)レ(・)が想像通りの物ならば「蠱毒の城」に行くべきだ」


(私にもう一つ能力が?意識してなかったな)


カエルが、逡巡していると不意に


「お主。虫と戦った事があるか?」

と魔法使いは尋ねて来た。


(それは当然...あら?)


保存食にする為に、魔法で虫を殺す事はあっても、こと「戦闘」と言われると、思い浮かばない。大きな虫であろうと全て舌で「丸呑み」である。


「お主の種の固有の力。その名は

『蟲を殺す者(インセクトキラー)』

文字通りの意味ならば、蠱毒の城へ行くべきだろう。そして喰らえ。全てを喰らい尽くせば、お主の望みが叶うだろう」



◆



カエルは山の麓へ駆ける。

(彼の言う事が真実である事を祈ろう。ハエの王は食べたかったし)


目前の山々を見上げる。

この何処かに「蠱毒の城」は存在するのだが、いかんせん範囲が広い。


(どう探すべきか。 麓の村で聞き込みでもするか、闇雲に駆け回るべきか)


悩んでいると、凄まじい魔力の流れが溢れ出る洞窟が目に入る。


(なんだあれは?)

カエルは跳びはね、洞窟へと近づいて行く。


(このオブジェクトは、オークの巣穴か?)


オークには、自分達が狩った獲物の中で、最上の獲物の部位を入り口に飾るという習性がある。


この巣穴には、ピットブルライノスという巨大なサイのような魔物の骨が飾られていた。カエルは中へ中へと歩を進めていく。


(この魔力。もう使用して数時間経った後だというのに、強烈に残渣が溢れ出ている。相当に強力な魔術が使われた証拠だな)


中へ中へと歩を進め、やがてオークの宝物庫へたどり着く。そこには人間の死体が「3体」残っていた。


(この3体の死体。強力な闇の魔術の痕跡がある。死体は綺麗な状態だが、魂と精神が完全に壊されている)


死体となって数時間が経過した後も、溢れるように闇の魔術の残渣が体から溢れ出している。


(しかし、真に強力なのは、この「砂」のような物。おそらく、元は人間だった物だろう。恐ろしいのは、この砂から感じる魔力)


砂状と化した冒険者リュックの死体からは、未だにおびただしい魔力の流れが残っている。それはタダの魔力の残渣ではない。


(混合魔術。それも3属性以上の混合。篭っている魔力量からして、アルカンシエルよりも、高度な魔法であることは間違いない)


カエルは、魔法使いの言葉を思い出していた。「蠱毒の城」の主、ベル=ゼブブは、独自の魔法を編み出しているという話を。


(この魔法の使用者は、ベル=ゼブブか?つまり、この魔力の残渣を辿っていけば、恐らくベル=ゼブブ。件のハエの王へと辿り着く)


カエルは確信した。


確信すると同時にゾクゾクと心がざわめくのを感じた。混合魔術を使用する者として、明らかに桁違い。象とアリほどの巨大な差が、この魔法の使用者と、自分にはある。


(だが、立ち竦む訳にもいかない。湿地の魔法使いの言う事を信じる。私は『蟲を殺す者』なのだ)


決意を宿した目で、再度カエルは、オークの洞窟の入り口へと向かう。魔力の残渣が点々とカエルの目に映っている。


(...一つ分かった事がある。これは、わざと残渣を残している。移動する度に、魔力を小出しにしている。つまり、この先に居る者は、魔力を辿ってくるのを待っているのだ)


敢えて残渣を残し、魔力を辿らせる。残渣を辿る事が出来る「強者」を待っている。そう推測した。


(とんでもない自信。確信に近い自信がこの先の者にはあるということか。望むところだ...!!)




◆



「蠱毒」それは、古代中国に呪術の一種。


ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加えたり、思い通りに福を得たり、富貴を図ったりすると言われている


蠱毒の由来について、カエルは知る由もない。だが、強者のみが生き残る、という意味では、この世界でも共通する言葉として使われていた。


ここ蠱毒の城においても、それは同じ。あらゆる武芸者の虫が、ここを、最強を目指してやってくる。だが生き残るのは一部のみ。


ここ蠱毒の城には500名という定員がある。日々争い、数を減らし、また増え、争い、より強い者達が生き残った結果、この城には、虫系統の上級の魔物、そのトップクラスのみが生息する魔境へと変貌していった。


その中でベルゼブブを除く、上位の4名こそ『四凶蟲』である。彼等は城の中で別格。それぞれの個室を与えられ、有事の際には蟲達を率いる権限を与えられている。


その1人が『ペンタグラムのネルラ』

その者である。


彼は風魔法を使用し、空中から悠々と城へ戻ってきた。門を守る2匹の甲虫族が、恭しく頭を下げる。


その横を悠々とした足取りで「ごくろうさぁん」と軽妙に声を弾ませながらネルラは進んで行く。


途中、巨大な芋虫に出会った。

『地動変革のブリュード』そう呼ばれるサンドクロウラーの最上位種である。


地属性の魔法を極めた者で、彼一匹で王都を落とせる、とまで言われる猛者だ。


「これはこれは、ネルラ殿。ご機嫌麗しゅう。今日は如何な御用で出掛けられておったのか?」


ネルラは、チッと舌打ちしたい思いであった。このブリュードという1000歳をゆうに越える老芋虫は、年長者を敬えだとか、言葉遣いがなっていないだとか、小煩い年寄りとしか思えなかった。


その上、影で自分の事を「青二才」と呼んでいるのを知っている。


「いやぁブリュード老。なぁに。お上に言われ、上級のオークの巣穴をねぇ。チョチョイっと潰しに出かけておったのですよぉ」


殊更におどけながらネルラは言う。


ブリュードからすると、そういう態度が気に入らないのだが、敢えてそれを知ってネルラは戯けるのだ。


「...ほぉ。これは驚いた。貴殿がこの城を出て、数刻経っているのでな。てっきり困難な仕事をしておったのかと思いきや、た(・)か(・)だ(・)か(・)豚の巣穴を潰す事だったとは、よもや『四凶蟲』ともあろうお方が、そんな簡単な仕事で、こんなに時間を...いやはや...」


ネルラはビキビキという関節の音と、体毛が逆立つのを抑えられなかった。この老芋虫は、的確にネルラの神経を逆撫でしてくるのである。


「...いやぁ。数刻も経っておりませんよぉ?老いて時間の感覚が呆けておられるのではないかなぁ?それとも、ノロノロと地を這って移動しているだけあって、時計にも置いていかれているのかもぉ?」


ブリュードが20メートルを越える体の動きをピタリ止めた。


「...小童!言わせておけば、 つけあがりおって!貴様とワシの差など、『四凶蟲』という肩書きがあるか無いかでしかない!実力でのし上がったなどと思わぬ事だ!」


「おやおやぁ?四凶蟲を決めているのは、ベル=ゼブブ様ですよぉ〜?それに異を唱えるおつもりですかぁ?...実力が全てのこの城で、実力で決まっていない、などとのたまう前に、てめぇの実力を上げる事を考えろ耄碌ジジイ!」


ブリュードがネルラの恫喝に、一瞬ピクリと体を怯ませる。が、老骨老いたりと言えど、そのプライドは誰より強い。ピクピクと体を震わせたと思うと、ブリュードの周囲に鋭利な鉱石が何百と浮かび始めた。


「もう黙ってはおれぬ!こうとなっては、貴様を捻り潰し、ワシが四凶蟲として君臨する!」


「やってみろぃ!」


ネルラも足を広げ、五属性混合魔法を放つ構えをみせた。ブリュードの実力は知っている。全力で行かねば、自分を捻り潰すだけの実力を、この老芋虫は確かに持っているのだ。


「五属性混合魔法(チンクィーナ)【エレメンタルバースト】!」

「地から出でて、空を抉る!【金剛散華砲】」


互いの最高威力の魔法の撃ち合い。


かたや色取り取りの属性で作られた螺旋の弾丸。


かたや地上最硬を誇る物質で作られた凶器を発射する散弾。



両者の魔法が衝突しようとした刹那。ソ(・)レ(・)は現れた。


ヌルリと音がするような動きで素早く間に入ったソレは、手から剣ではなく「刀」をスラリと抜いた。それも1本や2本ではない。その数7(・)0(・)0(・)本(・)である。


そして、衝突しようとした魔法に向かい、刀を向ける。そして、なぜか「チンッ」と刀をしまい込んだ。


すると鉱石群は砂のような粒子へと変わり、5属性の魔法は瞬きもせぬうちに掻き消えた。


対峙していた2匹の魔物の興奮した頭の中が、瞬時に冷めていく。冷めざるを得ない。目前に、彼等の知る限りの「最強」が居たからだ。


「お、おぉ...一刀斎殿。奇遇ですな。ほ、本日はお日柄もよく」


「はぇー。ムカデのオッサンやっぱりすげぇな。すっげぇはええ剣速。俺でなきゃ見逃しちゃうね」


2匹が露骨な追従を言う。

無理もない。それだけの相手なのだ。


「御二方。闘技場以外での城内での戦闘は御法度。其れを知った上で行為に及んだと見るが、如何か。それとネルラ殿。私は『ムカデ』ではない。『ヤスデ』だ。一体何度言わせるおつもりか」


蠱毒の城において、最強とは間違いなくベル=ゼブブである。が、ベル=ゼブブと戦った者は、誰一人居ない。その前に戦う資格を得る必要があるからだ。


その資格を得る方法が「一刀斎を倒す事」それを成し遂げられた者は、過去誰1人として居ないのである。故に、蠱毒の城に棲む者にとっての「最強」は一刀斎なのだ。


「700本でも一刀斎」

「一杯持ってて一刀斎」

「堅物過ぎる一刀斎」


などと、城内の者達は親しみを込めて彼を呼ぶ。彼は、強者の驕りもなく、決して挑戦者を殺すことは無い。どころか、下の者達に常日頃から指南さえする。


そんな優しい上司でありながら、憧れでもある。だが、規則を破る者にとっては、悪鬼羅刹の類に変貌する。


『千剣万軍の一刀斎』


四凶蟲最強の存在の正式な二つ名である。一振りすれば、刀一つにつき、千の斬撃を起こすと言われており、一匹で何万もの軍勢に匹敵するほどの猛者なのだ。


「いや、面目ない。この小童..ネルラ殿が、いやごとを申すのでな。ついつい。申し訳ない」


「てめぇ...あっ、いやブリュード老がぁ、ねぇ?最初に喧嘩売って来たんでねぇ?私が始めた訳じゃあないんですぅ」


ギチギチと音を立てて、一刀斎が両足を合わせる。


「御二方。この一刀斎を前にして、言い訳を並べ立てるおつもりか?ベル=ゼブブ様の御尊顔を汚すような行い、断じて許さじ。ことここに至っては、ベル=ゼブブ様のお膝元へ出頭し、詫びて貰わねばなりませぬな」


2匹をズリズリと10メートルの巨大なヤスデが引きずっていく。抵抗しても無駄であると2匹は分かっているので、大人しく引き摺られていくほか仕方がない。


その光景を見てクスクスと、妖艶な女性が笑っていた。


「またやってるわ。あのやり取り。もう何十回目かしらね。芋虫のおじいちゃんと蜘蛛の坊ちゃん、負けず嫌いの似た者同士、仲良くすればいいのにねー」


その妖艶な女性は、ともすれば人間の女性のような外見だが、見れば人では無く、羽根を器用に使い、宙を飛んでいることが分かる。


後ろに働き蜂達を引き連れて飛んでいる彼女こそ、四凶蟲の一柱『無限連鎖のエリザベス』その人である。


彼女は四凶蟲『最弱にして最凶』

彼女自身の戦闘力は、精々中級上位程度。だが、常に中級の魔物クラスの蜂を「千体」体内に保有している。


範囲攻撃を得意とする上級上位者ならば、中級の魔物千体は、時間を掛ければ、苦戦するものの、問題無く片付けられる。


だがしかし、千体を倒し終わる頃には、彼女は次の千体を生産し終わっているのだ。1分間に千体という驚異的速度で、毒と鋭利な棘を持つ蜂を産む。正に無限連鎖と呼ぶに相応しい魔物である。



「エリーはん。そう笑いなさんな。あの人らも、不器用ですよって、あぁやってコミュニケーションとってはるんですわ」


クスクスと笑うエリザベスの横合いから、ゲジゲジやムカデのような見た目の虫が話し掛けて来る。可愛らしい声だが、独特の訛りで喋る「彼女」はエリザベスの友人である。


地球で昆虫に詳しい者が、彼女を見れば「スウィマ・ボンビヴィリディス」に似ているという事が分かる。


四凶蟲一の遠距離攻撃の使い手。

彼女が体内から生み出す爆弾は、自身の幼虫である。それぞれ「意思を持つ爆弾」は、一度放てば追尾して必ず目標へと到達する。


一個一個がミサイル並みの威力と速度を持つ。ミサイルを掻い潜り、漸く彼女自身に到達したと思えば、硬い甲殻と、水魔法のベールで守られ、生半可な攻撃では傷つけられない。攻防一体のバランスの取れた魔物であり、水中に限定すれば、四凶蟲最強の存在だ。


「穏やかなる爆弾魔のドリス」

そう呼ばれている。

彼女ら2人は、四凶蟲の常識人を自称しているだけあって、普段は温厚な魔物なのだ。


蠱毒の城に棲む者達にとっては、数少ないメスの魔物であり、その強さと相まって、一種のアイドルと化していたりもする。


「まあね。ドリスちゃんは、この後予定ある?テラスでこの後お茶しない?いい蜂蜜が取れたの。ローヤルゼリー付きよ」


ピョンと飛び上がってドリスが反応する。


「嬉しいわぁ!エリーはんのとこの蜂蜜は絶品やさかいなぁ!ローヤルゼリーも美容に良いって聞くし、是非行かせてもらうわ」


城に棲む魔物達は、いずれも凶悪な強さを持つ。そんな魔物達であるが、主人の不介入不干渉の意向により、普段はこういった微笑ましい光景が見られるのである。



だが、そこにその日「虹色の悪魔」が舞い降りる事になることを、蠱毒の城の面々は知らない。

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