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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
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魔法使いの依頼


「イーヒッヒッヒ!

痛みも感じん内に終わる。大人しておくのだな」


魔法使いが、イーヒッヒと笑うという一つのお約束を知っていれば、その笑い方は...と突っ込んでいたであろう。


(変わった笑い方をする御老人だ)

程度にしかカエルは思わなかった。


なんとか湿地帯にある魔法使いの家までたどり着いたものの、カエルは魔力不足でバテていた。


その為、魔力回復のための軟膏を塗ってくれているのだが、側から見れば、虹色の巨大カエルに緑色のドロドロした液体を塗る様子は、なにかの宗教的な実験のように見える。


「よし、これで大丈夫だろう。人間のための薬だが、魔物に効く事も証明されておる。安堵せよ」


ありがとう、と床に文字を書く。

が、木の床の為、跡が残らない。


「ぬっ?待っとれよ」


と、魔法使いは奥へ引っ込んだかと思うと、何やら白色の板の様な物を持ち出して来た。


「この板は、微弱な魔力も感知する。本来は違う用途で使うのだが、これを足先でなぞってみよ」


再度ありがとう、と文字を書いてみる。


すると、白色の板に、虹のような7色の文字でありがとう、と描かれた。


「...驚いた。お主、七属性適正をも持っておるのか。普通でないと思っては居たのだが、とんだ拾い物よ」


なるほど。この板の用途が判った。

本来、自分の適性を知るための道具なのか?

と尋ねる。


「その通り。生物とは1種類ないし2種類の適性を持って生まれる。稀に3、4属性持ちも居るが、4属性持ちとなると奇跡的確率であろうな」


(なるほど。それでアルカンシエルが使えたり、エアロウォークやファイアーボムの魔法が使える訳だ)


「...すると!先刻空に浮かんだ謎の虹のような物は、お主の魔術か!」


否定する理由もない。コクリと頷く。


「あのような魔法が存在するとは...。七属性に適性を持つ者にだけ許された魔法か。どこでそれを覚えた?古代の文献でも見つけたか?」


ブンブンと首を振り、独学で編み出した、と伝える。


「...魔法を。独学で..。

ちょ、ちょっと他の編み出した魔法を出してみろ」


ちょっと、と言われて出せる魔法など...。

あぁ、あれでいいか。


風属性の魔術を練る。

これを使うくらいの魔力なら。


【タイフーン】!


すると手のひらに乗りそうな渦巻く風が出現する。


「おぉ...おぉ。これはなんというか、確かに見た事は無いな。小規模な【トルネド】のようにも見えるが、少し違うな。魔力の流れが違う」


どうやら似た魔法が存在するらしい。


「ぬぅ。どうやら信じねばならぬようだな。

現代において魔法とは、編みだそうと思って、編み出せるものではない。古代魔法都市の遺品や、それの模造紙によって、現在に伝わっているに過ぎない。編み出したと言われる存在は《ベルゼブブ》くらいだ」


ベルゼブブとは何だろう?


「ベルゼブブとは、現在の魔王と同格の存在とされる、太古の昔より存在する魔物。伝説の存在だが、身近に存在する。ほれ、窓の外を見よ」


窓からは、山々しか見えない。


「あの山々の何処かにある、と言われる「蠱毒の城」そこの主が、蠅の王ベルゼブブだ」


(ハエの王!?)

眼を輝かせて、魔法使いを見る。


「...おいおい。フロッグ族が虫を食べるのは知っているが、アレは桁が違う。6属性を極めているだけではない。今の魔王が大人しくしているのも、ベルゼブブの存在あればこそ、と言われているのだぞ」


とんでもない存在である事は確かなようだ。

しかし「ハエの王」とは...。


(じゅるり)と唾液が出てくるのを止められない。


「あのな...。お主も規格外である事は間違いあるまいが、神話の生物を相手取るようなものだ。それに「蠱毒の城」が表すように、巣食う魔物は、全て上級の魔物と聞く。命が惜しければ、近づかぬ事だ」


(うーむ残念だ。さぞかし食いでのあるハエだろうに)


「ところで、お主。以前大蛇「ザルティス」とやり合っておっただろ。普段ザルティスは、無害な蛇でな。この辺りに、邪な人間達が居ないのも、ザルティスが居るからだ。怒らせる様な事をしたのか?」


(あの大蛇の名前か。怒らせた心当たりは無いが、美味しそうにでも見えたのだろうか?)


首を振り否定する。


「左様か。お主が、あの邪視から逃れた時は驚いたぞ。その後、何食わぬ顔で、人間の村で暮らしていた時は、もっと驚いたがな」


(あの時は必死だったな。我ながら、よく逃れられたものだと思う。もうアレには近づくまい)


「それでな。お主に頼みがあるんだが。少しばかり実験に付き合ってくれないか?」


実験?実験...あまりいい思い出は無いな。麻酔をかけられ、生きたまま身体をバラバラにされた思い出が蘇る。悍ましい実験だった。


「なに。簡単な事だ。お主にとっても悪い話ではない。お主の逃げ足は、既に知るところだ。で、だ。ザルティスには巨大な巣がある」


(待て。この話の流れは...)


「お主にその巣から、ザルティスの「卵」を盗って来てもらいたい」


「...............」

カエルは無表情で沈黙する。

その後


「ケロケロケロケロケロケロケロケロケロケロッ!」

と、全力で振動しながら首を振った。


そして白板に「おじゃましました」 書いて、家から出ようとする。


「まあ、待て待て待て!話は最後まで聞くべきだと思うんだがね。お主にも悪い話では無いと言ったろう」


(リスクだ。リスクしかない)


あの大蛇は天敵だ。魔法も、毒も効かない私の動きを止め、丸呑み出来る体躯。恐らく呑まれれば、硬質な私の肉体でも、ひとたまりもない。


「私には、あの卵が必要なのだ!理由は、取って来てくれれば話す。で、お主の利点だが、なんと2つもある!魅力的な話だ。聞いてからでも遅くあるまい?」


(聞くだけなら聞いてみるべきか。それでも、死の危険と釣り合う物は、あるのだろうか?)


「よし。聞いてはくれるな?一つ目は、私の扱える系統の魔法を、全てお主に見せる。見ただけで覚えられるお主なら、時間も必要あるまい?数は少ないが、上級魔法も教える」


なるほど、それは魅力的だ。

上級の敵に、私の初級魔法では、通用しなくなっているのを感じていたところだ。


「二つ目。お主の《能力》を解放してやろう。《能力》は知っておるか?」


(むむ!《能力》とはサジの使っていた《サジタリウス》のような物の事だな。デヴォネアという男は、魔法を不可視可していた)


それを白板に書く。


「ほう。能力持ちを、既に相手取った事があったか。能力を開花するには、中級冒険者程度の腕前が必要と言われている。神から与えられた力とも言われ、一人一人与えられる力は違う」


サジのサジタリウスと、デヴォネアの不可視可は、かなり上等な能力であったように思う。ただ、サジの能力は、普段から使えない事から、使い勝手としては、デヴォネアに劣るか。


「能力は千差万別。1人で戦場を荒らせる物から、台所仕事にしか使えない物までだ。苦労して這い上がった冒険者が「魚の鱗が一瞬で取れる能力」に目覚め、引退して料理人になった、という笑い話まであるな」


(それは悲しいな...)


「お主に何が目覚めるかは分からん。が、何にしろ一足跳びに能力に目覚められるのは、魅力的だろう」


(確かに。冒険する価値はあるかもしれない。不可視可まで行かずとも、例えば、脚力を強化するものでも、私には強力な能力になるだろう)


魔法習得と、能力の覚醒。

魔法習得は、オリジナル魔法の存在があるものの、実はそう簡単ではない。


【アルカンシエル】は、実は唯一の成功例であって、それまで何百の魔法が失敗している。【タイフーン】も失敗例の一つだ。


1年以上かけて、ひとつなのだから、見せてもらうだけで、何個も魔法を覚えられるのは、魅力的な話だ。


首を捻って、ムムムと考えていると

魔法使いが提案して来た。


「なあに。お主は難しく考えておるが、ザルティスが出掛けている間に、卵を取ってくれば良いだけだ。巣の場所も把握しているのだ。お主の足ならば、問題ないと思うが」


(そう言われると、そうかもしれない。運搬も【エアロウォーク】があれば、問題無いだろう)


暫く考え込んだ後、魔法使いに向かい、コクリと頷く。


「おぉ。やってくれるか。では、早速打ち合わせといこう」


私は卵泥棒を引き受けた。

過去の命で、他所様の卵をパクリと食べた事はあったが、今回は蛇の卵だ。


私がパクリといかれかねない。

慎重に行くべきだろう。

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