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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
23/68

旅立ち、伸びるカエル


子供達と肩を並べて地面に文字を書く。親子であれば微笑ましい光景だが、子供達の相手は2メートルのカエルだ。


側から見ると奇怪な光景であるはずだが、村人は気にしていない。

ここ1週間ほど、この光景は続いている。


(この辺りの文字は、簡単だ)

そう思う。カエルが「出雲文字」という文字を知っていれば、似ていると思っただろう。


(いわば平仮名のみで構成されているニホン語といった所か。鉄の箱「テレビ」で見た文字は多種多様であったが、この近辺の文字や言語は、簡素だし、もう既に覚えることはなさそうだ)


ココ最近は文法を学んでいた。


このサニャという「教師」は、優秀な先生らしい。子供だ子供だと思っていたが、村長が教えている読み書きの教室でも、突出した存在なのだとか。


「サニャねー。おっきくなったら、文字を教える先生になるの」


本人もどうやら、そういう夢を抱いているらしい。


識字率という物が、この村では極端に低い。街育ちの村長が、ここ数年教えているものの、大人は興味を示さず、子供達しか興味を示さない。


「でもさー。文字なんて覚えても、食べていけないよサニャちゃん」


えらく現実的な意見を述べるのは、ピレモンの倅のピンチョ。親と比べて、随分冷静で感情を表に出さない子だ。


「あのねピンチョ。これからは、ユニケロなんかの商人の時代が来るの。そうすれば、文字の読み書きは当然理解しないといけないのよ」


(なんだこの未来志向の話し合いは)


私は、確か子供達の遊び相手をして居たはずだが...。どうやら子供というのは勝手に育つらしい。


「アンタ達!もうお昼ご飯の時間だよ!一度家にお帰りよ!」


世話焼きのレシアが、子供達に声をかけて来た。「はーい」と気持ち良い返事を返して散って行く。


「カエルさんも、これターニャに持って帰ってくれるかい?うちで採れた野菜だよ」


この女性は、サニャ一家が豊かになった今でも、一家を気にかけていてくれる。根っからの世話焼きらしい。


コクリと頷き、ズタ袋を咥えて帰る。


この村とも、明日でお別れなのだ。


先日村の主だった面々を集め、筆談で別れを告げた。


皆一様に驚いて、なかには泣いている人間も居た。「ずっと居たら良いのに」そう言ってくれる者もいた。


意外だったのが、サジだ。

彼は男泣きに泣いた。


まだなんの恩も返せていない。

彼は、そう言っていた。


いつか返してくれ、と頼んだら

グシッと涙と鼻水を拭い、良い笑顔で「おうよっ!」と返事してくれた姿を覚えている。


ユニケロの主人も、仕入先が居なくなるのは厳しいが、軌道に乗ったし何とかすると言っていた。



後々「ユニケロは、高くなった。それでも価格に比して、質は高いが」という評価に落ち着く。


あの主人の手腕であろう。


後は明日、ターニャとサニャに告げるのみ。あの2人は共に過ごした時間が長い。これが「情」というのだろうか?


最後の狩を済ませ、夕刻になり、家に帰る。


家に帰ると、いつも通りの光景。

ただ、サニャとカエルの寝室に入ると、大きな風呂敷に、手紙が添えられていた。


「カエルへ。あなたが、旅に出る事は、夫から聞きました。コレは以前から用意していた風呂敷です。


あなたが舌を使って簡単に背負えるように、結び目は結いつけて、作っています。


ブラックサーペントの革なので、丈夫に出来ているはずです。旅から帰って来たら、色々な話を聞かせて下さい。待っています ターニャ」


と記されていた。

所々に書き直した跡があったりする。彼女は字が書けない筈だった。


恐らく誰かに教えて貰いながら書いたのであろう。


帰って来るときには、この風呂敷一杯の土産と、冒険譚を聞かせてあげよう。そう思った。


(あとはサニャだけだな)


一家の食事中、ついついサニャの顔を見てしまっていたのか

「カエルさんどうしたの?」

と、尋ねられたが、首を振って、何でも無いと示した。


思えば、この子が居なければ、村に迎えられる事も無かったろうし、こうして、言葉と文字を綺麗に覚えられる事も無かったろう。


彼女に感謝の気持ちを伝えたいが、何を渡せば良いか、結局思いつかなかった。


その夜、サニャは何故か私に抱きついたままスヤスヤと眠った。



出立当日の朝。

私は、風呂敷を背負い、扉を出る。

見送りの面々が外で待っていた。


村人全員がそこに居た。

別れを告げようと思っていたサニャもだ。


サニャが「カエルさん行ってらっしゃい」という横断幕を掲げている。

目には大粒の涙溢れていた。


どうも誰かから聞いて、知っていたようだ。



子供というのは、知らぬ間に成長するものだ。


私は門番に見送られ門から出る。

皆も見送りに来ている。


サニャに何か渡そうと思っていたが、結局私に出来る事は限られている。


虹色の靄を周囲に纏い、それを濃く練っていく。魔力の限界ギリギリにまで練る。


そして宙空に放つ

全力の【アルカンシエル】!!


空一面に覆うようなオーロラを浮かべる。

そこに穴を開け「行ってきます」と描いた。


サニャが飛び跳ねて喜んでいる。

どうにかプレゼントにはなったようだ。


「いってらっしゃい」


皆にそう言われて出立する。

いつか戻ってこよう。そう胸に抱く。



最初の目的地は、大蛇の居た、北の湿地帯だ。

振り返る事はない。


虹色のカエルは野原を疾駆する。



◆



数分後、野原にベッチャリと虹色のカエルが舌を出して伸びている。空に巨大なオーロラを発生させた影響からか、バテたのだ。


(締まらない旅立ちだな)


そう思いながら

四肢を広げてベッチャリと、寝転ぶ。


その時、何かがこちらに音も無く近づいて来た。

目だけを動かして、そちらを見る。


「何やっとるんじゃこんなところで」


見覚えのある老人。以前村に来た魔法使い。そして、私が逢いに行こうとしていた人物だった。


カエルは村の旅人から、北の湿地帯に、独りで暮らしている魔法使いが居ると聞いた。


恐らくカエルに魔法を教えた人物だろうとふんで、逢いに来たのだ。それが、偶然現れるとは。


「おっと、言葉は話せないんだったか?しかし、なんでこんな場所で伸びてるのかね?」


疑問を投げかけられたので、素早く足元に文字を書く。


「む。文字を覚えたのか。優秀な頭脳を持っているな。益々「興味」が出て来た」


益々とは?村で会ってからだろうか?


「お主の事は、以前から気に掛けておった「大蛇」と対峙した時からな」


この老人、あの場に居たのか。

と、なると、あの湿地帯の一軒家。

やはりその住人は...。


「回復したら我が家まで行こう。

協力してほしい事が色々ある」


こうして私は、怪しい魔法使いの家に招かれた。

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