決意
村を、数人の男達が布に包まれて運ばれていく。
その扱いは随分雑だ。
なにをかくそう、彼等は罪人なのだから。
野盗の頭目、強姦魔、冒険者、「露出魔」、痴漢。彼等の出自上、罪状は様々だが、原因は、それ等ではない。
婦女誘拐、殺蛙未遂である。
この村独特のこの罪状は
殺人と同等の重罪に値する。
彼等は皆、この村では管理出来ない罪人である。
皆腕が立ちすぎるのだ。
よって、近隣の街から、衛兵が連行に来たわけだが。
「ま、魔物だああ!魔物が出たぞ」
(このやり取り、何度目になるか)
近隣の街から来た衛兵達が騒いでいる。
勿論「私」を見て、だ。
虹色のカエルの看板を掲げた「ユニケロ」は、ある程度の規模で有名にはなっているようだが、当然皆が皆認識している訳では無いと言う事だ。
内心ウンザリしつつ、周りの村人に助け船を出してもらおうとした時に事件は起きた。
「おらああああ!」
血気盛んな若い兵士が、カエルに斬りかかってきた。
「あっ...!」
(またか)と騒動を和やかに、見守っていた村人達が驚いた。まさかいきなり斬りかかるとは、誰も思っても居なかったのだ。
カエルは跳びのき、素早く臨戦態勢を取る。尋常では無いカエルの動きに、兵士達も同様に構えた。
「おいおい!物騒な事してんなぁ。
俺も物騒な事得意なんだ。混ぜてくれよ!」
間の抜けたような大声が飛んで来る。
皆がそっちの方向を見た。
サジである。蒼弓に手をかけて「明後日の方向」に向きながら、大見得を切っている。
まだ目は治っていないというのに
えらく肝の座っている事だ。
「サジだ!蒼弓のサジ!
引退したって聞いたけど、こんな所に居たのか」
どうやら二つ名持ちは伊達では無いらしい。
街の兵士にまで顔が効くようだ。
「なに?アイツが...?」
「あの【女食いのサジ】」
「いや、俺は【ケツ追いのサジ】って聞いたが」
「百発百中は夜の方もらしいぜ」
...どうも別の二つ名もあるようだ。
ターニャとサニャが居なくて良かった。
「デタラメな二つ名言ってんじゃねぇぞ!!
カミさんに聞かれたら殺されるだろうが!」
どうも二つ名は事実らしい。
「衛兵さん達よぉ。そのデカイカエルは、俺のダチだ。それに、今回の事件、制圧したのはソイツだ。うちの妻子が助けられた」
皆一様に信じられないような目でこちらを見る。
「蒼弓が言うなら、そうなんだろう。村の皆が恐れて居ない事からも、見て取れる」
隊長格の男が言う。サジも大層な「唐変木」だが、信頼はあるようだ。
「おうよ。保証するぜ。あと、運んでいく罪人達は、冒険者として中級以上の腕前ばかりだ。1人は一級の【沈静のデヴォネア】もいる。精々気を付けて連行するこったな」
兵士達がザワつく。沈静のデヴォネアと言えば、長らく大きな活躍はしていない。が、100体を超える魔物の暴走の鎮圧の功は、大きいらしい。
「分かった。こちらも魔法使い対策は、万全にしてきたつもりだ。一同、気を引き締め連行するように!」
馬車に乗せられ、罪人達が連れられて行く。道を外さなければ、優秀な者達だったろうに。そんな想いをカエルは抱いた。
こうして一つの事件が終わった。
同時に、カエルには一つ心に決めた事があった。
この村を出る。
素晴らしい場所だった。居心地も良い。
村人は皆私に親切だ。
ただ、広い世界が見たい。
この目で、この足で。
生まれ変わりを繰り返した私は、様々な景色を見て来た。 巨大な滝、どこまでも広がる地平線、荒野に聳え立つ巨大な石塊。
ただ、それらは私が望んで見たものでは無かった。死を繰り返し、毎日を必死に生きて行く中で偶然見たもの。
今それらを思い返すと「もう一度見たい」と思うのだ。どうせ見るなら、共も欲しい。
人と触れ合い、共感する事の大切さを知った。
共に喜び分かち合えれば、素晴らしい事だ。
それらが出来る者達。
私は「冒険者」になると決めた。
◆
(どうもカエルの様子が最近おかしい)
最初に気付いたのは、ターニャだった。女の勘とでも言おうか、日頃の何気ない行動の違いを、彼女は目敏く見つけていた。
村長から借りて来た、この近辺の地図を見たり、サジに筆談で冒険者の話を聞いたり、サニャと筆記の練習に励んだりしていた。
(旅にでも出るつもりかしら?)
ターニャは、そう感じ取った。
彼が生きて行くには、外の世界は辛いものになるだろう。ここに居れば良いのに。そう思う。
(ここに居て欲しい。と言っても良いか」
個人的な感情を言ってしまうと、孝行息子でも持ったような気持ちを抱いている。
稼ぎは良く、娘の遊び相手もしてくれて、旦那が失明すれば、背に乗せて村を廻ったりしてくれた。
これ以上ないくらい良いヤツだ。
料理の手を止めて、窓の外を見る。
青い空が広がっている。外の世界は広い。
そうか、彼の気持ちが分かった。
彼にココは狭すぎるのだ。
村で「良い妻」をしていると、時々夫や娘を放り出し、鳥になって、飛んで行ってしまいたい。
そう思う時がある。結局娘の笑顔を見たりすると、やっぱり娘が大事だ。なんて、現実逃避から、戻ってくる訳だが。
あの子の足なら飛んでいける。
そう思うと、なぜか涙が頬を伝う。
旅支度を手伝ってあげよう。
そう思った。




