決着
サジの目の前に、カエルがベチャッと
大きな音を立てて落ちて来る。
世の中には、悪人と善人がいる。
この場での悪人は、分かりやすい。
(人質を獲ったデヴォネア、その仲間。
つまり俺もそうだという事)
じゃあ、善人はだれか。
これも分かりやすい。
善人は人ではない。爬虫類だ。
無垢な瞳をしている。
人質を獲られた男の為に、この場に「分かっていながら」も足を運び、人質になった親娘の為に、圧倒的有利な立場を捨て、無防備に地に降り立つ。
(こいつは善人を通り越して英雄だな)
常人じゃ出来ない。
(尊敬するよ。お前を)
サジは目の前のカエルに対して
初めて、家族。いや、親友になったような気持ちを持った。
「ハッハッハ!お人好し、いや、人じゃないか。それでいい!そのまま大人しくしてるんだぞ!」
デヴォネアは、高らかに笑い、こちらにゆっくり噛み締めるように歩いて来る。
あの男の悪い癖だ。性格の悪さだな。
「サジ。お前が殺れ。と言っても、矢じゃ皮膚は破れないか。ハピネスフロッグ。お前大人しく口を開けて、矢を受け入れろ。流石に死ぬだろ」
(無茶言いやがる。
が、カエルの方はやる気満々みたいだな)
足をガサガサと動かし、開いたかと思うと、ガパッと口を開いて、矢を受け入れる体制を作り、こちらを見ている。
「カエル。すまんな。せめて苦しまないようにしてやる」
カエルの方向へ歩きながら、矢を2本番え、2本射ちの体制を取る。
ガパッと開いた巨大な口が目の前に来る。なかなか拝めない光景だな。そんな感想を持っていると
「ゲロッ」という小さな鳴き声と共に、トントンと小さな動きで足で床を叩いている。
ふと下を見ると、木の床に、色の違う部分が出来ている。
どうやら水で木の床を濡らして、何かを表現しているようだ。
(こりゃ...文字か?逆文字だし、クソ汚くて読み辛いが...)
「サニャとの約束」
と書いてあった。
(...おめぇ判ってるじゃねえか)
「おいカエル....」
ボソボソと耳打ちするような声..。
「サジ!何やってる!さっさとしろ!
妻子がどうなってもいいのか!?」
(せっかちな野郎だ)
「お父さん!カエルさん殺さないで!お願い!」
(ほれ見ろ。娘が泣き叫んでるじゃねぇか。女の子は悲しくて泣かせるもんじゃない。嬉しくて泣かせるもんさ)
「サニャ!遠乗り覚えてるか!」
突然話しかけられたサニャが、キョトンとする。
「約束!!....魅せてやるよ!」
ビョッ!!
サジが言い終わらない内に
巨大な物体が跳んだ。垂直に。
カエルが、サジに小声で言われた事は、至極単純な事だった。
「1秒でいい。隙を作れ」
結果、カエルは只々足を広げ、垂直に飛び上がる事を選んだ。巨大な虹色の物体が垂直に飛び上がる。
当然そこに目が行く。
(それだけでいいのさ)
「《サジタリウス》発動」
サジの目に、瞬く星々が浮かび上がる。
《射手座》 この世界にも浮かぶ、この星々は、弓手に崇められ、それに因んだ神さえ存在する。
サジは生まれた瞬間から、この瞳を発動して生まれた。両親は、その瞳に浮かんだサジタリウスを見て「サジ」と名付けた。
そして、生まれたサジには「視力が無かった」
目の見えない子を産んでしまった。
母親は、随分嘆いた。
部位欠損や、弱視など、この世界では、忌子として扱われ、時には捨てられた。
しかし、1週間後、その子供「サジ」は、ケロッとした顔で両親の顔を生まれて初めて「見た」
見えたのだ。1週間の後に。
1週間の盲目。
それが、この【能力の代償】
強力な能力には、制限や、代償が付く。
視力を失った弓手など、存在価値が無くなる。
それほどの代償。
得た能力は...
素早く振り向き
番えた2本の矢を、人質に。
否。後ろの男達に向けて早射する。
カエルの跳躍に視線を奪われていた者達は、サジの早射の「瞬間」だけを見た。意識した時には、既に2メートル程度の目前に矢が飛来している。
咄嗟の事に、人質を獲っていた男2人は
親娘を盾にしようとした。
「アホが...!!」
デヴォネアは、焦った。人質を獲ってこそ、サジは従っている。カエルも、そうだ。人質が死んだら..!
2本の矢が、人質を貫いた。
確実に貫いたのだ。
ドサッと音を立てて倒れたのは、2人の男。
頭部には2本の矢。寸分違わず、眉間に。
「ば、バカな...!」
デヴォネアは見た。視えた。親娘を矢が貫いたのを。
だが、親娘には傷一つない。
驚いたのは、その親娘である。
旦那が、父親が、自分達に向かって矢を放った。そして頭を射抜かれた。筈だった。
狐につままれたような表情をしている2人。そこに、カエルが素早く立ちふさがり、デヴォネアから守る態勢を取る。
「へへへ。見たか、驚いたか、ビックリしたか?サニャ。あれが「とっておき」さ」
「...すごい!すごいすごい!お父さん魔法使いさんだった!」
「勝手に職業変えるなよ。英雄だって言ったろ?」
サニャと別方向を視て、喋るサジ。
(どうやら、目が見えないらしい)
カエルと、そしてデヴォネアは気づいた。
「...どんな手品使ったんだサジ。正直驚いたぜ。お前が実力をまだ隠してたなんてな」
お手上げというふうに振舞うデヴォネア。
「なあに。使い所が難しいのさ。
見て分かるだろう?1週間は、このままさ。見えないし、能力も使えない」
「【代償】か。初めて見るぜ。【制約】なら、俺の能力にもあるがな。どんな能力だ。冥土の土産に教えてくれよ。」
「標的への絶対命中。標的との間に遮蔽物があろうが、アダマンタイトの武具を着けようが、標的の肉体に「直接」矢を送り込む。防具無視、命中無視の必殺の矢さ。そこのカエルには、意味がないけどな」
「じゃあ、お前の異常な弓の精度も
その能力の恩恵を?」
「あれは俺の腕前さ」
「なるほど...なっ!」
サジの話を聞く振りをしながら
渾身の魔力を練りあげた【キネシス】
地面に転がっている全ての凶器と繋げたソレは、魔力枯渇による失神覚悟の渾身の攻撃。
標的はカエルではない。親娘に向けられた攻撃である。それは守るカエルへの最強の一撃になる。
「守れるものなら守ってみやがれぇえ!!」
「か、カエル!なんとかしろ!」
目が見えず、逆方向に叫ぶサジ。
「ケロッ!」
一際大きく鳴いたカエルに、靄のような魔力が色濃く渦巻く。それは七色に輝いていた。
炎の赤、大地のオレンジ、光の黄、樹の緑、水の水色、風の青、闇の紫。カエルは、独学で七属性の魔法を織り交ぜた魔法を完成させたのだ。
(これが新しい魔法。私の切り札)
【アルカンシエル】!
カエルと親娘を覆うように
虹色のオーロラが包み込む。
凶器が、半透明のオーロラに殺到する。
が、ある凶器は燃え尽き、ある凶器は、地に刺さったかの如く見えない壁に突き刺さり、ある凶器は闇へと呑まれた。
そして、四方八方から飛来した、50本を超える凶器を「全て」七色のオーロラが防ぎきった。
「...七属性同時行使...?!バケモノかよ...」
魔力枯渇の影響からか、白眼を向いてデヴォネアがドシャリと膝から崩れ折れる。ピクピクと泡を吹いて痙攣している事から、最大量を大幅に超えて魔法を使用したらしい。
(どうやら終わったか)
毒で無力化した男達は、気絶しているが、キュアで毒を治せば、立ち直るだろう。放っておけば死ぬが。
サジに射抜かれた2人は、完全に絶命。デヴォネアは、数週間意識を戻す事は無いだろう。
「おい、カエル。どうなった!
おい!はやく!おい!はやく!」
(うるさい男だ。喋れないのに教えられる訳がないであろうに)
「お父さん!カエルさん勝ったよ!虹がバーってなって、剣がバーンッて燃えてぇ、刺さってぇ、色々!」
「そ、そうか!やりやがったなコイツぅ!!!」
バシバシとサジが叩いているが、それは私ではなく、吊るされていたオークの死体である。
「アンタ。それより、この転がってる人達どうするの!早くしないと、苦しんでる人も居るよ!」
「ほっといたらいいんじゃない?悪人だけだし」
あっけらかんとサジが言うものだから、ターニャは呆気に取られた。
サジは冒険者として、経験を積み過ぎたため、強盗野盗の類を何度も殺した。そこが村娘でしかなかったターニャとの差異であろう。
「でもお父さん、この人達可哀想...」
「そうだな!!サニャの言う通りだ!!
カエル君助けてあげなさい!」
( (...本当にこの男(旦那)は...) )




