↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
18/68

不可避の選択肢


肌を冷気が包み込む。まだ冬はやって来ないが、山の近くにある田舎村は、随分と寒く感じる。


まだ村の子供達が目覚める時間では無い。いずれ冬になり、雪が降り、積もれば、元気な彼らは雪合戦をするだろう。



俺は冬が好きだ

雪は心を白く染めてくれる

無だ 無 何もない


この1年以上の俺は無だった

何もない 無くなってしまった


魔物の鎮圧で名声を得て

金を得て 女達も寄って来た

それでも足りない「何か」を探した


ある日虹色のカエルが 俺のいた街に持ち込まれた


俺は惹き込まれた その「美」に


周りは 金だ 名声だ 名誉だ と持ち込んだ一級の冒険者を褒め称えていた


...誰も気付かないのか?この「美」

脚を掴まれ吊るされたカエル

白眼を向き、脱力しているカエル

自慢気に死骸を持つ男 カエル

美しいカエル カエル カエル カエル

カエル カエル カエル カエル カエル

カエル カエル カエル カエル カエル



もう少し で 俺も あの絵画の ような光景に、

あの男 に なれたのに

カエルの 邪魔をした カエル


この1年以上、奴のことだけ考えた。


何を食べ、何をして過ごしているのか、どうやって倒すか。食事もろくに取らずに、朝から晩まで考えて考えて。答えは出なかった。


逃げに徹されれば

人間に追い付ける速さじゃない。


どうすればいい?

逃げられない環境を作ればいいのだ。


どうやって作る?

分からない。不可能だ。


だが、実際この村に来て

答えは出た。


会話が出来るという。

情があるという。

人間と一緒じゃないか。

人(・)間(・)と(・)一(・)緒(・)なのだ。だったら...


考えていると、家の中から懐かしい顔が出て来た。俺の右腕だった男


「..サジ!元気そうじゃないか!」

満面の笑みで彼を迎える。彼は難しそうな顔をしていたが、私の顔を見るなり、苦笑いをして


「アンタも以前よりは元気そうだ」

と皮肉を込めて言った。


彼は私がスカウトした。優秀な弓手だ。あらゆる魔物との狩りに連れて歩いたが、彼が入った後は、ほとんど仲間が傷を負うことは無かった。


優秀な斥候で、優秀な解体屋、優秀な皮細工職人でもあった。デヴォネアより一回り若い彼は一種の天才であったろう。


「奥さんと娘さんは元気か?」

自然と出た言葉だ。彼は村から飛び出して来たが、妻子を常に気にかけていた。


その言葉を聞いた時、彼はピクリと肩を動かした。


そして背負って来た蒼弓に手をかけ


「妻と娘に手を出したら、アンタでも許さない」

そう言った。


(相変わらず察しがいい)


「バカ言うな。俺が、お前を、どれほど信頼してたか知ってるだろう?」


「俺の腕を、な」


ふむ?警戒してるとアホでも

鋭くなるものだな。


「分かった。そこは信用してくれ。それより、俺の目的は分かっているんだろう?奴(カエル)を渡して欲しい」


先に目的を伝えてしまう。交渉の基本だ。


「俺の手には余るよ」

片手は弓に手をあてたまま、片手をあげ

お手上げのポーズを見せるサジ。


「なにもタダって訳じゃあない。お前にも「お前の一家」にも利点のあることさ」


「なに?」


食いついて来た。


「一つ。「アレ」を狩れば、お前達親子が、残りの人生を遊んで暮らしていける金が手に入る」


それが一つ目の利点


「...俺もそれは考えたが、最早それは利点じゃない。アイツが持ち込む獲物は、この村と、我が家に少なくない富をもたらしてる。長い目で見れば、このままアイツと暮らすのも悪くないさ」


そうくるだろうな。事前に分かっていた。


「それは聞いてる。「ユニケロ」だったか?

たしかに安く素材は買い取られてるが、相場にしては。だからな。いい金を生み出してるんだってな」


二つ目だ。


「じゃあ二つ目だな。お前が警戒している事を、取り除いてやる。今後何があろうが、お前達親子には一切手を出さない。どうだ?」


「それも、俺がここでアンタを止めれば良いことさ。ドンパチしてれば、カエルの奴が起きて、俺の側に加わるぜ。どうする?」


巨大ハピネスフロッグの実力は未知数だが、噂程度には聞いている。あの速度で動き回りつつ、搦め手を交えた攻撃で相手を翻弄する。脅威だろう。


「じゃあ、こういうのはどうだ?お(・)前(・)の(・)大(・)切(・)な(・)物(・)は(・)、(・)既(・)に(・)俺(・)の(・)掌(・)だ」


「なっ!?バカな!」

一瞬家の方を振り向きかけるが、向き直るサジ。

流石に俺を相手に視線は外せないだろうな。


「《武技(スキル)》で、警戒していたはず。か?

確かに斥候としてのお前の能力はズバ抜けている。気配を察知する能力もある」


「だが、あらゆる気配や、探知網を潜り抜ける《能力(オリジナル)》があったとしたら?条件付きだがな」


クイッ、と顎でサジに家の中を見るように促す。奴の妻ターニャと、娘のサニャが窓際にいる。


後ろには、裸の男が居た。眠り薬が効いたのか、2人ともグッタリと力なく項垂れていて、姿を見せるなり、2人を抱え、また奥へと引っ込んで行く。


「奴の《能力》は、衣服や武具などは一切身につけられず、時間制限付き、ではあるが、完全なる隠蔽能力。非力な男だが、素手で女子供の首を折るくらい容易いぞ?」


愕然とした表情でサジが、妻子が連れ去られるのを見ていた。周囲を遠巻きに俺の仲間が囲んでいるこの状況。打開出来まい。


「さて、どうする「お父さん」妻子を救う為に、ペットを差し出すか、ペットを救う為に、妻子を差し出すか。簡単な問題だ。分かるな?」


暫しの静寂。

...クククとサジが笑う。


「アンタいつから、こんな2流に成り下がった?」


「元からだよサジ。それで返事は?」


下を向いて考え込むサジ。

(だが、既に答えは決まっているようなものだ。あのアホなりの善意が邪魔するのだろう)


「分かった。分かったよボス。アンタに付く。だが、金の分け前と妻子の無事だけは保証してくれ。それでダメなら、俺も抗戦させてもらう」


この状況で金を要求してくるか。

それでこそ俺の右腕だった男。


「呑もう。元からそのつもりだよ」


「それで、俺は何をすればいい?

寝込みを襲うのか?毒でも盛るか?」


寝込みを襲っても効果は無い。あの頑丈な体には

サジの弓でもまともに傷を負わせられまい。


もっと効果的な戦い方がある。


「なに。お前は奴をある場所まで連れて来る。それでいい。後はハピネスフロッグを追い詰めたように、素晴らしい弓の腕前を見せてくれ。皆見たがってる」


以前の仲間達では無いが、それなりに腕の立つのを集めた。罪人紛いの者も混ざっているが、カエルを狩るまでの間だけだ。問題ない。


「分かったよ。それで、どこに呼び出すんだ?」


「お前の仕事場さ。村の備蓄庫。

解体場所だったな。あそこが良い」


暫く考えた後、サジは頷いた。

2時間後を指定し、サジと別れる。


大事な交渉材料には、このまま寝ていてもらおう。


「デヴォネア。奴は本当に信用出来るのか?

裏切ったりしないか?」


誘拐を担当した仲間が尋ねてくる。


「...しつこい奴だ。妻子がこちらにある以上、お前が心配する事は無いだろう。戦闘中も、念の為に妻子には、2人つけておく。それで十分だろ?」


納得したのか、仲間が引き下がる


(あぁ...もうすぐあの「美」が俺の物になる...

待ちきれないな)



◆



日常が終わりを告げた。

俺は家に帰り、クッと白湯を飲んだ。


今、この家にターニャとサニャが居ない。

隣の部屋ではカエルが寝ている。


(ある程度の覚悟はしていたが

実際にそうなると、辛いな)


俺にハッピーエンドは来ないらしい。


仮にカエルを差し出しても、デヴォネアは妻子を殺し、俺を殺すかも知れない。


ただ、殺さない可能性の方が高い。

奴はカエル狂いだし、その要件が終われば、解放される可能性がある。


その可能性に縋るしか、今の俺にはない...。俺の《能力》を持ってしても、あれだけの人数を相手取るには、ちと厳しいだろう...。


机に突っ伏して窓から外を見る。


雪が降ってきた。

真っ白な雪。

冬の訪れを知らせる物。


今年は随分早いな。



俺は...冬が嫌いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。