蠢く者
カエルの為 17話
商人、旅人、村人、カエル。
村人一色だった村が、徐々に賑わいをみせている。
(少し派手に暴れすぎたか)
と、カエルは思う。
村の食料事情、経済状況を変える程に
カエルは活動し過ぎた。
この肉体を得て以来、強大な生物を相手に出来る事が楽しく、つい奥地へ奥地へと行ってしまっていた。
先日などは、山の麓まで行き、全身鎧の強力な槍使いの魔物と戦闘したが、お互い決め手が無く、長時間の戦闘で疲労を感じた為、逃げ帰って来た。
自分は強いと思っても、世界は広いものだ。自分が使える初級魔法のみでは、限界も見えて来たところだ。
「よっ!相棒!どうした、ぼーっとして」
そう声をかけて来たのは
サニャの父親の弓使いサジだ。
先日の狩では、驚く程見事な腕前を見せていた。
《武技》と呼ばれる技を使い、強敵を薙ぎ払っていく姿は、娘のサニャが求めた英雄像に勝るとも劣らない物であったろう。
「お前が来て、この村も随分変わったなあ。
例の武具屋の関係者の、まあ多い事」
実際、村に増えたのは通称「ユニケロ」の関係者だった。仕入れ、交渉、運搬、それらを担う人材が村に常駐するようになっていた。
「今熱いのは、交渉役のジェシカさんと
酒場のヒルダちゃんだな」
この男の中では、経済や食料より、女性だった。なおこの男、妻子持ちである。
「ジェシカちゃんは、服で隠れているが、かなりの巨乳とけしからん尻が凶悪だな。ヒルダちゃんは、体こそ慎ましいが、元気さと笑顔が素晴らしい。あの子はきっと尽くすタイプだ。分かるだろ?」
「...ケロケロッ」
(分からん。お前の言う事は分からん)
「ケッ。これだから童貞は困るんだよな。お前も女を知れよ。1匹くらい見つけて来てやるよ。同じ種類は無理だから...そういえば、森に黄色いカエルが居るって聞いたぜ?」
「ケロッ!?ケロケロッ!」
(あの凶悪なのは勘弁して欲しい。たとえ雌だったとしてもだ)
「なんだその反応?知り合いだったか?フラれたんだろ?お前デカいからな。アソコもデカかったりするのか?ん?」
と、若干イラつきを覚える顔を近づけて来る。
(...逃げるよう教えてやろうかと思っていたが、この浮気男には、ちょっと天誅が必要らしい)
「アナタ。「凶悪な体」のジェシカさんが、素材の買取額について話したいそうよ」
瞬間、サジがビクリと身震いしたと思うと、滝のように汗が噴き出していた。
「た、ターニャ。いい天気だ。いつそこに?」
「あなたが、カエルに声をかける時からよ」
つまり最初からである。
「女を知ってるって良いわね?わたしにも後で教えてくれるかしら...?詳しく」
「仁王」に引き摺られながら、青い顔をしているサジを見送り、村の広場へ出る。そこには、ユニケロの等身大虹色カエルの看板が、デカデカと建っている。
(有名税だろうか?)
噂を聞きつけやってきた旅人達が、興味津々といった様子で実物であるコチラを見てくる。
遠巻きに見つめる者、大声で会話出来るという噂を確かめようとするもの。反応は様々だ。
(だが、それだけでは無いらしい)
最近増えて来た鋭い視線。
噂が広まり、どうやら、きなくさい連中まで呼び込んでいるらしい。
村人に対し、あのカエルがどこの家に住んでいるのか、など聞いて回っている人間も居るようだ。
実際どこの貴族か分からないが、サジの家まで訪ねて来て、譲ってくれと大金を積んだらしい。サニャが、大声で喚きながら帰したらしいが。
そろそろ潮時か。
あのお転婆な女児や
料理上手な妻
三枚目だが、腕の良い弓手
なかなか楽しい日々を過ごさせて貰った。これ以上居れば、彼女らに危害を加えようとする者も出て来るだろう。
1週間後、旅に出るとしよう。
そう決めた。
◆
夜。酒場に、似つかわしくない物騒な雰囲気を漂わせている集団がいた。一様にフードをかぶっている。
「どうやら噂は本当だったらしいな。会話出来る「ハピネスフロッグ」。村に受け入れられて、現在は「蒼弓」の元に居るらしい」
日中仕入れた情報を仲間と共有する。ニタリと粘っこい笑みを浮かべる者も居れば、ブツブツと何かをしゃべる者も居る。
異様なのは、尋常ではない殺気を浮かべている男だ。
男が口を開く
「.....「蒼弓」.....明日俺が接触する。お前達も一緒に来い」
「デヴォネア。お前昔の仲間だからって、情けを...アガッ!?」
意見しようとした眼帯の男が、それから先の言葉を続けようとした口が動かない。何かを口の中に押し込まれたように。
「ちったぁ黙ってろ。俺があのカエル野郎のことで情けをかける事はない」
コクコクと必死の形相で眼帯の男が頷く。
「ただ、あの腑抜けた「アホ」は
使い道がある。俺に任せろ」
コクリと残りのメンバーが応じた。
◆
朝、目覚める。日はまだ上がっていない。妻のターニャが隣で寝ている。娘とカエルは別室の部屋で最近は共に寝ている。いつも通りの朝。
だが、何か妙な気配を感じて目が覚めた。カーテンを開けて、いずれ顔を出す太陽を待とうとしたが、窓から、ある人物がコチラを見ている事に気付いた。
フードを目深にかぶっていた男は、フードを取ると、まだ痩けた顔に笑みを浮かべ、ハンドサインを送ってくる。
当時俺達が作戦行動の際に使っていたサインだった。
「外で待つ。獲物について話そう」
早朝5時。冬に差し掛かり、冷えている筈なのに、サジの背に汗が滲んだ。
身支度を整え、蒼弓を担ぐ。
スカイワイバーンという上級のモンスターから作られたサジの弓と、彼の技術は、彼に強者たる自信を与えていた。
(だが足りない。アレを相手取るには)
「沈静のデヴォネア」もう40歳を超える一級の魔術師。まだ彼が20代半ばの頃、100を超える中級の魔物の暴走を「たった1人」で鎮圧せしめた男。
彼のカエルに対する執念は知っている
彼の《能力》その強力さも。
厄介だ。厄介な状況になった。
別れ際の「遊びに来い」それだけの言葉が、こんな状況を作ると思っていなかった。
村に帰ったら、ハピネスフロッグが居るなんて誰が思う?
ハピネスフロッグが、娘が愛すペットだなんて誰が思う?
村に受け入れられ、愛され親しまれてるなんて誰が思う?
誰も思わない。全て予想外だ。
娘の部屋を開け、娘の寝顔を見る。
天使だ。今年で10歳。俺の天使。
横を見れば、大きなカエルが半分眼を開け、コチラをチラリと見るが「なんだお前か」と言わんばかりに再び眼を閉じた。最初の出会いから考えれば、随分信頼されたものだ。
守護らねば...
蒼弓を握りしめ、俺は身震いするように
一歩外へ踏み出した。




