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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
16/68

火種


器用な手付きで、魔物を解体している男が1人。

「蒼弓のサジ」と呼ばれた弓の名手である。


名うての弓手として名を馳せた男だが

現在は解体屋紛いの事をしていた。


カエルの持ち帰る獲物の量は

日に日に多くなり、1日にオーク10頭フェイクドラゴンというドラゴンのような見た目の亜竜5頭

クレイジーボアという巨大猪が3頭


中級のパーティが遠征に出て

ひと月かけて狩り集める量を、1日で集めていた。


その結果、弓の名手であるサジが1日中解体に追われるような自体となっている。なんせ、最近は買い手がついたのだ。


「冒険者のユニフォームケロケロ」


如何わしい店名だが、有名店となりつつある、その店の仕入れを、現在はこの村が一手に担っている。


村は一気に豊かになった。

商人が持ち込む交換の品は香辛料や、脂の乗った食材が揃い、村の食文化を彩った。


商人の輸送拠点となる宿屋や酒場が出来、旅人達も訪れるようになった事で、貨幣で物品をやり取りする貨幣経済へと村が変貌しつつあった。


全ての村民が恩恵を受けたわけではない。だが、村にとって、カエルは幸運のカエルと言って良いだろう。



(釈然としない)

サジはそう思っていた。


村は豊かになったし

妻子は俺が帰って来て喜んでくれてる。


だが、家に帰ってみれば

「カエルさん凄い!カエルさん大好き」

「あんた本当にすごいね言葉も殆ど理解出来るようになったし、村には欠かせない存在だよ」


妻子は口を開けばカエルカエル

村人も「カエルのおかげ」

カエルさまさま。その通りだ。


だが、サジはアホだった。

(俺こそがチヤホヤされるべきなのに、なぜ解体作業のような裏方の仕事ばかりしなければいけないのか!)


サジが居なければ、これほど解体作業は進んでいないし、他所から解体屋を連れて来なければいけないだろう。


そういう意味では、影の功労者なのだが、英雄願望があるサジは不満で仕方なかった。


実際は村人達は、サジの魔物に対する知識や、解体の天才的な腕前を評価はしていたのだが、昔馴染みということもあり、口には出さないだけだ。


そんな不満を持ちつつ、広場で休憩していると、カエルが娘を乗せて、門の方に向かっている背中をみた。


「サニャ!どこ行くんだ?」


「カエルさんと散歩!

ドラゴンさんやオークさんを倒しに行くんだって!」


しめた!ここは親の威厳を見せるチャンス!


「俺も行く。お前達だけじゃ不安だからな」

キメ顔でサジは言った。


そして通り名の蒼弓を背負い、颯爽とカエルに跨った。どうだサニャ?父はかっこいいんだぞ?


前に乗っているサニャを見ると、頬が紅潮して手をワキワキさせている。考えてみれば、こうして親子で出掛ける事も無かった。


たまには父親らしい事をしよう。


「さぁ行くぞジョージ!」


そう呼ばれたカエルはブンブンと首を振り

抗議の仕草を見せるが


「お父さん違うよ。カエルさんはカエルさん」

と娘の声を聞き

「そうだよなぁ!カエルさんだな」

とデレデレした声でサジがいうのをみて

馬鹿馬鹿しくなった。


◆


カエルと親子は野原を行く。

林を抜け、山岳地帯の麓が今回の目的地だ。自然の洞窟が多くオークやフェイクドラゴンの巣になっていた。その中のオークの巣へとたどり着いた。


サニャは、父の勇姿を見たことが無い。


手紙で英雄的な父の活躍を文字として見たが

戦うサジの姿は見たことがなかった。


「どれ、一つ俺の技の冴えを見せてやるか。カエル!洞窟内に【ファイアーボム】をぶちかませ!」


そんな事をすれば、藪を突いたように、オーク達が大量に飛び出して来るであろう。が、サジもそんな事は知っている。


(何か考えがあるようだ)

そう思い、【ファイアーボム】を洞窟へと撃ち放つ。


すると数十秒後、地鳴りのような音と共にオーク達が駆けて来る様が薄っすら見えた。


「一つ!」

カエルの背後で、弦の擦れる音がした。そう思った時には、オークの頭蓋に、矢が突き刺さっている。


先頭のオークの死体を踏みつけ

二体のオークが飛び出してくる。


「二つ三つ!」

今度は2本同時。精度、威力の落ちる2本撃ちであるはずだが、サジの腕には関係無いようだった。


一本は頭蓋に、もう一本は心臓に、それぞれ違うオークへと到達し、オークは息つく間もなく絶命する。


蒼弓はあっという間にオークの先遣隊7匹を屠った。


「まっ、こんなもんかな」

そして、チラリと今回の真(・)の(・)標(・)的(・)を見る。

そのサニャは、プルプルと震えていた。


「おとうさんすごーいぃ!」

と抱きついて来る。


その瞬間サジの全てが報われた。


(村人や嫁が幾ら認めてくれなくてもいい。俺にはこの娘から、何よりも褒めてもらいたかったんだ..!)


感極まって、危うく泣きそうになったが、堪えて

「おいおい。お父さん手紙で書いてたろ?こんなもんで驚いてちゃダメだぜ」と、震える声で言った。


「それにな。おとうさんには誰にも見せてない《と(・)っ(・)て(・)お(・)き(・)》があるんだ。サニャになら見せてあげてもいいんだけどなあ」


「えっ!?見せてみせて!!」


「うーん。そうだな。サニャとママがピンチになったらな。約束する。俺は2人のヒーローだからな」


「えーっおとうさんのケチンボ!」


「おっと、お話はココまでだ。本隊が出てきたぜ」


オークの巣から、死体を踏みつけて軽鎧と甲冑をつけたオークが現れる。


「珍しいな。この規模の巣に、ファイターにリベレイターまで居るなんて。カエル。力貸せ。脚で揺さぶるんだ」


「ケロッ!」


戦闘の口火を切ったのは、氷の刃【アイシクルエッジ】と蒼い剛弓から放たれる矢だ。氷の刃が突き刺さった場所に寸分たがわず矢が刺さる。凍った矢先は抜こうとして抜けるものではない。


「グオオオオ!...ウグッ?!」


力任せに抜こうとしていたファイターがもがきだす。


「残念だったなぁ。毒だよ。特製のな。

抜けなきゃ死ぬぜ!」


もがく同胞をチラリと見たかと思うと、リベレイターが煌めく刃をファイターに向けて一閃する。


ザクッと患部だけをくり抜き、ファイターに袋から薬草を放り投げ、食べるように顎で促す。


「チッ厄介な。あのクラスになると知能を持って動いてる。しかも...」


シッ!とサジが歯の間から独特の音を出して、早射。


「ブオオウ!」

しかし、リベレイターは、その矢を両刃の大剣で軽く弾き飛ばしてしまった。


「上級モンスターにもなると、正面から馬鹿正直に射っても、あぁなるだけなのさ。さあ、カエル。脚の見せ所だぜ」


チラリとお互いの視線を交わしたと思えば、カエルがリベレイターの周囲を跳躍し高速で跳ね回る。ファイターは、混乱し、足を前後左右にバタつかせるのみ。


が、リベレイターは、瞳を閉じ、カエルの「ペチャ」という着地音に反応し、そのタイミングにだけ体をピクリと動かしていた。


(なるほど。たしかに着地のタイミングってのは、弓が射ちやすい。だがな!)


カエルが跳ねる。

乗っているサジの眼からは、景色が高速で流れているように見える。


「相手がオレだったのが不運だったな!【ホークアイ】!【ペネトレイトアロー】!」


流れる景色の中、《武技(スキル)》を発動する。命中率を上げ、貫通力を増した矢は、流れる景色の中からオークリベレイターの頭部をくりぬいた。


しかも「二体同時」である。オークリベレイターとオークファイターが重なる瞬間を狙いすました一射。


2対のオークが同時に地に振動をもたらしながら倒れ込む。


「...ふぅ。どうやら俺たちいいコンビらしいな相棒。なかなか2人でオークリベレイター倒せるパーティは居ないぜ」


「ケロッ!」


加減しているとはいえ、カエルの移動に着いていけるだけの「眼」をサジは持っていた。そして、それを実現させる腕前も。


「...おとうさんすっごおい...」

高速での移動に、乗せられていたサニャは目を回しながら、感動していた。


「な?お父さんはすごいって言ったろ?」


サジは自慢気に娘に言う。しかし

(あのままであれば、あの一矢は払われていただろう)そうも思った。


リベレイターは、矢が空を切る音を聴いていた。そして、鋭い一矢が飛来する、が。素早く武技【即応】を発動していた。


飛び道具に対しての斬りはらいの武技。それはサジの一矢を一刀の元に切り払う「はずだった」


下段に構えたリベレイターの剣尖の先に、氷の壁【アイスウォール】が現れなければ。リベレイターの剣は氷の壁を容易く切り裂く。だが一瞬の遅れが、矢への対応を鈍らせたのだ。


そしてリベレイターは地に倒れた。


(このカエル。底が知れない)

冒険者として、そう感じた。

騎乗する魔物としての価値、魔術師としての価値。


どちらも、一級品になる可能性がある。

黄金の価値が...。


そう思うと、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。


家族として接してはいるが、目の前に金塊がドンと置かれているようなものだ。「コレ」を売れば。そう考えてしまうのも、無理からぬ事だ。


「.....まっ。回収して今日は帰るとしようぜ。リベレイターもファイターも頭以外は綺麗に残ってる。これは高く売れるぜ」


ふとサジがリベレイターの甲冑に目をやる。その甲冑は、土気色の独特の風合いを帯びていた。


「驚いたな。コイツはメタスメタルで出来てやがる」


(なんだそれは?「なにそれ」)

サニャとカエルは、同じように首を傾げて、サジに続きを促す。



「修復機能のついた鉱石の名前さ。希少金属だよ。最前線で戦う戦士達には垂涎の品だな。なんせ幾ら鎧が削れても、数分後には元通りだ」


「オマケに鋼並みに硬いと来てる。こいつに少しでも当たっていたら、同時とはいかなかっただろうな」


「ケロォー」

「へぇー」


2人して分かっているのか、いないのか、気の抜けた返事を返して来る。


「まあ硬くて丈夫って事さ。商人が来たら売っちまおう。今日はもう十分だろ?帰るぞ」


若干サニャが、もっとお父さんの戦いを見ていたい、とグズったが、ここはとっとと退散する事とした。


(あの鎧。人間が着込んでいたのを、奪い取った訳じゃなさそうだ。と、なると専属の「鍛冶屋」がいると考えて良い。鍛冶屋を抱え込める知能を持つって事は...)


サジは最悪の場合を考えるが

それこそ万に一つの可能性だ。


(これ以上藪を突く必要はない)


【エアロウォーク】で浮かせた獲物と共に、カエル達は帰路についた。


小さな火種は燻ったままだ。

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