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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
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泣き上戸


「ヤロウ!ぶっころしてやらぁ!」


突然、宴の主役が「自分の娘のペット」に襲い掛かった。驚いたのは村人達である。村人の男衆全員が、帰って来た主役を抑えつけにかかった。


それが、宴の始まり。


腕利きの冒険者だった彼だけに、周りの大人達はおろか、腕自慢のピレモンでさえも、彼を抑えられなかった。


「離せ!お前ら!コイツは魔物だ!コイツがいなきゃ、俺は街で!金持ちで!幸せだったんだよっ!!」


縋り付く村人達を千切っては投げ、千切っては投げ。徐々にカエルに向かって来る。


「お父さんやめてー!!」

サニャの叫びでさえ届いていない様子だ。



(どうも旗色が悪いな)


カエルには手が出せない。宴の主役で、ターニャの夫。サニャの父だ。


彼が何をそんなに自分を憎んで居るのか分からないが、殴られれば甘んじて受け入れようとさえした。


それを止めたのは1人の女性だった。


「アナタいい加減にして!」


「黙ってろ!このアマ!」

サジが声の方に振り向くと同時に「拳」が飛んで来た。小さく細い女性の拳。


ゴッとアゴに鈍い音がして、サジの脳が揺れた。ペタンと尻餅をついたサジが見上げると「仁王」が居た。


「誰に向かってアマって言ってんだこの唐変木!?」


「タ、ターニャ...」


ターニャは、村では比較的おとなしい女性として知られていた。だが、彼女は、この場に居る誰よりも、彼に怒りを覚えている人間である。


「アンタが街で女に贈り物送ったり、酒場のウェイトレス口説いたり、女のケツ追いかけてる間、誰がこの家守ってたと思ってるんだい!」


その場に居る全員が唖然として状況を見守っていた。詳しい事情を知るのは、仲の良いレシアと村長のみ。


ターニャがあれほど怒り狂っているのを見るのも無論皆初めてである。


「この何ヶ月も、家を守って支えてたのは、アンタが言うそこの魔物なんだよ!!」


サジが驚いてカエルの方を見る。


「夢とケツばっか追っかけて、クソの役にもたたねぇテメェが、街で女にうつつ抜かしてる間に、このカエルの方が、サニャやアタシを食わせて、守ってたのさ!とんだお笑い種だね!」



(え?...何?...俺が悪いの...?)


サジは狼狽えた。最初は唖然と見守っていた周囲の視線までもが、冷たい物に変わっていく。


ターニャは一頻り怒鳴り散らした後、泣いた。号泣である。


「う”あぁわあぁあ!!」

娘のサニャに抱きつき、これ以上ないくらい泣いた。


終いには、サニャまで貰い泣いた。

「ゔぇええぃあぇあああ!」

大号泣である。


親子の涙は効いた。聴衆にも、サジにも。これ以上ないくらい。沸いた温泉が凍りつく程の冷気が、興奮していた頭に吹きすさんでいる。


(...よく分からん。よく分からんが、俺が悪い事だけは分かった)


そう理解すると、単純なサジだ

「俺が悪かったああ!許してくれえええ!!」


と叫んだ。叫んで、それから泣いた。号泣・極である。


「あなたぁ...!」

「お父さん...!」

「悪かったぁ!」


ヒシッと音がする程の抱擁。

親子3人の心が繋がった(?)瞬間であった。


.....パチパチ....

パチパチパチパチパチ!!


周囲からは自然と拍手が起こっていた。皆人目も憚らず泣いたり、目元を拭ったり、後ろを向いて涙をみせないで泣く男も居た。


村は、暖かな雰囲気に包まれた。


鼻水と涙まみれになっている1匹を除いて。



◆



(なんなんだこれは...)


親子3人は、なぜかカエルの顔面をはさんで泣きあっているのだ。鼻水と涙がスコールのように降り注いで来る。


(人間の事は理解したつもりだったが、まだまだらしい)


5分ほどカエルが、追加の鼻水と涙でグシャグシャになった後、宴は再開された。




「うまい!こんな旨味があって、しつこくない豚の脂は食べたことない!これがオークってやつか!いい仕事してんねぇ!」


「この鳥もホロホロと身が解けて、皮目の脂がトロけるように絡み合ってる。オマケにこのソース!まだ若い果物の酸味と、この辛山椒の刺激が混ざり合って絶品!それでいて鳥肉本来の味を邪魔していない!サジ。良い嫁貰ってんなぁ!」


「いやいや、こっちの謎の肉も食べてみろ!形は珍妙だが、謎に美味いぞ!まるで、あのそのー...とにかく美味い!」


酒の入った男達が「食事解説大会」を開いたり、


「サジあんたねぇ..こんないい奥さん貰っておいて、よその街でほかの女口説いてたって、オマケにソレ本人に言う!?バッカじゃないのって思ったわよ!」

「最低よねー」

「あんたに昔惚れてたけど、今の旦那にして良かったって心底思うわ」


と、「主役」が女性陣の一斉放火を浴びて、料理を口に入れながら消沈していたりした。


ともあれ、村での小さな騒動は、一旦収束を迎えたのである。


サジは、この3年間の村での出来事、カエルが村に来てからの数ヶ月の事を村長から聞いた。


カエルが話を理解する事

村に益をもたらしている事

家族を大事にしてくれている事


その話を聞いて、カエルに謝罪しようと思った。たとえ、彼を狩れば、家族皆で、大きな街で遊んで暮らせる大金が手に入るとしてもだ。


天使と悪魔がサジの中で大戦争を起こしていたが、「今は」天使が勝ったようだ。


謝罪の仲介は娘に頼んだ。


目の前でペットを殺そうとした事で、娘には一旦謝りはしたが、カエルに謝罪する事で、娘の信用も取り戻す腹積もりだ。


カエルの前に娘とともに進む。

顔を真近で見たのは初めてだが、気の抜ける円らな瞳をしている。


「先程はすまなかった。覚えているか?俺の事。お前の仲間を殺そうとしてたパーティに居たんだが」


カエルは首を傾げた。

どうも覚えていないらしい。


カエルが水球で攻撃したのは、サジの後頭部だ。顔が見えないのも当然だった。


「覚えていないなら居ないでいい。お前は知らないかもしれないが、俺みたいな奴は、これからも現れると思う。だが、俺は自分の「家族」として、お前を守る。お前が許してくれるならの話だが」


カエルが頷く。

どうやら許してくれるらしい。


「よかったねおとうさん」

「あぁ」


一先ず娘の機嫌は取れたようでホッとする。腹の奥底に「暗い物」がフツフツと湧いているが、それに蓋をする。


(デヴォネアが知ったら殺されるな)

と、カエルに執心していた旧友の事をふと思い出した。


ひとつ彼は忘れていた。


デヴォネアとの別れ際、彼は何の気なしにこう言ったのだ。


「お前疲れてんだよ。落ち着いたら俺の田舎に来て、休んで行けよ。「マラウィ」って村だ。もてなしてやるから」


言ってしまったのだ。


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