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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
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邂逅そして絶叫


(憂鬱だ..)


野原をため息混じりにトボトボと歩く1人の男。


男は村1番の狩人と呼ばれ、弓を放てば百発百中。短刀の扱いにも優れ、解体もお手の物。チヤホヤされて、つい天狗になった。


調子に乗って、妻と、まだ幼い子を置いて旅に出てから、もう3年が経過していた。


男も悪い人間ではない。


1発デカイ事を成し遂げ、妻子と大きな街で悠々と暮らす。目標を持って、冒険者になった。


男は冒険者になっても、やっていけるだけの実力があった。居着いた街で知らない者の居ないほどの弓の名手として知られた。


ついた二つ名は「蒼弓」

使用していた蒼い拵えの弓から

「蒼弓のサジ」そう呼ばれた。


サジに冒険者として唯一足りなかった物。

それは「頭」である。


顔もいい。村では1番モテたし、街に行ってからも、何人かの女に言い寄られた。特に二つ名がついてからは。


しかしアホ過ぎたのだ。考え無しに街を飛び出し

1人では不可能な依頼を受けては逃げ帰る。


最初はそんな日々だった。


ある日、その日食べる物にも困っていると

酒場で声をかけられた。


その街でも有名な冒険者

「静寂のデヴォネア」に。


サジも、流石に名前は聞いたことがあった。ただし、聞いたことがあったのは別名の方だ。


「カエル狂いのデヴォネア一派」


もう10年以上も1匹のカエルだけを、追いかけ続けている数人の冒険者の頭目。街では関わってはいけない冒険者のトップとして君臨していた。


ただの変人集団なら良いが、彼等はドラゴン打倒さえ成し遂げられる腕前を持ちながら、未だ居るか居ないか分からない「夢」を追いかけている。


以前、酔っ払った数人の冒険者が

彼等を揶揄ったのを見た。


次の日半殺しにされ、酒場に屋根から全裸で吊るされた彼等を見た時は、寒気がしたものだ。


その彼等の頭目が、自分に声をかけて来た。嫌な予感しかしない。適当にあしらって、退散するとしよう。


「やぁ「静寂の」俺みたいなヘボ弓使いに何か用か?依頼に失敗続きなのを笑いに来たとか?」


自嘲気味の笑顔を浮かべながら、デヴォネアに言う。デヴォネアはおもむろに俺の隣に座り、酒を二つ頼んだ。


ボンディス地方のエール。

俺が好きな酒だ。


「アンタ、強いんだって?」


デヴォネアが言う言葉にギクリとした。こりゃ勧誘だ。カエル狂いへの誘い。冗談じゃないぞ。


「...まあな。それなりに自信はある」


(さっさと断って席を立つべきだ)そう思いながらも、褒められた手前、動くことが出来なかった。


「失敗続きなのは、依頼の情報も大して集めず、適当に選んでるからだろ?もうちっと考えて 依頼受けようぜ。アンタの腕なら、パーティ組めば良い稼ぎになるぜ」


(余計なお世話だ)


だが、また褒められてしまった。

単純な男には効果はテキメンだったようだ。


「なぁに、俺も「敢えて」依頼を失敗してる節はあったんだよな。アンタみたいな「解る」人間が理解しててくれりゃあ、それでいいのよ」


貰った酒を煽ってそう答える。

デヴォネアは、口の端をニタリと歪めた。


「そうだ。俺たちみたいな、アンタを正当に評価出来る人間だけが、アンタのような強者と釣り合う。そうだろ?」


(全くその通りだ)

サジは段々と饒舌になり、酒を煽る速度も速くなっていった。


そして、気付くと彼等と行動を共にするようになっていた。やっちまった。最初はそう思った。


彼等と行動を共にするようになって、気付いた事がある。彼等は決してカエルだけを狩っているわけではない。


普段は、普通の冒険者としての活動が殆どだ。

ほかの冒険者より、稼いでいる日まである。


情報を精査し、装備やアイテムを整えて、キッチリとした準備をして冒険に出掛けている。


ただ、その稼ぎの「半分」がカエル狩りの資金に消えているだけだ。


眉唾のような情報に大金を払う時まであった。


大抵の冒険者は、街に立ち寄ったついでに、カエルに「偶然」出会えれば良いかな?という程度である。


デヴォネア達は、土地を買い、家を買い、カエルの情報基金まで作っていた。


ダーツの的はカエルの顔だし

便器もカエルの形

訓練用の木人もカエルの顔

枕にはカエルの死骸が描かれている


...決して狂っている訳では無いと思う。


ちょっと個性的なだけだ。


彼等の目的は虹色のカエル

「ハピネスフロッグ」だ。

1匹だけで、俺たち8人を貴族以上の金持ちになり上がらせてくれる。


そして、その日は来た。

俺達8人が、苦労して集めた情報から、カエルの弱体化する日を突き止めたのだ。


俺は弓手として、カエルの逃走を防ぐ役割を担っていた。もう少しだった筈なんだ。


仲間の戦士が、カエルに一撃お見舞いした後、あと一歩で、唐突に俺の意識は飛んだ。


目覚めた俺が聞いたのは、後から現れたカエルからの【ウォーターボール】を後頭部に受けて意識を刈り取られ、2匹のカエルは逃げたのだと言う。


本当に大変だったのは、その後だった。

デヴォネアは、数日間茫然自失状態だった。

仲間達は、目標を失って、やる気がなく、ダラダラと日々を過ごすのみ。


俺は皆にハッパをかけた。


たった5年。5年待てば良いだけ!

それまで普通の冒険者として生活して、その日のチャンスを待てばいい。


そう声を掛けたが、反応は冷たい。


「5年待っても、カエルに出会えるとは限らない」

「これが最後のチャンスだった」


カエルが逃げた日から、ひと月が経った。仲間は

1人、また1人と消え、残った仲間は3人だけ。


「潮時だな」

剛腕として知られた男と二人、酒場で話し合っていた。デヴォネアは、あれから廃人のようだ。


仕送りする為の稼ぎも、まともに稼げていない。


最後に3人で話しあった。

デヴォネアは解散する旨を話しても「あぁ..」と声を出すだけ。全てに同意した。


こうして俺の冒険者としての生活は終わった。

残ったのは、この「蒼弓」のみ。


村が見えて来た。もう冒険者として、虹色のカエルを目にする事も無いだろう。


懐かしい匂いがした。草と風の匂い


村の門に近付くと、馴染みの顔触れが門番をしている。俺の顔を見るなり、駆けつけて来る幼馴染の男と、村人達に報せに行ったのであろう、歳若い新米が居た。


(あの若造門番してるのか。

あぁ...帰って来たんだな)


懐かしさと、何も成し遂げなかった悔しさと、色々な思いがこみ上げて来た。


村の中に入ると、人っ子1人出会わなかった。


(なんだ..?)


そして幼馴染の門番と、広場に辿り着いた時、中央の松明が一斉についた。


「おぉ...!!」


そこには、目も眩まんばかりの御馳走と、飾り付け、拙い字で書いた「おとうさんおかえりなさい」と書かれた横断幕が目を引いた。


その瞬間嫌なことが、全てが吹き飛んだ。

(ココに居て良いんだ)


安心したのか、涙が溢れ出てきた。

「アンタ相変わらず情けないね」と女性の声。


妻のターニャだった。傍に、大きくなったサニャが居た。

俺は身を投げ出すように駆けよって、2人を抱き寄せた。


(もう2度と離さない!この2人こそが、俺の本当の宝物だったんだ!)


自他共に認める稀代の「アホ」は

漸く家族の大事さに気づいたのだった。


「おとうさん!新しい家族が増えたんだよ!」


「な、なんだって!?」

(出掛ける前に仕込んだ夜のせいか!?)


「...ターニャ!新しい子供ともども、俺がこれから守っていくよ」


「人の話は最後まで聞きなよ。相変わらずだねアンタ」


「あれ?違うのか...?」


じゃあなんだ?狼でも拾って来たのか?


「アンタの歓迎会。その食材は【ソイツ】がほとんど用意したんだよ」


並んだ料理を見てみる。

(オークに、ビッグバード、フェイクドラゴンまで。俺でも1人なら苦労する魔物じゃないか)


この辺りでは殆ど見かけない魔物である。(ピレモンか?)あいつも良い腕してたが、流石に無理か。


サニャが暗闇に向かって声をかける


「カエルさーん!出ておいで!」


(カエルさん...?)


その時暗闇から何かが飛び出した。

目の前に着地した者は、虹色の皮膚をしていた。


サジは見たことが無いが「知っていた」


自分の後頭部に魔法を叩き込んだ者。


「ハピネスフロッグ」と呼ばれる存在。


3年間追い求めた者。

それがそこに居た。


「...アーーーーーーッ!?!?」


突然カエルの顔面に向かって、指を指して奇声をあげるサジ。その場に居た全員が、はてなマークを浮かべた。


カエルは既に村の一部となっていたのだ。サジと村人の意識の差は、果たして埋まるのか..。それは誰にも分からない。


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