才能
村を「ペチャペチャ」と独特の音をさせて移動していく大きな影が1つ。村人達が驚く様子はなく、寧ろ親しげに話しかける
「よっ!虹色の!今日も狩りかい。精が出るねぇ」
ピレモンという男が声を掛けてくる。狩人として生活する男だが、以前は冒険者と呼ばれる職業だったらしい。腕っ節が強く、皆に門番として頼りにされている。サニャの父親の友人と言っていた。
「カエルさん、また珍しい魔物獲って来てね。この前の変なの案外イケたわよ」
この女性は、レシア。井戸端組の片割れ。ターニャの友人。いつもターニャと井戸端で話している。
夫と共に牛飼いをしながら、野菜と穀物を育てている。金銭しか支払えなかったターニャにも別け隔てなく接してくれていた、気前の良い女性らしい。
お世話になっているから、と以前林で捕獲した、ウシガエルのような、フグのような鳥を渡した。見た目と違い、存外イケたらしい。
勿論、毒の有無は確認してから渡した。
私がこの村で暮らし始めて、ひと月が経った。
私は、日常会話(聞く専門だが)に、問題ない程度に言葉を理解出来るようになった。
また魔法や魔物についても、それとなく理解した。魔物とは、凶暴な野生生物のような物らしい。
いつから生まれたのか、誰にも分からず、魔物は有史以来ずっと存在するのだとか。
世の中には魔王と呼ばれる存在が居て、知能のある一部の魔物達を統べているのだとか。
片田舎での話なので、どこまで信頼出来るかは分からないが。
私も魔物であろうと言われた。
ただ、この近辺では見かけない種類らしい。
(魔物か。以前見た同種の虹色カエルも、凶暴な部分を秘めていたのだろうか?)
と、以前出会った同種に思いを馳せる。
(黄色いカエルは...あれは悪いカエルだ)
次に魔法とは..
「魔法ってぇのは!この世に存在する..なんかこう..すげぇモンを!アレして..こう...捻って出すと、火が出たり水が出たりする物じゃ..ねぇか?そうだろ!?」
とは元冒険者であるピレモンの言葉である。サッパリ分からん。人間も使いこなす者が居るが、ピレモンは詳しくないらしい。
「水の魔法使ってるおめぇが、魔法を使えない俺に質問してどうする」
うーむ道理なような、そうでもないような、少なくとも胸を張って言う事ではない筈だが、あの男は..。
さて、ここで暮らすには先立つ物が必要だ。今日は林の向こう側にでも行ってみようか。林の中の魔物は全種把握し、倒している(ついでに村人に提供もしている)
村の入り口へ向かっていると、広場で子供達が、臙脂色のローブのフードを、目深に被った人物を取り囲み、何やら楽しそうにしている。よそ者のようだ。そこにサニャの姿を見つけた。
(なんだろう?旅芸人か何かか)
サニャに聴き出すべく、近づいてみる。チラリとローブの人物が、こちらを覗き見て、その目を見開いたように見えた。皺深い老人のようだ。
しかし直ぐに子供達の方に向き直ると、また子供達の相手を始める。
(...おかしい)
街中に魔物(私)が居るのだ。驚きを見せたまでは普通の反応だが、すぐに目線を戻す冷静さはなんだ...?
「彼は魔法使いだよ。たまに魔法の道具の提供と、魔除けの点検に村に来るんだ」
背後から村長が声を掛けてきた。
怪訝な顔(?)でもしていたのが分かったのだろうか?
「彼が君を見て驚かなかったのは、おそらく君が悪意があるか無いかを見極めたんじゃないかな?彼は特殊な《目》を持っているという話だよ」
目?という疑問があったので、首を傾げ村長を見る。
「なんでも、目に映る者の敵意や、奥底に眠る「力」が分かるらしい。今は君の敵意を見たんじゃないか?私もソレを100%理解しているわけじゃないがね」
(ほう。この辺りの土地は、魔法と言い、摩訶不思議なものが沢山あるな)
・・・待てよ。あの人物なら、魔法について聞けるのではないか?
村には魔法を使える者が居ない。
カエルに魔法を教えられる人物が居ないのだ。
さて、どのようにして頼み込むべきか。
「そういえばカエル君は、魔法が使えるんじゃなかったか?教えを請うてみたらどうかね?」
!!
瞬膜を瞬かせ、目を輝かせて村長の方を見る。村長あなたは天才だ!!
ブンブンと身体を縦に振る。
そして、ビシッ!ビシッ!と2度魔法使いの方を指差す!
「そ、そんなに嬉しかったのかね?わかった。私から頼めば良いのだろう?」
そう言うと、魔法使いと何やら話し始める村長。顔見知りのようだし、頼む。村長頑張れ。
私は、この魔法という不思議な力を知りたい。弱者だった私に、力を与えてくれた魔法という力。是が非でも強化しておきたい。
村長と話し終わったのか、魔法使いが、こちらの方に歩み寄ってくる。
「オヌシが言葉が理解出来るというカエルか?誠であろうな?」
首を縦に振り肯定を示す。
「魔法を学びたいとのことだが、どういう理由だ?力を求めてのことか?何の為に力を求める?」
(1度にそんなに質問されても困るし、返答のしようがないんだが...)
「...力を求めてか?」
察してくれたのか、質問を1つずつにしてくれたようだ。肯定し、首を縦に振る。
「..強くなりたいのか?」
首を縦に振り肯定する。
「誰かの為か?」
否定する。
「復讐か?」
否定する。
「ならば、生きるためか」
肯定する。強く強く首を振る。
「生に対する執着か。悪いことではない。動機としては純粋なものだ。そこまで強く肯定すると言うのが気になるが」
999度死に、思考能力が芽生えた今、生への執着は強い。
生きていると実感出来るのだ。
死にたくないと頭が否定するのだ。まだこの感覚を味わっていたい。
「よかろう。少しだが教えてやる。場所を変えるぞ」
そういうと、外へ歩き出す。
魔法使いを子供達が追いすがって
「えー!もう魔法見せてくれないの?」
と言うが「またな」と取り合わない。面倒見は良いが、淡白な人物のようだ。
村からある程度離れた場所で
「ここいらでよいか」
と魔法使いが陣取る。
「さて、カエル。オヌシは魔法が既に使えるようだが、何が使える?」
問われ、水球の魔法を使う。
「...【ウォーターボール】1つだけか。まあ良いだろう。オヌシはカエルだけあって水系統の魔法が適しているようだな。なかなか応用の効く系統だ。器用貧乏ではあるがな。」
(この魔法はウォーターボールという名前だったのか。今まで勝手に水球なんて呼んでスマンな相棒)
今まで自分の身を守ってくれた魔法に対して敬意を評しつつ
(でも、水球とこれからも呼ぼう)と愛着のある魔法に対し思った。
「さて、オヌシは魔力の流れというのは知っているか?いやそもそも魔力が何か知っているか?」
そう問われ首を振る。
「魔力とは、生き物に通う生命の根源の一種。生命力、魔力、気力の3つに分けられていると言われておる。【生命力】は、命そのもの。寿命や血液などに影響される」
「【魔力】は感情が影響するエネルギーと言われている。魔力を消費する魔法使いは、総じて冷静な、悪く言えば「冷めた」人間が多いのだそうだ。元は魔物の行使するエネルギーだったのだが、過去の研究により、人間でも行使する事が可能となった」
「【気力】は体力に影響する。戦士達が使う《武技》は、気力を消費する。戦士が常に鍛錬を行うのは、武技で体力を大幅に使うからだな」
《武技》というのは初耳だな。
首を傾げて、答えてくれないか期待してみる。
「何が分からん?魔物が皆魔法使うのかか? 武技か?」
両方なので、ブンブンと首を大きく振ってみる。
「...両方か?魔物にも使わない種類も居る。ただ、魔物は魔力を《スキル》にも転用できる。気力は魔物には少ないと言われているな」
「人間は魔力を使い過ぎると激しい頭痛、倦怠感に襲われ、最後は失神する。」
「魔物は魔力を使い過ぎると、脱力する。手足が動かなくなり、それを超えて使い続けると最終的には死ぬ。魔物にとっての魔力は生命力と同義だからだ」
...水球を乱発してた自分が少し恐ろしくなった。
「《武技》は端的に言えば、【技】だな。技術の極みにある物。剣を振るい斬撃を飛ばす事なども可能だ」
「理解出来たかね?優秀な生徒くん」
首を振り頷いておく。
「よろしい。では本題だ。オヌシは魔力の流れが見えるか?魔法を発動する際に見える薄っすらしたものだ」
(例の「靄」の事か?)
コクリと頷いておく。
「ふむ。本当に優秀なようだ。あれが見えるまでに、通常2年はかかるのだがな。その流れさえ見えれば、あとは簡単だ」
魔法使いが手を翳す。
「オヌシの魔法は、周囲に魔力が散って、効率が悪い状態だ。魔力を放出したい場所。今は手だな。そこに一点に集める。水系の魔法...そうだな。【アイシクルエッジ】!」
- [ ] 魔法使いの手に魔力が集積し、それが冷気を帯びて氷柱のように変化する。パキパキと音をたて、象られた氷柱は、射出されると、勢いよく岩にぶつかって砕けた。
「オヌシも同じ要領でやってみろ」
促され、先程みた事を自分の中で反芻する。右前足を上げ、そこに魔力を集積する。
(冷気を集め、水を徐々に固め、鋭利な氷柱へと変化させる...【アイシクルエッジ】!)
先程の魔法使いよりもひと回り大きな氷柱が成形され、岩に衝突し、岩の表面にヒビが入った。
どうだった?とばかりに魔法使いを見やると、目を丸くして暫く岩をみていた。
「.....オヌシ【アイシクルエッジ】を使えたのか?」
絞り出すように出した声が軽く掠れている。フルフルと頭を振って否定する。
「ワシは確かに同じ要領で、と言ったが「一点に集めろ」と言っただけのつもりだったんだが...」
(そうだったのか)
「よもや、一度見ただけで同じ魔法を...ワシより威力を上げて使うとは思わなんだわ」
普段なんとなく使っていた魔法も、意識的に部位を指定するだけで、威力や精度が増すようだ。
「オヌシには、才があるようだ。どれ。他の水系統の魔法も一通り使ってみせるか?」
頷き肯定する。
「次は浄化の魔法をつかう。この草で良いか..。目の前の物体や人間から、毒や不純物を洗い出すイメージで使うのだ...【キュア】」
垂れ下がっていた草がムクムクと葉を持ち上げるように上を向く。
(水魔法は器用貧乏と言っていたが、色々と応用が効くものなのだな)
先程と同様に、目で見た魔力の流れを再現する。項垂れていた花が浄化され、太陽に向かって咲き誇った。
「これも問題無いか。では一通り続けていくぞ」
周囲に霧を発生させ、視認させ辛くさせる【ブラインドミスト】
氷の壁を出現させる【アイスウォール】
ウォーターボールの応用で、毒を混ぜて水球を射出する【ポイズンボール】
「ワシが使える水魔法は、これでしまいじゃな。魔法はイメージじゃ。こうしたいと思い描く。極めれば洪水さえも起こせるようになる」
頷き、足をバタバタと動かし感謝を表す。
「うむ。精進せよ。ワシは次の村を回らねばならぬ。達者でな..【エアロウォーク】」
そう言うと、魔法使いの足元に小さな風の渦が出来る。魔法使いの体が地面から数センチ浮かび上がる。
前足を振り惜別を示しておく。
魔法使いは音もなく地面を滑るように移動して行った。
(あの【エアロウォーク】便利そうな魔法だ。でも、水系統の魔法では無いから無理かな)
....(【エアロウォーク】)
するとスッと風がカエルの足元に渦巻き、身体が浮き上がった。
(.....あら?)




