その2
「福田 隆、帰宅いたしました! 聞きたいことがあるので全員、居間に集合してください! 今、すぐに!」
思い切り玄関のドアを開けると同時に、僕は家にいる者たちに居間に集合するように声をかけた。とはいえ、散歩に出る前から皆さん居間にいましたけど。
「隆っ、うっさいわ! あんた何様よ! 弟の分際で姉に命令するとは、いい度胸してるじゃない!」
あ、姉さんが吠えてるよ。いつもなら怯えてしまうけど、今は姉さんの怒号よりも気になることがあるのだ! 廊下をドタバタと足早に駆け抜け、居間に入った。
「さっき渋谷くんたちから聞いたけど僕に親衛隊があるって本当なの!? しかも僕の新聞まであるって!? なんで教えてくれないの!」
くつろいでいたであろう居間にいた奴らがキョトンとした表情で僕の方を一斉に向いた。姉さんに関しては、ポテトチップスを片手にルイボスティーを飲んでいたようで、その手が止まった。美容に気をつけているなら、せめてポテトチップスは止めろ。いや、今はそれどころじゃない!
「あらやだ、もうバレたの?」
呑気な姉の様子に殺意が湧いたのは仕方がないと思うのですが、皆様はどう思いますか?
「『バレたの?』じゃないよ! どうしてそんなことになったのか説明プリーズ!」
あっけらかんと答える姉さんにイライラしつつ、生徒会メンバーを睨みつけた。すると金澤先輩が待ってましたとばかりに説明を始めた。
「何をそんなに驚いている? 親衛隊の許可は、生徒会メンバー全員一致で可決したものだ。まあ会長は、いつものごとく不在であったが、いたとしても多数決で圧勝だ。良かったな、これで他の生徒が何を言おうと【姫】として活動することに誰も文句は言わせないからな。福田は安心して生徒会の威光を背負っておればよい!」
やはり、主犯は貴方でしたか! どおりで話が学園規模にデカくなるわけだよ! どうせ、他の役員も悪ノリしたんだろうな。そこは和泉先輩、止めてくださいよ!
「金澤先輩、よく見てください! そもそも親衛隊が作られるような容姿ですか? ビン底眼鏡の美の欠片もない僕に親衛隊? ありえない……本当にありえない」
片手を腰に当て、もう片方の手で両目を覆うようにして天を仰いでいたら、金澤先輩が驚いたような声で僕に聞いてきた。
「……福田よ、本気で言っているのか? 本当にわかっていないのか!? ああ、恐ろしい……無自覚のなせる技、か」
どうしてそこで先輩が驚愕してるんですか! しかも指の間からチラリと見ればムンクの叫びみたいな顔になってますけど僕、おかしなこと言いました?
「容姿は……まあ、基準の一つにはなるけど【姫】として活動をするのなら親衛隊はあった方がいいと思うよ」
そこに青葉先輩が当たり前のように金澤先輩のフォローに入ってきた。青葉先輩、今まで金澤先輩のことで苦労しつつも、こうしてフォローしてきたんだろうな、と思うと人の良さを感じてしまう。
青葉先輩いわく、親衛隊がいることで外野の妨害ーー例えば、物がなくなるとか、仲間外れにされるとか、襲われたりすることがないそうだ。
ちょっと待て。襲われるってなんだ!? 内容的に、それは悪ふざけを超えたものですよね? 社会問題になっているダメなヤツですよね?
「お、襲われるって、それは貞操の危機ってことですか!?」
姉さんが好みそうなシチュエーションなんですが、人並みの僕には必要のないものだと思います!
「一昔前は、そういうこともあったと聞いているけど今は、ない……と思いたい」
青葉先輩、そんな自信なさげに言わないでくださいよ。まあ、同じ襲うでも気になっている相手からのバックハグならオッケーですけどね。
気になっている相手の柳橋くんを見つけた櫻森くんが、そっと後ろから近づいて優しく抱きしめるんだよ。突然のことで固まっている柳橋くんの耳元に唇を当てながら櫻森くんが、ゆっくりと囁くんだ。君を愛してる、って。
(な、なんて美味しいシチュエーション! そんでもって、柳橋くんも恐る恐る櫻森くんの腕に手を添えて俯きながら答えるんだよ。僕も、って。ああ、誰が僕のために小説か、漫画にしてくれないかなぁ!)
「……柳橋、急に悪寒がしたんだが」
「君も? もしかして福田くんが妄想で僕らのことを登場させてるのかも」
柳橋くん、貴方エスパーですか。
「あの顔……図星らしいぞ。まったく、ロクなことを考えないな」
ロクなことって何ですか? 僕にとっては命より(というと、ちょっと自信がないけど)大事なことなんですが。




