その3
そんな僕らの会話を聞いていた姉さんが、僕の顔を見ながら言いました。
「親衛隊なんていらないって言ったけど、いいじゃない、あっても。これは櫻森学園始まって以来の快挙じゃないかしら? 一般市民が上流階級の学園で親衛隊ができるほどの人望を集めたのよ。誇っていいことだと、姉は思うわけよ」
などと弟を気遣う(?)優しい姉を演じているようですが僕には、わかります。長年の付き合いで、わかりたくなくても(ここ、非常に重要!)わかってしまうのです。だって姉さんのその目! ニヤけるのを抑えようとして引き攣る口元。たぶん本心は、こんな所でしょうか。
『親衛隊いらない、だと? バカ言ってるんじゃないわよ! アンタも隊持ちになってカリスマ達とバンバン交流してネタをゲットしてきなさい! そもそも何のため櫻森に入学したのよ。BLは私たち姉弟の共有財産よ! 楽しみは一緒に分かち合うべきよ! と、いうことで業務命令です。ネタをよこせ』
……絶対に、これくらいのことは思ってます。僕の姉さんに関する勘は、ほとんど外したことがありません。なので間違いないと思います。大体、生徒会の方々と面識を持てただけでも腐った僕らには、信じられないほどの僥倖ではないでしょうか。できれば、そちらから直接ネタ情報を入手していただけると僕の肉体的、精神的な負担が確実に減り、大変助かるんですけど!
「……まあ、メインは一年の学級委員だから気にするな。隊の運営もソイツらに任せればいい」
ちょっと和泉先輩、サラッと怖いこと言わないでもらえますか。ちなみにメインって親衛隊を運営する本社役員で、その下にサブがいる、と。そうなるとサブは下請け会社みたいなものですか? うわぁ、まさに会社運営ではないですか! そうか、これからの日本の経済を動かしていくセレブたちだから、今から【親衛隊】という名の組織で実体験させて経験を積ませるんだね。さすがは櫻森学園! 英才教育の賜物ですな……っていうことは、僕の立場って会社の会長なの!? あ、でもお飾り会長だから大丈夫か。
で、サブを担うのがウチのクラスメイトだとしても、全員ではないはずだから最低人数、せいぜい両手くらいだよね。それなら身内に近い仲良しグループみたいなものだから、あっても問題ないかもしれない。でもそれって身内経営になるよね。ナアナアになりそうで、一抹の不安もありますが。
「おお、福田のあの顔。納得し始めてきたようだぞ。良きかな良きかな!」
「福田くん、自分のことをだいぶ過小評価しているからね。『自分に迷惑かけない少人数の親衛隊ならオッケー!』とか思っているんじゃない?」
「……おそらく、そうだろうな」
生徒会メンバーが各々好き勝手にコメントしておりますが、その時の僕には一切聞こえてなかったんですよね。だって、脳内BL劇場(妄想)に忙しくて周りを全てシャットアウトしてましたから。その時の僕の脳内大画面スクリーンが、こちらです!
(もしかすると、親衛隊の中に僕じゃなくて、本当に好きな人がいるから手伝いたい一心で入っている健気な子がいるかもしれない。それで僕は当て馬みたいな立ち位置にいて、二人の恋の邪魔をするんだよ。
そんでもって、すれ違いやお互いの葛藤を乗り越えて少しずつ二人の距離が縮まって、ついに迎える最大の見せ場である放課後の空き教室で二人きりのシチュエーション!
グラウンドでは部活動を終えた生徒たちの声が溢れている中、夕暮れでオレンジ色に染まる教室に無言で見つめ合う二人……そしたらもう告白するしかないでしょう! さあ、柳橋くん! 緊張で高鳴る胸の鼓動に負けず、手に汗を握りながら、想い人の櫻森くんに言ってやれ! 『僕を君の恋人にしてほしいっ!』と!)
「なんか、また寒気がするんだけど。しかもさっきよりも強烈な寒気が。福田くん、またロクでもない妄想しているな。止めてほしいよね。僕らを登場させるの」
「柳橋、今さらだろう。それをわかっていて俺たちは姫と付き合っているんだから諦めろ」
「二人とも顔色悪いけど大丈夫? ソファーに座れば……って先輩たちが占拠してたね」
「ありがとう、渋谷くん。その気持ちだけで十分だよ。(福田くん絡みの悪寒だから気にしないで大丈夫)そうだよね、櫻森?」
「ああ。気にするな(姫絡みだから今さらだ)」
そんな失礼な会話がされていることにも気がつかないほど、ただただ尊い妄想と自身の想像力の高さに悦に入っていた僕なのでした。




