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閑話・渋谷くんによる観察報告書

 己の美貌を頑なに認めない福田くんの意識改革が最優先事項だと気づいた僕らは、彼のための親衛隊があることを明かし、なぜ学級委員に選ばれたのか理解してもらおう、と思っていたのだが。


(予想以上に手強いぞ? 鶴間さんも頑張っているようだけど全く伝わっていないし)


 ここまで徹底した思い込みは、おそらく眼鏡のせいだろう。以前、コンタクトを検討したようだけど、いざ装着しようとしたら視界がぼやけているので指先にコンタクトがあるのかわからず、しかも入れようと近づければ異物混入と脳が判断してしまうのか、目をつぶってしまう。手入れも面倒くさいから眼鏡のままで……と、なったことを本人が言っていた。


「姫、写真を見ても自分だと思っていないそうだ」


 顔合わせとして一年生だけで行われた学級委員総会。時間内に終わったが、改めて寮の談話室で福田くんを除いた役員で緊急会議を行った。その時に櫻森くん、柳橋くんの両名から伝えられた内容。そんなバカな、と思った当時の自分を殴りたい。


「先日、姫に眼鏡がないと、どんな風に見えるのかと聞いたら『例えるとテレビとかで使われるモザイク処理された映像だよ』と言われた」


「なので福田くんは眼鏡がないとマズイ。だけどあの眼鏡のせいで彼の素顔がわからないから、他の生徒たちからクレームがくる……だからこそ、僕たちが彼のサポートをしなければいけない!」


 その後も福田くんについて櫻森くん、柳橋くんが拳を振りながら熱く語る。もちろん僕らも大きく頷く。彼の存在は、僕たちが庶民派を気取り満足していたことが、実はとんでもない間違いだと教えてくれた。


 まず寮暮らし。一部屋で自分のことを全て自身で行うと聞いていた。考えられない話だったが櫻森学園での生活は、庶民の生活に近く、それを体験できると楽しみにしていた。しかし福田くんの話だと、まず賃貸住宅であれば家賃がかかるため、できるだけ出費を抑えるためにバスとトイレが一体となり同じ空間にある、いわゆるユニットバスという間取り、食事は自炊、一部屋で食事、着替え、就寝が行われるようにパーティションのない部屋で過ごす。


「…………」


 話を聞いても、よくわからなかった。なので福田くんから不動産会社がネットで公開している物件の写真を数枚見ながら説明された。


「……どうしてこんなにお風呂とトイレが近いの!? どうやって身体を洗うの? え、この間取りでベッドや家具を置いたら歩くスペースがないよね!?」


 学園の寮は、確かに一部屋を二人で使う部屋と役職持ちが使う一人部屋に分けられている。二人で使うには狭いと感じるが、それは僕らの感覚であり、福田くんにとっては、広すぎて勿体ないと言っていた。その気持ちが少しわかった。僕が見た物件は、とにかく狭い。狭すぎるのだ。何件か比較で見たが、どれも狭い。本当に狭い。


「渋谷くんの自宅の部屋って、どんな感じ?」


 福田くんが興味津々に聞いてきたから、とりあえず家令に部屋の映像を送るように伝えたら、福田くんがドン引きしていた。


「えっ? 福田くん、どうしたの?」


「……家にセバスチャンがいる、ということはロッテンマイヤーさんもいるのか?」


「は?」


「ということは、おそらくメイドさんもいるよね。やっぱり黒色ミニ丈で白いエプロン姿なのかなぁ。いや、昔ながらのロング丈かも」


「ふ、福田くん? どうしたの? ねぇ、話聞いてる?」


「あー、渋谷、諦めろ。姫は、こうなったら自分の世界に入っているから周りのことなど忘れている。帰ってくるまで観察していろ。面白いから」


 護衛のように一緒にいる櫻森くんに言われ、福田くんの様子を観察してみると、表情がひっきりなしに変わって面白い。ボーッとしていたかと思うと、急にニヤニヤし出し、かと思えば深刻そうに悩んでみたり。本人、周りでそんな自分が観察されてることなどつゆ知らず。帰ってくるまで喜怒哀楽を何周も回っていた。


「はっ! 今まで僕は何を!?」


 やっと戻ってきた。時間にすると三分くらいだろうか。短いようで意外に長い時間だった。


「福田くん、これが僕の部屋だよ」


 スマホに送られたメールの画像を見せたら、福田くんが固まった。


「え、これ自室なの? 何、このベルサイユみたいな空間は! このベッド、何人寝れるんだ!? ドアの向こうに続き部屋って、何なの? 普通、一人で二部屋なんてありえないでしょう!」


 ベルサイユ、って。そこまで煌びやかではないと思うけど。


「うわぁ、床にカーペットが敷いてある。もちろん、靴は脱がないよね? ウチの畳部屋にカーペットとは、わけが違う」


 福田くんが語る庶民の住宅事情が、僕の知る内容とあまりに乖離しすぎて、こちらが驚いてしまった。

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