馬糞のエドガー
(おい喧嘩だって。行こうぜ)
観衆が集まってくる。
ふとアルフレッドを見ると、
内またで何かに怯えているようだ。
俺の服のそでをキュッと握っている。
緊張していそうだな。
(おいあいつ。ゴロツキだ。ヤバイ奴に目をつけられたな。あの兄ちゃん)
(あの兄ちゃん。あいつエドガーだぞ)
ひそひそ声が聞こえる。
なんや。俺もずいぶん有名になったみたいやな。
「おい筋肉バカ。さっき“お前俺を誰だと思っている”と言ってたな。
お前の名前は知らん。
でも俺は名乗っておいてやるよ。
俺はな、エドガーだ」
俺は言った。
リーダーっぽい男の顔がひきつる。
そしてじろじろ見る。
俺の顔を見て、顔が膨れて赤くなる。
手下っぽいのが、リーダーっぽい男に耳打ちしている。
(ゴロツキさん。たしかにあいつはエドガーだ。※※のエドガーだ)
リーダーっぽい男は、
目をそらした。
口に手をあて、何かをこらえている。
「俺も有名になったみたいだな。
もう一度言う、エドガーだ」
俺は叫んだ。
(おいおい。あいつがエドガーだ)
(すげぇホンマ者見た)
(あいつが※※のエドガーか)
俺、ずいぶんイケてるんじゃね。
俺は胸を張る。
観衆たちは、
変な顔をしている。
なんや。なんや。この展開。滅茶苦茶オイシイやんけ。
もう一回煽ったろ。
俺は拳を鳴らそうとするが、音が出ない。
まぁええわ。
「殴りたいんやろ。殴れよ」
俺は笑った。
「……すまん。まいった。お前とは戦えない」
リーダーっぽい男は腹を抱える。
「そうかそうか。俺がエドガー様だと知って、恐れをなしたか」
俺は笑った。
「……いや、違うんだ。俺はお前なんか、一発で倒せる。でもな。さすがに馬糞のエドガーとは戦えない。お腹が痛い」
リーダーっぽい男は腹を抱え、笑いだす。
(おぉすげぇ。馬糞のエドガー。ゴロツキを会話だけで倒したぞ)
(ゴロツキが降参するのもわかる。馬糞を投げられたら、末代までの恥だもんな)
(ケントとその手下たち。さっそく他の街に逃げ出したらしいぜ)
観衆がざわつく。
アルフレッドは真っ赤な顔をしている。
俺は手をあげ、声援にこたえる。
「ありがとう。ありがとう」
そうこうしているうちに、順番が来た。
「すまないね。エドガーさん。さぁどれにする」
店主は言った。
「アルフレッドの好きなやつはどれだ」
俺は言った。
「これとこれが好きです」
アルフレッドは答えた。
「わかった。じゃあこれとこれを2つずつ。あとエールも二つ」
俺は言い、銅貨を手渡した。
「わかった。じゃあこれはうちからのお礼だ。助かったよ」
店主はパンをくれた。
俺は、
アルフレッドにパンとエールを渡した。
「じゃあな。ありがとうな」
俺は言った。
アルフレッドも頭を下げ、
二人は屋台をあとにした。
あちこちで、注目を集める。
俺はベンチに座り、
アルフレッドとパンとエールを食べだした。
エールを一口飲む。
薄い。
滅茶苦茶薄い。
薄いビールみたいだった。
「このエール薄いな」
俺は呟いた。
「薄めてますからね」
アルフレッドは言った。
「なんで薄めるの?ケチなの?」
俺は言った。
「ケチって言うより、水代わりに飲んでますから」
アルフレッドは答えた。
水代わりに飲む?
どういう事だろう。
「水は飲まないのか?」
俺は尋ねた。
「沸かした水は飲みますが、そのままは飲みませんよ。
お腹を壊しますから。
エールを薄めるのなら、生の水を飲んでも大丈夫ですけど。
……ホント記憶がないんですね」
アルフレッドは言った。
「あぁそうやったな。
そんな気がするわ。
助かるわ、アルフレッドがいて」
俺は頭をかいた。
「それほどでも。
でもお役に立てて光栄です。
しかしさっきはすごかったですね」
アルフレッドはパンをちぎって食べた。
パンをちぎるなんて、
さすが上品やな。
女子みたいや。
俺はそんな上品なことはせぇへんでと思いながら、パンを噛む。
堅っ。
噛み切られへんやん。
俺もアルフレッドを真似てちぎって食べる。
「これちぎらんと噛まれへんな」
俺は言った。
「そうですね。庶民のパンは堅いですもんね」
アルフレッドは答えた。
そうか庶民のパンは堅いんか。
色々と違うんやな。
パンで堅いとか、
フランスパンと食パンの耳と、
おしゃれなパンくらいやと思ってたわ。
まぁええわ。
「しかしさっきは面白かったな」
俺は笑った。
「ひやひやしましたよ」
アルフレッドは答えた。
「そうか?面白いやろ。筋肉バカをからかうんは」
俺は言った。
「ケガされたらどうしようかと、心配でした」
アルフレッドは答えた。
「なんで心配なんや。お前は痛くないやろ」
俺は尋ねた。
「エドガーさんが殴られたら、僕の心が痛むんです」
アルフレッドはちょっとむくれた。
えっ何この子。
滅茶苦茶カワイイやん。
「それは愛なんか?」
俺は言った。
「……はい?」
アルフレッドは真っ赤になる。
「……ええ。なんも言わんでええ。それは愛や」
俺は言った。
「……いや。それはパーティメンバーだし、尊敬しているし、心配だし」
アルフレッドはモジモジしている。
「……ええ。なんも言わんでええ」
俺は頷く。
沈黙が流れる。
「それで、あの両手をだらりとさせて、殴られると思わなかったのですか?」
アルフレッドは尋ねた。
「あれはな。ノーガード戦法って言ってな。殴ってきたら、すっと避けてカウンターを仕掛けんねん」
俺は言った。
「カウンターって何ですか?」
アルフレッドは目を輝かせている。
「カウンター言うのはな。
相手のパンチの勢いを利用して、ダメージを与えるテクニックや」
俺は答えた。
まぁ実際カウンターはやったことないけどな。
俺は過去を思い出す。
……
俺の地元はガラの悪い地域やった。
そして俺もよく絡まれた。
そこでよくやったんが、
ノーガード戦法や。
なんの影響かは知らんけど、
手をだらりとさせるノーガード戦法を取ると、
「なんやこいつノーガード戦法や。クロスカウンターされるかもしれんで」
と言って、
大概の連中は喧嘩をやめた。
100回くらい絡まれて、
99回ノーガード戦法で不戦勝やった。
……
「そのカウンターっていうのは、とんでもない威力があるんでしょうね」
アルフレッドは言った。
俺は遠くを見る。
「そうやな。喰らった奴は、真っ白になるかもな」
俺はニヒルな笑みを浮かべた。
「滅茶苦茶カッコいいじゃないですか」
アルフレッドは言った。
えっカッコいい?
アルフレッドに褒められた。
「おぉそうか。それほどでもないこともない」
俺は笑った。
なぜか鼻の下がだらしなく伸びる。




