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アルフレッド

扉が開く音がする。

クリクリした金髪の少年が洗面器を持ってやってきた。

「気がつかれましたか」

クリ金君は言った。


「ここは?それと君は誰や」

俺は尋ねた。


「ここは僕の使っている宿屋です。

名前はアルフレッド。

同じ冒険者ギルドに登録しているものです。

まだ下っ端なので、ご存じないかもしれません」

クリ金君は言った。


なんや。

俺はこのクリ金君に、ホテルに連れ込まれたんか?

俺は身体を探る。

あぁ良かった。

服は着てる。


「それで、俺はなんでここに寝てる」

俺は尋ねた。


「昨日、ケントさんとの戦いで、倒れられて、それでギルド長に頼まれて、ここに運びました」

クリ金君は言った。


彼は見るからにひ弱そうだった。

その身体で、宿まで運んだのか。


「その身体で、俺を宿まで運んでくれたのか?」

俺は尋ねた。


「まさか。僕は運べませんよ。運んだのはギルド長達です」

クリ金君は言った。


しかし、あちこちが痛い。

昨日はそれほど怪我がなかったはずだが……。


「なんかあちこちが痛いんやけど」

俺は言った。


「あぁそれは、昨日エドガーさん、馬糞でケントと戦ったじゃないですか。みんな運ぶ途中に、それを思い出して、吹き出しちゃって、タンカから5回くらい、あなたを落としたんです」

クリ金君は言った。


なんやそれ。めちゃくちゃオイシイやん。


「うわ。その時起きてたかったわ」

俺は呟いた。


「怒ってるんですか?」

クリ金君は心配そうに言った。


「怒ってはない、怒ってるとしたら自分にや」

俺は言った。


「ストイックなんですね」

クリ金君は呟いた。


「そりゃそうや。そんなオイシイ場面に、遭遇していながら、意識を失っていたなんて、もったいなすぎるわ」

俺は言った。


「オイシイ場面?どういう意味ですか」

クリ金君は尋ねた。


「オイシイ場面がわからんか?

まぁ良いわ。教えたるわ。

その俺……その時、ケガ人やろ」

俺は言った。


「はい。ケガ人ですね」

クリ金君は頷く。


「そのケガ人を落とすとか、ありえへんやん」

俺は言った。


「そうですよ。だから怒っているのかと」

クリ金君は真顔で尋ねた。


「いや。違うねん。馬糞の件で笑った勢いで落とすやろ。それで俺がなにすんねん。ケガ人やぞ。って言ったら、面白いやん」

俺は言った。


「えっ。それタダの怒ってるだけじゃないですか」

クリ金君は真顔だった。


「違う違う。

クリ金君よう考えてみ、

俺な。

さっきまで馬糞を投げてた男やで、

その男がケガ人やぞ。大事にしろや的な事を言って、

説得力あるか?

なんかバカバカしく見えてけーへんか?」

俺は力説した。


「そうですね。

たしかにバカバカしくって、笑っちゃいけないと思っても、クスっとなります」

クリ金君は言った。


「そや。

笑うんは不謹慎やと思うところで、笑わす。

それが上級のテクニックなんや」


俺は胸を叩いた。

(ごほっ)

昨日の痛みが身体に響く。


それを見て、クリ金君は、少しクスっと笑った。


「それや。

そのクスっとした笑いや。

俺が好きなんわ。その笑いなんや」

俺は言った。


クリ金君は驚いた表情をしている。

腕を組み何かを考えている。

そんなに考え込むようなことか?


「僕は、人に笑われるような事をしたらダメだ。と教わりました」

クリ金君は言った。


その目は少し寂しそうだった。


「それは切ないな」

俺は呟いた。


「切ないですか?」

クリ金君は驚いたように言った。


「あぁ切ない。切ないぜよ」

俺は言った。


「どういう事ですか?

人に笑われるような事をしたらダメ。普通じゃないですか?」

クリ金君は言った。


「俺の親父はな。こう言った。”こけて笑われたらな。ウケたって思っとけ”」

俺は言った。


「こけて笑われたらな。ウケたって思っとけ……。」

クリ金君は呟いた。


「そうや。こけて笑われたらな。ウケたって思っとけや」

俺は言った。


「笑われたら、恥ずかしくないんですか?」

クリ金君は尋ねた。


「クリ金君、君な。

自分が面白いと思って言ったことを、相手が笑ってくれたら、気持ちよくないか?」

俺は言った。


「……そうですね。

面白いもの見たんだ。

そういって、説明した時に、相手が笑ってくれたら、楽しい気持ちになりますね」

クリ金君は頷いた。


「そやろ。

誰だってな、失敗は嫌やわ。

それは俺もそうや。

でも失敗しても、それでウケて、

お前面白い奴やなってなったら、

まったく違う世界が開けるねん」

俺は言った。


「それはそうかもしれませんね」

クリ金君は頷いた。


なんやこの子素直やな。

ええ子やん。

クリクリしてて、可愛いしな。

なんか守ったらんとあかんいう小動物みたいな感じやな。


「今回俺は災難にあったわけやん」

俺は言った。


「そうですね、僕だったら立ち直れません」

クリ金君は目を伏せた。


「でもな。俺は生きとる。

ケガはしたけども、死んではない。

だからかすり傷みたいなもんや」

俺は言った。


「結構なケガですよ」

クリ金君は言った。


「わかってないな。

人間はな。

全然大丈夫、かすり傷、死。この3つしかないねん」

俺は言った。


「普通に大ケガとかあるじゃないですか?」

クリ金君は不思議そうな顔をする。


「違う違う。そうじゃな~い。この3つしかないねん」

俺は言った。


「いや。ありますって」

クリ金君は言った。


「でもな。仮にやで、この3つしかないって事にしたら、かなり楽ちゃうか?」

俺は尋ねた。


「……どうなんでしょう。イメージが湧きません」

クリ金君は言った。


「もし俺みたいなケガやったら、どういうケガやと思う?」

俺は尋ねた。


「大ケガですね」

クリ金君は言った。


「大ケガやと思ったら、気持ちどうなる?」

俺は尋ねた。


「悲しくなりますね」

クリ金君は言った。


「それや。

クリ金君は俺と同じ状態になったら、悲しくなる。

俺はかすり傷やと思って、たいして何にも思わへん。

これがな。

人生のうちでな、何百回もあったら、

始めは些細な差でもな。

いずれ大きな差になるんや」

俺は言った。


「そうですね。

ケガするたびに大ケガやって思ってたら、

気もふさぎ込みますけど、

かすり傷だと思ってたら、ずいぶん楽ですね」

クリ金君は頷いた。


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