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笑われる男

ふと気が付くと、

俺は石畳の上に倒れていた。


やけに臭い。

うわ……、

目の前に馬糞がある。


「うわ。エドガーって、お前やっぱり弱っちいよな」

図体のデカい男が俺を指さし、笑っている。


なんや。

この状況。


(ずきん)

頭が痛くなる。

なんや。

この記憶は……。

俺は他人の身体に乗り移ったんか?

俺はエドガーなんか。


この図体のデカい男は、

誰や。

ケントか。

この身体の持ち主エドガーをいじめとった奴やな。


そして絡まれて殴られた。

そして、俺が乗り移ったってことか。

じゃあ、このエドガーって人、これで亡くなったんか。

災難やな。


まぁええか。

しかし、どうしよ。

どうもピンチっぽいな。


う~ん。

どうしたら、一番おもろいやろ。

どうせやったら、最悪で最高に面白いことがええな。


俺は30秒ほど考えた。


そや。

馬糞があるから、

このケントってやつに擦り付けたろか。


ここがどこかはわからへん。

でもウンコは万国共通に面白いやろ。


それや。


それが一番受けるはずや。


俺は目の前の馬糞を掴み、

ケントに近づいていく。

ケントは目を細めてニヤニヤしている。


ケントは馬糞を掴んでいることを気が付いていない。


徐々に間合いを詰めていく。

そして目の前に到着した。

思ったより図体はでかい。

身長は俺より20㎝は髙そうだ。

筋肉はごつく。

大胸筋は明らかに発達している。


俺はケントの目をじっと見る。

見下したような目で見るケント。


ケントは俺の胸ぐらをつかんだ。

身体が浮き上がる。


「ケントやめろ」

周りから声が聞こえる。


あぁそうか。

善良な者もいるんだ。

でも実際は口だけで、

制止まではしないんだ。


そうか、

このケントというのは、

周りからも恐れられているというか、敬遠されているんだ。


……ふふふ、

なら滅茶苦茶美味しいやんけ。


「ケントのクソ野郎!」

俺は叫びながら、

馬糞を掴んだ右手をケントの顔にねじり込む。


(ぐにゃ)

馬糞の柔らかさと、馬糞の臭いが、独自のハーモニーを奏でる。


ケントの顔は青ざめ、混乱している。


「クソ野郎だけに」

俺は一言つぶやいた。


場は一瞬静まり、状況を理解しようとしていた。

(ハハハ……、あの人顔に馬糞つけてるよ)

子供の声が聞こえる。


その瞬間

(ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ)


緊張感で殺伐としていた空間は、

一気に笑いの渦と化した。


(ハハハ!エドガー最高)

(ハハハ!ケントは本当にクソ野郎になったんだな)

(ハハハ!ダメだ。笑いすぎて死にそう)


そんな声が聞こえた。


なんや。

転生早々、滅茶苦茶いいすべりだしやんけ。

そう思った。


最高や。

この笑いや。

この笑いが聞きたいから、生きてるんや。


皆の笑い声を聞きながら、

俺は昔のことを思い出していた。


……


あれは、俺がまだオカンの体内にいたころ。


毎日が振動だらけやった。


なんの振動かっていったら、


オカンがお笑いを見て、笑う声の振動や。


その笑い声が心地よくて心地よくて、

生まれる前から、笑いに憑りつかれた。


えぇ話やろ。


でもな。


ウソなんや。この話今思いついたんや。


ほんまは、

これやーーー。


「こけて笑われたらな。ウケたって思っとけ」

それが親父の口癖やった。


俺は大阪に生まれ、

生まれてすぐに、お笑いの洗礼を受けた。

言葉やハイハイを覚える前に、

ボケとツッコミを叩き込まれた。


「えぇか。不運はな。おいしいんや」

親父に毎日のように言われた。


普通の親やったら、

子供がこけたら、


「だいじょうぶか」と側にかけよる。


一人で立つのを待つ。


だいたいこういう反応やろ。


うちの親父は違う。

俺が泣きそうになると、

「なんで、こんなオイシイ場面で泣きよんねん。

なんかおもろいこと言うか。

思いつかんでも、テヘペロくらいしろや」

そう叫んだ。


周りは、

「この子はお笑いのエキスパートやない。

普通の男の子や。

もうちょっと親父らしいことしてやれ」

そう言った。


親父はこう反論した。

「人生はな。

こけることなんかナンボでもある。

そのたびにな。

落ちこんでおったら、こいつの人生は面白くないものになってまう。

だからな。今のうちに、こけてもプラスに変えられるってことを教えてやりたいんや」


周りの大人たちは、

「そうか。それは一理ある」

って納得して、何も言わなくなった。


まぁそんな感じで、どんな場面でも笑いに変える力はついたんやけど、

このケントというのが、腰の剣に手を伸ばし、身構えている。


笑いに包まれていた現場は、再び緊張で張り詰める。

全員の視線が、二人に集中する。


なんや。滅茶苦茶オイシイ場面や。

しかし……、

どうしたらええ。

どうしたら面白い?


相手は剣も持ってるし、

下手したらまた転生やぞ。



俺はふと周りを見る。

するとそこら中に馬糞が落ちている。


そうだ。

俺は一計を案じた。


俺はその場から立ち上がり、馬糞を掴み、

ケントの取り巻き連中に投げつける。

(うわっキタねぇ)

取り巻き連中の体にも、馬糞が当たる。


ケントは取り巻き連中を睨みつける。

そりゃそうだ。

そのキタねぇものが、自分の顔についているだから。


周りはクスクス笑っている。

やった!ウケた。

あとは天丼。

同じネタの流用活用や。


馬糞の悲劇から逃れようと、

ケントとその取り巻き連中の近くには、誰もいなくなった。


「このクソ野郎!」

俺は叫ぶ。


(どっ)

場は笑いで包まれる。


(ハハハ!クソ野郎がクソまみれだ)

(ハハハ!ケントの取り巻きもクソ野郎だな)

(ハハハ!ダメだ。ケントがクソにしか見えない)


ケントとその取り巻き連中は、辺りを睨み牽制する。

しかし初めは怒っていたが、

恥ずかしさと、

居心地の悪さを感じ始めていた。


ケントは立ち上がり、剣を取り出し身構えた。


緊張が張り詰める。

俺は目をそらさず、

馬糞を手にする。


飛びこんできたところを、

クロスカウンターや。

飛びこんできたところを、

クロスカウンターや。


俺は何度も心の中で繰り返した。


3分ほどにらみ合いが続いた後、

ケントは剣を再び鞘に納めた。


「バカバカしい。行くぞお前ら!」

ケントは叫んだ。


そしてケントとその取り巻き連中は、その場から去っていった。


(どっ)

安心感で、

再び場は笑いで包まれる。


俺は勝ったんや。

そう安心したら、意識が急に薄れてきた。

そういえば、顔がひりひりもする。

あぁそうか。

なんか顔がボコボコで血が出てるもんな。


俺はその場で倒れてしまった。


(エドガー!大丈夫か?)

(誰かタンカを持ってきてくれ)

(誰かこのエドガーの馬糞まみれの手をどうにかしてくれ)


……

(ちゅんちゅんちゅん)

小鳥の鳴く声で目が覚める。


「うん……。ここは?」

俺は周りを見る。

俺はベッドに横たわっていた。


周りには誰もいない。

部屋は木造りの質素な部屋だった。

窓は板でふさがれ、隙間から光が漏れている。


なんや、閉じ込められてるのか?

俺は立ち上がり、窓についた木の板を開ける。

少し肌寒い風と、眩しい光が室内に入ってきた。


なんや。

窓ガラスがないんか。


しかし、ここはどこなんやろう。

馬糞が落ちてたし、窓ガラスもない。

転生するって言ってたし、

剣を持ってたし。


どういうことなんやろう。



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