カマキリに殺された男
八月の暑い日、俺は一匹のカマキリに殺されたんや。
体長は8cmくらいだっただろうか。
キレイな草色のカマキリやった。
住宅の壁補修の営業を行っていた俺は、
個別訪問を行っとった。
「時代遅れだろうが。
結局これが一番や」
と営業部長は笑っていた。
どこに笑うところがあんねん……
サッパリわからんかった。
カマキリは道路の隅で、鎌を振り上げ俺を威嚇していた。
負けてはいられへん。
俺も鎌のポーズをとって威嚇する。
(シャー)
あれ……、これ猫の威嚇か。
30秒ほどにらみ合いが続き、もうやめようと思った瞬間。
体の背面に衝撃がかかった。
なんやねん?
俺の身体は空を浮き、
カマキリの真正面に倒れ込んだ。
うまい事、ずこっといかれへんかった……。
俺はとっさに後悔した。
道路の熱さと、クラクションの音。
そして生暖かいなにか。
カマキリは俺の目前に近づき、
何か言いたげに、俺をじっと見つめた。
そして去っていった。
なんか言うていけよ。
俺のツッコミは、田舎の道路に虚しく響く。
鶏糞と泥のニオイが鼻をついた。
あぁ……、
そうか、
カマキリが戦っていたのは、俺じゃなかったのかもしれない。
そして俺は、人生の幕を閉じたんや。
ーーーー
……って、
かっこよくフィナーレ決めようと思ってんのに、ここはなんやねん?
ふと気がつくと、俺は昭和時代から止まったままのような店のベンチにいた。
身体は痛くない。
そしてなんや?
この店は?
なんでスマートボールがあんねん。
赤茶のネルシャツの裾を緑色のピタッとしたジャージにインしているハゲあがったオッサンと目が合った。
オッサンはニカッと笑う。
前歯が2本とも抜けていた。
「ひーひゃん、しゃいひゃんやったひょー」
オッサンは言った。
何を言ってんねん。歯が抜けてるからサッパリわからんわ。
ちょっと待てよ。
「兄ちゃん、災難やったのうか?」
俺は尋ねた。
オッサンはニカッと笑い、スマートボールの台から離れた。
オッサンは、店内のガラス張りの冷蔵庫に向かい、オレンジジュースの瓶を取る。
「60円や」
店主らしきオッサンが手を出す。
「ひょひゃいひゃまへ、こしゅうへんひゃったひゃろ」
ジャージのオッサンは抗議する。
「テンプレや」
店主らしきオッサンは答えた。
ほんまこいつら、何言ってるかわからへん。
あのジャージのオッサンは、
「こないだまで、五十円やったやろ」
で正解やろな。
それで、店主らしきオッサンの回答は
「インフレや」
やろな。
しかし、あれで通じてるのが、わけわからんわ。
俺もわかってるから、適当なんやろな。まぁどうでもえぇわ。
ジャージのオッサンは、栓抜きでオレンジジュースの栓を抜く。
ほんのりオレンジの香料の香りがした。
なつかしいな。
このジャンクな感じ。
なんか微妙に薄味のオレンジジュースやねん。
ジャージのオッサンがこっちに向かってきた。
オッサンは俺にジュースを差し出す。
「俺に買ってくれたんか。おおきに」
俺はジュースを受け取ろうとするが、
ジュースに触れることはできない。
ジャージのオッサンはニカッと笑う。
「やっぱ、兄ちゃんも死人やったんか。まぁ成仏しぃな」
オッサンはそう言った。
なんや。オッサン、ちゃんとしゃべれるやないかい。
俺が死人。
どういうことや。
徐々に意識が薄れていった。
……
気が付くと、
真っ暗闇のなかにいた。
目の前には、うすぼんやりとした光が浮いている。
「君も災難だったね」
光の中から声が聞こえる。
「あんたは誰や、ここはどこや」
俺は尋ねた。
「私は君らがいうところの神的なもの。そしてここは転生前の待機所みたいなところだよ」
光の中から声が聞こえる。
「どうも初めまして。俺の名前は……。
あれ何やったやろ。覚えてないわ」
俺は言った。
「まぁこれから新しい名前になることだし、忘れてたらいいよ。
名前なんて言うのは、個別認識の記号みたいなものだから」
神様は答えた。
「それで、一つ聞きたいんやけど、俺の死ってニュースになるかな。カマキリに殺された男って、めちゃくちゃ美味しいやん。超ウケると思って、ワクワクしてんねん」
俺は言った。
「まぁ残念ながら、カマキリはその場から去ってるから、カマキリの完全犯罪が成立しているな」
神様は言った。
カマキリの完全犯罪って、
滅茶苦茶刺さるキーワードやん。
なんや。
この神様、ノリがええやん。
「うわ。そうなんや。名探偵とか来て、カマキリの完全犯罪を解いてくれへんかな」
俺は言った。
「カマキリに動機があると証明しにくいだろうね」
神様は答えた。
カマキリに動機とか、
ボケにものすごく乗ってくれる神様やな。
これきっと笑いの神様やで。
じゃあ、
これにはどんなボケを返してくれるやろ。
「そういえば、転生と言ったら、なんか転生ボーナスみたいなのが貰えるって、聞いたことあるんやけど、どうなんですか?」
俺は尋ねた。
「チート能力のことだね。あれはね世界の理を崩壊させるから、禁止されてるんだよ」
神様は言った。
「そこをなんとかお願いできませんか」
俺は尋ねた。
「仕方がないね。
……よしわかった。
ではこうしよう。
世界には見たいものを見せてもらえないシステムが存在する。
これを我々の世界では、謎の光というんだよ」
神様は言った。
あぁあれか。
あの大事なところが、消されてしまう光のことな。
「はい。わかります」
俺は言った。
「あれの機能をオフにしてあげよう」
神様は答えた。
滅茶苦茶チート能力やんけ。
「そんな能力貰っていいんですか?」
俺は尋ねた。
「謎の光の中を見る勇気があるのかい?」
神様は言った。
「もちろん。俺は現実をちゃんと見れる男です」
俺は力強く言った。
「よし、良いだろう。これは世界の理を変える能力ではない。単なるお遊びだ。わかった、謎の光をオフにしてあげよう」
神様は言った。
「ありがとうございます」
俺は全力で言った。
「じゃあ頑張るように」
神様は言った。
そして、俺の意識はまた薄れていった。
もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、
ブックマークしていただけるととても励みになります。
本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。




