87.四天王サイキョウ
少し開いてしまいすみません。
一応今年中に100話まで投稿したいと思います。
さて、第一の部屋を突破した俺たちだったが、次の第2の部屋ではワニのような機械獣が登場。
今度はエリカが扉を吹き飛ばすこともなく、無事?戦闘の流れとなった。
名乗りを上げたのはベルベッタとリエッタだ。
2人も何かしら役に立ちたい思いと、後に行くほど相手が強くなるそうなので、戦えるうちに戦っておきたいということらしい。
『ゲゲゲ。ワレハダイニノシテンノウ。ココヲトオリタクバ、ワレヲタオシテユケ』
「お姉ちゃん。行くわよ」
「……」
「こんな時くらい喋ってよもう」
ベルベッタの悪態から始まった戦闘は、そう長くは続かなかった。
ワニは駆動音を響かせながら本来のワニよりも早い足取りで2人との距離を詰める。
がしゃがしゃと足音を響かせながら近づいたワニに、ベルベッタは天蓋から斧を振り下ろした。
ワニはワニとは思えない反射神経で短い脚をうごかし背後へとステップする。もはやこいつが何を模して造られたのか分からなくなってくる動きだ。
危なげなくベルベッタの斧を交わしたワニだったが、動きを呼んでいたリエッタが側面から走り込んだ。
何の武器も持たず無手で突っ込んでいったリエッタに、ワニは一瞬でリスクを分配したのかベルベッタの方へ向きながら長大な尻尾の薙ぎ払いでリエッタを迎え撃った。
リエッタは跳躍で尻尾をよけると、先ほどまで何もなかった手で巨大な斧を振りかぶる。
その斧はベルベッタの持つそれよりも巨大で、見るからに質量もありそうだ。それをベルベッタよりはるかに細い腕で扱っている。
機械のくせにギョっとした表情を浮かべてたまらず攻撃途中の尻尾を制止させてそのまま地面を打った。その反動でワニの体はリエッタとは逆方向に、弾かれたように飛ばされる。
しかし僅かに反応が遅れたのか、まだ取り残された尻尾がリエッタの大戦斧による斬撃で両断された。
それは最早斬撃と呼ぶのかすら疑わしい威力をもって、地面を砕いた。
この部屋を構成する材質は相当な硬度を誇る合金だとエリカは事前に教えてくれていた。
だから最初の部屋でエリカが力任せに吹き飛ばした扉は、四天王の猿を圧殺した上で傷一つつけることはできなかった。
しかし今リエッタの斧の一撃により床面は砕け散り残骸をまき散らす。
その光景からも、リエッタの一撃がどれだけの威力を持っているか想像するだけでも恐ろしい。
着地したリエッタは地面を蹴り、そのままワニへと肉薄する。
ワニはまたもギョッと表情を器用に変えると、しかし振り下ろされた斧を何とかその口で受け止めた。
あの機械獣も中々の出力を誇っているようだ。
モデルがワニだとすればそれも当然か。
「ベルベッタ。お前の姉さんお前より強くない?」
「あら。今頃気づいたのかしら。姉さんの方が私よりよっぽど強いわよ?」
悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、ベルベッタは姉の手助けをすべくワニに向けて駆け出した。
「どっせえぃ!」
ベルベッタの男らしい掛け声とともに放たれた斧による一撃はワニの体を完全にとらえた。
ワニは今リエッタの攻撃を防御することで手いっぱいになっており、とても他の攻撃をよける余裕などない。
呆気ないほど簡単に、ベルベッタの斧がワニの体に吸い込まれる。
ガキィン!
ベルベッタの斧が機械獣の固い体に跳ね返される。
金属と金属がぶつかる激しい音が部屋の中にこだまし金属の壁面に反響した。
まるで音叉の間にいるかのように周囲から縦横無尽に音による圧力が俺たちの耳朶を打つ。
「くっ」
リエッタに斬られたワニの尻尾だったが、それでも失われたのは一部分だ。
残りの尻尾が斧を振り上げた状態で固まる無防備なベルベッタを打ち倒そうと、鞭のように振るわれた。
「甘いわよぉ!」
だがそこはベルベッタ。隙を見せても歴戦の強者たる経験が、既に体を次の行動に移らせていた。
弾かれた勢いそのままに巨躯を地面から跳ね上げ空中へと退避する。
その僅か下を掠れるほどの距離で巨大な尻尾がフルスイングで通り過ぎた。
その際の風切り音が、直撃していれば無事では済まされなかったであろう威力を物語っており、ベルベッタの頬を冷や汗が伝う。
だがワニにとってそれは失策だった。否、失策だったとワニ自身は気づけようはずもない。
リエッタを前にしてベルベッタに攻撃を加える。
それは姉として弟を今まで守ってきたリエッタに対して、明確な殺意を抱かせるに十分な理由だった。
一瞬ワニは、リエッタの瞳の奥が赤黒く光ったように感じた。
その瞳を見た瞬間全身が緊張したように強張る。自身の体が機械であることさえ忘れて。
ワニに与えられた命令は、この先に進むものを四天王として阻むこと。
彼が製作される際、それ以外の思考はすべて切り捨てられている。
多少のユーモアを交えた会話を行う程度はでき、また自分である程度思考することはできる。
それだけでもとんでもない代物であるが、それ以上の思考は与えられていない。
彼を制作した者がこの場にいたらきっと、そのワニの姿を見て『素晴らしい』と称賛しただろう。
余計な思考をしないように作られた存在が、一瞬だとしても確かに感情と言うものを芽生えさせたのだから。
それはある種の進化。制作者すら想定しえない先に到達した瞬間。
残念ながら、その制作者もここにはおらず、当のワニはそれが生物にとっての恐怖であると知ることはなかった。
ぐっと力を込めたリエッタの大戦斧を、次の瞬間にはワニも受け止めきることができずに、その頭蓋ごと叩き潰された。
「これで次に進めますねぇ」
エリカは機能停止したワニを眺めながら、笑顔でそう宣う。
明確にワニの機能が停止したからか、ガコンと鍵が開く音が部屋に響いた。
先ほど開錠の音が聞こえてこなかったのは、エリカの攻撃で既に第一の部屋の猿が機能停止になったと判断されたからだろうか。
俺たちが入る前に鍵が開いていたのかもしれない。
「ではぁ、次に行きましょうかぁ」
エリカの案内に従い俺たちは光の灯る真っ直ぐな通路を進み、やがて次の部屋の扉へとたどり着いた。
エリカは自分で開けるつもりが内容で、誰かしらが開けようとするのを待っている。
みんなが何故か俺に視線を向けるので、そっと俺は扉を開けた。
『マッソゥ!』
そこにいたのは銀ピカの機械の体を持つマッチョマン。
反りあがった頭に不気味なほどの笑顔を浮かべている。
某有名映画のように骨格だけの存在ならよかったのだが、なぜかそいつの体は妙にリアルな人間を模しており、そして大事な部分に布一枚も纏わぬ全裸であった。
そんなマッチョがあられもない姿でボディビルダーのようなポーズをとっている。
バン!
俺は一瞬で扉を閉めた。
「どうしたでござるか。トール殿?」
足元から向けられるアミミの瞳に、なんとなく心が癒されるような気がして思わずその頭をなでる。
アミミは擽ったそうな笑みを浮かべて俺の手を受け入れていた。
「何かいましたかぁ?」
そんな俺にエリカは微笑みを浮かべながら訪ねてくる。
「いや、お前知ってたろ!」
「さぁ? 何のことでしょうかぁ」
先ほどより笑みを深めた気がした。
こいつ絶対確信犯だ。
しかし困った。
この中に他の女性陣を招き入れるのは俺の良心が呵責に耐えきれない。
ベルベッタやエリカなら構わないが、あんな下品なものをアミミやヘクスに見せるのだけは避けたい。リエッタなんて卒倒するに違いない。
俺は溜息を吐きながら扉から数歩下がる。皆も同時に俺の後ろへと下がらせた。
静かに息を吐いて抜刀の構えを取る。
腰には燃えるような炎を模した赤い線の入った鞘をひっさげ、同じく紅の柄巻が鮮やかだ。
もう一度深く息を吐き、神経を集中する。
先ほど中で見た映像を思い起こし、室内の気配を探りつつ獲物の位置を特定する。
「彼我一刀・乱れ風」
『ワレハシテンノウサンバンマッソォォォォォォゥゥゥゥゥ……』
俺が刀を中空にふるうと部屋の中から叫び声ともつかない悲痛な音声が聞こえてきた。
他の面々は面食らっていたが、エリカだけが微笑みを讃えていた。
それから数秒、息を吐いて俺は振るった刀を鞘へと納める。
同時に奥からガコンと言う開錠の音が響いた。
「さて。行くか」
「いや、何があったでござるか」
「ボクもぜひ聞きたいね」
「いや、ちょっと汚いものがあったんでな。2人には見せられないレベルの……」
どこか遠くを見る俺の表情に、2人はそれ以上何も言わなかった。
きっと部屋の中にあったのが忌々しい光景だったと察してくれたのだろう。
「ではぁ、進みましょうかぁ」
「お前、後で覚えてろよ」
「何のことでしょうかぁ?」
とぼけた表情を浮かべるエリカは、今日一番の笑顔を浮かべているように見えた。
そしてついに最後の部屋。
四天王最後の敵が待つ部屋へとたどり着いた俺たちは、今度は躊躇しなかったエリカに誘われ部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋の中は今までと比べて倍以上に広く、天井も20メートルくらいの高さだ。
圧倒的に広いと感じさせる空間。
その眼前に聳える存在が、四天王最後の将。
そこにいたのはまるでサーベルタイガーと言えるような威容を放つ四足獣。
一目見ただけで強大な力を持つ存在だと分かる程の巨体は、明らかに機械と言えるのだが、口からは巨大な2本の牙をはやし、まるで生きた猫がそうするかのようにその場に寝そべっている。
しかし顔の高さだけでこの場にいる誰よりも高い位置に視点があった。
今までの流れから動物を模した機械獣が出てくるとは考えていたが、いささか規格外過ぎて驚きも吹き飛んでしまう。
正直言って、カッコいい。
これに武装を付ければどこぞの金属生命体と言われても不思議ではなかった。
しかし元の世界の金属生命体と呼ばれる物語通りだとしたらその力は推して知るべし。
そもそも人間が戦いを挑む時点で物語は崩壊してしまうだろう。
勿論外敵をせん滅するために作られたのだとしたら、最後の四天王がどれほどの力を持っているのか想像に難くない。
魔王の私室を護る警備だ。生半可な相手でないのは確実だろう。
ここまでは大分おふざけ気味だったが……。
「これは全員でかかった方がいいかもしれないな。ベヒモス並みの力を持っているかもしれない」
「そうだね。対峙しただけでも相当な力を持っていると伝わってくるよ」
アミミやベルベッタ達も目の前の機械獣が放つ圧力に厳しい瞳を向けていた。
そんな俺たちに気づいたのか、機械獣は鳴らしていた寝息を途切れさせ、のそりと顔を上げる。
その両の瞳が俺たちの姿をとらえた。
俺たちは一斉に武器を構え、攻撃に備える。
『ワレハシテンノウサイキョウノ……ハァ』
そうして再び頭を地面につけ元の体勢に戻った。
「……?」
俺たちは呆気にとられて固まる。
意味が分からず目を見合わせた。
するとエリカがトコトコと最後の四天王へと近づいていく。
「あのぉ。ちゃんとやってくれませんとぉ、あなたの存在意義に関わりますよぉ」
『トハイッテモダナ。サスガニコレダケマタサレテ、イマサラマオウサマノヘヤヲシュゴシテクレトイワレテモ、コッチモヨテイトイウモノガアルノダガ』
「予定なんてないですよぉ。あなたはぁ、どうせ一日中寝てるだけなんですからぁ」
『シッケイナ。ネテナイヒモアルゾ』
「一年の間にそんな日がどれだけありますかぁ。1日あればいいほうですよぉ」
『ウムゥ』
何だかエリカと四天王は話し込んでいる様子だ。
機械獣はやる気がないのか一向に襲ってくる気配がない。
2人?の話を聞いている限り、どうやら与えられた役割を果たせと言うエリカと、今更やったってしょうがないという四天王。
まあエリカの話では千年以上はこの場に誰も来ていないようなので、アルティスや俺たちが来たのは本当に久しぶりなのだろう。
目的は分からないが、エリカはアルティスに魔王の部屋へとたどり着いてほしいらしいが、しかし四天王には自分たちの仕事を遂行して欲しい思いがあるようだ。
戦わないで先へ行けるのであれば俺たちにとっては喜ばしい限りなのだが、エリカにとってはそうでないらしい。
まあ魔王の命と言うものがあるようなので、部外者の俺たちが何か言う立場にはないのは確かだ。
「分かりましたねぇ? 今度はちゃんとやってくださいよぉ」
『ウウムゥ。ワカッタ』
話がついたのか、エリカがトタトタと俺たちの元へと帰ってくる。
「みなさんお待たせしましたぁ。では戦いを開始しましょうかぁ」
「戦わないのならそっちの方がありがたいんだが」
「ダメですよぉ。楽して魔王様の部屋に行こうとしてもぉ、裏技何てないんですからねぇ」
もうこれ完全にテレビゲーム感覚じゃん。
ツッコミを入れたいが他のみんなに理解してもらえなさそうなので止めて置く。
全く、魔王もとんだ遺産を残してくれたものだ。
ようやく準備が整い、俺たちは四天王と再び対峙する。
『ワレハシテンノウサイキョウニシテ、サイゴノヒトリ。ナヲグラコストイウ。ユクゾ』
「かかってこい」
「でござる」
そして戦、いの火ぶたが切って落とされた。
最初に攻撃をしたのは距離を無視する2人の一撃。
「サンダーボルト」
「彼我一刀・紅燕」
目を焼くような閃光と視界を埋める紅炎がグラコスの周囲で閃いた。
『グォォォォ。マイッタァァァァ』
断末魔を残してグラコスは地面に倒れ伏した。
ベルベッタとリエッタは追撃に出ようと振り上げた斧を、その形で止めたまま目を白黒していた。
かくいう俺も、抜刀の体勢に入った状態で止まったままだ。
頭の中に「……」が流れる。
そのまま刀を鞘に納め、拳を突き上げた。
「俺たちの勝利だ!」
「「わー!」」
「そんなわけないでしょうがぁ!」
茶番も茶番。
まるで子供のお遊戯会のような決着のつき方に抗議をしたのは、魔王の侍従長であるエリカである。
しかしグラコスを含めた他の面々は、これ以上の戦いが面倒なのですっかり終わった気でいる。皆が冷たい瞳をエリカに向けていた。
そんなエリカに仮の魔王であるアルティスが反論する。
「戦わないに越したことはないでしょ?」
「そぉ、それではぁ、四天王の意味がぁ、無くなってしまいますぅ」
「でも私今魔王なんでしょ? なら別に四天王と戦う必要なくない? 今更だけど」
『ワレモソウオモウ』
「うぐぅ」
アルティスの正論にエリカが胸を押さえてのけ反った。
確かにエリカがアルティスのことを魔王と崇めるのであれば、この場の支配権はアルティスにある。
そうなると四天王がアルティスに襲い掛かるのは本末転倒と言うものだ。
護るべき主の部屋からその主を遠ざけることになるのだから。
同じ魔王の従者である四天王からの加勢も手伝って、エリカはそれ以上何も言葉を発せず黙り込んでしまう。
「てことで、もういいんじゃないか?」
「……わかりましたよぅ」
渋々ながら俺の言葉に従うエリカ。
初めて微笑みを崩したエリカの姿に、俺は何となく勝ち誇ったようで嬉しかった。
そんな俺にヘクスが呆れたような表情を浮かべ、チョップをくらわしてくる。同時にアミミも俺の足を蹴りつけてきた。
うむ。やはりウチの女性陣は怖いな。
『デハワレヲタオシタモノドモヨ、コノサキニススムガヨイ』
「ありがたく通させてもらうよ」
アミミが従順なグラコスの頭をなでてやると、グラコスは機械とは思えない豊かな表情でゴロゴロと喉を鳴らす。
まあ傍から見るとサイズが違い過ぎるので、アミミが丸呑みされそうな光景だが。
そうしてグラコスに見送られながら、俺たちは魔王の部屋へと続く扉を潜るのだった。




