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82.島、時々、海獣

先週一本しか投稿できなかったので少し盛り気味で。今週はもう一本投稿できるよう頑張ります。

「体調はましになったか?」

「うぅぅ。あ、ああ、大分ましになったよ。ありがとう、トール」


 船内の一室、椅子に座りながらヘクスは安堵の溜息を吐いた。

 先ほどまでベッドに横たわりながら、船酔いの気持ち悪さから青い顔をして唸りっぱなしだったが、俺の酔い止めの魔法が効いたのか今はすっきりした表情をしている。

 ヘクスはアミミから差し出された紅茶を受け取ると、それをゆっくりと口に含んだ。


「ふぅ。先ほどまでの心地を考えると、今紅茶を窘めるのが嘘みたいだよ。流石トールの魔法はすごい効き目だね」

「まあそれくらいしか取り柄がないからな」

「ふふ。そんなこと言われたら、ボクなんて能無しになってしまうよ。……ところで――――」


 そこでヘクスは口を噤み、眉根を寄せた。視線を俺の体の天辺からつま先まで何度か往復させる。

 やがてその行為をやめ、ふっと口端を歪ませた。


「ふふ。トール、それは何の冗談だい? ふふ、ふふふ。いや、君の趣味だというのなら構わないのだがね。聊か、寝起きのボクには刺激が……ふふ、強すぎるようだ」


 必死に笑いを堪えているのがハッキリわかるくらい肩を上下させ、ヘクスは笑みを浮かべていた。

 それもこれも、すべては俺の格好のせいだ。


 今俺の格好は、スカートをはいた女性になっていた。

 長い黒の長髪に切長の鋭い瞳、服は和装で藤色の着物に紺の袴。アミミと並べば藤色と桜色の色違いでお揃いの装束に、同系色の髪の毛から姉妹に見えてもおかしくない格好だ。


 あの時アミミが発した言葉から、リエッタを怖がらせないよう俺を女装させるという計画が持ち上がったのだ。

 勿論普段化粧などしないアミミには実現不可能な案だが、何故かベルベッタが素晴らしい化粧の腕前を披露し、俺の姿を見事に彩った。

 一度化粧されてしまえば俺も逃げようがなく、渋々女性ものの服を収納から取り出した。ちょうどアミミと同じ黒髪だったこともあり、姉妹という設定がいいとのことで、和装の衣服を選んで取り出したわけである。

 和装であれば、東方以外の国では皆似通った格好に見えるため、誤魔化すにはちょうどいいというのもあった。

 そんなわけで、俺は今黒髪の和装乙女と化していた。


 俺の方をチラチラ見ながら、ヘクスはなおも笑い続けていた。


「ふふふ。ホームに帰ったらクランのみんなにも見せてあげよう」

「死んでも嫌だ」

「いやいや、その恰好、とても似合ってるよ。女性であるボクからしても、少し嫉妬を覚えるほどだよ。何も言わなければ絶対誰も気づかないから、ぜひ試そうじゃないか」

「うるせー。これはここ限定だ」

「えー。拙者は時々でいいからその恰好して欲しいでござる。拙者、姉君はおらぬ故」

「なんでお前の姉にならなきゃならんのだ」

「でもトール、とても似合ってるわよ。私もそれくらいキレイになれたらいいんだけど、どうにもこの体系じゃ難しいのよ。だからそんなに女性に近づけるなんて、私からしたらすごく羨ましいわ」


 その道のプロであるベルベッタからお墨付きを貰う程度には完成度が高いらしい。確かに自分の姿を鏡で見てみたが、誰この美人と思うほどにはしっかりと女性に見える出で立ちだった。が、残念ながら俺はそのような属性を持ち合わせていない。

 まあこの船にいる間だけでもリエッタを欺けるのであれば、甘んじてこの恥辱を受け入れることとしよう。

 決して自分が綺麗になったことを嬉しく思ったわけではない。断じて、そういうわけではないのである。





 そんなこんなで俺が女性の格好をしてから2日が経った。

 あれからリエッタは俺の姿を見ても緊張することがなくなっていた。そういう面ではアミミの出した案は成功したと言えるだろう。

 男としてのトールは現在部屋に籠っている設定で、女としてのトールはアミミの姉であるとリエッタに伝えている。最初は怪訝な表情をされたが、どう見ても女性にしか見えない俺の格好に、渋々ながら納得したようだ。


 とは言え、それはあくまでリエッタが俺に対して緊張しなくなったというだけのことである。ベルベッタを危険な航海に連れ出したという事実に変わりはないため、相変わらず俺たちはリエッタから鋭い視線を向けられていた。船内ですれ違っただけで睨みつけられる始末だ。

 まあ皆の無事が確保できているので、リエッタから悪感情を向けられる以外は特に支障があるわけでもない。

 こうして今日も、少し荒々しい波に揺られながら、霧に囲まれた海域を俺たちは彷徨っていた。


「それにしても、資源として使えそうなものは見当たらないな」


 周囲を見渡しても結界の範囲外は霧以外何も見つからない。


 一応リーンデルからの依頼には内海の調査も含まれている。そこに海洋資源があれば、収集を考えたいそうだが、今のところそういったものはなさそうだ。

 不足の事態と探索のため周囲に探知魔法を掛けているが、それにもめぼしい反応は見られない。

 霧の中に巨大な海獣がうようよしていることは探知出来ているが、いずれも結界を超えてまで襲いかかっては来ないようだ。また、通常の魚も確認できないことから、航海中の食料確保は困難だろう。


 都市から離れた位置なら周囲の状況に多少変化が見られるかとも思ったが、一層瘴気が濃くなっている気配すらある。

 仮に資源が見つかったところで、何の守りもなしにこの瘴気の霧をかき分け航行するなど自殺行為だ。かと言って、この規模の結界を張れる冒険者や聖職者、聖騎士を雇うとなるとそれにもまた金がかかる。

 要するに、この海域を探索するのは限りなく難しいということだ。

 まあそれはリーンデルの事情なので、俺にとっては関係ない。


「目的の島まであとどれくらいだ?」


 俺の言葉にヘクスは懐から地図を取り出し机に広げた。目的の島を示し、その後オリオールとの交点上に指を置いた。


「今は大体この辺りだね。早ければ今日中に目的の島に到着できるかもしれないね」

「大分近くまで来てるな」

「もうちょっとで到着でござるか? いい加減、船の旅は飽きたでござるよ」


 ぶーっとアミミは不機嫌そうな表情を浮かべて息を吐いた。

 来る日も来る日も変わらない景色に、いい加減アミミも退屈していたらしい。

 とはいえ、目的の島はもうすぐだ。そこにたどり着けばアミミの退屈も吹き飛ぶことだろう。


「結局、めぼしい資源は何もなかったのかな?」

「残念ながらな。ほとんど瘴気を含んだ霧に覆われちまって、この辺りは人が生身で過ごせるような場所じゃなくなってるみたいだ」

「まあそれだけ瘴気の影響は大きいからね。この海域でなくとも、瘴気の流出によって滅びた地域なんて枚挙にいとまがないよ。瘴気の元となる原因をつぶさない限り、その土地の改善は見込めないさ。この海域で言うと……海の底、にあるかもね」


 ヘクスは笑みを浮かべながら真下を指さした。

 仮にその言葉が正しく、海底に瘴気の原因となるものが存在するのであれば、解決するのは限りなく難しいだろう。人間は深海に潜れるようにできていないのだから。


 そもそも瘴気とは何か。その答えは誰も持っておらず、未だその存在が解明されていない未知の物質だ。分かっていることは、魔力が変質して生み出されていることと、生物にとって非常に有害だということ。そして聖属性の魔法で対抗できるということだ。


 瘴気が発生する場所は世界に数多く存在しており、以前からそうだった場合もあるし、ある日突然そうなる場合もある。代表的な要因としては、魔力が一定量蓄積した、強大な魔法が使用された、地殻から瘴気があふれ出たなどがあげられる。

 一定量の瘴気が溢れる場所に長時間とどまれば、健常な人間であっても数時間ともたず命を落としてしまう。勿論その影響は植物や動物に対しても同様だ。

 また、瘴気は生物だけでなく、死体にも影響を及ぼす。以前ボロンの村で巻き込まれたゾンビ騒動の時も、古代の研究所内に充満した瘴気が、保管されていた人間をアンデッドに変質させ、アンデッドロードをも生み出した。


 瘴気はそれだけ周囲に大きな影響を及ぼし、すべての生き物に対して有害な存在なのである。


「ま、考えたところで何かできるわけでもないしな。瘴気の原因が取り除けそうなら対応すればいいさ」

「ボクたちの目的はあくまで島への到達と調査だからね。それ以外の優先順位は低く見積もっておこう」

「拙者はとにかく地に足付けたいでござる」


 アミミは椅子の背を抱きかかえながら、体を左右にゆらゆらと揺らしていた。


「ヘクスもたまには外に出るか? 一応酔い止めは効いているだろう?」

「そうだね。実際に外の空気を感じた方が、位置関係もより正確に判断できるだろうから、少し外に出ようかな」


 2人は重い腰を上げると、連れ立って甲板へと出た。


「あら。あなたたちも来たのね」


 俺たちが甲板に出ると、そこにはベルベッタとリエッタ、そして数人のマッチョ。

 爺さんの姿は船首の方にも内容なので、船室で休んでいるのかもしれない。


 俺たちが姿を表すと、リエッタはやはりキッときつい視線を俺たちに向けてくる。しかし俺の格好が女性になっているため、ベルベッタの背後に隠れることはないようだ。

 リエッタは睨むように双眸を細め、腕を組んで挑発的な態度を示していた。


「ベルベッタ達もいたのか。ヘクスが目的の島に近づいてるんじゃないかってな」


 そうして話す俺の声は、高い澄んだ声だ。実は格好だけ女性に寄せても声が男のままだとリエッタが緊張するのではと考えたため、クオリティを高めるため風魔法で声を変えてみたのだ。

 最初に俺が女性のような声を発したところ、ベルベッタもアミミも俺が発した声だと気づかなかったくらいだ。それだけうまくカモフラージュできているということだろう。

 そのカモフラージュが上手く効いているのか、リエッタも男に対する極度の恥ずかしがりを発揮していない。


「ボクの目算によるとかなり目指している島が近づいてきているんじゃないかと思ってね。外に出てもう少し正確な位置を把握しようかと思ったんだよ」

「ほんと、あなたのその能力すごいわね。お姉さん感心しちゃう」


 ベルベッタの言う能力とは、ヘクスの位置把握の力だ。

 実はヘクスは各地を旅しながら訪れた土地に魔法でポイントを打ち込んでいる。今回のように海や山、ダンジョンの中など位置情報が定かではない場所へ赴くことが多いヘクスは、各地の信号の位置関係から現在位置を割り出している。

 現在は公国とオリオールを結んだ線上と、両国と自分との距離から島が近いと判断しているわけだ。


 この魔法が現在位置の把握に非常に有用なのだが、この能力も万能と言う訳ではない。

 まず打ち込めるポイントの数が限られており、上限を超えると古いものから消えていく。そして大雑把な距離感しか把握できない。

 以前ヘクスにこの魔法でどのような光景が見えているのか尋ねたことがあるが、真っ白な紙の上に点を打ち込んだだけの景色だそうだ。その中に自分の位置が点滅して見えるらしい。

 勿論地図のような線が描かれている訳ではないので、地形情報を読み取ることはできない。さらに地図と同じような東西南北の位置関係ではないらしく、ヘクスは頭の中で既存地図や自分の通ってきた経路を記憶して補っているそうだ。

 縮尺も変えられないらしく、恐らくヘクスでなければ使いこなせない魔法だろう。


 今回はヘクスのこの能力を、他人でも使いやすくした魔法具を操舵士に渡している。羅針盤のように円盤状をした小型の魔法具だ。

 円盤の中心から赤と青の2本の針が伸びており、これらは時計の長針と短針のようにそれぞれ独立して動いている。それぞれの針はヘクスの頭の中にある指定したポイントを指し示すことができ、現在は赤の針が公国を、青の針がオリオールを指すように設定されている。

 この道具を使うことで、羅針盤の効かないこの海域でも航海が行えていると言うわけだ。


 ただし、この魔法具では大体の距離感しか掴めず、僅かな針の角度の違いで大きく位置がずれることがある。

 そのため目視での確認が不可欠なのだが、あいにくこの霧に覆われた海ではそれも難しい。

 そこで白羽の矢がたったのがワシである。


 俺がワシに聖属性魔法で体表面に薄く結界を張る。こうすることで、ワシは濃霧の中でも飛行が可能になるわけだ。さらにバフの重ね掛けで視力を強化し霧の中での視界を確保、そのワシの視界をアミミが視ることで、周囲の光景を見ようという作戦だ。


「さぁ。ワシ、頼んだぞ!」

「ワシ、頑張るでござる!」

「ワシ君、期待しているよ」


 俺たちの言葉にワシは心底嫌そうな表情をしたが、唯一の味方であるはずのアミミが何故か俺たち側についていたので、最後は渋々折れてくれた。

 鳥ながら「はぁ」と溜息を吐いたような気がしたが、そのままワシは俺の頭から飛び立ち濃霧の中へと姿を消した。


「それにしても、あの鳥さん大丈夫なのかしら?」

「大丈夫大丈夫。あいつ、真っ二つになっても元に戻るから」

「まっぷたつ……? ちょっとよく分からないけど、まあトールが言うなら大丈夫なんでしょうね」


 ベルベッタは分からないながらも俺の言葉に納得したようだ。

 ふとリエッタの方に視線を向けると、なぜかシャー!と獣のように牙をむきだして威嚇された。


 それからはたいして何もすることなく、ハンモックに体を預けながらゆらゆらと波に揺られる俺たち。すると、アミミががばっと体を起こす。


「トール殿、ヘクス殿! 島が見えたでござる!」

「おお、ワシ君が見つけてくれたのか! 帰ったら彼を労ってあげようじゃないか」


 ワシは一応女の子なので、彼ではないのだが。まあヘクスはそんなこと知らないので後で教えてやろう。


 あとはワシの後を追って島へ向かうだけ、と言うところで、異常が発生する。


「トール殿! ワシが、ワシが何かに襲われたでござる!」


 今までの態度が一転、アミミは急に慌てだす。

 どうやらワシがこの海域にいる海獣に補足され、襲われているようだ。

 ワシが飛ぶ高さにまで攻撃を加えられるとなるとかなり大型の海獣だろう。


「アミミ、ワシを直ぐにこちらに戻せ。俺たちもワシの元に向かうぞ」


 直ぐにアミミがワシに思念を飛ばして戻るよう促す。さらにワシの魔力を補足しそちらへと船を向かわせる。


「操舵士、アミミの言う方角に船を向かわせろ。ベルベッタ、ひょっとしたらこれから海獣と戦闘になるかもしれん。乗組員に伝えてくれ」

「ちょっとトール、戦闘って……。分かったわ、直ぐにみんなに戦闘準備をさせる」


 そういってベルベッタはどすどすと足音を響かせ、船内へと入っていった。その場に残されたのはリエッタだけ。

 リエッタは俺を睨みつける。


「あんたら……。一体何が来るってのさ」

「ベルベッタには言ったが、これから海獣が攻めてくるかもしれない。それもかなり大型のな」

「……そうかい。それはさっきの鳥の子が連れてくるってわけかい?」

「そうだ。儂がそいつに追われている。今からこっちに向かってやってくる」

「それはつまり、鳥の子が厄介ごとを持ってくるってことだろ? なら、その子を捨てればいいじゃないか」

「リエッタ殿! ワシを見殺しにしろと言うでござるか!?」

「真っ二つになっても戻るんだろ? なら構わないじゃないか。それより、船が襲われる方がよっぽど多くの被害を出す。それなら見捨てるという選択肢の方が正解じゃないか。私はこの船の船長だ。この船を護るためにも、あんたたちの意見は採用できない」


 リエッタの言葉にアミミが歯ぎしりをする。

 決してリエッタの言葉を認めたくはないが、それでも船員を、船を巻き込む方が大きな被害を出す可能性が高い。

 それならワシを犠牲にして海獣を割ける方が得策だろう。


 だが、アミミにとって、ワシは家族だ。その家族を見捨てるなんてこと、出来るはずがない。


「あんた達にとっちゃワシはただの鳥かもしれないが、こいつにとってワシは家族だ。勿論、俺にとっても大切な仲間だ。だからその言葉は聞けない」

「トール殿!」

「ボクも同意だ。それに、ワシ君がいなかったら島も見つけられなかったかもしれないしね」

「ヘクス殿!」


 俺たちは真っ直ぐ、リエッタの瞳を見据える。だが、それで気づいてしまった。

 必要なら圧力をかけて、無理やりにでも従わせようと考えていた。しかしリエッタの瞳には、覚悟が宿っていた。きっと俺たちがいくら威圧を掛けたところで、リエッタの意思を曲げることはできないだろう。

 リエッタはリエッタで、船長として乗組員を護ることに命を懸けている。だからこそ、死んでもおれるわけにはいかないという、その覚悟が見え隠れしていた。


 やがて……。


「あんたは、この船を護れるかい?」


 それだけ、リエッタは声を漏らした。俺は何も言わず頷く。

 その反応だけで、リエッタは獰猛な笑みを見せた。


「はは! 家族ってもんは、どんんあことがあっても絶対に護らなくちゃならない。あんたの心意気、確かに受け取ったよ!」


 リエッタは手をかざすと手首につけたブレスレットが光り輝き見る見る姿を変えていく。やがてそれは、大人一人分はある巨大な斧を形作った。

 重量を感じさせる音を響かせ、リエッタが斧を方に乗せる。


「さっさと鳥の子を助け出して、海獣を追っ払おうじゃないか!」

「リエッタ殿!」


 リエッタが戦闘準備を整えたころ、数人を従えてベルベッタが戻ってきた。その中には爺さんも含まれている。


「なんだお前ら、これから戦闘になると聞いたぞ! 早く回避行動に移らんか」

「ん? ああ、海獣がこの船を襲いにやってくる。だが、生憎逃げるわけにはいかないんでね。正面突破させてもらうつもりだ」

「ふふ。相手次第じゃ、ボクもストックしてる魔法を使わざるを得ないかもね」

「拙者も、いつでも準備万端でござるよ」

「あらやだ。みんなやる気満々ね。私も、たまには体動かさなきゃいけないわね」

「アレックスは下がってな。あんたは姉ちゃんが護ってやるよ」


 既に全員臨戦態勢に入っている姿を見て、爺さんは呆然としている。きっと過去を知る者からすると、俺たちの行動がいくら無謀かを知っているのだろう。

 だが、そんなことで俺たちの覚悟が揺らぐことはない。どんな相手がこようが、ワシを護って海獣を退ける。


 すると正面の霧が黒く染まっていく。大型の海獣の姿がシルエットとなって表れたのだろう。

 やがてぼふんとワシが霧の中から姿を表すと、大慌てで俺たちの元へとやってきた。

 そのまま俺の頭の上に着陸する。


 まるで肩で息を切るように体を上下させている。それだけ必死に逃げてきたということか。


「さて、海獣様が、おいでなすったよう……だ、ぞ…………――――」


 

 霧を抜けて現れた黒い塊。俺は思わず言葉を失い、天を見上げた。


 海面から飛び出している頭の部分だけで優に30メートルはあろうか、巨体が視界を一杯に埋め尽くしていた。蛇のような長い体をくねらせ大木よりもなお太い胴回りをした体躯。鎌首をもたげるようにして、それは子供くらいある大きな瞳をこちらに向けている。

 それは元の世界で言うところの海獣、レヴィアタン。こちらの世界でも同じ名前で呼ばれており、海生生物最強と恐れられる、ベヒモスと対をなして有名な幻獣。


 レヴィアタンは船を丸呑みできそうな大きさの口を開けると、大気を震わせる雄たけびを上げた。


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